『絶剣 蛇の道を往く』-4
作者・ティアラロイド
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異世界エターナリア ヘブンズティア王国・エメルの家***
クレイト「………(  ̄っ ̄)ムゥ」
なぜかクレイトは、さっきから顔が不機嫌そうに膨れている。
煌「クレイト、どうしたの?」
クレイト「煌とそのユウキって女の子、随分と仲が良かったんだね!」
煌「……??」
桃矢「ばーか。クレイトはやきもちを妬いてんだよ」
煌「やきもち?…なんで?」
桃矢「なんで?って…お前なあ(汗」
煌のあまりの鈍感さに呆れる桃矢。
そこに見かねたエメルがすかさずフォローを入れる。
エメル「大丈夫よクレイト、そのユウキって女の子は
一緒に旅をしていた煌にとって、きっと妹みたいなものだから」
クレイト「煌、本当?」
煌「妹…? まあ言われてみればそんな感じかな」
ガリエル「話を先に進めてくれよ」
煌「うん」
◇ ◇ ◇
???***
蛇の道の途上にある館の地下牢…。
ここに一人のライダースーツを着た青年が幽閉されていた。
蛇姫「妾の愛を受け入れる気になったかえ?」
妖艶な館の女主人・蛇姫が、鉄格子を挟んで青年に話しかける。
青年「これがお前の愛か? こんなものは愛ではない!」
蛇姫「いつまでも強情な! だがこちらにこれがある限り、
お前はタイガーセブンには変身できまい」
蛇姫は、虎の顔が描かれたペンダントを此れ見よがしに掲げる。
青年「………」
蛇姫「早く決断をしないと、本当に食べてしまうぞえ。
アハハハハハ!!!」
霊界・蛇の道***
行程の遅れを取り戻すべく、僕とユウキは日夜ダッシュして
懸命に蛇の道での歩を進めていた。そんな時、道の途中で
脇に大きな館が立っているのが見えたんだ。
戦士煌「もう界王さまの住まいに着いたのかな?」
ユウキ「でも蛇の道はまだ続いてるよ」
僕とユウキがじ~っと見ていると、突然入り口の蛇が口を開いて、
館の中に飲み込まれてしまったんだ。
戦士煌「うわあああ~~っ!!!」
ユウキ「な、なんなのおお~~っ!!?」
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蛇姫の館***
ユウキ「イタタタッ…ここどこ?」
戦士煌「ここはいったい…」
長い長い回廊を滑り落ちた先で、
気がついた僕たちが周囲を見渡すと、館の中にいて、
大勢の侍女たちに取り囲まれていたんだ。
侍女A「いらっしゃいませ~! ご休憩二名様!」
侍女の一人が銅鑼を鳴らす。
ユウキ「へ…??」
戦士煌「え…??」
他の侍女の一人が、館の主人である
蛇姫の部屋に報告に行った。
侍女B「蛇姫様、お客様がお二人参られました」
蛇姫「なに、お客が?」
隣の部屋からこっそりと、まるで品定めをするみたいに
僕とユウキの二人をじっと観察している蛇姫。
蛇姫「まあ、なんて私好みの美少年♪ もう今すぐ食べちゃいたいぐらい!
隣のちっこい雌のガキは……まあどうでもいいわね」
その時、僕は背筋に何か悪寒が走るのを感じた。
戦士煌「…)ガクガクブルブル」
ユウキ「どうしたの煌ちゃん?」
戦士煌「な、なんだろう。なぜか妙に寒気が…」
侍女A「蛇姫様のお成り~!」
戦士煌「蛇姫様…?」
他の侍女たちを引き連れて、僕たちの前に蛇姫がやってきた。
蛇姫「凛々しい御方。胸がときめいちゃう!」
戦士煌「…??」
侍女C「蛇姫様がこんなに御熱心になられるのは、
閻魔大王さま以来の事ではございませんか?」
蛇姫「そうね、あの方も素敵だったわ。
もうかれこれ500年になるかしら」
ユウキ「500年!?」
蛇姫「あらヤダ。歳がバレちゃうわ。オホホホ…」
戦士煌「ハ、ハァ…(汗」
侍女D「こちらはあの世一美人コンテストで
優勝の栄冠に輝いた蛇姫様です」
戦士煌「すみません。どうも家を間違えたみたいで…」
ユウキ「界王さまのところじゃないなら、もう帰るね」
蛇姫「ちょ、ちょっとお待ちになって!!」
どうも久々の客人を帰したくなかったのか、
蛇姫は侍女たちと一緒になり必死になって
僕たちを足留めさせようとした。
蛇姫「せめてお食事だけでも…」
戦士煌「食事…?」
ユウキ「そういえばあれから何も食べてないなあ~。
せっかくだから御馳走になろうよ煌ちゃん」
蛇姫「ぜひぜひそうなさって! さあそんな甲冑もお脱ぎになって、
ゆっくりとお寛ぎください」
戦士煌「そうだなあ…」
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まんまと蛇姫の言葉に乗せられてしまった僕は、
変身を解いて食事が並べられたテーブルの席に着くことにした。
蛇姫「お待たせしました」
侍女A「極楽鳥のフォアグラ、針の山の熊の掌のソテーに、
三途の川で獲れた鰐の蒸し焼き、そしてムール貝のグラタンです」
煌「こ、こんなに食べきれませんよ!!」
目の前に出されたたくさんの料理に困惑する僕。
一方のユウキは……。
ユウキ「なにこれ…」
ユウキに出された料理は、粗末なねこまんまが一杯だった。
ユウキ「なんか待遇に差があるんじゃないの?」
侍女A「そんなことはありませんよ」
ユウキ「(  ̄っ ̄)ムゥ…ボク、外で待ってるよ!!」
ユウキは不機嫌になり退席してしまった。
煌「あっ、待ってよユウキちゃん!!」
蛇姫「あなたはこっち!!」
煌「うわあっ!?」
同館・厨房***
蛇姫「お前たち、わかってるわね!
あの男を何としても引き留めておくのよ!
逃したら許さないからね!」
侍女B「ご安心を。この"すやすや草"をたっぷりと
料理の中に盛っておきましたので、今頃は
たちどころに眠りこんでいるはずです」
蛇姫「ま、あんまりオシャレな方法じゃないけど、
しょうがないわね」
厨房では蛇姫たちが密談をしていた。
侍女C「今までこの館を無事に出られたのは、
閻魔大王とあの孫悟空だけ」
侍女D「すぐに食べちゃいますか?」
蛇姫「慌てるんじゃないよ。まずは妾の愛の虜になるよう、
説き伏せてから…」
ユウキ「やっぱりそういうことだったんだね!!」
蛇姫「お前は!?」
侍女B「いつの間に!!」
蛇姫たちの話は、ユウキが全て立ち聞きしていた。
ユウキ「どうも最初から怪しいとは思ってたんだよ!」
蛇姫「見たなァ~! 秘密を知られたからには
仕方がない!!」
美しく穏やかだった蛇姫の顔が、
文字通り獲物を睨む凶暴な蛇のように変わった。
蛇姫は壁のスイッチをポチッと押した。
するとユウキが立っていた床が四角形にパカッと割れて、
ユウキは落とし穴に落ちてしまったんだ。
ユウキ「うわああ~~!!」
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同館・地下牢***
ユウキ「イテテテッ…!!」
ユウキが落ちた先は、館の地下牢だった。
遥か高い天井の出口からは、勝ち誇った表情の
蛇姫たちが見下ろしている。
蛇姫「オホホホホ…」
ユウキ「このォー!! ボクをここから出せ~!!」
蛇姫「お黙り。お前の連れの坊やを先に美味しく頂いてから、
お前も後でじっくりと料理してやるからね」
そして天井の出口は閉められてしまった。
同時に差し込んでいた光もなくなり、
牢屋の中は暗闇に包まれた。
ユウキ「…大変だ! 早くなんとかしないと、
煌ちゃんがあいつらに食べられちゃう!」
青年「誰だッ!?」
ユウキ「―えっ!」
ユウキは、牢屋の中に思わぬ先客がいた事に気づいた。
ユウキ「お兄さん、誰?」
青年「俺の名前は滝川剛だ。君は?」
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○クレイト→金剛煌の話を聞いて、ユウキとの中に嫉妬の感情を示す。
○エメル→やきもちを焼いて脹れるクレイトに、「ユウキは妹みたいなもの」と諭す。
○金剛煌→蛇姫の館で歓待される。(回想)
○ユウキ→蛇姫の真の目的を見破るが、捕まってしまう。(回想)
○滝川剛→蛇姫の館の地下牢に幽閉されている。(回想)
●蛇姫→金剛煌とユウキを館の中へ招き入れる。(回想)
【今回の新規登場】
○滝川剛=タイガーセブン(鉄人タイガーセブン)
考古学者・滝川博士の一人息子。父親に反発して家出し、プロのオートバイレーサーとなる。
サハラ砂漠に調査に出かけた父を心配してその後を追い、砂原人に襲われて一度は命を落とすが、
父の開発したミイラ蘇生用機材・人工心臓SPを埋め込まれて蘇った。高井戸研究所の一人として
ムー原人と戦う一方で、古代エジプトに伝わるペンダントと人工心臓SPの力で
タイガーセブンとしての孤独な戦いをも続けていた。少ない余命を宣告されて自暴自棄に陥るが、
高井戸博士の命がけのメッセージによって立ち直り、最終決戦に挑んだ後、仲間たちの前から姿を消した。
●蛇姫(ドラゴンボールZ)
蛇の道の途中にある館に、大勢の侍女たちを抱えて住んでいる女主人。
その正体は、蛇の道に千五百年住んでいる蛇道神。蛇の道を旅する男を見つけては、
強引に館の中に引き入れて誘惑し、その誘惑を拒んだ場合は怒って食べてしまう。
界王のところへ向かう途中の孫悟空も同じよう誘惑し、それが拒絶されると食べて
しまおうとしたが、飛び回る悟空に上手くあちこちに誘導されて滅茶滅茶に長い体を
絡ませられ、身動きを封じられる形で一応退治された。
最終更新:2020年12月10日 11:28