『砂漠のボーイ・ミーツ・ドリフターズ』-3
作者・ユガミ博士、凱聖クールギン
1166
サラジア共和国・アルハザードの私邸***
夜。
サラジア共和国へと潜入した宗介は、昼間の内に下見をして
警備状況を把握すると、潜入作戦を開始した。警備の目を欺き、
人知れず屋敷の内部に潜入した宗介は、かつて雇われていた時の
記憶と照らし合わせながら、屋敷の中を探索する。
宗介「アルハザードの屋敷には秘密の地下室がある…。
誰も足を踏み入れてはならないと言って、
あそこだけは使用人も決して入らせなかった。
よし…。その部屋を探ってみるか」
屋敷の奥にある扉をそっと開け、
階段を下りて禁断の地下室へ宗介は潜入する。
宗介「ここは…」
地下室は石畳に床を覆われた広い空間になっていた。
電気照明はなく、壁にかけられた松明に火が灯されている。
一見して、ここは黒魔術を行なう部屋だと宗介は理解した。
大小様々な壺や水晶玉、魔法陣やタロットカード、
他にも用途不明の不気味な形状のオブジェなど、
怪しげな魔道具らしき物品がいくつも陳列されている。
宗介「確かにアルハザードにはオカルト趣味らしきものがあったが…。
ここまで本格的に魔術に凝っていたとは」
軽い戦慄を覚えながら、大きな壺の中を覗き見る宗介。
紫色の奇妙な粘液が溜められ、鼻を突くような異臭を放っている。
宗介は素早くスポイトとビーカーを取り出し、中の液体を採取してポケットに仕舞った。
宗介「…こいつは何だ?」
部屋の隅にある本棚に宗介は目をやった。
並んでいるのは古い魔術書や宗教書がほとんどだったが、
一番上の棚には本ではなく、ファイルが収納されていた。
中の一冊を選んで取り出し、宗介はぱらぱらとページをめくる。
宗介「旧日本軍の機密資料…。
終戦間際にシンガポールで行なわれていた、
捕虜を使った生体実験のカルテだ」
戦時中、旧日本軍の科学班が密かに南方で行なっていた、
人体改造実験のカルテがそのファイルには綴じられていた。
米軍の何人もの捕虜が、どのように身体の一部を改造され、
それによってどのように運動能力や体調を変化させたかの詳細な記録である。
まだ未完成で問題のある改造技術を使っていたらしく、
カルテの多くは被験者の容体の急変と、直後の死をもって書き終えられている。
宗介「残酷で非人道的な実験だが…。
それにしても、なぜ旧日本軍の資料がアルハザードの屋敷に…?」
不審に思いながら、宗介は次々とファイルを開いて流し読みしていく。
宗介「…待て、これは捕虜じゃない。日本人の名前だ」
一つだけ、別綴じにされた分厚いファイルが宗介の目に止まった。
他のものと同じく人体改造のカルテだが、
被験者の名前はアメリカ人ではなく、日本人になっている。
宗介「仁科宗禎 陸軍技術大尉…。
一人だけ、軍人で改造手術の被験者になった者がいる」
これは何かある、と興味を持ってページをめくろうとする宗介。
その時、部屋の奥からうめくような声がした。
誰かが助けを求めているのだ。
宗介はファイルを本棚に仕舞い、声のする方へ向かった。
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ファイルを棚に戻した宗介は声のした部屋をさがして、さらに屋敷の中を
探索する。そして、捕えられているアラジン、アリババ、モルジアナの3人を
発見した宗介は只事では無いと思い、牢から彼らをピッキングを使って、
助け出した。だが、背後から大きな火球が宗介達を襲った。
アリババ「危ない!」
宗介「―!」
アリババが咄嗟に気付いて声を掛けたので、宗介は3人と一緒に
火球を避ける。
???「ほう・・・俺のファイヤーボールを避けたか」
宗介「貴様、何者だ!」
宗介の前に現れたのは、RPGに登場する様な長いローブを身に着け、
大きな杖を持っていた。宗介は3人の前に立ち、銃口を向けて
何者なのかを問う。
メンヌヴィル「・・・俺の名は、『白炎』のメンヌヴィル。といっても、
貴様に名乗った所で知らんだろうがなあ」
メンヌヴィルを名乗る男―彼は地球とは別に存在する異世界
『ハルケギニア』で傭兵をしていたメイジ(魔法使い)である。彼の世界
で死亡したメンヌヴィルだったが、黄泉還った後に時空クレバスを通り
地球へとやってきて、アルハザードの保護を受けて雇われているのであった。
彼は、呪文を唱えると再び大きな火球を作り出し、宗介達にぶつける。
アラジン「ポルク!」
メンヌヴィル「ムッ!」
アラジンは防御魔法(ポルク)を唱えて、宗介達の前にバリアーを
張り、メンヌヴィルのファイヤーボールを防いだ。
宗介「(今のは・・・いや、今はこの危機から逃れるのが先決だ)
そこの3人、目を閉じろ!」
宗介はアラジン達に目を閉じるように叫ぶと、装備していた
スタングレネードを発動させ、強力な閃光を放つ。相手が光で
目をやられている隙に、この場から離脱しようとする。しかし―
メンヌヴィル「・・・逃がしはせんぞ」
宗介「何っ!?」
メンヌヴィルはスタングレネードの光にも怯まず、離脱しようとする
宗介の肩を掴み、部屋の奥へと投げ飛ばしてしまう。
アリババ「だ、大丈夫か!?アンタ」
メンヌヴィル「何かをした見たいだが、おそらく強力な光で目くらましでも
したんだろう。だが、生憎俺には通じない」
宗介「・・・き、貴様、目が!?」
宗介はメンヌヴィルの顔をよく見ると、彼の目が義眼である事に
気が付いた。
メンヌヴィル「ふふふ、そうとも。俺は目が見えないんでね・・・だが、
俺にはお前達がどこにいるのか分かるぞ。お前達の発する熱と匂いで
俺は捉える事が出来る」
不気味な笑みを浮かべながら、自分の事を話すメンヌヴィル。そして
騒ぎを聞きつけた屋敷を警備している兵士が集まりだす。
モルジアナ「・・・私が道を開きます。飛び出したら、私に続いて下さい」
アリババ「モルジアナ...」
アラジン「モルさん...」
モルジアナは両手両足に枷を付けられていたが、彼女の一族「ファナリス」
特有の身体能力で跳躍し、両手を床につけたと同時に足枷を怖し、
そのままメンヌヴィルの顔面に強烈な蹴りをお見舞いする。彼女は今まで
アリババ達の身を案じて力を温存していたのであった。
メンヌヴィル「ぐほぉ」
宗介「よし、行くぞ!」
顔面にダメージを受けたメンヌヴィルは壁にぶつかり、同時に宗介達は
入口へと飛び出す。入口に集まっていた兵士達はモルジアナの蹴りで
一掃されていき、一同は部屋から逃亡するのであった。
メンヌヴィル「くっ・・・今のは声からして小娘か。しかし何という蹴り・・・
ふふ、ああいう女程焼きたくなる・・・・そっちに4人逃げた。足止めは
任せたぞ...」
???@通信『キヒヒヒ。アイ、アイサー!』
メンヌヴィルはふらつきながら、耳に着けている通信機で、この世界で
得た相棒に宗介達を足止めするように通信をいれる。
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廊下を走る宗介、アラジン、アリババ、モルジアナの4人。宗介は
彼らがアルハザードに取り上げられた剣や杖を取り返したいというので
急いで彼らの持ち物を回収し、脱出に向けて走っていた。(なお、枷は
既にモルジアナが壊してくれた)
???「おっと、ここから先は立ち入り禁止だぜ」
走っていた4人の前に立ちふさがったのは、カウボーイハットに
咥え煙草を吹かす西部のガンマンの様な風貌をした男だった。
宗介「・・・(屋敷の警備をしている奴か。だが・・・銃も何も装備していない。
何かの武術でも使うのか?)」
ガンマン風の男は、銃等の武器は装備していなかった。しかし、男の顔は
余裕のある顔をしていたので、宗介は素手で戦う武術家なのかと警戒した。
メギャン
宗介「―!」
男が拳銃を構えるような仕草をすると、宗介達の足下に銃弾が
撃たれたような跡が出来る。
宗介「(何だ!?奴が拳銃を撃つような動作をしたが、奴は銃を持っていない!
背後からレーザーを撃ったというわけでもない・・・これも魔法という奴なのか?)」
アリババ「な、何だ!あいつも魔法を使うのか?」
アラジン「いや、アリババ君。あのおじさんから、魔法は感じなかったよ。
でも、何かを撃ったのは間違いない...」
男が行った『見えない攻撃』に宗介やアリババは魔法の類なのかと困惑するが、
アラジンは魔法の気配は感じられず、それでも何かをしたのは理解出来た。
???「足止めはしたぜ、メンヌヴィルの旦那!」
メンヌヴィル「・・・よくやった、ホル・ホース!」
ガンマン風の男―ホル・ホースが叫ぶと、宗介達の背後からメンヌヴィルが
近づき、今度は別の呪文を唱えて杖の周囲に魔力を絡ませて刃状にする
魔法である『ブレイド』を使い、刃となった杖で斬りかかる。
ガキン
アリババ「・・・ぐぅ~~!」
メンヌヴィル「・・・ほう、ブレイドを受け止めるとは面白い!」
ホル・ホース「旦那、手を貸すぜ!」
メンヌヴィルのブレイドに対して、アリババの短剣が受け止める。
それに対して、ホル・ホースは再び拳銃を構える仕草をする。
宗介やアリババ達には見えないが、ホル・ホースはかつて吸血鬼DIOに
雇われていたスタンド使いの殺し屋で、DIOを倒した承太郎一行との戦いで
重体となっていた体も完治した現在はアルハザードに雇われいて
メンヌヴィルとコンビを組んでいた。そして、彼の能力であるスタンド
『皇帝<エンペラー>』は銃そのもののスタンド。銃弾もスタンドの一部で
あり、弾道も自由自在に変更できる。その弾丸をアリババに向けて放った。
アラジン「ポルク!」
ホル・ホース「何だと!?」
だがアラジンは、スタンドを見る事は出来ないが、ホル・ホースが
アリババに何かをするのは分かったので、防御魔法を使いアリババの
危機を救った。
モルジアナ「ふん!」
ホル・ホース「ぶべら!」
その隙を突いて、モルジアナはホル・ホースを蹴り飛ばし、さらに
壁を破壊して大穴を開ける。
宗介「そこから、逃げるぞ!」ドドドド
メンヌヴィル「むっ!?」
壁に開けた穴から逃げ出すべく、宗介はメンヌヴィルに銃を撃って
牽制し、その隙にアリババはメンヌヴィルから離れてアラジン達と共に
屋敷から脱出した。
メンヌヴィル「・・・逃げられてしまったか。まあいい、焼く楽しみが増えたぞ。
ふふふふ...」
メンヌヴィルは宗介達を逃がしてしまったが、彼らを自分の火の魔法で
焼く楽しみが出来たと笑みを浮かべるのであった。
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アルハザードの屋敷から脱出した宗介は助け出したアラジン、アリババ、
モルジアナを逃亡用に用意していたジープに乗せて、国外へと脱出するべく
車を猛スピードで走らせていた。
アリババ「あ、あの...!」
宗介「喋るな!舌を噛むぞ」
そのスピードにアリババが口を開こうとすると、宗介は運転に
集中するべく黙らせる。一行を乗せた車は首都の郊外を出た。
モルジアナ「―!向こうに誰かいます」
宗介「何!?」
モルジアナが指を指すと、宗介達を乗せた車の遥か先には
一体の人影が見えた。その人影こそ、アルハザードが変身した
魔導師バルゴグである。
アリババ「何だ、アイツは!?」
アラジン「気を付けて、あの人・・・すごい魔力(マゴイ)を感じるよ」
宗介「・・・あいつが、バルゴグという怪人か!」
バルゴグの出現にアラジンはバルゴグから発する強大な魔力を感じ取り、
宗介はあの怪人が、バルゴグという事に気付く。
バルゴグ「このまま、逃がしはせんぞ!」
バルゴグはXライダーやスーパー1と戦った時のように、杖から
光線を出して時空クレバスを発生させ、時空の彼方からモンスターを
召喚する。
ブラックディノ「グワァァァオ!」
ダークハム「キヒヒヒ!」
時空クレバスから召喚されたのは、実際この地球でもテレビゲームとして
存在している『モンスターファーム』の世界からブラックディノという黒い恐竜
の様なモンスターとダークハムという人間大で目付きが悪い黒い兎のモンスター
が大勢、出現した。
バルゴグ「かかれ!」
ブラックディノ「グォォォオ!」
ダークハム「ムハー!」
バルゴグの命令で、ブラックディノとダークハムの大群は宗介達の
車に向かって、突進してくる。
宗介「くっ、ここは突っ切るしかない!」
アラジン「お兄さん、ここは僕らが何とかする。お兄さんはこれ(車)の
操縦に集中して」
宗介「・・・仕方が無い。頼む」
宗介はモンスター達の相手をアラジン達に任せると、アクセルを踏み込み
車を加速させていく。近づいてきたブラックディノとダークハムに対して、
アラジンは魔法で、風魔法の『突風<アスファル・リーフ>』で吹き飛ばし、
アリババやモルジアナも剣や蹴りで、飛びかかって襲い掛かるダークハムを
蹴散らしていく。
バルゴグ「まだ向かってくるか・・・ファイガ!」
なお車を走らせる宗介達にバルゴグはファイガを始めとする魔法を
使って攻撃するが、宗介はその運転技術でかろうじて躱していく。
バルゴグ「ならば、拘束魔法で動きを...」
アラジン「雷電<ラムズ>」
バルゴグ「―くぅ!」
バルゴグは相手を拘束する魔法で車を止めようとするが、アラジンは
いち早く気づき電撃を飛ばしてバルゴグの魔法発動を阻止する。
そして、宗介達の車はバルゴグの隣を通り過ぎようとした。
バルゴグ「―!(あの運転している人間はどこかで・・・カシムか!)」
倒れる中、車を運転している人間―宗介の顔を見たバルゴグは
その人間がかつて自分が雇っていた傭兵のカシムだという事に気付く。
一方、宗介はバルゴグが自分のかつての雇い主という事に気付く事も
無く、アラジン達を乗せた車は夜の砂漠へと消えるのであった。
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○相良宗介→アルハザードの屋敷に潜入して、旧日本軍のカルテを発見した後
アラジン、アリババ、モルジアナを助け出して脱出する。
○アラジン→宗介に助け出され、脱出する。
○アリババ・サルージャ→宗介に助け出され、脱出する。
○モルジアナ→宗介に助け出され、脱出する。
●メンヌヴィル→アルハザードに雇われていて、宗介達と戦闘する。
●ホル・ホース→アルハザードに雇われていて、宗介達と戦闘する。
●魔導師バルゴグ→国外脱出をしようとする宗介達と戦闘する。
●ブラックディノ→バルゴグに大軍で召喚され、宗介達のジープを襲う。
●ダークハム→バルゴグに大軍で召喚され、宗介達のジープを襲う。
【今回の新登場】
●メンヌヴィル(ゼロの使い魔)
神聖アルビオン共和国に雇われた『白炎』の二つ名を持つ傭兵メイジ。
相手を焼く事を快楽とするパイロマニアで、かつてはトリスティン王国下級貴族で
「魔法研究所実験小隊」に所属していて様々な汚れ仕事を引き受けていた。
20年前の「ダングルテールの惨劇」時に、上官だったコルベールに杖を向ける
ものの敗北して隊を脱走。その時に両目を焼かれて失明するが、熱を探知する能力を得る。
●ホル・ホース(ジョジョの奇妙な冒険 第3部スターダストクルセイダーズ)
DIOに雇われたスタンド使いの殺し屋。誰かとコンビを組む事で実力を発揮する
タイプで、「№1よりも№2」「女は傷つけない」を信条とする。自分の実力を
理解しており、インドでJガイルとコンビを組んでていたが、彼が敗北したのを
知るとすぐに逃走。エンヤ婆に殺されそうになった時は、一時的に承太郎達と手を組んだ。
スタンドは銃そのものである『皇帝<エンペラー>』
●ブラックディノ(モンスターファーム)
恐竜型モンスターであるディノ種と板状のモンスターであるモノリス種の
合体して生まれたモンスター。
●ダークハム(モンスターファーム)
兎型モンスターであるハム種とモノリス種が合体して生まれたモンスター。
最終更新:2020年11月22日 14:21