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「も…無理ですぅ~…涼宮さん、おしゃけ飲めらいです…」
「何言ってるの、みくるちゃん!寝ちゃだめよ!ご主人様の命令は絶対なんだから!!」
「わたし、もぉ限界れす…眠いれしゅ…むにゃむにゃ」
「寝ちゃだめって言ってるでしょ!あんたにはメイドとは何たるかを再調教しなきゃいけないわね!」
「…おかわり」

まさに地獄絵図です…
圭一さんたちもドン引きの我らSOS団の醜態に僕は小さく溜息を漏らした。
潰れていないのは僕と長門さんくらいだ。朝比奈さんはもうダウンしていて、涼宮さんはさっきからいろんな人に絡んでいる。
長門さんは顔色一つ変えずに次々と森さんに酒類を運ばせているけど、もしかしたらこれも宇宙アンドロイド的には酔っ払っているのかもしれない。
必然的に介抱役に回される僕は酔えるはずもない。酔ってうっかり素を出してしまったらとんでもないっていうのもあるけど。

そういえば彼女はどこにいるのだろう。さっきトイレに行くと言ってから姿が見えないな。
もしかしたらどこかで倒れているのかもしれない。彼女も例外なくひどく酔っ払っていたから。
探しに行こうと立ち上がった瞬間、背中と肩に重みを感じた。
「こいずみ、おんぶ~」
「う、わっ!!!?」
彼女が後ろから僕の肩に手を置いて抱きしめてきた。彼女の予想外すぎる行動に心臓が飛び出すところだった。ちょ、やばいですって!
僕が彼女に懸想しているのは誰も知らない。だけど、そうやって抱きしめられたら顔が真っ赤になってばれちゃうよぉ!

「おんぶってばぁ!」
「な、何でおんぶなんですか!意味が分かりません!」
無理やり引き剥がそうとしたら短いジーンズから伸びる彼女の足が僕の足に絡んできた。森さんや多丸さんたちの視線が痛く感じる。
「あ、貴女は女性なんですから、こ、こういうのは自重してくらさい!!」
酔ってもないのに真っ赤になって、声が裏返ってる。だめだ、いつものクールな僕はどうしたんだ!一樹!!

「ねむいの…」
「え?」
「部屋、戻るから…」
「あ、ね、眠たいんですか?へ、部屋に送ればいいんですか?」
「うん…」

変な期待をしてしまった僕は彼女の言葉にひどく落胆してしまった。そうだよね、普通はこんな人前でね、いきなり後ろからギュッて好きってならないよね。
おんぶした彼女の足の感触を、背中に当たる胸の感触を、首筋にかかる熱い吐息を死んでも忘れまいと心に刻みながら僕は彼女を部屋に連れて行った。



◇◇◇◇


「暑い」

布団を掛けてあげるとすぐに跳ね除けられた。

「だめですよ、風邪を引いてしまいます」
「暑いったら暑いんだよ!」

彼女は僕の手を払ってベッドの上に座ると、事もあろうか着ていたTシャツを脱ぎ始めた。
あ、赤色のギンガムチェックだ…。男勝りで可愛いものなんて興味ないって顔してるくせに意外と可愛いブラジャーつけてるんだなぁ。
てっきり色気のないスポーツブラみたいなものを着けているのだろうと妄想していましたが、いやはやこれは考えを改めなければいけませんね。
きわどくてセクシーな下着もいいですが、このように子供っぽくて可愛いらしい下着も何か背徳感があってぞくぞくします。
胸は…僕はおっぱいボインな方が好きですけど、こういうあるかないか分からないような申し訳程度のほんのささやか~な乳房も風情があって大変よろしいのではないかと…

…って、何考えてるんですか僕は!!!!

「な、な、な、ななな、何してるんですか!!」
「だって暑いんだもん」
「暑いからって男の前で下着姿になるのはいけません!!」

僕の中の悪魔たちが押し倒せー!やっちまえ!とデモをしているが、口から出たのは聖職者のような言葉だった。
とことん自分のヘタレさに泣けてくる。
けれど正常な意識を保っているとは決して思われない彼女に手を出すのは流石に憚られた。
僕は正当な勝負を仕掛けて彼女を手に入れるんだ。本当の意味で彼女に好きって言われてセックスするんだ。ここで手を出したら反則だ、オフサイドだ。今ここで彼女を抱いても何の意味もない。
むしろ今まで築いてきた関係も、彼女を籠絡させるために日夜考えていた計画もめちゃめちゃになる。
だから落ち着いてくれ息子よ!頼むから!!

「いいから早く寝てください!」
無理やり服を着せ、ベッドに押し倒して布団で縛り付ける。
このままじゃまずい。まずすぎる。いつまで理性が欲望を抑えられるのか分からない。
彼女は不服そうな顔をして頬を膨らませた。そういう可愛い仕草はやめてください。結構キます。



「じゃあ、おやすみのキスして」

耳を疑った。
頭がフットーしすぎて耳が馬鹿になってしまったのではないかと思った。妄想で自分のいいように聞こえてしまう器官に成り下がったのだと。
けれど確かに彼女は言った。

キスして

破壊力がありすぎる!!!
酔っ払って僕をからかうのはやめてください!僕は貴女が思っている以上に本気で貴女を愛しているんです!
それに健全で若い男子なんです。性欲を持て余しているんです。この人は自分がそういう目で見られていることを考えないんだろうか。
好きな人におんぶしてって言われて、いきなり下着姿になられて、果てはキスしてなんて…
そんなこと言われたらもぉ…バンザイしちゃうぅっ バンザイっ、ばんじゃいっばんじゃい゙っ、ぱゃんに゙ゃんじゃんじゃいぃぃっ!!

「…」

一人で盛り上がっている僕を彼女は冷たい目で見ていた。おかげで少し冷静になれた。
彼女は酔っておかしくなっているだけだと自分に言い聞かせ、大きく深呼吸する。

「…貴女、本気で言ってるんですか?」
「ああ、じゃないと寝ない」
「からかうのはやめなさい!本気に取ってしまいますよ」
「本気だもん…」
「そんなこと言ったら本当にキスしてしまいますよ?襲っちゃいますよ?」
「いいって言ってるだろ」
「ファーストキスなんでしょう?こんなところで失っては後悔しますよ?泣いてしまうかもしれませんよ?どうします?」
「後悔なんてしないもん」
「…キスっていうものは好きな人としかしてはいけないんです。そうやって誰とでもキスしようとしてはいけません」
「誰とでもってわけじゃない」
「今、貴女は誰とでもキスしようとしてるじゃないですか!」
「古泉だからだ」
「だから、なんで僕なんですか!」
「古泉のこと好きだもん」
「えっ?」

「ええええええええええええええええぇぇえええええええええええぇぇぇ!!!???」

「じ、じ、じじ、じょ、冗談ですよね!!?」
「冗談を言っているように見えるか?」
「だ、だって…」
「だってもくそもないだろ。男だったら黙ってキスしろ」

と言って目を閉じた。
僕の頭の中はもうパンク寸前だった。理性も欲望もごっちゃになってて整理が追いつかない。状況の把握が出来ない。パニックだ。どうすればいいんだ!!

キスしろ

頭の中で鮮明に声が再生される。
キスっていうものは好きな人としかしてはいけないもので、彼女は僕を好きだと言った。僕も彼女が好きだ。
じゃあキスするしかないじゃないか!
ついさっきまで酔っ払って意識の朦朧としている女に手を出すなんて反則だなんて考えていたが、そんなキレイごとはすっかり吹っ飛んでいた。
僕は口を蛸のように尖らせ彼女の唇に近づく。顔はもう真っ赤になっていたから見事に茹で上がった蛸のようだ。
彼女との距離3cm。あぁ、やっと念願だった彼女の唇を奪うことができる…!
心臓がどくどくとうるさい。

「…ぐぅ」

えっ?
唇が重なる寸前、異変に気づく。少し離れて名前を呼んでも反応がない。少し揺さぶってみても反応がない。
え…もしかして寝た…?

「寝てますね…」
今大事なところなのに!こんなラブコメマンガみたいな展開はいらないんだよ!!
スヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てる彼女を見て、僕は猛烈に後悔した。
あんなに渋っていた自分がすごく恨めしい。悩んでないでさっさとキスしてぶち込んでしまえばよかった。
っていうか、普通寝ますか?ムードとかいろいろあるじゃないですか。
このギンギンに勃ってしまった可哀想な僕の息子をどうすればいいんですか!

「何なんですか、もう…馬鹿…」


◇◇◇◇


次の朝、猛烈な後悔によってほとんど眠れなかった僕はひどい顔になっていた。
彼女はと言うと、昨夜のことは全く覚えていないようです…。僕におんぶをせがんだことも、下着姿になったことも、キスを迫ったことも、僕に好きだと言ったことも。
彼女が僕を好きだということの真偽は闇に葬られました。もう彼女には一滴もアルコールを飲ませてはいけないと思いました。

くやしいです。
何でこんなに僕ばかり振り回されなくてはいけないのでしょうか。理不尽すぎる。
僕の気持ちを知らずして、のんきにテレビで台風情報を見ている彼女に無性に腹が立った。
僕は何とか彼女に一泡吹かせてやりたいと思ってこう言った。

「いえいえ、貴女も涼宮さんに負けず劣らずの酒乱でしたよ」

本当に、困ったものです。



おわり

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最終更新:2007年07月15日 02:50