『絶剣 蛇の道を往く』-6
作者・ティアラロイド
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北の界王星***
艱難辛苦を乗り越えて長い長い蛇の道を渡り、
ようやく界王さまのところにまで辿りつけたのに、
思わぬハードルに阻まれて困り果ててしまった僕ら。
その時、ユウキがふと何か思いついたように
界王さまのところに駆け寄った。
ユウキ「ねえ界王さま!」
北の界王「なんだまだいたのか! 早く帰らんか!」
ユウキ「お願いっ! ボクらのためにもう一回だけ
ご自慢のシャレを聞かせて♪」
北の界王「なんじゃと?」
ユウキ「もう一回だけでいいからさ♪
どうかこの通りっ!」
ユウキは手を合わせて必死に界王さまに懇願する。
戦士煌「ユウキちゃん…?」
北の界王「よーし、ならばホントにあと一回だけじゃぞ」
界王さまはすぅーっと深呼吸すると、
また寒いダジャレを口にした。
北の界王「箱を八個用意しなさい!」
ユウキ「…ヾ(▽⌒*)キャハハハo(__)ノ彡_☆バンバン!!」
ユウキはいきなり大笑いしだした。
その様子はどう見ても不自然そのものだったよ。
だって界王さまのシャレは全然面白くなかったんだもの。
戦士煌「どうしたのユウキちゃん?」
怪訝に思う僕に、ユウキは界王さまに聞こえないように
そっと小声で僕とタツミに囁いた。
ユウキ「煌ちゃんもタツミも早く!」
戦士煌「えっ…?」
タツミ「なるほどそーゆーことか!
よしっ…ヾ(T∇T)ノ彡☆ギャハハ!!バンバン!!」
今度はタツミまで納得したように笑いだした。
要は本当は面白くないけど笑っているフリをしろ
ということらしい。なんか人…じゃなくて神様を
騙してるみたいで罪悪感に駆られたけど、
背に腹は代えられなかったんで僕も一生懸命に笑ったよ。
笑う事に努力が必要だったのは生まれて初めてかも…。
戦士煌「ぎゃははははは…面白いですねえ(←棒読み)」
北の界王「だろ? もう、気づくのが遅いんだからなあ!」
僕らはなんとか界王さまのご機嫌を取り戻すことに成功した。
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さっそくユウキが用件を切り出す。
ユウキ「ねえ界王さま、修行してくれる?」
北の界王「ふっふっふっ…修行か…。してやってもいいぞ。
ただしテストに合格したらな」
タツミ「テスト? なんスかそれ…」
北の界王「このギャグの天才である界王さまを、
ダシャレで笑わせることができたらな!」
戦士煌「えーっ! 僕たちがダシャレを!?」
タツミ「やっぱりそうきたか…(汗」
無理難題だったけど、ここまで来た以上は
もう後には引けなかったから、僕らは思いつく限りの
ダジャレを口にしたよ。
ユウキ「焼肉って焼きにくい!」
タツミ「このフェンス、なんかふぇんす(変す)!」
戦士煌「蓋をふたつくださいな」
北の界王「ガ━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ン」
界王さまの脳裏に何か稲妻のような衝撃が駆け抜けた。
北の界王「…アハハ!!(~▽~*)/≡クルッヽ( )ノギャハハ!!≡クルッ(*_ _)/バンバン!!」
笑い転げる界王さまを見て、ユウキはガッツポーズする。
ユウキ「やった! 受けた!」
戦士煌「いいのかなあ…」
タツミ「ま、結果オーライだろ」
ようやく笑いが治まる界王さま。
北の界王「く…くそ~~。お前らただもんじゃないな!
さてはプロだろ。どこのお笑い芸能プロダクションにいた?」
戦士煌「………(汗」
北の界王「いいだろう。修行してやろう。
最高のギャグを教えてやるぞ!」
タツミ「ギャグはいいから武術を教えてくれよ」
北の界王「なんだ武術か。それを先に言わんかい」
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北の界王「まずはお前たちの本来の力を知りたい。
そこの長髪小僧はその物騒な甲冑を脱いで、そこの闇妖精族の娘も
リアルの姿に戻ってもらおうか」
界王さまが指をパチンと鳴らすと不思議な力が働いて、
僕は変身状態を強制解除され、ユウキもALOのアバターの姿から
本来の現実(リアル)の姿に戻ったんだ。
煌「これは…」
木綿季「あれれ、戻っちゃった」
その時、僕はユウキの現実(リアル)での姿を初めて見た。
アバター時の長髪と違って、髪型はショートカットの女の子だった。
生前の彼女は末期の症状のせいもあり、今よりももっと痛々しいほど
肉が落ちて痩せこけた姿だったらしい…。
北の界王「よーし、どれ! かかって来てみろ。
お前たちがどれほどのウデか見てやろう」
界王さまは拳法の構えを取る。
木綿季「そ…それがさあ、おかしいんだよね」
煌「ここじゃやけに動きにくくて身体が重いんです」
北の界王「お前たちどこから来た? 地球か?」
木綿季「う、うん…」
タツミ「俺は違うけどな…たぶん」
北の界王「じゃ重いだろうな。ここは小さな星だが、
凄い重力でな。お前たちの星より10倍の重力になるかな。
だからお前たちの重力も10倍になる。ちょっとジャンプしてみろ」
界王さまに促されて、僕たちはジャンプしてみた。
だけどほんの少ししか上にあがることが出来なかった。
木綿季「やっ!!」
煌「ぐっ!! だ、だめだ!」
タツミ「ほんのちょっとしかあがらねえ!!」
北の界王「……(むむむ…! 10倍の重力であそこまで飛ぶとは。
これは孫悟空とその仲間たち以来に楽しみな奴らが来たぞい)」
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こうして界王さまとの厳しい修行が
始まったある日のことだった。
北の界王「ではゆくぞ! この巨大煉瓦の
超スピードを見事捉えてみせろ!」
煌「はいっ!」
北の界王「そりゃあ!!」
その時、目の前の景色が急に歪んだかと思うと、
突然全てが真っ暗になったんだ…。
煌「あれっ…こ、これは……」
タツミ「おいっ、大丈夫か!」
木綿季「煌ちゃん、どうしたの!? 煌ちゃん!!」
僕は段々意識が遠のいていくのを感じたよ…。
◇ ◇ ◇
煌「そうして気が付いたら、僕はエターナリアの大地に立っていて、
"あの世"では頭についていた天使の環も消えていたんだ」
グレイファス「それが"黄泉がえり"か…」
ビークウッド「そしてあの鳴滝という男が、煌に接触して来たのですね」
煌「うん…」
◇ ◇ ◇
鳴滝「いつか君の前に悪魔が立ち塞がる」
煌「悪魔…?」
鳴滝「全てを破壊する悪魔、ディケイド!
それが君の本当の敵だ…」
◇ ◇ ◇
煌は自分が死んでから再びこの世に復活するまでの
経緯をこれで全て語り終えた。
桃矢「…ったく。煌は人がいいから
簡単に騙されちまうんだよ」
煌「ハハハ…(汗。確かにそうかもね。
門矢さんたちには悪い事をしちゃったよ」
クレイト「違うわよ! 煌は心根が純粋なだけだもの!」
クレイトはムキになって煌を擁護する。
桃矢「い、いや…誰もそれが悪いとは一言も」
煌「ありがとうクレイト。でも桃矢くんの言う事にも
一理はあると思うよ」
クレイト「そうかもしれないけど、私は知ってるよ。
煌はただ優しいだけじゃない、強い心の持ち主だって」
煌「クレイト…」
話が進む中、エメルが焼きあがったパイを運んで来た。
エメル「おまちどおさま。パイが焼きあがったわ」
ガリエル「うひょーっ! 待ってましたぁ!」
クレイトがエメルからナイフを借りて、
皿の上のパイを均等に人数分切り分ける。
桃矢「おいクレイト、なんか俺の分だけ微妙に少なくないか?」
クレイト「そんなことないよ!」
エメル「こらこら、みんな仲良くね」
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明るい食事風景が進む中、突然どこかからか
可愛らしい少女らしき声が聞こえてきた。
ユウキの声「……ちゃん、煌ちゃん、聞こえる?」
グレイファス「なんだこの声は!?」
煌「その声は…もしかしてユウキちゃん!?」
ガリエル「なんだって!!」
驚く一同…。
ユウキの声「よかったあ! ボクの声が聞こえるんだね!」
煌「ユウキちゃん! ユウキちゃんなんだね!
今どこにいるの!? 君も僕みたいに生き返ったの!?」
ユウキの声「ハハハ…違うよ。今ね、界王さまの背中を借りて
心の声で煌ちゃんたちに話しかけているんだよ」
北の界王の声「そこにおぬしらと一緒にいる大地聖母使のおかげで、
わしのテレパシーの受信感度も上がっておるようじゃ」
煌「界王さま!?」
エメル「クレイト、何かわかるの?」
クレイト「うん…」
エメルの問いに、クレイトは小さく頷く。
大地と精神的に語り合い、祈りによって未知なる力を行使する大地聖母使は、
遠い大宇宙をも隔てた意思の交信においても媒介の役目も果たしているようだった。
ビークウッド「このお声が界王さまですか!?」
グレイファス「私たちにも聞こえるぞ!」
桃矢「…ま、待てよ。これってつまり…
幽霊の声なのか?…((;゚Д゚)ガクガクブルブル」
テディアム「おい桃矢、なにビビッてんだよww」
桃矢「ビビッてなんかいねえ!!」
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ユウキの声「もうっ、煌ちゃんったら急に消えちゃうんだもん。
びっくりしたよ…」
煌「ごめん…。ところで今のそっちの様子はどう?」
ユウキの声「ボクもタツミも毎日修行頑張ってるよ。実はあれからね、
タツミの仲間たちもこっちにやって来たんだよ」
北の界王の声「こっちも随分と賑やかになったわい!」
煌「そうなんだ。よかったね…」
桃矢「煌……」
煌の表情には懐かしさと同時に、ユウキやタツミを置いて
自分一人だけ生き返ってしまった後ろめたさがある事に
桃矢は気づいていた。そしてユウキや北の界王もそれを察していた。
北の界王の声「"黄泉がえり"の原因については、
現在天界や霊界でも調査を進めておる」
ユウキの声「煌ちゃん、つまらないこと考えちゃダメだよ。
煌ちゃんが生き返ったって事は、きっと煌ちゃんには
まだ"この世"でやらなきゃいけないことがあるはずなんだ。
だから頑張って!」
煌「うん、ありがとうユウキちゃん!」
ユウキの励ましで、煌は少し救われた気分がした。
続いてユウキはクレイトにも語りかけてくる。
ユウキの声「あなたがクレイトさん?」
クレイト「私の事がわかるの?」
ユウキの声「わかるよ。ここからは全ての事が見渡せるからね。
だからクレイトさんが煌ちゃんと強い絆で結ばれているのも
よくわかるんだ」
クレイト「………」
ユウキの声「だから煌ちゃんのこと、これからもお願い!」
クレイト「うん、わかった!」
遥か天界の界王の星にいるユウキと、エターナリアの大地にいるクレイト。
二人の少女の意思が通じあった瞬間だった。
ユウキの声「それじゃあ、名残惜しいけどそろそろ交信を切るね…」
煌「待ってユウキ! もしかしたら僕たちは今度地球に行くかもしれない。
"アスナ"さんに何か伝えたい事はない!?」
暫し沈黙の時が流れたのち、ユウキからの返事が返ってくる。
「アスナ」とは、死後の世界でユウキと出会った時に、
彼女が語っていた大切な恩人の名前だ。
ユウキの声「…ううん、別にいいよ。いきなり家に押しかけて
"死後の世界からの伝言です"なんて言われてもアスナは困惑するだろうし、
煌ちゃんも変に思われたりして困るでしょ。…でも、もし向こうで
アスナと会う機会があったら、その時は"ボクは楽しくやっている"って伝えて」
煌「うん、わかった。必ず伝えるよ」
ユウキの声「さよならは言わないよ」
煌「ユウキも元気で…」
こうして北の界王星との交信は途絶えた。
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桃矢「ところで煌」
煌「なぁに桃矢くん?」
桃矢「お前、その"アスナ"さんって人が
どこに住んでるのか、わかってるワケ?」
煌「…あああッ!! しまったァッ!!」
テディアム「おいおい…(汗」
"アスナ"の住所や詳しいプロフィールを聞き忘れていた事に気がつき、
慌てるように立ちあがって頭を抱える煌。
桃矢「それくらい最初から詳しく聞いとけよ」
エメル「困ったわねえ。"アスナ"って名前からして
たぶん女性の方なんでしょうけど…」
ビークウッド「地球のブレイバーベースという場所に行けば、
該当者を調べてもらえるかもしれません」
グレイファス「しかしいくらなんでも"アスナ"という
ファーストネームだけでは難しいのでは…」
ガリエル「実はファーストネームじゃなくて
苗字の方かもしれないぜ…」
煌「弱ったなあ…」
別れ際に「必ず伝える」と約束してしまった手前、
弱り果ててしまう煌。だがそこにクレイトがそっと
優しく煌の肩に手をかける。
クレイト「大丈夫だよ煌」
煌「クレイト?」
クレイト「思いが届けば、きっといつかは会えるよ。きっと…」
(シナリオ完結。次シナリオに続く)
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○タツミ→北の界王のもとで修行を開始する。(回想)
○紺野木綿季/ユウキ→北の界王の力を借りて、エターナリアの金剛煌たちにテレパシーで語りかける。
○北の界王→エターナリアの金剛煌たちに、ユウキと一緒にテレパシーで語りかける。
○金剛煌→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
○神城桃矢→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
○グレイファス→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
○ビークウッド→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
○ガリエル→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
○テディアム→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
○エメル・ウルファウス→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
○クレイト→ユウキと北の界王からのテレパシーを受け取る。
最終更新:2020年12月24日 07:59