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朝、僕はいつものように靴箱を開け、ローファーから上履きに履き替えようとした。



…いつも、中の砂を落とすために振っていたのが正解だった。
中から出てきたものは、………画鋲。


「………………」

目を疑った。

何故、僕が?


学校に入ってから数ヶ月経ち、穏やかな時を過ごしていたはずなのに。

僕は、今までの出来事とは違う恐怖を感じた。

恐る恐る教室に入り、クラスメイトに挨拶してみると、
普通に皆から返事が返ってきたので、覚悟していただけに
拍子抜けしたと共に安心感もあった。



しかし、誰がやったのだろう。
考えていたせいで、今日の授業はあまり集中出来なかった。

…放課後、沈鬱になっているわけにはいかない。
僕は自分を自分で奮起させ、部室へと向かった。


部室には、既に朝比奈さんと長門さんが着いていた。
「こんにちは」
「こんにちはぁ」
「………」

良かった、いつも通りだ。
長門さんもいつも何も喋らないからな…。

今日は彼が来るまで何をしようか…

そういえばボードゲームも溜まってきたな。
そろそろ整理をしなければ…。


ノックも無しに大きな音でドアが開く音がした。
涼宮さんかと思い、振り向いた…が、
そこに居たのは涼宮さんではなく、
柄の悪い男子生徒二人だった。
「何の用でしょう?」
ドアまで近寄っていくと、いきなり腕を掴まれ、強く引っ張られた。
「いたっ…!」
「えっ!?な、なんですかぁ!?」
後ろから朝比奈さんの声が聞こえて、それに答えるように男は言った。

「俺たちはコイツに用があるんだ」

鼓動が一瞬早まった。
この尋常じゃない雰囲気は何だろう。
これは、何か悪いことをした者を呼び出すといった雰囲気だ。

…僕?

僕が何かをやった…?
身に覚えがない。

しかし、この喧嘩腰と、腕を掴む力の強さは
どう考えてもただ事とは思えない。


腕の血が止まりそうな位強く握られて、
怖くて相手の顔を見る事は出来なかったが、
小さく離して貰えないかと呟くと、怒鳴られて、
「いいから来い!」
ぐい、と強い力で引っ張られた。
「えっ、ちょ、ちょっと、あの…!」
抵抗しようと思えば出来そうだったが、それをするのは何となく憚られた。

結局、引きずられるようにして体育館裏まで無理矢理連れてこられた。

「なっ…何のつもりですか…?」
一応聞いてみると、男達は憤慨した面持ちで、
「お前、SOS団とかいうフザけた部活の副団長なんだろ」
フザけた部活、という単語に少しムッとしたが、一応そうだと返すと、
いきなり掴みかかられた。

「涼宮の馬鹿が、こいつに怪我させたんだ」
「……えっ…?」

確かに片方の男は、あまり何もしてこなかった。
今も…右腕だけは動かす気配がない。

しかし本当に怪我をしているのかは分からない。

「な、何故ですか…?」
すると男は睨むような目をしながら、口元は笑っているという器用な表情をした。

「…俺ら卓球部なんだよな」


卓球部。…体育館……?


「…あ」

…思い当たった。
涼宮さんが体育館で何かを始めようとして帰ってきた後、
閉鎖空間の発生と共に「駄目だったわ」の一言。

大体の想像はついたが…
「…何故、涼宮さんに直接言わないのですか?」
言われても困るが、何故僕だけがこんな目に合わなければならないのか
理不尽だと思ったから聞いた。
「あいつが話の通じない馬鹿女って事は部員のお前の方がよく知ってるんじゃねえの」

………。

「…靴の画鋲も、貴方達がやったんですか」
意を決して問うと、怪我をしているという方の男が
疑問の目の色を浮かべ、もう片方に聞き直した。
「はぁ?画鋲?……おい、亮」
「あ?俺は知らねえぞ」

どうやら二人は本当に知らないようだった。
他にも、SOS団に不満を抱く人が居るのか…?
いや、僕に向けられているのかもしれない。
どちらにしろ非常にまずい事態である事には変わりがない。

亮、という男はこちらを向き、僕に近寄ってきた。
後ろは壁。
そいつに背中を壁に叩きつけるように押し飛ばされ、首を片手で絞めるようにされた。

「う…っ!?」
「なあ、お前副団長なんだろ?団長様の代わりに慰謝料払えよ慰謝料をよぉ!!!」
「がはッ…!!?」
腹に衝撃が走る。
胃の中のものが逆流しそうになり、僕は膝から崩れ落ちた。
すると、二人は大声で笑い出した。
髪を掴まれ、立ち上がらされて、何度もぶたれた。

僕が呻く度に、相手は愉快そうに笑った。


こんなの、ただの憂さ晴らしじゃないか。
きっとこれは相手が涼宮さんに受けた傷より酷くなるだろう。
涼宮さんがこいつらにどんな傷を負わせたのかは知らないが、こんなの理不尽すぎる。
そう思っていても、抵抗する事は出来なかった。


胸倉を離された時、解放してくれたかと思ったが、その考えは甘かった。
相手はまだ続けるつもりでいて、倒れた僕を蹴り飛ばし、頭を踏みつけた。



その辺りから記憶が薄れて、
気が付くと、白い天井が見えて、横を向くと、すぐに
部室で一番見慣れた顔を見つけた。

「古泉!」
「あ……」
いまいち状況が飲み込めなかったが、
どうやらここは病室のようだ。
「古泉っ……!気がついたか…!」
「…………くん…、ッけほっ…!」
声が掠れて、思わず咳き込むと、彼はすぐに水をくれた。

飲み干した後、今までのは夢なのかと思ったが、そうではなかったようだ。
「………古泉、朝比奈さんと長門が見付けて教えてくれたんだ」
「………………そ……ですか……」
思考が低下していたが、何とか自我を取り戻そうと辺りを少し見回した。

電灯が点いていて、外からの光が差し込んでいないことを考えると…
「…あの、今、何時……です…?」
「え…、あ、ああ、8時…46分だ」
「えっ…」
病室の時計を探し見ると、確かにその時刻を針は刺している。
やっと頭が回り始めた。
そうか、僕は、気絶して……

こんなに長い時間……

「とりあえず、医者に手当てしてもらったから…明日には学校に行けるってさ」
「…あの、…もしかして、ずっとついててくれたんですか…?」
「しょ、しょうがないだろ!それよりお前、具合はどうなんだ?」

向こうを向いて、ぶっきらぼうに言い放つ。
そんな彼の姿を見ていると、自然と笑みが浮かんできた。

「…ありがとうございます」

「…………」



暫く沈黙が続いた後、懸案事項を思い出した。
「そういえば、涼宮さんは?」
「ああ、ハルヒには上手く誤魔化しておいた。
…それよりお前、誰にやられたんだ?」
「……!」
「それが分かれば、そいつらからお前を守ることだって…」
「駄目です…!」

考えると共に、言葉が出ていた。

「絶対にあなたに迷惑を掛けてしまいます…
あなたをこんな事に巻き込むのは…」


肩に、彼の温かい手が置かれた。

「俺にぐらい迷惑掛けてくれてもいいんだぞ」




…………でも……。


僕は、何て言えばいいのかわからなくて、ただ黙りこんでいた。


でも彼は、これからは放課後は教室に迎えにくるとまで言ってくれた。

僕は、そのぐらいならいいかな、と思って、その言葉には甘えさせてもらった。

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最終更新:2007年06月19日 16:43