『砂漠の姫の来日』-9
作者・ティアラロイド
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一方、透明化して夜の闇に溶け込んだザイラユニコンの姿を捉える事が出来ず、
困惑しているアイアンキング。そこへ、影の王子シャドームーンの攻撃を
なんとかやり過ごしたシグフェルが飛来した。
シグフェル「あれは…いったいどうなっているんだ!?」
シグフェルの目には、アイアンキングがただ闇雲に暴れているだけのように見える。
だが他よりも優れた空間認識能力を有し、赤心寺での特訓で「気配」というものを
感じ取る技能にも長けるようになったシグフェルには、アイアンキングが「何か
姿の見えない巨大な相手と戦っている」事態に気づくのに、そう時間はかからなかった。
そして慎哉から渡された発信機の反応は、その「透明な巨大な何か」から電波が届いている。
シグフェル「待ってくれ! この中に閉じ込められている人が
いるかもしれないんだ!」
アイアンキング「……!?」
シグフェルは間に割り込んでアイアンキングを制止すると、
見えない敵に向かってその精神を集中させた。
シグフェル「もし相手の中に優香とフィリナがいるなら迂闊な攻撃はできない。
――それなら!」
シグフェルは指先で印を結んで、熱光線を発射した。
あまり全力を出し過ぎると中の人間まで焼き殺してしまいかねないため、
全神経を研ぎ澄ませて熱線の温度を微妙に調節しながら、
ザイラユニコンの全身にコーティングされているステルスミラーを
適切な高温で溶かしていく。すると醜い巨大怪獣の姿が
夜の東京の街の中に露わになった。
ザイラユニコン「ウォォ~ンン!?」
シグフェル「今だ!!」
すかさずシグフェルはフレイムアームでザイラユニコンの腹部を切り裂く。
装甲が剥げ落ち、優香とフィリナが幽閉されていた部屋が露わになる。
フィリナ「シグフェル!!」
優香「光平くん!!」
シグフェル「優香! フィリナ! さあこの手を取って!!」
ザイラユニコン「グゥオオ―ンンッッ!!!」
シグフェル「うわあっ!?」
ザイラユニコンが暴れるため、シグフェルは思うように
優香とフィリナのいる場所に近づけない。
シグフェル「くそっ! いったいどうしたらいいんだ!?」
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そんな時、どこからか長い鞭がビュンッと伸びて来て、
カウボーイハットの男が颯爽とザイラユニコンの体内に飛び乗った。
優香「あなたは!?」
フィリナ「静弦太郎さん!!」
ライオトルーパーたちの妨害を退けて来た静弦太郎が
ようやく現場へと駆けつけて来たのだった。
弦太郎「よぉ! 待たせたな。お美しいお嬢さん方…つっても
もう一人はまだガキみたいだな」
優香「……ムッ!!(何よガキって…)ブツブツ」
弦太郎の今の言葉に内心ムッとする優香。
弦太郎のような大人の漢から見れば、優香のような高校生世代は
まだまだ発展途上のお子ちゃまに見えるらしい。
弦太郎「ここから逃げるぞ! 二人ともしっかり俺につかまってな!」
フィリナ「やっぱりね…(苦笑」
優香「…え、まさかここから飛び降りるの!?
――いやあああああッッッ!!!」
フィリナと優香を連れて即断即決問答無用で強引に地上へと飛び降りる静弦太郎。
一度東京エネタワーで空中ダイブを経験しているフィリナは半ば諦めムードだったが、
優香はめいいっぱいの悲鳴を上げた。
優香とフィリナが無事脱出したのを確認したシグフェルとアイアンキングは、
もはや遠慮は無用とザイラユニコンへの猛攻撃を開始する。
シグフェル「よくもフィリナと優香を怖い目に遭わせてくれたな! 許さん!!」
アイアンキング「――ジュワ!!」
アイアンキングはポーズを取ってエネルギーを集中させると、
辺りまで真っ赤に染めるほどの赤い光を全身から発し、
シグフェルに向けてアイアンファイヤーのパワーを送る。
シグフェル「……!? 俺に力を貸してくれるのか! よぉーし!!」
真っ赤に燃える火炎の弾丸と化したシグフェルは
両翼を羽ばたかせて超スピードで飛来突撃し、
ザイラユニコンの巨体を貫いた。
ザイラユニコン「グギャアア~~ンンッ!!!」
大爆発するザイラユニコン。シグフェルとアイアンキングの無言の連携プレーが
見事彼らに勝利をもたらしたのであった。
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ザイラユニコンを倒し、地上へと舞い降りたシグフェル。
周囲に誰もいないのを確認し、変身を解こうとしたその時、
背後に凄まじい殺気が迸るのを感じて振り返った。
クールギン「フンッ!」
シグフェル「…!?」
ビルの陰から突如として飛び出してきたクールギンは
剣を抜き、跳躍して大上段から斬りかかる。
反射的にガードしようと振り上げられたシグフェルの右腕に、
クールギンは容赦なく鋭い凶剣を振り下ろした。
シグフェル「うわぁぁっ!!」
まさに一瞬の出来事。奇襲によるクールギンの一撃は、
シグフェルを右腕からその下の翼にかけてざっくりと斬り下げた。
シグフェル「ぐ…!」
クールギン「………」
傷を負い、地面に片膝を突いて呻くシグフェル。
クールギンはシグフェルの方に向き直ると、
剣を軽やかに空へ向けて振り上げる。
斬り落とされ、刃に付着していたシグフェルの赤い羽根が一枚、
ふわりと宙に舞った。
クールギン「ふむ…」
剣を脇差に仕舞ったクールギンは、
落ちてきたシグフェルの羽根を片手でキャッチし、
目の前にかざして眺めた。
シグフェルの体色と同じ紅蓮色の羽根が、
陽光を透かして美しく輝いて見える。
シグフェル「お、お前は…!」
クールギン「…帝王のご尊命、これで果たせたぞ」
満足そうに嗤うクールギン。
痛みを堪えて立ち上がり、次の攻撃に備えて身構えたシグフェルだが、
クールギンはそんなシグフェルに一瞥をくれると、
そのまま止めを刺すでもなく立ち去ろうとする。
シグフェル「ま…待てっ!」
クールギン「この羽根が…」
何とか立ち上がって追おうとするシグフェルに、
立ち止まったクールギンは採取した羽根をかざして見せた。
クールギン「この小さな一枚が、やがてお前に試練をもたらすだろう。
茨の道を往く覚悟、今からしておくのだな」
シグフェル「ど…どういう意味だ!」
クールギン「いずれ分かる時が来る」
それだけを言い残し、クールギンはマントを翻して悠然と去って行った。
シグフェル「く…うっ…!」
クールギンを追う力もなく、
深手を負って地面に崩れ落ちたシグフェルは、
そのまま牧村光平の姿へと戻った。
フィリナ「光平!」
優香「光平くん!」
静弦太郎に助けられたフィリナと優香が、
腕から血を流して倒れている光平を見て驚いて駆け寄る。
五郎「おいおい、大丈夫か坊主!」
弦太郎「早く血を止めねえと…。
おいお嬢さん方、ハンカチは持ってねえか」
優香「は、はいっ!」
優香がポケットから取り出したハンカチを光平の右腕に縛り、止血の応急措置をする。
フィリナに肩を貸されて、光平は何とか立ち上がった。
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○アイアンキング→シグフェルと連携してザイラユニコンを撃破。
○静弦太郎→ライオトルーパー部隊を片づけ、フィリナと沢渡優香を救出。
●ザイラユニコン→シグフェルとアイアンキングの連携攻撃の前に敗れる。
●凱聖クールギン→シグフェルの羽を一枚奪い去る。
○シグフェル→アイアンキングと連携してザイラユニコンを撃破。その直後クールギンに襲われる。
○フィリナ・クラウディア・アルシャード→ザイラユニコンの体内から静弦太郎に助け出される。
○沢渡優香→ザイラユニコンの体内から静弦太郎に助け出される。
最終更新:2020年11月26日 10:41