『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-5
作者・ティアラロイド
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軍務省・軍務尚書執務室***
連坊「Σ(゚∇゚ ;)エッ!?…僕が皇帝陛下の影武者をーっ!!」
すぐに軍務省のミッターマイヤーの執務室に強引に連れてこられた
連坊小路は、皇帝の影武者の任務について説明された。
ミッターマイヤー「ビッテンフェルトの眼鏡にかなったのであれば、
間違いはあるまい。お前も長年近侍として陛下のお側近くに
お仕えしていたのだ。皇帝としての礼儀作法は勿論のこと、
陛下の日頃の癖や身なり、そぶりも心得ておろう」
ビッテンフェルト「大事を明かしたからには、引き受けてもらうぞ!」
連坊「ちょ、ちょっと待ってください!!」
困惑気味の連坊小路は必死に抗弁する。
ミッターマイヤー「断るのか?」
連坊「当たり前ですよ! 僕に陛下の影武者なんか務まる
わけないじゃありませんか。そりゃあ、僕たちジオールの民を
受け入れてくださった先帝ラインハルト様への恩義はありますが、
絶対に無理です!!」
必死に断る連坊だったが、両眼に真っ赤な炎をちらつかせた
ビッテンフェルトが連坊の襟首を掴んで迫る。
ビッテンフェルト「わかっているだろうな連坊、お前には地位に伴う責任があるのだ。
何も成し得ぬというのなら、一介の書生も同じこと。期待には応えて
もらえるだろうなあ~!?」
連坊「ビッテンフェルト提督、顔が近い…近いですぅ……!!
)))))ガクガクブルブルガタガタブルガタガクガクガクガクガク」
みっともなく子供のように涙声で震えながら尚も抵抗を試みる連坊だったが、
その時、尚書執務室に二人の女性が入って来た。
一人は流木野サキ、そして今一人は大神オーディンの教母を務める連坊小路アキラである。
アキラは連坊の先祖の連坊小路サトミの妹に当たる。
サキ「………」
アキラ「………」
連坊「サキ様ぁ! アキラ様ぁ!!」
二人の姿を見た連坊は感謝した。てっきり自分に味方してくれるものと
ばかり思っていたからだ。しかしその甘い期待はあっさりと裏切られることになる。
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アキラ「ぐだぐだ言ってないで行ってきな!」
連坊「へ…?」
ミッターマイヤー「二人は俺がここに呼んだのだ。一緒にお前を説得してもらうためにな」
サキ「今こそ我々ジオールの民が先帝ラインハルト様のご恩に報いる時よ。
影武者の役目、しっかりと務めて来てね♪」
連坊「そ、そんなぁ…(泣」
サキとアキラに助けを求めようと思ったら、
かえって止めを刺されてしまった連坊。
ビッテンフェルト「教母殿たちの許可は取った! もう文句は言わせんぞ!
それではさっそく支度だ!!」
連坊「ひえええええっっっ!!!!!」
哀れ連坊はビッテンフェルトに強引に引っ張られて
どこかへ連れて行かれてしまった。
アキラ「………」
サキ「どうしたの?」
アキラ「相変わらず騒がしい奴だなと思って…。
なんだか年々お兄ちゃんに似て来てる。
今でもたまに連坊の事を"お兄ちゃん"って
間違えて呼びそうになる事があるよ」
皇宮・獅子の泉(ルーヴェンブルン)***
さっそく皇帝の礼服に着替えさせられた連坊は、
謁見の間で皇帝アレクサンデルと対面した。
アレク「なかなか似合ってるじゃないか。
しっかり頼むぞ相棒!」
連坊「よ、よろしくお願いいたします…」
アレク「あとはよきに計らえ。ハハハハハ!!!」
アレクは連坊の姿を見て満足の意を示す。
ビッテンフェルト「さて、出発までにお前を皇帝陛下らしく
仕立て上げねばならん。上手く行ったら拍手ご喝采だ!」
連坊「お、お手柔らかに…(汗」
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皇宮の庭園を二人で歩きながら話をする
アレク皇帝とミッターマイヤー元帥。
アレク「本来であれば一人旅が望みだが、母上との約束だ。
それに元々それを認める卿たちでもあるまい」
ミッターマイヤー「ご推察、恐れ入ります」
アレク「フェリックスは絶対一緒に連れて行くぞ。
よもや異存はないな?」
ミッターマイヤー「わが愚息めでよろしければ、光栄の至り。
どうぞどこへなりともお連れくださいませ」
アレク「フラウ・ミッターマイヤーにまた寂しい思いをさせてしまう
ことになるが、予が詫びていたと卿からよく伝えてくれ」
ミッターマイヤー「重ね重ねのご配慮、かたじけのうございます」
アレク「…で、他には誰を護衛に付けるというのだ?」
鉄の髭「私めにございます」
アレクからの問いかけに姿を現し馳せ参じたのは、
帝国直属の私掠船海賊・鉄の髭であった。
アレク「おお、鉄の髭か!」
鉄の髭「謹んでお供仕ります」
ミッターマイヤー「陛下には、旅の間は鉄の髭の海賊船パラベラム号に
船員としてご乗船頂きます」
アレク「わかった。ただしその方たちに申して置く。
旅の間は断じて俺は銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリード・
フォン・ローエングラムにあらず! アレクという名の一介の
宇宙の旅人だ。よいな?」
ミッターマイヤー「ハハッ」
鉄の髭「心得ました」
こうして、前代未聞の銀河帝国皇帝による
エンペリアス星までのお忍び道中が開始されることになったのである。
ミッターマイヤー邸・玄関***
皇帝座乗艦である帝国軍旗艦ブリュンヒルトが出発する日を明日に控え、
皇帝の礼服を脱ぎ、一般の民間人の旅装に姿を変えたアレクは、
出発の前にミッターマイヤー邸へと挨拶に出向いた。
エヴァンゼリン「皇帝陛下!?」
アレク「フラウ・ミッターマイヤー、暫くの間フェリックスをお借りします。
お寂しい思いをさせてしまいますが、どうかお許しください」
エヴァンゼリン「わざわざのお気遣い、かたじけなく存じます。
ですが、実は息子も本心では陛下とご一緒に旅が出来る事を
とても楽しみにしておりましたのよ」
フェリク「母さん!?…(///)」
母エヴァンゼリンの暴露に、側にいたフェリックスは思わず赤面する。
エヴァンゼリン「フェリク…私の可愛い息子。陛下の事をお願いね」
フェリク「うん、わかってる。行ってくるよ母さん」
ハインリッヒ「坊っちゃま、行ってらっしゃいませ!!(TmT)ウゥゥ・・・」
フェリク「泣くな! 今生の別れじゃあるまいに(汗」
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旗艦ブリュンヒルト・皇帝居室***
連坊「これはなかなか乙な味だのう。
ビッテンフェルト提督、これは鴨か?」
ビッテンフェルト「皇帝陛下! 陛下はいちいち出される料理の吟味などは
いたしません! "乙な味"とは何事にございますか!!」
連坊「そんなこと言ったって…」
皇帝としての旅の道中での食事の礼儀作法一切を
叩きこまれている最中の連坊小路である。
連坊「ビッテンフェルト提督、予は皇帝であるぞ。
卿は予に逆らうのか?」
ビッテンフェルト「…ふん、こういう時だけ皇帝陛下らしくなりおって(呆」
何しろ本物の皇帝から「無理を言って影武者を引き受けてもらったのだから、
多少の融通は利かしてやれ」と言われているため、ビッテンフェルトは
必死に堪忍袋の緒を締めているのであった…ww。
フェザーン宇宙港・港湾都市***
かつての宇宙貿易都市でもあった大帝都星フェザーンには、
今でも数え切れぬほどの船員と積み荷が常に活発に行き来し、
大小様々な圧倒的多数の宇宙船舶が停泊している。
その一つ、帝国帝室公認の宇宙海賊船パラベラム号へと
乗船したアレクとフェリックスは、鉄の髭から他の船員たちを紹介される。
アレク「鉄の髭…いや、これからは俺も卿の事をキャプテンと呼ぼう。
キャプテン、明日フェザーンを出発してから今後はどこに向かうのだ?」
鉄の髭「ハッ、艦隊はフェザーン回廊と新領土(ノイエ・ラント)を経由して
エンペリアス星に向かいますれば、我々もそれにつかず離れず並行して…」
アレク「鉄の髭、その言葉遣いどうにかならないのか?
俺の事は一介の船員として見てもらわねば困ると言っただろう」
その会話を傍で聞いていたグラマラスな女性が、
アレクたちと鉄の髭の会話の間に入って来た。
梨理香「へぇ~いい度胸だ。それじゃあ早速新人の船員らしく
コンテナの積み荷運びや掃除からやってもらおうか!」
アレク「了解だ♪」
梨理香「ここでは上官の船員に返事をする時は"アイアイサー"だよ!」
アレク「アイアイサー!!」
梨理香「アンタもなにボサーッとしてんだい。一緒にコイツの仕事を手伝いな」
フェリク「…え? あ、ああ…わかった」
梨理香の言いつけに対して、アレクは怒るどころか嬉々として
フェリックスと共に額に汗しながら見習い船員として
せっせと労働に従事している。
梨理香「すぐに音を上げると思ってたけど、なかなか根性あるじゃないか。見直したよ」
鉄の髭「だがほどほどにな…。何しろアレクは、皇太后ヒルダ様と
ミッターマイヤー元帥からの大事な預かり人だ」
梨理香「わかってるよ」
加藤梨理香――かつて伝説的な女海賊と呼ばれた「ブラスター・リリカ」その人であり、
鉄の髭ことゴンザエモン加藤芳郎の妻である。
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午前中の作業を一通り終えたアレクとフェリックスは、
許可をもらって港町へと繰り出した。
昼の腹ごしらえをすべく、とある一軒の船員食堂へと入る。
ウェイトレス「いらっしゃいませ! お客さん、何になさいます?」
アレク「そうだなあ……」
アレクはふと、隣の席に座る女エイリアンが食べている
見た目がネバネバとした糸を引いている定食料理に
興味深そうに視線を向ける。
アクアル「…? なぁに、私になんか用?」
アレク「それは何という食べ物だ?」
アクアル「なによ兄さん、納豆を知らないの?」
アレク「ナットウというのか。これと同じ物を頼む」
フェリク「アレク、たぶん納豆は口に合わないと思うぞ」
アレク「いいじゃないか、何事も経験だ」
ウェイトレス「畏まりました」
暫くして、アレクの席に納豆定食が運ばれて来た。
恐る恐る口にするアレクだが……。
アレク「うむ、美味だ。これがナットウというものか…」
アクアル「ちょいとお兄さん、もしかしてどこかの貴族様なの?」
アレク「あはは…なんにしても美味い」
続けてアレクはお椀のお茶を口にするが……。
アレク「あちっ!!」
お茶が熱かったためか、アレクは思わずお椀を手から落としてしまう。
アクアル「ハハハ…おまけに猫舌だ。面白い人もいたもんね。
ウェイトレスさん、お勘定ここに置いとくわよ――アッ!!」
その女エイリアン=水将軍アクアルは、勘定を払おうとして
誤ってアレクのすぐ傍で転んでしまう――いや、それは見せかけで、
実は転んだフリをしてアレクの懐に右手を伸ばしていたのだ!
しかしその右手はすぐに異変に気付いたアレクに掴まれる。
アクアル「痛ッ!…なにすんのよ!?」
アレク「男の懐に手を入れるとは感心しないな」
アクアル「へ…変な事言わないでよ!!」
言い訳して逃げようとするアクアルを、
すかさずフェリックスが組み伏せて取り押さえた。
アクアル「くっ…!」
フェリク「アレクっ、この女は巾着切りだ!」
アレク「巾着切り?」
俗に言う"スリ"である。
アレク「そうか、金が狙いか…。欲しいだけ持ってけ」
フェリク「えっ!?」
アクアル「ハァ!?」
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アレクはアクアルの目の前に、ずっしりと金貨が詰まった
自分の財布を差し出した。
フェリク「アレク!?」
アレク「構わん。きっと金が必要で困っていたんだろう。
10万マルクでも20万マルクでも好きなだけ持って行くがよい」
アクアル「………」
しかしこのアレクのよかれと思って発せられた言葉に
一番反感を剥き出しにして食って掛かったのは、
当のスリの張本人のアクアルだった。
アクアル「バカにするんじゃないわよ! アンタ何様のつもり!?」
アレク「どうしたんだ…?」
アクアル「黙って聞いてりゃあ、いけしゃあしゃあと!
私はねえ、金が欲しくてスリをやってるんじゃないんだよ。
一旗挙げようと帝都までやって来た仲間のために、
必要な軍資金を稼ごうと思って………まあ、こんなこと
アンタに話しても仕方ないか。でもねえ、人様の懐を狙う以上は、
私にだって覚悟があるのよ! 刑務所にぶちこまれようが
銃殺刑にされようが悔いはないんだ! それをなによ!
"金が欲しかったら持ってけ"? 冗談じゃないわ!!
アタシはね、物乞いじゃないんだよ!!」
アレク「……??」
アクアル「いいわね! 次に会った時は今度こそ
その財布をスリ取ってやるからね! 覚えときなさい!!」
周囲の客や店員が皆呆気にとられる中、アクアルは大声で「釣りはいらない」と叫び、
勘定をテーブルに置いて堂々と威張って出て行った。
アレク「何を怒っているんだ、あの女は?」
フェリク「スリにも誇りというものがあるのさ」
アレク「そうか、俺はあの女の心を傷つけてしまったのか。
それは悪い事をしたな……」
正直に本心から済まなそうな顔をするアレクを見て、
フェリックスは思う。
フェリク「……(前途多難だなこりゃ)」
???***
出発を目前に控える旗艦ブリュンヒルトと随行の艦隊を
軍港の遥か遠くから眺める謎の一団…。
???「アレクサンデル、お前が無事にエンペリアスまで辿り着く事はない」
???「今ならまだブリュンヒルトの警備も手薄のはず…」
???「善は急げというからな」
銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムに対する
暗殺計画の魔手は、密かに、そして静かに着実に忍び寄っていた。
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○アレクサンデル・ジークフリード・フォンローエングラム→身分を隠して一介の見習い船員としてパラベラム号に乗船。
○フェリックス・ミッターマイヤー →アレクと共に一介の見習い船員としてパラベラム号に乗船。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →連坊小路に皇帝の影武者を命じる。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→連坊小路を皇帝の影武者として指導する。
○エヴァンゼリン・ミッターマイヤー →旅立つアレクとフェリックスを見送る。
○ハインリッヒ・ランベルツ→旅立つアレクとフェリックスを見送る。
○流木野サキ→連坊小路が皇帝の影武者となる事に同意。
○連坊小路アキラ→連坊小路が皇帝の影武者となる事に同意。
○連坊小路→皇帝アレクサンデルの道中での影武者となる。
○鉄の髭→パラベラム号にアレクとフェリックスを預かる。
○加藤梨理香→アレクとフェリックスを見習い船員として厳しく指導する。
○水将軍アクアル→港町で偶然出会ったアレクの懐を狙うが失敗。
【今回の新規登場】
○連坊小路アキラ(革命機ヴァルヴレイヴ)
中立国ジオールにある咲森学園の女子生徒。学年は2年。SNS「WIRED」の創始者。
HNはRAINBOW。生徒会長の連坊小路サトミの妹だが、重度の対人恐怖症であり、
普段は学園内の立ち入り禁止区域に建てたダンボールハウスに引きこもっており、
授業には出ていなかった。ハッカーとしての腕前も高く、ARUS軍の暗号通信を傍受・解読し、
監視カメラの映像をハッキングする事も出来る。ヴァルヴレイヴVI「火遊」へと乗り込み、
マギウスとなる。約200年後の第三銀河帝国においては、「教母」という重要な立ち場に就いている。
○加藤梨理香(モーレツ宇宙海賊)
加藤茉莉香の母親。男っぽい言葉遣いをする。職業は海明星にある新奥浜空港の管制官だったが、
後に宇宙海賊船「パラベラム号」の乗員となった。かつては伝説的な女海賊「ブラスター・リリカ」
と呼ばれたが、現在も宇宙海賊船「弁天丸」のクルーとは関係が続いている。
娘の茉莉香は「お母さん」ではなく「梨理香さん」と呼ぶことが多い。
○水将軍アクアル(超星艦隊セイザーX)
宇宙海賊デスカル3将軍の紅一点。水の属性を持つ、冷静沈着な策士。
ちょっとせっかちで、盛り上がる2人に手厳しいツッコミを入れ話を中断することが度々ある。
頼りない他の2人を馬鹿にしているが、2人のことを心配する面も持つ。煽てに弱い。
使用する武器は先端に月のようなオブジェの付いた杖「ラグバッシュ」。
実はシャーク隊長がこのアクアルの血筋を引いている事が後に判明する。
最終更新:2021年01月07日 07:11