団活を終えてハルヒ達と別れ、古泉と二人だけになった学校からの帰り道、
激しい夕立に遭ってしまった俺達はびしょ濡れになった制服を乾かす為に古泉の部屋に寄ることになった。
奴め、なかなか部屋に寄ろうという提案をしないものだから、
一時避難したコンビニの冷房のおかげですっかり体が冷え切ってしまったじゃないか。
察しが悪いのか、男の一人暮らしの部屋に女を連れ込むなんて破廉恥だと思っているのかは知らんが、
あれだけコンビニ内でアピール・・・・・・個人的にはしたつもりなんだが、
上目遣いで寒いと言ってみたりだな、透けブラも恥ずかしかったけど、
自分では気付いていないような顔をして会話したりだな、
ともかくこれくらいはしないと古泉に意識してもらえないと思って頑張った。
あと一分言われなければ俺から言うところだったぞ。

十五分ほど掛けて古泉の部屋に辿り着き、冷えた体を温める為にシャワーを借りる事にした。
シャワーを貸してくれと言ったら面白いくらいにキョドったが、
すぐにいつもの笑顔を浮かべてバスルームに案内してくれた。
使い方の説明を受けている最中、一緒に入るかと冗談交じりに言おうとしたが、
さすがにそれを言うのは俺のキャラじゃないと思い直す。
キャラじゃないと言えば、来る途中に相合傘で並んで歩いてきたのだってそうだ。
俺が好きでもない男とそんな恥ずかしい真似ができると思っているのか。
古泉は鈍い。とんだニブチン野郎だ。ここまで鈍いとは思わなかった。
これがゲームだったらフラグへし折りまくりだぞ。成績はいいくせに、こういうことには頭が回らないんだな。
好きだと、はっきりそう言わなければ分からないのだろうか。頼むからお察しください。
濡れて重くなった制服を洗面所で絞り、そのまま下着も靴下もまとめて乾燥機に突っ込む。
これが終わる頃には雨も止んでいるだろう。

むかむかしながらシャワーを浴び、体温を少しずつ取り戻していく。はー、生き返るぜ。
ついでにシャンプーとリンスも借りてやれ。汗臭いのは嫌だからな。
長い髪を毛先までしっかりと泡立ててきれいにすすぐ。
熱い湯が凹凸の少ない体を伝っていくのを見て、小さく溜息をついた。
世の中には自分の胸でつま先が見えない女もいるというのに、俺の視界は常にオールグリーンだよ畜生。
男はおっぱい星人だと谷口がよく言っているが、古泉はどれくらいが好きなのかな。
自分の胸に軽く触れてみると、手のひらにすっぽりと収まってしまう。
朝比奈さんレベルとは言わん、ハルヒレベルまでもうちょっと育たないものかね。
先程の帰り道、奴の視線はちらちらと俺の胸元に来ては明後日の方向に平泳ぎしていて、
うざったいことこの上なかった。見るんならガン見したらどうだ。 じっくり見たいくせに。
興味はあるんだよな、それなりには。
ただそれが、単にそこに胸があるから見るんですという理由で見ているだけっぽいのがなぁ。
一緒に歩いていたら古泉がどんどんと体を離して行くものだから、
無理やり腕を組んで胸を当ててみたりしたわけだが、変なうめき声を上げるわけでも無し、
顔に出すんでも無し、全くのノーリアクションだった。小さすぎて分からないってか。
俺だって好きで控えめな乳なわけではないのに。

思い出しむかつきをしていると曇りガラスのドア越しに、
ここに着替えを置いておきますねと言われ、おうと返事をした。
実は浴室に鍵を掛けていない。これ、どう見ても誘っているって思うよな。誘っているんだよ。
でも本当に襲いかかられたら力一杯反撃してしまうかもしれないが、そこはそれ、乙女回路は複雑なんだ。
たくさんの不安と期待で心臓をばくばくさせて扉の開く音を待っていたが、あっけなくスルーされた。
このショート寸前の思考回路はどう収めればいいんだ。鍵が開いているのに気付かなかったのか?
観察力が致命的に無いなお前は!バイオとかクロックタワーとか絶対にクリアできないタイプだ。
脱力しつつ風呂から上がり、用意された新品のバスタオルで体を包む。
古泉から着替えとして出されたTシャツに袖を通してみると肩のところが大分余り、
裾はいつもの制服のスカート丈より少し短いぐらいの長さだった。
幸い色の濃いシャツだし、体のラインが光で透けたりする心配は無さそうだが、
胸の形が見えたら恥ずかしいのでバスタオルを肩に掛ける。
短パンはどうしよう。パンツを穿かないで穿くのは嫌だな・・・このまま出てしまおうか。
男物のシャツ一枚しか着ていない女。このシチュエーションはぐっと来る筈だ。
本来なら白いワイシャツ一枚がベストだが、これはこれでいけると思う。いざ勝負。

風呂ありがとさん、と髪を拭きながらリビングまで出て行くと、
着替えだけは済ませた古泉が顔を上げ、そのままソファーの上で大仏のような笑みで固まった。
どうだ、ぐっと来ただろ。
「・・・・・・な、え、どどど、どうしてズボンを穿いてこないんですか!」
「だってウエストがでかいんだもんよ」
おお、これは効果ありだぞ。奴は胸より足の方が好きなのかもしれん。
今度の市内探索はショートパンツで決まりだな。
「で、でしたらバスルームから出て来ないで声を掛けて下さい!タオルをもう一枚用意しますから、それを腰に巻いてくださいね!?」
古泉はソファーから冗談抜きで1メートルくらい飛び上がり、そのままの勢いで自室に駆け込んでしまった。そんなにドタバタと走るなよ、階下の住人に迷惑じゃないか。
しかしこれでもダメなのか。凄く大胆な行動をしているつもりなんだがな。
恋愛経験値の低い俺にはあとはもう押し倒すくらいしか思いつかん。
古泉の持ってきたタオルを腰に巻き、ソファーに寝転がって古泉が風呂から上がるのを待つ。
作戦を練り直そう。男心を掴んで話さないような行動ってなんだ。
よく女は小悪魔で攻めろとか聞くけど、ひょっとしたら俺の一連の行動はやりすぎているのか。
誰か判定してくれ!
ぐるぐると考えてみたものの特に良い案は思いつかないまま、古泉が風呂から出てきてしまった。
俺はソファーの端っこに足を揃えて座らされ、古泉はテレビの真ん前に体育座りして微動だにしない。
風呂上りの男女が二人、しかも女は上下ともに下着を着けていない。
さて、やる事といったら一つ。それはテレビを観る事だ・・・・・・ってそんなわけあるか!
この状況はありえないだろ。常識的に考えて。

テレビが懐かしの子供向け番組からニュースに切り替わって暫くした頃、
風呂上り直後は心地よかったクーラーに手足を冷やされてしまい小さなくしゃみが出 た。
肩に掛けたタオルは髪の水気を吸ってしまっていてすっかり冷たくなってしまっている。
乾燥機はまだもう少し掛かるようだし、新しいタオルといっても一 人暮らしの男の家だ、
枚数にも限界がある。せめて上半身に何か羽織れるものを借りられないだろうか。
「古泉、厚手のパーカーとかないか?あったら貸してくれ」
古泉が振り返り、ぎこちない笑顔を向けてくる。
「生憎そういった系統の服は持ち合わせておりませんので・・・・・・寒かったですか?すみません、薄手の長袖シャツなどでしたらすぐにお出し出来ますが」
「・・・え、下着つけてねーし・・・・・・薄いのじゃ・・・まずいだろ」
しまった、失言だ。下着つけてねーし、は言う必要なかった。
自分の放った言葉に今の状況を再認識させられ、耳まで真っ赤に染まった自分の顔を見せたくなくて咄嗟に俯いた。
古泉からの返答は無い。ただのしかばねのようだ。もうちょっとマイルドな表現は無かったのか、俺!


二人して仲良くフリーズを始めて少し経った頃、乾燥機が仕事の終わりを告げるメロディを奏でた。
結局何も起こらないままタイムオーバーか。
この年頃の男なんて頭の中の九割が女とやることしか考えていないと思うんだが、
こいつは違ったらしい。いや、単に俺にそうさせるほどの魅力が無いのかもしれんが・・・・・・
いかん、思考が暗い。
「・・・・・・ああ、終わったようですね。ご自宅までお送りしますので着替えてきて下さい」
なんだかやつれたように見える古泉に視線を合わされないまま、早く帰れとやんわり促された。
テレビを見ている間、いつもべらべらとよく回る舌がすっかりなりを潜めていたのは、
俺といたから緊張していたとかじゃなく、最近バイトが忙しかったりして疲れていたのかもしれない。
雨にかこつけ一大決心をして好きな男の部屋に来て、あんなに無防備を装って色々としたのに、
やっぱり俺ではそういう対象として見てもらえなかったのか。
重い足取りで脱衣所に入り、乾燥機の中からほこほことした衣服を取り出して手早く身につける。
悔しい。古泉のことばかり考えて俺だけが空回りさせられている。
何かいい反撃方法はないかと髪を一つに括りながら考え、乾燥機の中に残った靴下を見て思いついた。
今度こういう事があったら、乾燥機の中に下着を置いていってやろう。もちろん未使用品だけどな。
あと、見栄を張ってひとつ上のカップのブラを置いていってやる。これで気付かなきゃもうダメだろう。
そうと決まれば、とりあえず今週末の予定はそうだな、朝比奈さんに付き添ってもらって可愛い下着を仕入れに行こう。
セーラー服のリボンをゆるく結び、鏡で最終チェックだ。まぁ問題無しかね。
「悪い、お待たせ」
古泉は俺の鞄を持ち、もう靴を履いて玄関に佇んでいた。
「鞄持ってきてくれたんだ、ありがとな」
そう言いながら手を出すと、僕がお持ちしますから結構ですよと
先程のこわばった表情からは幾分和らいだ笑顔で断られた。
こういう風に彼女みたいな扱いをされるから、古泉が俺の事を好きなのかもしれないって期待したくなるんだよアホ。
ドライヤーで乾かした革靴を履いて外へ出ると、空は鮮やかなオレンジ色に染まっていた。
「夕焼けがきれいですね」
鍵を掛けながら古泉が笑いかけてくる。そこにいるのはもう憎たらしいくらいにいつもの古泉一樹だった。
こんな風に女を連れ込むの、慣れているのか。俺は男の部屋に行くのは初めてだったんだぞ。
どきどきしているのは俺だけで、それが恥ずかしくて悔しくて、
さりげなく前を歩き水溜りなどを注意してくれる古泉の背中にハルヒよろしく蹴りを入れたくなる。
程なくして、二人ともほぼ無言のまま家の前まで送り届けられてしまった。
「それでは、また明日」
逆光の中爽やかに手を振るシルエットを慌てて呼び止める。待て待て、これだけは訊いておかなきゃな。
「なあ古泉、好きな色はなんだ?」
「え、好きな色ですか?そうですね・・・・・・」
どうして急にそんな事を訊くんです、と微笑みながら顎に手を当てて考える古泉をにやにやしながら見つめる。
買い物の参考にするんだよ。頼むから黒だの紫だのは言うなよ。まだ俺にはそんな色似合わないからな。

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最終更新:2007年07月16日 19:58