『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-6
作者・ティアラロイド
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フェザーン市・宿場街***
ここは、ブレアードたち元デスカル三将軍が
銀河帝国帝都で当面の寝座にしている宿屋である。
先程、アレクから財布をすり取ることに失敗した
アクアルが帰って来た。
アクアル「ただいま…」
ブレアード「おーっ! おかえりッ!
…どうしたその暗い顔は? ハハァ~ン、さては
またスリに手を出してしくじったな。やめとけやめとけ!
いい加減にそんな小物くさい真似は!」
アクアル「うっさいわね! だいたい誰のために
スリなんて真似やってると思ってるのよ!
ここの溜まった宿代だってどうやって払うつもり!?」
ブレアード「そのうちなんとかなるだろ!」
アクアル「あんたね~ッ!!」
サイクリード「二人とも、喧嘩はよそうよ…!」
そんなこんなで、いよいよ帝国艦隊の出発も明日に控えた夜の事…。
旗艦ブリュンヒルト・皇帝寝室***
連坊「………」
連坊小路はとても退屈かつ羨ましそうに窓から夜景を眺めている。
その視線の先には、帝都城下の歓楽街の明かりが輝いていた。
連坊「今頃アレク陛下たちは、あそこで楽しくやってるんだろうなあ…。
いいなあ、羨ましいなあ…。――よしっ、バレて元々だ!」
連坊小路の頭に、ふとよからぬ考えが…。
宇宙海賊船パラベラム号***
明日の出発に備えて旗艦ブリュンヒルトに詰めていた
ビッテンフェルトが血相を変えてパラベラム号のアレクたちの元に
飛び込んで来たのは、その同日夜の事だった。
ビッテンフェルト「アレク殿、一大事だ! "皇帝陛下"が消えました!」
アレク「なんだって!?」
驚いてベットから飛び起きるアレク。
ビッテンフェルトの話では、どうやら連坊小路は影武者の窮屈な日々に耐えかねて、
こっそりとブリュンヒルトの中から抜け出したらしい。
ビッテンフェルト「手分けして探しておりまするが、未だどこにも!」
鉄の髭「まさか影武者の任から逃げ出したのではありますまいな!」
アレク「連坊はそんな奴じゃない。おそらく息抜きに街に出たのであろう。
ともかく俺たちも捜索を手伝おう!」
鉄の髭「シェイン、留守は任せたぞ」
シェイン「了解です、キャプテン」
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フェザーン市・歓楽街***
アクアル「フフフッ…カモみぃ~けッ!」
ブレアードと口喧嘩して再び街へとぶらついていたアクアルは、
目の前をうろうろしている身なりのいい青年に目をつけた。
アクアル「ちょいとお兄さん!」
連坊「…えっ、僕の事ですか?」
アクアル「随分と立派な服を着てるみたいだけど、
もしかしてどこかのお貴族様?」
連坊「ま、まあ…そんなようなもんです」
アクアルは色仕掛けで連坊に迫る。
アクアル「ねえお兄さん、どこかで食事でも
おごってくれな~い?」
そのままアクアルと連坊小路は二人で近くの高級レストランへ。
連坊「どうでもいいですけど、貴女よく食べますねえ…」
アクアル「だってこんなに値の張る料理を食べられるのは
久しぶりだもの~! …で、アンタ本当はどこの伯爵さまか
公爵さまなの?」
連坊「そ、そんなんじゃありませんよ!!
マスター! 勘定はここに置いておきま~す!!」
アクアル「あ、待て! 逃げるな~ぁ!!」
アクアルの色仕掛けにまだ免疫がなかった連坊小路は、
堪らずさっさと支払いを済ませて退散しようとする。
せっかく見つけたカモをそう簡単に逃してなるものかと
必死に追いかけるアクアル。
だが、突然数人の黒ずくめの男たちが、
逃げる連坊小路を取り囲んだ。
連坊小路「な、何なんですかアナタたちは!?
――うっ!!」
連坊小路は黒ずくめに当て身を浴びせられ、
気絶したまま担がれて連れ去られてしまった。
その様子の一部始終を呆気にとられながら見ていたアクアル。
アクアル「な、何なの今のは!?
…もしかして、本当にアイツどこかの貴族様…??」
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郊外の廃寺院***
ここは今はもう使われていない、無人の廃寺である。
気がつくと連坊小路は縄で縛られて、床に転がされていた。
黒ずくめ「皇帝陛下、お目覚めになられましたか?」
連坊「だ、誰だお前ら!――じゃなくて、
そちらは何者じゃ?」
連坊小路を数人の物騒な黒ずくめの男たちが
取り囲んでいる。
黒ずくめA「我らは地球教徒にございます」
連坊「地球教徒…??」
黒ずくめA「貴方様の御父上、獅子帝ラインハルト陛下に
滅ぼされた地球教の残党にございますよ。もっとも、
真の神に仕える者はたとえ殺されても死なぬものでしてな…」
連坊「そ、それではその方ら、予を殺すつもりか!?
…)ガクガクブルブル」
黒ずくめA「御意の通りにございます」
連坊「ま、待て! 早まるな! お前たちは間違っている! 実は僕は――」
黒ずくめA「すぐには殺しません。実は私共の上には、やはり貴方様に恨みを抱き、
消えてもらいたがっている御仁がおられましてな…」
連坊「じょ、冗談じゃない!!」
黒ずくめB「うるさい! 静かにしていろ!!」
フェザーン市・歓楽街***
夜の街に出て聞き込みをして回るアレクたち。
ある高級レストランの支配人から重要な情報を聞き出した。
支配人「身なりのいい若い男性の方でしたら、
はい、確かに一時間くらい前に当店にお見えになりました」
フェリク「で、その後どこへ?」
支配人「アクアルと一緒に飲んでましたから、
アクアルでしたら知っているかもしれません」
フェリク「アクアル?」
支配人「港町外れの宿屋を寝座にしている
エイリアン三人組の一人でしてね。
なんでも巾着切りをしているという噂ですがね」
フェリク「巾着切り? もしかしてあの時の女エイリアンか…」
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同市・宿場街***
フェリク「アレク、あとは俺たちが引き受ける。
お前はパラベラム号に戻っていてくれ」
アレク「どうして俺だけさっさと帰そうとするんだ?」
フェリク「それは…」
アレク「俺の暗殺計画が進行中で、
俺の身に密かに危険が迫っているからか?」
フェリク「――!!」
アレクの言葉に、その場にいたフェリックス、梨理香、鉄の髭は絶句する。
暗殺計画の件は、まだアレク皇帝本人には伏せられていた筈なのだった。
鉄の髭「知っていたのか…」
アレク「もし連坊の身に何かあれば、それは影武者を任せた俺の責任だ。
ここで退く訳にはいかない! ここは俺が引き受ける」
アレクはアクアルたちの泊まる部屋を訪ねる。
アレク「御免! 夜分に申し訳ない」
ブレアード「誰だお前は?」
応対に出て来たのは、燃え上がる炎のような出で立ちの
男のエイリアンだった。
アレク「恐れ入ります。アクアルさんはこちらにいらっしゃいますか?」
ブレアード「なんだ、アクアルの知り合いか。お~いアクアル、お客さんだぞ!」
アクアル「―アッ! アンタは!?」
アレク「あの時のスリ!?」
顔を合わせたアレクとアクアルは目を丸くする。
アクアル「何しに来たのよ! またアタシをからかいに来たわけ!」
アレク「そんなんじゃない。
貴女と料理店で会っていた男の行き先を教えてくれないか?」
アクアル「料理店で会っていた男?」
アレク「これは申し遅れた。俺の名はアレク。あの男は連坊と言って俺の友人なんだ。
料理店の支配人が、貴女と連坊が一緒にいるところを見たと言うんだ」
アクアル「知らないわね、そんな人。大方その支配人は夢でも見てたんじゃないの?」
アレク「アクアルさん、手掛かりだけでもいい。頼むっ…!」
アクアル「しつこいわね! アタシには関係ない事よ!
とっとと帰ってちょーだい!!」
アレクは強引に宿の外へと締め出されてしまった。
アレク「アクアルさん、話してくれるまで、俺はここを動かない!!」
アレクは扉の前に正座して長期戦の構えを見せる。
やがて天候が雨模様となり、激しい雨がアレクの身体を打ち付ける。
それでもアレクは微動だにしない。
見かねたフェリックスが側に駆け寄ろうとするが、
それを梨理香が引き留めた。
梨理香「待ちな」
フェリク「なんで…!」
鉄の髭「あれでよいのだ。アレク陛下の御為にもな。一介の旅人でありたいと言うお言葉が、
ただのお戯れに終わるかどうかは、あの女エイリアンに陛下のお気持ちが伝わるか
どうかにかかっている」
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やがて日が昇り始めた…。
サイクリード「ねえ、中に入れてあげようよ。
あの人、風邪ひいちゃうよ」
アクアル「………」
ついにアレクの誠意が通じたのか、
根負けしたアクアルは傘をさしてアレクの側にそっと寄り添った。
アクアル「アレクって言ったわね。アタシの負けよ…」
アレク「アクアルさん…」
アクアル「ごめんなさい。実はアタシ、その人が連れ去られるところを見たわ」
アレク「連れ去られた!?」
アクアル「実は気になってその人が連れて行かれた場所まで尾行したのよ。
その連坊って人が捕まっている場所は郊外の廃寺院よ」
アレク「郊外の廃寺院だな!? アクアルさん、ありがとう!!」
アレクたちは直ちに、アクアルから教えられた郊外の廃寺院に向けて走り出す。
鉄の髭「梨理香、お前はパラベラム号に戻って
ブリュンヒルトと連絡を取れ!」
梨理香「了解だよ!」
アレク「…死ぬなよ! 絶対死ぬんじゃないぞ連坊!!」
それを見送るブレアードたちデスカル三将軍。
ブレアード「今時珍しい根性のある若造じゃねえか。
なんだか拓人の奴を思い出すぜ!」
アクアル「アレクか…。ふふっ、いい男ね♪」
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○アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム→アクアルから連坊小路が連れ去られた先を聞き出す。
○フェリックス・ミッターマイヤー →ブリュンヒルトから抜け出した連坊小路を捜索する。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→ブリュンヒルトから連坊小路が抜け出したとアレクに報告する。
○鉄の髭→ブリュンヒルトから抜け出した連坊小路を捜索する。
○加藤梨理香→ブリュンヒルトから抜け出した連坊小路を捜索する。
○シェイン・マクドゥガル→連坊小路の捜索に鉄の髭たちが出かけたパラベラム号の留守を守る。
○連坊小路→ブリュンヒルトからこっそり抜け出すが、本物の皇帝と間違えられ地球教に誘拐される。
○火将軍ブレアード→連坊小路の行方を尋ねに来たアレクたちと出会う。
○風将軍サイクリード→連坊小路の行方を尋ねに来たアレクたちと出会う。
○水将軍アクアル→アレクの誠意が通じ、連坊小路の行方を教える。
最終更新:2021年01月07日 07:10