「どうもこんにちは」
ノックを二度してそう言う。
返事を待っていた訳ではないが、部室の中で物音が何一つしていなかったので誰もいないのかとそろそろノブを回す。
鍵は開いていた。部屋のあちらこちらにどかされたパイプ椅子と、床に落ちている朝比奈さんの制服があるということは今日もどこかに宣伝活動に連れて行かれたんだろう。
朝比奈さんすみません、これも現状維持のためです。と頭のなかで謝っておく。
二人についていったのか帰ったのかはわからないけど長門さんもいないようで、椅子の上に僕の中指の長さほどの厚さの本がしおりをはさんで置かれている。
そしてダルそうにしながらもいつも必ずいる彼女も居なくて少し寂しい。もう帰ってしまったんだろうか。
「誰もいないんですか・・」
見て分かることではあるけど言葉に出すと少し寂しいものがある。
どうせだから朝比奈さんの制服を畳み、机に置く。相変わらず大きい胸・・でも僕も負けてないです。たぶん・・
どかされていた椅子を長机まで持ってきて座る。外は運動部で騒がしいのになあ・・と呟いて机に突っ伏したら頬が押し付けられて少し形を変える。
少し、太ったかなあ・・。
気付けば寝ていたようで、目を薄く開けながら暗くなって見え辛くなった腕時計を見るともう完全下校の時間をとうに過ぎている、どうりで運動部の声も聞こえない。
夕焼けで少しは明るいはずだったけど遮光カーテンで光はほぼ遮られていた、ので部室も薄暗くてよく見えなかった。
さて、帰ろう。今日は部活じゃなくて寝てただけだったなあ・・あくびをして電気をつけると長机にはにやにやしながら頬杖をついて彼女がこっちをじっと見ていた。
「・・わ!い、いつからいたんですか!え、あの、これは。えっと・・」
どうしよう二の句が続かない。敬語も使ってないし手で隠したとはいえ大口であくびも・・ああもうどうしようどうしよう!
あ、でも薄暗かったし大丈夫かな・・でもそこまで暗いわけじゃないし、ああでも・・とオロオロしていたら
「ん、おはよう。いいもん見たよ」
彼女が笑いながら話す。
「え、えっと・・このことは涼宮さんには内密にして頂けると嬉しいのですが・・」
驚きすぎて目頭が熱くなってきた、落ち着かなくて手を触りながら話す。視線が定まらなくて挙動不審にもなっていたかもしれない。
それもそうだけどいいものとはなんなんだろう。目が半開きとかよだれとかそういう類のものじゃなかったらいいんですが・・
「それは大丈夫だ、ハルヒに『イツコちゃん寝ちゃってるからアンタ起きるまで待ってなさい!』と頼まれてな。
最初は面倒だと思ったが、寝てるお前は百面相だったよ。いつもそうしてたほうが面白いぞ」
僕は涼宮さんに面白さは求められていないはずなので大丈夫です。・・ということは涼宮さん達にも見られていたんでしょうか?
涼宮さんが結構な常識を持っているお人でよかった。そうです謎の転校生も寝るんです寝言も言うんです・・でもこれからは気をつけます。
そうだ。寝言、なんて言ってましたか?何か変なことは言ってなかったですか?
聞いたら頭をかきむしりたくなるような言葉だったらどうしよう・・でも気になる。
「寝言というより弱音みたいなもんだ、多分自分で聞いても楽しい気分にはなりそうにないと思う。結構辛そうだったし。まあ笑ったり言葉にならないことも喋っていたがな。」
最近、神人は出てこなかったんですが。どうしてでしょうかねえ。
「俺が知るか。でもなんかあったら、なんでも言うんだぞ。俺は聞くことしか出来ないから、聞くだけでいいならな」
よっぽど酷い寝言だったのだろうか、でも百面相をしながら?言葉にならない言葉?面白かった?それは顔?
小さな違和感はちらほらあるけど、少しでも愚痴を零していいのかと思うと気が楽だ。
僕は出来る限りの笑顔で頷いた。
最終更新:2007年07月21日 13:36