『絶剣 蛇の道を往く』-1
作者・ティアラロイド
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門矢士=仮面ライダーディケイドたちの協力を得て、
ひとまずは危機を脱した異世界エターナリア。
これから語られるのは、その後日談の一コマである。
ヘブンズティア王都・エメルの家***
クレイト「違うの、キリノコの実は茹でないで入れるの!」
大地と同じ緑色の長い髪をたなびかせた13歳の少女クレイトは、
小さな綿飴といった風情の木の実をたくさん、すでに具のつまった
パイ生地の中に放り込んだ。
エメル「ちょっとクレイト、そんなにいっぱい……多すぎるんじゃない?」
クレイト「いいの。これはいっぱい入れた方が香りが出ておいしいの!
ね、煌?」
煌「え…!?」
ぼんやりと席からクレイトとエメルの二人が料理する様を見つめていた
金剛煌は、突然同意を求められて驚く。
ここは、宮殿の城下町の一角にある、狼族の女性エメル・ウルファウスの家である。
この家の主エメルは、神城桃矢のしもべの一人・狼獣人グレイファスと将来を誓い合った婚約者であり、
一方のクレイトは、ミレイア王女の後継者と目される、現在修行中の大地聖母使の少女だ。
どちらの人物も、桃矢と煌の二人はエターナリアに来てから知り合った。
特にクレイトは、煌と出会ってから彼とお互いを"意識し合う"間柄となったようであり、
元々は塞ぎ込みがちであった性格のクレイトも、煌が訪れると素敵な微笑みを見せるようになっていた。
クレイト「ね、煌、キリノコ好きでしょ?」
煌「う、うん」
クレイト「よかった。じゃ、もう少し入れるね」
出来あがったパイ生地をオーブンに入れるエメルとクレイト。
あとはこんがり焼きあがるのを待つだけとなった時、
ちょうどそこへビークウッドが訪ねて来た。
ビークウッド「煌、ここにいましたか?」
煌「ビークウッド、どうしたの?」
ビークウッド「実は煌に、折り入って聞いてみたい話があるのです」
ビークウッドは向かいの席に座り、煌に対して
徐(おもむろ)に尋ね始める。それは煌が"黄泉がえり"によって
この世に再び復活する前――すなわち、死後の世界にいた時の
記憶は今もあるのかというものだった。
ビークウッドの問いに、煌は「ハッキリ覚えている」と答える。
煌「そっか…。ビークウッドは元々そういう分野に関心が深いもんね」
ビークウッドは、宗教や信仰、文化遺産といったものに対する
造詣がとても深かった。アースサイド(地球)で金桃寺に皆で
一緒に暮らしていた頃、よくビークウッドはテレビの仏教入門や
世界遺産特集などの番組を食い入るように見ていたものである。
ビークウッド「もし差支えがなければで構わないのですが、
是非とも"死後の世界"の様子について、後学のためにも
教えてもらえれば思いまして」
クレイト「なあに、それ。面白そう!」
エメル「確かに"死後の世界"の話だなんて
滅多に聞けるものじゃないものね」
横で話を聞いていたクレイトとエメルの二人も
興味津々そうに煌を見つめる。
煌「うん、いいよ。それじゃあどこから話そうかなあ…」
◇ ◇ ◇
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半年前……。
東京・要塞都市≪ヴェス≫処刑部屋***
煌「なにをしているの、桃矢くん。こんなところで
めそめそしている場合じゃないでしょ」
桃矢「だってよ…だって! 俺のために…煌ッお前は!」
煌「違うよ。僕は桃矢くんのためにやったんじゃない。
このはちゃんのためにやったんだよ」
桃矢「煌……」
煌「さあ桃矢くん、もう時間がないよ!
僕の斧を持って!」
桃矢「………」
煌「立って! 立つんだよ桃矢くん!
そしてザザと戦うんだ!」
桃矢「………」
煌「桃矢くん!!」
桃矢「………」
煌「走れ桃矢ああああッ!!!」
桃矢「うわああああああッ!!!」
煌「これでいいんだ。さようなら、このはちゃん…」
プリンス・ザザに立ち向かっていく桃矢くんを見送った僕の魂は
天へと召されて昇って行ったんだけど、その途中でとても温かい声が
聞こえて、「いずれ再び、お前の力が必要とされる時が来る。
その時に備えて己の魂の修養をし、技と力を磨くのだ」と僕に告げたんだ。
気がつくと僕の頭には"天使の輪っか"がついていて、
三途の川を渡っていた。確かガイアークの三大臣っていう
面白い人たちがいたなあ…。悪い人たちじゃないとは思うんだけど。
その後、地球の神様のデンデさんに一緒に連れられて閻魔庁までやって来たんだ。
あ、閻魔庁というのはね、閻魔大王さまのいるお役所の事だよ。
閻魔庁***
審判の門をくぐって中に入ると、閻魔庁では大勢の鬼の人たちが
みんなとっても忙しそうに書類の山と格闘しながら働いていたんだ。
赤鬼A「二丁目のゲンさんが危篤だぞー!」
青鬼A「なに! 予定より早いじゃねーか」
赤鬼B「こっちだ!!」
青鬼B「おいっ、二人追加ーっ!!」
閻魔さまに会った時は本当に驚いたなあ…。
だって、おしゃぶりを口に銜えた小さな子供だったんだもの。
コエンマ「よく来たな。まあ楽にしろ」
煌「こんな小さな子が閻魔さま!?」
デンデ「し――っ!! 声が大きいですよ!
閻魔さまに向かってそのような口をきいては!」
コエンマ「正確に言えば閻魔大王Jrのコエンマだ。
今は義親父(オヤジ)が尸魂界(ソウル・ソサエティ)の方に
重要な会議で出張中でな。代わりに臨時の代理を務めておる。
こー見えても貴様の五十倍は長く生きとるのだ。
口のきき方に注意しろ」
煌「…ご、ごめんなさい! 申し訳ありませんでした」
コエンマ「ほぉー、初対面の頃の幽助と比べると、
一通りの礼儀作法はしっかりしとるようだな。
今時の若者にしては感心感心…」
煌「……(汗」
聞いた話だと、コエンマさまは先々代の閻魔大王の実の息子で、
クーデターで実の父親を追い落とした後、今の代の閻魔大王さまと
改めて養子縁組を結んだみたいなんだ。閻魔大王っていうともっと
怖い人なのかなと思ってたら、緊張しててちょっと損しちゃったかな…。
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デンデ「――という訳でして、修行をさせたく
こうして生身のまま伺った次第です。
どうかコエンマさま、彼が界王さまのもとへ
向かうことをお許しくださいませんか?」
コエンマ「う~む、なるほど…金剛煌か…。
界王神さまからはこちらにも連絡が来ているぞ。
確かにお前の功績は素晴らしいがな。
しかし本来なら天国へ行けるものを、
わざわざ危険を冒してまで蛇の道を通り、
北の界王さまに会いに行くというのか?」
この閻魔庁には地球人だけではなくて、宇宙人も異次元人も
死んだ人は一度はみんなここにやって来るんだって。
僕自身も育ったのは地球だけど、生まれは異世界エターナリアだしね。
ここで気になったのは、桃矢くんたちが倒したはずの
プリンス・ザザがここには来ていないということだった…。
「ザザはまだ生きている!」 僕は一抹の不安を感じたんだ。
自然と何か出来ることをしなくちゃと思った!
煌「ぜひお願いします!」
コエンマ「よかろう。そんなに行きたければ
界王さまのところに行くがよい」
煌「ありがとうございます!」
デンデ「よかったですね! 煌さん!」
コエンマ「案内人を呼ぶから、あっちから出て待っておれ」
案内人を務める青鬼のジョルジュ早乙女さんに連れて行かれた僕は、
同じく蛇の道を通って、界王さまの星を目指す人たちで溢れかえってる
控えの間の広場に着いたんだよ。
これから会いに行く"北の界王さま"というのは、
三次元宇宙の北銀河部分を治めているとっても偉い神様で、
"蛇の道"と呼ばれる長い道の先にある"界王星"に住んでいるだって。
昔は過去一億年の間で会いに行けたのは閻魔大王たった一人だったんだけど、
最近になって孫悟空という人が界王さまのところに到達してからは、
同じように界王さまのところまで行き着ける人が爆発的に増加したんだってさ。
ジョルジュ「最近は界王さまのところに向かう資格を得た志望者が
ご覧の通り急増しまして…。そうした事情もありまして整理上の観点から
申し訳ありませんが、どなたか他の死者の霊の方お一人とペアを
組んで頂きます」
煌「ペアか…。いいですけど、弱ったなあ。誰にしよう……」
その時、僕は見たんだ。
"蛇の道"踏破を目指す挑戦者たちが集まって大きな輪を作って、
盛大な歓声に包まれながら練習試合みたいのが始まっているのを。
遥か上空から喚き声と共に、打ち負かされた死者の霊が一人落下して来た。
ネロ「ま、まいったぁ~! 降参だ…!!」
その銃使いの死者の霊は、しばらく大の字に伸びていて
動かなかったよ。練習試合終了の音が鳴り響いて、
いっそう大きな拍手と歓声がそれに続いたんだ。
「すげえ、これで67人抜きだぜ」「誰か止める奴はいないのかよ」
という賞賛ともぼやきともとれる声が無数に交錯した。
僕は勝者の姿を確認しようと、上空を振り仰いで眼を細めた。
そして、くるくると螺旋軌道を作って降下してくる一つのシルエットを見つけた。
思ったより小柄だ。華奢な体形で、肌は影部分が紫がかった乳白色。
長く伸びたストレートの髪は、濡れ羽色ともいうべきパーブルブラックだ。
胸部分を覆う黒曜石のアーマーは、柔らかな丸みを帯び、その下のチュニックと、
風をはらんではためくロングスカートは矢車草のような青紫。
腰には、黒く細い鞘。…女の子だ!
煌「ジョルジュさん、あの娘はいったい何者なんですか?」
ジョルジュ「ああ、彼女は"絶剣"ですよ」
煌「絶剣…!?」
"絶剣"と呼ばれた女の子は、ぴょこんと身体を起こすと、
満面に眩しいほどの笑みを浮かべて、無邪気な動作で
Vサインをつくった。
ユウキ「えーっと、次に対戦する人、いませんかー!?」
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○金剛煌→ビークウッドに乞われ、死後の世界についての話をする。
○ビークウッド→金剛煌に、死後の世界について尋ねる。
○エメル・ウルファウス→ビークウッドと一緒に、金剛煌から死後の世界の話を聞く。
○クレイト→ビークウッドと一緒に、金剛煌から死後の世界の話を聞く。
○デンデ→金剛煌を閻魔庁まで案内する。(回想)
○コエンマ→金剛煌が蛇の道を通って北の界王星まで赴く事を許可する。(回想)
○ジョルジュ早乙女→コエンマの命令で、金剛煌を案内する。(回想)
○ユウキ→元ジャマールの偽用心棒ネロを打ち負かす。(回想)
△偽用心棒ネロ→ユウキに練習試合で敗北。(回想)
【今回の新規登場】
○エメル・ウルファウス(真時空伝説ガルキーバ)
『獣戦士ガルキーバ』の小説版にのみ登場するキャラクター。
まっ白い毛を持つ狼族の女性であり、グレイファスの恋人。
ミレイア姫に仕える侍女で、エターナリアに流れ着いた
神城桃矢の世話も彼女が担当した。
○クレイト(真時空伝説ガルキーバ)
『獣戦士ガルキーバ』の小説版にのみ登場するキャラクター。
ミレイア姫と同等かそれ以上の力を持っている大地聖母使。
怒りに我を忘れ、虫を操って両親を襲わせ死なせた過去があり、
その罪の意識に苦しんでいたが、金剛煌の説得により生き続けることを誓い、
煌とは次第に恋仲となる。最終決戦後、ミレイアの冠を受け継ぎ
新生エターナリアの女王となった。
○コエンマ(幽☆遊☆白書)
霊界の長である閻魔大王の息子。霊界探偵としての浦飯幽助の上司。
普段は赤ん坊のような姿をしているが、実年齢は1000歳以上。
お忍びで人間界に来る際には青年の姿をしている。
くわえているおしゃぶりは、実は最強クラスの防御技「魔封環」を使う
エネルギーを貯めるための道具。 だが、使うのに必要なエネルギーを
貯めるには数百年かかる。
○ジョルジュ早乙女(幽☆遊☆白書)
コエンマの秘書である青鬼。上司であるコエンマが下界へ外出する際などには
常々付き従い、たびたび彼と漫才ともいえるやりとりを繰り広げている。
なんと最終回にて、番組のナレーションを担当していたことが判明。
○紺野木綿季=ユウキ(ソードアート・オンラインⅡ)
ALOにおいて「絶剣(ぜっけん)」と呼ばれ圧倒的な強さを誇るプレイヤーで、
二刀を使わなかったとはいえキリトを2度倒した唯一の人物。
使用武器は極細の片手直剣で、種族は闇妖精族(インプ)。
自分が所属するギルド「スリーピング・ナイツ」のメンバーと共に
とある目的を一緒に成し遂げてくれる強いプレイヤーを探していた。
リアルでは15歳の少女。出生時に輸血用血液製剤からHIVに感染し、
以来15年間闘病生活を続けてきた。AIDSの発症により入院、
ナーヴギアを医療用に転用したメディキュボイドの被験者になり、
それ以来3年間を仮想世界で過ごしてきた。
アスナやキリトの助力により「学校に行きたい」との願いを叶えてもらい、
学校の授業への擬似参加、京都への擬似旅行などを果たす。
最期はALO内で死ぬことを選び、彼女の死を悼み、たくさんのプレイヤーが涙して彼女を見送った。
そして、アスナに11連撃OSS『マザーズ・ロザリオ』を託し、この世を去っていった。
△偽用心棒ネロ(重甲ビーファイター)
ビーファイターとジャマール双方を騙して報酬を撒き上げようとした
流れ者の用心棒。最期は傭兵軍団団長ジェラの怒りを買って絶命する。
銃の腕前は確かだったが、愛用の銃は銃身が意図的に捻じ曲げられており、
決して人を殺せない仕組みになっていた。本心では戦争を心底から嫌っており、
鷹取舞の推測では「過去に戦争で悲しい思いをしており、それで
誰1人撃ち倒したくなかったからなのでは…」との事。
最終更新:2020年12月10日 11:23