「あー肩がいてぇ」
最近どうも胸の成長が促進されていて非常に困っていた。
自分で言うのもなんだが、朝比奈さんには劣るとはいえ、結構手に余る大きさではあると思われる。
正直それが少なすぎてもそれはそれで困ると思うが、大き過ぎるというのも問題であると連日の肩凝りが証明している。
寝る前に自分で色々な方法を試し、肩を解してみても夕方にはもうガチガチになっていて帰宅する頃には肩凝りで死にそうになってるほどだ。
「よかったら、マッサージでも致しましょうか?」
まあ、そんな話をしながら目の前にいるニヤケハンサム野郎とオセロをいつもの様にしていた訳だが、突拍子もなく奴がそんな事を言うものだから俺は思わず朝比奈さんの入れた下さったお茶を吹き出しそうになった。
吹き出してはいないがむせた。
とにかくいつもより三割り増しに輝いた笑みがとてつもなく胡散臭く見える。
「遠慮しとく」
「ふふ、遠慮なんかなさらなくていいんですよ」
僕がやりたいんです、といつの間にか背後に移動したらしい古泉が俺の耳元で熱っぽく囁いた。
思わず背筋がぞくりとして、身体が強ばってしまう。
それに気がついたのか、くつくつと喉で笑う声が聞こえた。押さえようとしているらしく、たまに聞こえなくなるのが非常に腹立たしい。
これ以上反応を起こしてもこいつに面白がられるだけの様な気がしたのでそのまま黙っていると、肩の力を抜いて下さいね、と両肩にゆっくりと手を添えられた。
抵抗するもあっさりと笑顔で流され不本意ながら俺もされるがままになってしまっていたが、マッサージをされていて一つだけわかった事がある。
案外こいつはマッサージが巧いと言う事だ。
力が強すぎず弱すぎず的確にポイントを押さえてきて何とも忌々しい事にそれが気持ち良い。
血行がよくなったのか肩の辺りがじんわりと温かくなってきた頃に古泉の手が急に止まった。
決して物足りなくなった訳ではないが、さっきまでノリノリだったた筈なのにおかしいと思い古泉の方へ首を向けると、ある一点を凝視している事に気が付いた。
「どうしたんだよ」
「……い、いえ、あの」
古泉が笑顔を引きつらながら、ロボットの様な動きでぎこちなく目だけではなく顔ごと逸らした。
どうも様子がおかしいと問いだ出そうとするが耳を赤くしながら、すみません、としきりに謝ってくるだけなので俺には何が起きたのかさっぱりわからない。
取り乱しているらしい古泉は新鮮ではあるが、どこかやはり古泉らしくなくて気持ち悪かった。
僕、ちょっとトイレに行ってきますと古泉がいそいそと部室を後にするのを見送ってから、ほぼ同時と思えるタイミングでパタンと本を閉じる音が不意に聞こえた。
もうそんな時間か、と思い長門の方に目をやると黒めがちの目でじーっと俺の方を見る。
どうしたのだろうと思い、どうした? と聞いてみたら、胸、と呟くように長門は言った。
意味がよくわからないので聞き返そうとすると長門は淡々とした声で言葉を続ける。
「古泉一樹があなたの後ろに立った角度からだと、胸の谷間が制服の上から見える」
長門の言い放った言葉を頭で理解するのに時間がかかり、処理した後も意味がわからなくて混乱している俺に長門は、羨ましい、また呟く様に静かに言った。
最終更新:2007年07月23日 01:34