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貴重な日曜日に古泉から呼び出しを受け、俺は憂鬱な気分で自転車を走らせていた。
電話ではなくメールで呼び出されたことに引っかかりを感じたが、あまり気にすることもないだろ。
呼び出し場所は変わりの者のメッカになってしまったいつもの公園だ。
入り口辺りに自転車を置き、園内に入るとベンチに座っている奴の姿を見つけた。
向こうも俺の姿に気づいたようで、立ち上がって俺を迎える。
「よう、待たせたな」
「いえ、突然申し訳ありません」
ん? なんか声が高くなってないか?
それに視線が妙に絡む気がするんだが。
「実は相談したいことがありまして」
古泉は何故か頬を染め、胸の辺りに腕を寄せている。
そう言えば細身のきっちりとした服を好むらしい古泉が、
今日は明らかにサイズが合ってないと思われるシャツを着ているのもおかしいな。
ズボンなんか足元だぼだぼだしな。何だ、この違和感は。
「相談なら電話で出来るだろうが。わざわざ呼び出すようなことか?」
「・・・もしかして、気づいてません?」
質問に質問で返すんじゃありません。
今日のお前がどこかおかしいってのは分かるぞ?
古泉は額に手を付き、
「貴方の鈍さは最早ギネス級ですね」
と溜息をつきやがった。
何が言いたいのか50文字以内で簡潔に話せ。
お前は只でさえ遠回りな言い回しで長々と話すんだから。
「いいからさっさと用件を言え」
貴重な日曜日の何分の一かを潰された俺の心情を察してくれ。
しかし古泉は何をトチ狂ったのかいきなり俺に抱きついてきたではないか!
「おい!」
俺は男に抱きつかれて喜ぶような趣味は1ナノメートルもねえ!
瞬間引き離そうと肩を掴んだ瞬間、
俺は古泉にあるはずのない存在に否応なく気づいてしまった。
「・・・なんか当たってるんだが」
「ええ、あててますから」
俺の胸には男にはない柔らかな膨らみが当てられている。
ってことはつまり――
「お前、女になったのか?」
「やっと気づいたんですね」
ようやく古泉が離れ、俺は改めて奴の姿を確認する。
髪の長さはそれ程変わっておらず、ニヤケ顔がなければ10人中9人が振り返る美貌である。
身長は俺と同じくらいだから170センチメートルくらいか?
女になっても俺と同じくらいとは非常に腹立たしい。
「まーあれだ、ハルヒの影響か」
「恐らくそうでしょうね。しかし、普通もっと早く気づきませんか?」
気づかなかったのは悪かったよ。
しかし普通男が女になるなんてそれなんてエロゲ?って思うだろ。
「閉鎖空間で神人を見て、夏休みを15948回繰り返し、
 世界改変に2度も巻き込まれてる事よりは現実的だと思いますが」
「大差ねぇよ」
どっちも夢物語みたいだが、紛れも無く現実なんだよな。
ああ俺の平凡はもうアルタイルくらいにまで飛んでったか?
確か光速で17年ほどの距離にあるとか誰かが言ってた気がする。
「大体胸という身体的特徴がある時点で気づきませんか?」
不躾だが古泉の胸の辺りに目を向ける。
「・・・すまんが、全くわからん」
古泉の胸はサイズの大きいシャツに隠れてしまい、山があることにすらわからない。
身長と顔はモデル顔負けのくせに、胸だけが見劣りなんだよな。
奴は俺の言葉が余程衝撃だったらしく、俯いて手を小刻みに震わせている。
まずい、言っちゃいけなかったか?
「あなたは」
「ど――」
どうした古泉と続けようとしたが、両目に涙を浮かべている奴の顔に
思わず言葉を呑み込んでしまった。ってか泣いてる!?
「あなたは、女性の何処を見ているんですか!?
 どうせ僕の胸の朝比奈さん程豊かじゃありませんよ!」
「ちょ、おちつ」
逆ギレかよ!
お前、此処は小さなお子様や噂好きの奥様が集うところだって忘れてるだろ!
周りの視線が集中する前に古泉の口を塞ごうとするが、反対に手首を掴まれてしまった。
「僕だって男ですから期待はしましたよ、ええ手にすっぽり収まるような貧乳です。
 けど普通雰囲気で分かるものでしょう? 声だって変わってますし。
 それなのにあなたという人は・・・!」
顔が整っている分、怒りの形相には迫力があって怖い。
俺が何も言えないでいると、手首を掴んだまま古泉は公園の外へと歩き始めた。
「おい、何処へ!」
「買い物です。服のサイズが合わないので付き合ってください」
「金ねーよ!」
「知りませんよ、そんなこと」
知っとけ! 万年金欠である俺の財布には野口さんが数人しかいない。
いや待てよ、別に俺が金を出す必要はないよな。
それ以前に俺が付き合う必要もないよな。
抗議の意味も込めて手を振り解こうとするが、どこからそんな馬鹿力があるのか
ハルヒ並みの強引さでぐいぐい俺を引っ張っていく。
「だいたい何で服が必要なんだよ。すぐに戻るんじゃないのか?」
「長門さん曰く『不明』だそうですよ」
ちょっと待て。あの万能宇宙娘の長門がわからないって非常事態じゃないのか。
もしかして俺を呼び出したのはその為だったのか?
だとしたら今後の為にも今は買い物よりも話し合う事を主張するぞ。
だから一旦止まれって!
「胸を隠すにも限度がありますし、ついでに下着も買いましょう」
ランジェリーショップ? あの女の花園のような煌びやかな店に?
「冗談じゃない! 男がそんな店入れるか!」
「僕も男ですから平気ですよ」
「今は女だろうが! ってか落ち着け!」
そして手を離してくれ。ほら通行人AとBが何事かと思って見てるじゃないか。
「いいからさっさと歩いてください、タクシー使いますよ」
古泉が歩道で手を上げると、タイミングよく黒塗りのタクシーが止まる。
いよいよもって逃げ場がなくなってきた。
逃げるなら今だぞ、俺!
無理にでも振り解こうとしたとき、古泉が手を引いて俺の腕に絡んできた。
「今日は一日付き合ってもらいますからね」
飛びっきりの極上スマイルが、俺に極刑判決を言い渡す。
やれやれ、やっぱり今日も厄日になるんだな。

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最終更新:2007年06月14日 23:44