アットウィキロゴ
次の体育の為に着替えて体育館に移動する途中で古泉と会った。珍しいじゃないか、この曜日のこの時間に会うなんて。
「前の授業が映画鑑賞だったんです、よ…?」
なるほど、視聴覚室からの戻りなのか。しかし古泉はセリフの途中で固まり、何故か俺を、特に胸付近を凝視してやがる。
なんだ? どうした? そんなに見つめてもこれ以上急激に膨らんだりはしないぞ。…やっぱりお前もおっぱい星人なのか?
無言で睨みつけると、
「…あの、」
「ん?」
「…上を、着た方がよろしいのでは?」
顔をそらして申し上げにくそうにもじもじしながら──頬を染めるな、キモイ。
朝比奈さんがしたならば大変可愛らしいその仕草でも男のお前がやっても可愛くもなんともない。
「その…透けて、ますから、」
「ああ、ブラか」
それはとっくに気付いてた、着替えてるときに。でも派手に目立つ色でもないし、どうせ他の女子も似たり寄ったりだ。
大体このクソじめじめした梅雨真っ盛りに長袖ジャージなんぞ着てられるか。
「…っ!? そ、そんなあっさり言わないで下さいっ」
何でか俺より恥ずかしがって焦ってる古泉は、その勢いのまま俺の手を取り傍の階段の影に連れ込んだ。
「ちょ、古泉っ」
近い近い顔が近い! 狭いから仕方ないが真顔で詰め寄るな暑苦しい!
「貴女、自覚してるんでしたら自衛しませんか?」
「お前…これくらいでいちいち騒ぐなよ。透けてるっつったって軽くだし、平気だって」
「ですが…これから体育ですよね?」
「ああ」
「汗掻いたら益々透けるじゃないですかっ」
「その思考が変態だとお前が自覚しろ」
冷たい視線を送っても古泉は怯むことなく視線は俺の胸に固定。時折目をそらしてはまたささやかな二つの膨らみに御帰還。
うん、お前ムッツリ決定。
「なぁ、なんでお前がそんなに気にするんだ?」
なんとなく意地悪な気分になって質問を投げると、
「…他の男が喜びそうなことは出来るだけさせたくありません。…恋人、としては、」
まだちょっと頬が染まったままだが、まっすぐに俺の目を見て答えただけで上出来だ。気障なセリフにも突っ込まないでやるよ。
よしよし、随分と可愛らしいヤキモチですねー。頭なでなでしてやろう。
「あの、子供扱いしないでくれますか?」
「や、だって子供みたいだもんお前」
「地味に傷つくんですが…」
「だったらもっと堂々と妬けよ。まぁ、そうなったらウザいが。つか、俺の透けブラに赤面する物好きはお前くらいだ、安心しろ」
「安心出来ないから心配してるんですよ」
即答した古泉は苦笑しながらため息を吐いた。俺もため息が出てしまう。何だっけこういうの、アバタもエクボ、だったか。
古泉の悪趣味フィルターにかかると俺は嬉しいことに男子人気が結構あるらしい。だから彼氏としては心配性になるのも当然、らしい。
とはいえ、ついこないだまで彼氏いない歴=年齢だった俺としては信じられる訳なかろう。告白だってお前からのしかないんだぞ。
何度その過ちを正そうと説得しても折れやしない。変なところで頑固だよな、コイツ。
このまま続けてもまた不毛な会話の繰り返しになるのは学習済なので俺から早々に切り上げることにする。
「とにかく、今日は上は持ってきてないんだから諦めろ」
「ですが、」
「くどい。しつこい」
我ながら冷たいとは思いつつもきっぱり言い切る。甘やかしたらつけ上がるだけだしな。躾はしっかりしないとコイツの為にならん。
「それ以上言うなら別れるぞ?」
相手が自分にベタ惚れだからこそ言えるこのセリフ! くぅ、悪女って感じでちょっと気分がいいね。ぞくぞくするぜ。
いや、実際別れる気なんて全くないけど。全然ないけどな!
「…分かりました」
でも、まさかそれを本気に取ったりはしてないだろうが、明らかに落ち込んだ表情になった古泉は渋々俺から離れた。
いつもの爽やかさをどこに無くしたのやら、この時期の湿度みたいな陰鬱なそのツラに、俺はもう一度ため息を吐く。
なんつーかなぁ、素直なのは可愛いし、妬いてくれるのも可愛いんだが、もっとこう、どーんと構えてりゃいいのに、と思っちまう。
告ってきたのは古泉の方だが、俺だってちゃんとコイツのことが好きだから彼氏彼女の関係になった、てのを分かってるんだろうか。
…あんまり俺の方から好きとか言わないのがいけないのか? あー、でもなぁ、恥ずかしいしなぁ、そんなの態度で分かれ…てのは我侭か。
だが改めて言うのも嫌だ。ガラじゃないし。
しょげてても見目はよろしいその顔を見ながら考えること数秒。古泉も、俺の為を思って煩く言ってくれてるのはちゃんと理解してる。
だから仕方ない、お詫びとお礼を込めてサービスしてやるよ。
「古泉」
「え?」
人目がないことを再確認してから、おもむろに古泉の手を取り、手のひらを俺のささやかーな胸に押し当ててやる。
朝比奈さんにもハルヒにも負ける大きさだが、一応は有るからな、膨らみは。古泉の手には確実に余るサイズだがな!
「なっ!!!!」
逆セクハラに真っ赤になって固まる古泉をまたも可愛いなぁと思いながら、
「透けブラぐらいでガタガタ言うな。こうして直に触れるのはお前だけなんだから」
「ちょ、あの、その、ええええええ」
「分かったら返事!」
「は、はははははい! 分かりました!!」
よーしよし。頭を撫でる代わりに押し当ててる手をぐるり一周…してる途中で力づくで手を離してそのまま後ろに後ずさる。
このやろ、逃げやがった。何もそんな反応しなくてもいいだろうが。やはりこの大きさじゃ触り心地が悪いってか? ムカツく。
ちょっとばかし不機嫌になる俺と、耳どころか指先まで赤くして何やら意味不明なことをブツブツ呟いている古泉。その言語は宇宙語か?
長門なら翻訳してくれるだろうかと考えたところで予鈴のチャイムが鳴った。ああいかん、遅刻する!
「じゃ、俺行くわ。お前も早く教室行けよ!」
慌ててその場から抜け出し、体育館へと急ぐ俺。途中で振り向いたが、元々影になっている場所にいる古泉の様子は伺えなかった。
うーん…自分でやっといて何だが、あそこまで取り乱すとは予想外だ。ちょっと失礼だぞアイツ。だが、悪いことをしたとは欠片も思ってない。
むしろあれは良いことだ。付き合ってるってーのに手を繋ぐことしかしてこない相手だぞ? それだけ大事にされてるということなんだろうが、
俺としてはもう少し先に進みたいなぁと思わない訳ではなく…だって、まるで俺のカラダに魅力がないみたいじゃないか、それって。
高校生だってーのに未だにキスのひとつもないなんて絶対おかしい。よって、俺は大いに不満であり、もうこうなったら俺からアプローチすべきかと思っていたところにあの状況。で、あの行動に至ったのである。端から見たら痴女と思われそうだが、そこまで追い詰めたのは古泉の馬鹿野郎だと主張させていただこう。
俺は全然悪くなーい。奥手な古泉が全部悪いんだ! …まぁ、そういうある意味誠実なところも好きなんだけどな、結局は。やれやれ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年06月14日 23:25