外宇宙編125~129

『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-3

作者・ティアラロイド
125

帝都星フェザーン・宇宙港***


着陸・停泊している大型星間連絡船からハッチが開く。
出迎えに来ていたミッターマイヤー家の従卒兼執事ハインリッヒ・ランベルツは、
一斉に降りて来た大勢の乗客たちの中から、お目当ての人物を見つけて駆け寄る。
ミッターマイヤー家の一人息子、フェリックス・ミッターマイヤー銀河帝国軍少尉である。

ハインリッヒ「坊っちゃまァァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!」
フェリク「コラッ、ハインリッヒ! いきなり抱きつくな!!
 周囲が見てるだろーが!!(///)」

感涙して抱きついて来たハインリッヒ・ランベルツに、
フェリックスは赤面して困惑しつつも、とにかくハインリッヒを落ちつかせる。

フェリク「ただいま、ハインリッヒ」
ハインリッヒ「おかえりなさいませ。こんなにご立派になられて…(涙。
 亡きロイエンタール元帥がご覧になられたら、どれほど
 お喜びになられる事か!」
フェリク「ロイエンタール元帥か…」

オスカー・フォン・ロイエンタールはフェリックスの実父である。
養父ミッターマイヤーからも、実父がどれだけ立派な男だったか
という事については幼少の頃より耳が痛くなるほど聞かされて育った
フェリックスだったが、赤子の頃に死に別れた実の父親のことなど、
当然ながら本人の記憶にはない。養父はいずれ自分に実父の名跡を
継がせるつもりでいるらしいが、未だ自分には今一つピンときてはいないのであった。

ハインリッヒ「邸宅へ戻られますか?」
フェリク「いや、獅子の泉(ルーヴェンブルン)に向かう。
 皇帝陛下に帰国の報告をしなければならない。
 親父ともそこで会えるしな」


皇宮・獅子の泉(ルーヴェンブルン)***


皇宮に参内したフェリックス・ミッターマイヤー少尉は、
皇帝アレクに謁見し、留学からの帰国の報告をした。

アレク「ミッターマイヤー少尉、1年間の留学ご苦労であった」
フェリク「皇帝陛下におかせられましてはご機嫌麗しく
 恐悦至極に存じます。陛下のご威光をもちまして、
 本日無事に帰国致しましてございます」
アレク「本日をもって卿を中尉に任官する」
フェリク「ありがたき幸せ。今後もこれまで以上に
 帝国と陛下のために忠勤に励む所存にございます」
アレク「惑星ハイネセンでは、かの名将ヤン・ウェンリーの
 英雄譚などもよく聞いたであろう。積もる話を聞きたい。
 後で予の私室まで参れ」
フェリク「畏まりました」

下座の一同が一礼する中、皇帝アレクは玉座より退席した。

ミッターマイヤー「フェリックス!」
フェリク「父さ…じゃなかった。ミッターマイヤー元帥、
 そして提督方もご無沙汰しております」
ミュラー「ともかくは中尉昇格おめでとう」
フェリク「ありがとうございます」
ビッテンフェルト「ハハハ…また一段と大きくなって
 帰ってきおったな! 結構結構!」
フェリク「ビッテンフェルト提督、もう自分は18です。
 子供みたいにからかうのはおやめください…(///)」
ビッテンフェルト「照れるな照れるな!」
メックリンガー「ますますロイエンタール元帥に似て来たではないか。
 なあミッターマイヤー元帥」
ミッターマイヤー「ああ、我が家の自慢の息子だ!」
フェリク「………」
ミュラー「……??」

メックリンガーの口からロイエンタールの名前が出た時、
一瞬だけだがフェリックスが複雑な表情をしたのを
見てとったナイトハルト・ミュラーは、皇宮の廊下で
フェリックスを呼びとめた。

ミュラー「ミッターマイヤー中尉!」
フェリク「―!? これはミュラー提督」

突然ミュラーに呼び止められて振り返った
フェリックスは上官に敬礼する。

ミュラー「少し話をしたいのだがよいか?」
フェリク「はい…??」

126

将校専用のサロンで、フェリックスはミュラーと
二人きりで話をした。

フェリク「話とは何でありましょうか?」
ミュラー「ふと気になったのだが、
 もしかして卿は、実の御父上と比べられる事を
 不快に思っているのではないのかと思ってな…」
フェリク「その事でしたか…」

フェリックスはミュラーに淡々と自身の心情を
素直に吐露した。

フェリク「別に実の父と比較される事に嫌悪を
 感じているわけではありません。周囲から偉大な父と
 常に比べられる苦労はアレク陛下の比ではないでしょう」
ミュラー「うむ…」

アレクもフェリックスも、記録映像か伝聞の中でしか
実の父親のことを知らない。しかしフェリックスは
自分に惜しみない愛を注いでくれた養父母の元、
幸運にして温かい家庭環境下で育った。
それに対してアレク皇帝は、実母である皇太后ヒルダが
普段から摂政としての政務に追われ、一般家庭に比べれば
寂しい日常を幼少の頃より送って来たことは容易に想像できる。

ここで少し話は逸れるが…、
そんなアレクが心根が曲がることなく真っ直ぐな青年に
成長できたのは、ヒルダたっての願いで乳母役を引き受けた
伯母のアンネローゼ大公妃による心血を注いだ養育と、
流木野サキら傅役たちがアレク幼少の頃より友人のように
親しみを込めて少年皇帝に接し続けた事が大きかったろう。

――話を元に戻す。
オスカー・フォン・ロイエンタールは本人にとっては
不本意ながらも一度は皇帝ラインハルトに叛く形で逆臣となったが、
彼の死の直後にすぐラインハルト帝の勅命により名誉は回復され、
墓の下で眠る現在は元帥に復位していた。

フェリク「オスカー・フォン・ロイエンタールという人物が
 単に建国の功臣や名将だったというだけでなく、友誼にも
 厚い男だったというのは義父からよく聞かされて知っています。
 ただ、そうは言われても自分には実父の記憶がある訳ではありません」
ミュラー「卿がまだ乳飲み子だった頃の話だ。無理もない」
フェリク「実父の事は義父同様に尊敬しています。ただ、
 実父の話題を出されても今一実感が湧かないのです。
 そんな自分がもどかしくて…」
ミュラー「卿は幸運にも偉大な男を二人も父に持った。
 それは誇るべきことだ。だがそれはそれとして、卿は卿自身だ。
 気にせずに卿の選んだ道を突き進む事だ」
フェリク「ありがとうございます。ミュラー提督」

ミュラーの言葉のおかげで何か吹っ切れたような感じがした
フェリックスは、深々と一礼して別れた。

127

同皇宮内・皇帝の私室***


フェリク「よっ、久しぶりだったな連坊。
 元気にしてたか?」
連坊「ミッターマイヤー中尉、陛下は先程から
 中でお待ちです」

この金髪の青年である近侍の青年の名は連坊小路といい、
先帝ラインハルトの治世に帝国に受け入れたジオールの民の末裔であり、
大神オーディンの教母・連坊小路アキラとは遠縁にあたるらしい。
アレクやフェリックスは、昔からこの青年のことを「連坊」と呼んでいる。

フェリク「陛下のご機嫌は…?」
連坊「"フェリクはまだかまだか"と苛立っておられるようですよ…」

お互いにドアの向こう側の相手に聞かれぬよう、
ひそひそと小声で話すフェリックスと連坊小路。
フェリックスは緊張して恐る恐るドアをノックする。

フェリク「陛下、フェリックス・ミッターマイヤー中尉、
 お召しによりまかり越しました」
アレク「入れ!」

ドアを開けて中に入るフェリックス。
部屋の中央では、ソファにアレクが座っていた。

フェリク「陛下…」
アレク「もっと近こう寄れ」

アレクに近づくフェリックス。するといきなりアレクは
フェリックスにヘッドロックをかまして来た。
一方のフェリックスも驚いたり嫌がったりする様子はなく、
むしろ腹の底から笑いながらいちゃつくように抵抗する
そぶりをしてみせる。

アレク「コノコノコノッ! 1年も待たせやがって」
フェリク「イテテテッ! コラよせよッ!」

そんな少年二人の男同士の友情のどつきあいがしばらく続いた。
フェリックスが惑星ハイネセンに留学していた二年もの間、
親友の帰還をずっと首を長くして待ち侘びていた皇帝アレク。
このプライベートの空間の中に限って、
もはやそこには身分の上下の別は存在していなかった。

アレク「おかえり、フェリックス」
フェリク「ただいま、アレク」

128

フェリク「親父から聞いたぞ」
アレク「…ん? 何の話だ」
フェリク「とぼけるなよ。エンペリアスまで
 艦隊を抜けて一人旅をするだなんて、無謀にもほどがある!」
アレク「ああ、その話か…。ちょうどいい。
 手間が省ける。今その話をしようと思っていたところなんだ」

アレクは、もしやフェリックスが父親から
自分を説得するようにと言われたのではないかと訝しむ。
フェリックスはアレクより一歳年上であり、昔から何かと
まるで兄貴や先輩のように上から目線で自分に忠告してくる。
もちろんそれは大切な一歳年下の親友に対するフェリックスの
保護欲(悪く言えば兄貴風)から来ている事は理解していたが、僅か一歳だけ歳が違うだけで
弟分扱いされているようで、アレクにとっては鼻持ちならない時がある。
皇帝という重責ある地位におかれているアレクにとって、
比較的自由に行動できる立場にあるフェリックスの事が
正直羨ましいという側面もきっとあるのだろう。

アレク「ミッターマイヤー元帥から俺に翻意するように
 説得しろと言われたのか?」
フェリク「違うよ。親父はそういう裏からの根回しは
 昔からあまり好きな方じゃない」
アレク「確かにそうだ」
フェリク「だけど俺はやめてほしいと思っている」
アレク「なんでだ?」

もし、一人旅の途中でアレクに万一の事があれば、
それだけでローエングラム王朝の血筋は途絶える。
ただでさえ現在の宇宙は再び乱世の様相を呈しているのだ。
その混乱の影響は計り知れない。

フェリク「今の外宇宙がどれだけ危険か理解しているのか?
 俺は万一に不測の事態でお前を失うのもいやだし、
 お前が自由気ままの個人的な我儘で命を落とした愚帝と
 後世の歴史に記されるのもゴメンだ!」
アレク「誰から何と言われようと、俺の気持ちは
 変わらないぞ」
フェリク「アレク!」

アレクとフェリックスが口論していると、
そこへ連坊小路が部屋の中に何かを伝えに入って来た。

連坊「皇帝陛下、皇太后陛下がお呼びでございます」

その言葉に、待ってましたとばかりにアレクは飛び上がる。
きっと母は自分に一人旅を思いとどまるよう説き伏せるつもりなのだ。

アレク「ついに来たか。そこで見ていろフェリク。
 まずは第一関門を突破しないとな」
フェリク「アレク…」

皇太后ヒルダに呼ばれたアレク皇帝。
果たしてその説得のための勝算とは…?

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○アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム→親友フェリックスと二年ぶりに直接再会。
○フェリックス・ミッターマイヤー →帝都フェザーンに帰国。中尉に昇進。親友アレク皇帝と二年ぶりに直接再会。
○ハインリッヒ・ランベルツ→フェリックスを宇宙港まで出迎える。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。
○ナイトハルト・ミュラー →フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。その後、彼の悩みを聞き、アドバイスする。
○エルネスト・メックリンガー →フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。
○連坊小路→ローエングラム王朝の宮廷に近侍として仕えている。

【今回の新規登場】
○連坊小路(革命機ヴァルヴレイヴ)
 200年後の第三銀河帝国で登場する、連坊小路サトミそっくりの青年。
 皇子からは「連坊」というニックネームで呼ばれているが、本人はそれを不服に思っている。
 小説版エピローグでの連坊小路アキラの独白から、サトミがマギウス化して不老不死となった訳ではなく、別人であることが示唆されているため、おそらく子孫なのだと思われる。アキラの言によると、
 いつも騒がしい性格らしい。

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最終更新:2021年01月07日 07:06