「……キョン? なに、やってんの?」
えらい美少年がそこにいた。
よりにもよってハルヒに見つかっちまった、古泉お前どうするつもりだよ!
この出来事が閉鎖空間にどんな影響を与えるのか俺にはわからんが、たぶん高確率でまずいんじゃ……。
ハルヒは睨みつけるように俺をじろじろと眺めた。
そうだ、さっき閉鎖空間が発生して古泉が呼び出されたということは、すなわち今のハルヒの機嫌は悪いということになる。
「誰にやられたの」
冷ややかな声に、思わず肩がびくりと跳ねた。
「ああ、あんたを怒ってんじゃないよ。団員は団長のものなのに、勝手に手を出したやつを怒ってんの。……血祭りにしてやるんだから」
おいおい古泉、血祭りだってよお前。
しかし犯人も団員であり、おまけに副団長だ。
雑用係の平団員と副団長とでは副団長のほうが大事だろうから、俺は答えずにただ首を横に振った。別に古泉をかばったとかそういうわけじゃない。
「なに? もしかして言わないように脅されてるの?」
ハルヒは怒りに燃えているようだったが、やがて何かを思いついたらしく表情を変えた。
「このまま舐められっぱなしってのも癪だね。キョン、あんたの処女、犯人にやられる前に捨てちゃおうか!」
はぁぁ!? 何言い出すんだこの男!!
ハルヒはつかつかと俺に近づき、俺はぎゅっと目をつぶった。
うわ、やられるっ……!
カチ。
「……?」
体内の振動が止んだ。
「……え?」
おそるおそる目を開けると、思いのほか優しい表情がそこにはあった。
「しっかりしなよね」
そう言って俺の涙を拭ってくれる。
ぽんぽんと頭を叩き、腕のいましめも解いてくれた。
てっきりこのままがばちょとやられるかと思ったのに、予想外です。
俺はようやく解放されたのだと思ってものすごくほっとしてしまって、安堵のあまり放心していた。
そんな俺の腕をハルヒが取る。
「ほら、立てる? バカキョン」
「え……? え?」
「まったく、そんな風にぼけっとしてるからこんなことになるんだよ。もうちょっと自衛しなさい! SOS団の団員がそんなんじゃ団長としても恥ずかしいんだからね!」
腰に腕を回して抱き起こされた。
う、足に力が入らん、がくがくする。
「お姫様だっこしてあげよっか」
にやり、と笑われたので慌てて首を振って拒否の意を示すと、ハルヒはむぅとアヒル口を作った。
もしやちょっとやってみたかったんだろうか。
俺は長時間縛られていたせいで痺れの残る手をさすり、背の高い美少年顔を見上げた。
「……!」
とたん、ハルヒは真っ赤になってアヒル口を引っ込めた。
なんだ? 露骨に目をそらされたぞ。
ハルヒはなにやらぶつぶつと呟いた。
「……か……じゃんか……ンのくせに……」
「え?」
「なんでもない! あ……アンタ、とりあえず下着はくこと!」
そういやパンツ、足元に引っかかったままだったな。
しかし言いたくないのだが、股間がなんていうかぬるぬるのこの状態で下着をはくのはちょっと抵抗が。
あ、そういやカバンの中にポケットティッシュが……。
「ほら」
差し出されたのは綺麗にアイロンのかかった、ブルーのハンカチ。
「あげるから使いなさい」
「……サンキュ」
流石にこんなことに使ったハンカチを洗濯して返すわけにはいかないので、ありがたくもらっておこう。
パンツをはきなおし、制服の乱れを整える。
さあ帰るか。
「何言ってんの。肝心のセックスがまだでしょうが」
セックスとか言うなって!
お前はもうちょっと恥じらいを持てと、日頃から俺が口をすっぱくしてるだろ。
ていうかすんの? マジで?
このまま帰ったらダメっすか。
ついていけない俺の腕をハルヒが取る。
腕を組んで引っ張られた。
「ほら、行くよ」
「行くってどこに」
「そりゃ、ベッドのあるところだよ」
てっきり保健室にでも連れてかれるのかと思ったら、下駄箱に行き、そのまま校舎の外に出てしまった。
駅を経由して着いた先は繁華街のその裏の、
「……なんだこの建物」
「ラブホテルに決まってんでしょ」
バッカじゃないの、という顔でハルヒは胸を反らせた。
やっぱりか、そうじゃないかとは思ったんだ。
だがもしかしたらラブホテルみたいな外装のゲームセンターやカラオケ店の可能性もなくはないかなとかちょっとそう、甘い希望を持ちたかった。
「初めてなんだから学校の床とか嫌でしょ? せっかくならちゃんと順序を踏みたいじゃないか!」
そうだ、ハルヒは電波男に見えて実は結構常識を持ってるんだって古泉も言ってたな。
行動力が半端じゃないから、結果的に常識からはかけ離れるが。
「入るよ」
「……本気か」
「オレはやると言ったらやるよ? お金ならオレが出すから、アンタは安心して身を任せなさい」
安心していいのか? 何か間違ってないか?
いいのか俺、どうすんの、どうすんのよ?
「またあんなことがあったら嫌でしょ? だったら変な男にやられる前にやっちゃったほうがいいじゃない」
そ、そう……なのかな。
「攻撃は最大の防御だよ! さあ、ここまで来たら観念するっ!」
結局俺はハルヒに流されて最後までやられてしまった。
しかもハルヒはローターをちゃっかりがめていたらしく、好奇心旺盛なやつに俺はさんざん遊ばれた。
ああ、お父さんお母さん、ふしだらな娘をお許しください。