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僕は樹木になった。
しかしながらそれは悲しむべきものではなく、むしろ喜ぶべき事態と言える。
何故ならば、何かに怯える事なく、誰にも咎められず、彼を見つめる事が可能になったからだ。

「よう、調子はどうだ?」
そういって彼はいつもの様に、何を気にするでもなく僕の側へ腰をかける。
理由はよくわからないが最近はずっと僕の側で昼食をとっていた。
昼休みの間だけだけども彼の体温を感じる事ができて嬉しいと少なからず思う。
以前なら、ここで彼女の顔が思い浮かび、彼を直ぐ様教室へ返そうとするだろうが、もう僕は超能力者でも副団長でもないのでそんな事は気にしなくていいのだ。
世界がいくら改変されようが何をされようが多分僕はこのままだろうし、にきび治療薬として拒否権が存在しない世界で生活するよりも、
太陽の光を浴びながら光合成をして、酸素を作り出し、彼の体内に少量ながらも僕の作りだしたものが取り込まれる世界の方が彼を近くに感じていられる。
そうだ。僕はもう何もしなくていい。
何も考えなくていいのだ。

「台風は大丈夫だったか?」
ええ、おかげさまで。
どこの枝も折れる事なく乗り切れましたよ。
横殴りの雨と言うのも樹木になってからは案外気持ちのいいもので、シャワーを浴びている様なものなんです。
強風で周りの木々と騒めくのも楽しいですよ。
自分の声が彼には届かないのは知っているが、僕はついつい以前と同じような調子で返してしまう。

「どうもここに来ると独り言が多くなっちまうな」
困ったもんだ、と彼がおいしそうな卵焼きを口に入れながら苦笑した。
意思の疎通ができない事がこんなにも辛かったなんてこの姿にならないと気がつかなかったかも知れない。
ああそれでも幸せだなあと思う。
以前とは比べものにならないくらい僕は精神的に満ち足りてると云える。
自分に正直に生きられる事がこんなにも楽しい事だとは思わなかった。

昼休みの終わりを告げるチャイムがなり、彼は教室へと足早に戻っていった。
去り際に彼が、お前はそれでよかったのかよ、ぽつりと呟いたのを僕は聞き逃さなかった。
最後の最後にあなたに想いを告げた事に僕は後悔なんてしてませんよ。
僕はあなたに会えて本当に幸せでした。
もちろんこれからも。
届くことない呟きを胸に風に乗せて、僕は眠りについた。

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最終更新:2007年08月16日 22:06