Gears Of Lyrical_04

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Gears of lyrical 第4話「迫り来る凶戦士」 「あぁ…、なんだよ…あれ…」 フルフェイスのヘルメットを被った若い兵士が悲痛な呻きを漏らす。 迫り来る地を蹴る疾走音。徐々に大きくなるにつれ、合わせてその場の全員の不安と恐怖も増大する。 「お、俺は逃げる!! 俺は逃げるぞ!!」 突然叫び、持っていた獲物すら放り出して若い兵士は、正面の突き当たりに向かって走り出した。 届かないと理解しながらも、手を伸ばし警告をマーカスは促す。 「おい!! 単独行動は取るな!!」 その警告が耳に入るわけもなく、若い兵士は突き当たりを右に曲がって姿を消した。 曲がり角の傍に灯いている炎が、兵士の影のみを突き当たりの壁に映す。 若い兵士はそのまま向こうに―――向かう前に壁が吹き飛んだ。瓦礫を撒き散らし、突き当たりの壁に全身が異様に隆起した影が加わる。 隆起した影の背丈は兵士の影を遙かに凌駕し、見下している。 「うわ…、助け」 叫び終える前に、隆起した影の剛腕が兵士の影を殴りつけた。何かが潰れ引き千切れる音が響く。同時に硬い物が砕ける音も聞こえる。 剛腕が振るわれるたびに潰れる音と砕ける音が鳴り響き、微かな兵士の呻き声も響く。血飛沫と肉片が飛び散り、突き当たりの壁に赤い斑模様を作ってゆく。 二の腕までしかない右手が反対側の廊下に飛んでいった。 次第に呻き声も消え、しばらく湿った何かを潰し続ける音だけが石造りの壁に乱反射する。 一しきり殴った後、隆起した影は通路の奥に消えていった。地を踏み締める足音が消えると同時に、一同は息を吐く。 「今の…何なんです?」 「ベルセルクだ、奴は音と匂いで獲物を見つけるんだ…、下手に音を立てたりするなよ」 「音と匂い?」 「ああ、奴は目が退化して殆ど何も見えないんだ。その代わりに聴覚と嗅覚が異常に発達してる」 ティアナの質問にベアードは小声で答える。彼にしては珍しく額から冷や汗を垂らし落ち着きなく周囲を窺っている。 その間にマーカスは通信を入れた。 「こちらデルタ、ベルセルクに遭遇した」 「ベルセルクですって!? 銃撃は中止して、ベルセルクに普通の武器は効かないわ!」 「ああ、どうすればいい?」 「ドーンハンマーは持ってる?」 「あー…、持ってる」 先程、逃げ出した若い兵士が放り投げていった獲物、「ドーンハンマー」の誘導装置を持つドムを見ながら答えた。 「いい、よく聞いて。あと数分で貴方達の上空を衛星が通過するわ。それまでにベルセルクを中庭に誘き出してドーンハンマーで倒すのよ」 「了解した、デルタアウト」 通信を切り、振り返る。全員が不安な顔でマーカスを見つめていた。 デルタ部隊の隊長であることを自分に言い聞かせ落ち着かせる。指揮官の不安は、そのまま隊員にも伝わることをマーカスはよく知っていた。 落ち着き払い、普段通りの口調で指示を出す。 「いいか、みんなしっかりしろ。必ず無事ここから脱出させてやるからな。コールはレゾネイターを持っていろ、ベアードはその護衛に、ドムは俺と来い。残りの二人はコールとベアードに付いていけ」 「マーカスさん達二人じゃ危険すぎます!」 「お前たちを危険な目に合わせるわけにはいかない。それに最優先すべきはレゾネイターだ、こいつを失ったら意味がない」 「でも!」 「…ああ、わかった。そこまで言うなら勝手に付いて来い。但し骨は拾ってやらんぞ?」 「了解!」 歩き出したマーカスにドムが近寄り、小声で話しかけた。 「で、どうする?」 「しょうがねぇ、鬼ごっこでもするしかねぇな」 一歩、また一歩と静かに、そして確かに踏み出す。足捌きに細心の注意を払い、可能な限り音を立てないように足を動かす。 入口から移動を始めた六人は、ベルセルクに自分達の位置を悟られぬように慎重に歩いている。自分自身の呼吸音、果ては心音ですら煩く感じるほどに、墓の中は静まり返っていた。 皆が全神経を耳に集中している時だった。パキン、と小さな硬い音がした。音を聞いた途端に全員が固まる。 先頭にいたバンダナ男が油の切れた機械の様にゆっくりと振り返る。視線の先には、今にも泣き出しそうな顔をした鉢巻少女が全身をプルプルと震わせていた。 柔軟体操を思わせる動作で、鉢巻少女はゆっくりと足を上げる。その下には粉々になった小石があった。 直ぐ後ろにいたオレンジ髪の少女は、何か言いたげに口をパクパクさせ目の前の鉢巻少女を睨む。 全員が辺りを警戒し、何も異常が無いことを確認すると再び静かに動き出す。少しだけ進んで祭壇が置かれている部屋に着いたとき、墓の内部が揺れだした。 長年積み重なった土埃が振動で崩れ、辺りに舞い散る。水溜りに幾つもの波紋が浮かんだ。六人全員の額から冷や汗が吹き出す。 十秒にも満たない揺れが収まり。静寂が再び辺りを支配した。収まってからも六人はしばらく硬直し、警戒を続行する。 異常が無いことを確認すると、一斉に息を吐いた。全身が酸素を要求し、呼吸が荒くなる。 部屋の向かいにの出口に進み、曲がり角を左に曲がる。すぐ目の前の右側にまた出入り口があった。歩みを進めて入ろうとした時だった。 耳をつんざく轟音と破壊音と共に正面の壁が吹き飛び、中から隆起した白い巨体が現れる。 「行け!早く行け!!」 マーカスの叫びを合図に、後方のコールとベアードが来た道を戻っていった。そして、その叫び声に反応した凶戦士がマーカスに迫る。 間一髪で出入り口に飛び込み、ベルセルクの剛腕を避ける。続けてスバルとティアナ、ドムが飛び込んできた。 奥に走り込む四人、その行く手を鋼鉄の扉が阻んだ。 全身の力を足に込め扉を蹴り飛ばすマーカス。しかし、扉は軋むばかりで全く開く気配を見せない。 「くそっ!!」 「マーカス、ジャックにやらせろ!!」 「ダメだ、時間が掛かり過ぎる!!」 焦りから早口になり、唾を飛ばしながら互いに叫ぶ。 スバルも扉を開けるために、右腕のリボルバーナックルで扉を殴りつけるが、同じく軋むばかりで結果は同じだった。 その間にも後方から盲目の凶戦士が迫る。クロスミラージュで射撃魔法を叩き付けるティアナ。着弾した射撃魔法は体表で弾け、傷一つ付かず牽制にすらならない。 尚も凶戦士は迫る。両者の距離が1メートルを切り凶戦士は右腕を振り上げ、 「ッ!」 剛腕が振り下ろされる直前に、ティアナの体が左に引っ張られる。襟首に力がかかり、喉が押し潰され息が詰まりそうになる。 背中から豪快に石畳に転び、全身に痛みが走る。 ティアナが体を打ち付けた直後に、ベルセルクの剛腕が一瞬前までティアナが立っていた位置を通り抜け、後ろにあった柱を捉え粉々に砕く。破片が四散しティアナの顔を掠めた。 「馬鹿野郎!! 死にてぇのか!!」 バンダナを巻いた男が怒鳴る。彼が寸前の所でティアナの襟を掴み引き寄せたため、彼女は辛うじてミンチを免れた。 突然の怒声に身を竦ませるティアナ、その声に反応しベルセルクがマーカスに狙いを定める。 軽い発砲音、ベルセルクの頭部に何かが命中し一瞬の火花が散る。突然の攻撃にベルセルクは物体が飛んできた方向を向いた。 その方向には銃口から硝煙が昇る、スナッブピストルを構えたドムが立っていた。 立て続けに引き金を引き、二発、三発と次弾を放つ。弾丸は全てベルセルクに命中するが、初弾と同じく全てが弾かれる。 怒り狂ったかのように凶戦士はドムに向け突進、先程と同じく剛腕でドムを叩き潰さんと腕を振り上げた。 すれ違い様に前方へ飛び込み、ドムは剛腕を避ける。髭面の男を捉える筈だった剛腕は壁を貫通。石作りの壁を易々と貫通し、ベルセルクの腕が肩までめり込んだ。 「マーカス、何か良い方法はないのか!?」 「考えているところだ!!」 辺りを見回し扉を開ける方法を模索する。 そして『それ』が目に止まった。 「扉の前に集まれ!!」 その声に従い四人が扉の前に集合する。 何か名案が思い付いたのだろうと、バンダナ男に三人は期待の眼差しを向ける。 バンダナ男は懐からスナッブピストルを取り出し、銃口を前方に向ける。向けた方向には腕を抜こうともがく凶戦士の背中。 躊躇いなく発砲。鉛弾が撃ち出され凶戦士の背中目がけて飛翔する。反動で腕が軽く持ち上がり、排莢された金色の空薬莢が石畳へと落下する。 小口径の弾丸は白い背中に弾かれ明後日の方向に跳弾。瓦礫を撒き散らしながら、ようやく腕を引き抜いた凶戦士が濁った眼でバンダナ男を睨む。 「マーカス! 何考えてんだ!!」 「マーカスさん!!」 「何考えてるんですか!!」 「まぁ、見てろって」 三人の声に動じた様子も無く、マーカスは落ち着き払った態度で身構える。その行動に何かを感じた三人も自然と身構えた。 ベルセルクは扉の前に集まっている四人目がけて疾走、肩を体の前に構え四人に迫る。 一気に相対距離が縮まり、あと1秒足らずで四人を薙ぎ倒せる距離になった瞬間。 「避けろ!!」 ベルセルクの向かって右側にマーカスとスバル。反対側にドムとティアナが飛び込んだ。 獲物を粉砕することなくベルセルクの肩は鉄扉を直撃。 耳をつんざく轟音を響かせ、マーカスの蹴りでも、スバルの拳でも開かなかった扉が歪に変形しながら開いた。 「ベルセルクをこっちに誘き寄せろ、その隙に進め!!」 走る、ただ只管にもと来た道を辿る。 時折背後から木霊する咆哮と破砕音に背筋を震わせながら、二人は脇目も振らずに走る。 「ベアード、戻るのはいいがどうするんだ?」 「これだけデカイ墓場なんだ、きっと別のルートがあるに違いない」 背中にレゾネイターを背負った黒い肌の男コールは、先程から自分の前を走り続ける男に疑問を投げかける。 前を走る金髪、ベアードは額に運動とは別の汗を噴出させながら答えた。 ベルセルクに遭遇した際にマーカスからの指示で逃げた二人。来た道を戻りベルセルクから逃げられるルートを探す。 そして瓦礫を積み上げ、即席のバリケードを作った入口まで戻ってきた。墓場に入った際にベルセルクに惨殺された兵士が逃げた道に進み。角を右に曲がって、 「う…」 「どうし…」 突然立ち止まった先導に訝しげに話しかける。それでも答えないので彼の前を覗き込んだ。 先頭のベアードの足元には赤い水溜りが広がっていた。そして水溜りの中央には逃げ出した兵士―――元は逃げ出した兵士だった肉塊が転がっていた。 装着していたアーマーは引き千切られ、右腕を除いた四肢が有り得ない方向に折れ曲がっている。 ヘルメットは半分以上が破壊され、頭部を構成していた内容物がよく見える。 「…」 ベアードは無言でしゃがみ、肉塊の首の辺りに指先を入れて何かを探す。指先が探し物を掴みそっと摘む。 摘ままれていたのは紐、そのまま引上げるとひしゃげた小さな二つの歯車、COGの認識票である。『COGタグ』がぶら下がっていた。 タグを胸に仕舞い、十字を切って簡単に黙祷を捧げる。コールもそれに倣い黙祷を捧げる。 「安らかに眠れ…、仇はマーカスが取ってくれる…」 小声で呟き、立ち上がる。 後ろの友人に目配せして、二人は再び走り出した。 「死ぬんじゃねぇぞ、マーカス」 咆哮が呟きを掻き消した。 殴られた鉄扉が衝撃に耐えられず吹き飛んだ。錆び付いた蝶番が粉々に砕かれ、破片へと変わる。 扉を殴りつけた張本人の頭に鉛弾が当たった。 「出口だ!!」 これで計三枚目となる鉄扉をベルセルクに開かせ、破壊された扉の先に見えたものは黒い石作りの墓場、ではなく茶色い地面、曇天の空。 ティアナが囮となり射撃魔法を叩きつけ、ベルセルクを出口から引き離す。 既に三回も繰り返された作業に、ティアナは淀みなくベルセルクの脇をすり抜け、出口に向かう。 外に出たと同時に全員が左右に散開。開いた中央の道をベルセルクが走り抜けた。 ベルセルクは勢い余って中庭の中央、枯れた噴水に突っ込み砂埃を舞い立たせる。 「マーカス!!」 「ああ、アーニャ、ドーンハンマーを使う!!」 「OK、衛星はオンラインよ!」 体制を立て直し背中から奇妙な形の機械、『ドーンハンマー』の誘導装置を取り出す。 噴水の砂埃に先端を向け、引き金を引く。先端から弾丸の代わりに一筋の赤い光が照射される。 誘導装置から一定のリズムで電子音が鳴り、数回鳴った後、音程の違う電子音が最後に鳴った。 「喰らいやがれ!!」 突如、鉛色の雲で覆われていた空に大穴が開いた。 一筋の光柱が鉛色の空に穴を開け、本来の蒼い空を覗かせた。光柱は一直線に砂埃に落ちる。 「グゥオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!!」 直撃と同時に砂埃のカーテンが引き裂かれた。 中から全身を雷に焼かれ、白い体表を赤々と赤熱させた凶戦士が現れる。 雷は数秒間、凶戦士を焼き続け凶戦士は踊り狂う。 ドーンハンマーの攻撃が収まり、ベルセルクはその場で膝を着いた。先程は違い、全身から湯気を昇らせ呼吸も荒い。 「マーカス、あと一息だ!!」 「わかってる、もういっちょ!!」 再び誘導装置をベルセルクに向け、引き金を引く。 全く同じ音階の電子音が鳴り、あと数回で再度の雷が落ちようとしたとき。 ベルセルクが立ち上がり、今まさに自分に止めを刺そうとしている男に向け突撃する。 墓場内部で幾度となく繰り出されたその攻撃に、マーカスは慌てることなく、そして淀みなく避けようと左に飛び込む。 飛び込むタイミングも体の運び方も完璧だった。ただ一つだけ、ベルセルクの繰り出す剛腕が一瞬だけ速かった。 その一瞬の速さによって『ズレ』が生じ、本来は掠りもしない拳がマーカスの右手。ドーンハンマーの誘導装置を捉える。 誘導装置の中心を捉え、ひしゃげる所かありとあらゆる部品を破壊し、ベルセルクの唯一の対抗手段である誘導装置は粉々に砕け散った。 「ドーンハンマーが!!」 「「マーカスさん!!」」 着地後に自分の右手に何も握られていないことに気付くマーカス。ベルセルクは既に次の突撃の為に身構えている。 突然、背中から主武装であるランサーアサルトライフルを取り出すマーカス。 「ドム!! スバルとティアナを連れてコールとベアードと合流しろ!!」 「!? 何考えてんだ!!」 その声に答えることなく、ランサーの引き金に指を掛けフルオート射撃。絶え間なく弾丸が撃ち出される。 排莢された空薬莢が次々と地面に落下、薬莢同士がぶつかり合い金属音を奏でた。マーカスの足元が徐々に茶色から金色に染まる。 弾丸はベルセルクに命中するが、傷を付ける事すら敵わず弾かれてゆく。 銃撃と銃声に反応しベルセルクが狙いを定め、再度突撃。両者の距離が縮まり始める。 引き金から指を離さずに銃撃を続けるマーカス。ベルセルクが接近しつつあるが、避ける素振りを全く見せない。 ランサーの銃口が熱で真っ赤に染まり、銃声もマガジン内の残弾が少ないことを示す独特の銃声に変わり始めた。 弾丸を弾かれようが、マガジン切れが近いだろうが、それでも構わず撃ち続ける。 両者の距離が3メートルまで縮まった瞬間にランサーが沈黙、残弾が尽きたことを知らせた。 ベルセルクが腕を振り上げる。 「畜生!!」 男が遺言になるであろう最後の悪態をついた。 「ディバイィィィーン…」 そして凶戦士は――― 「バスター!!」 桜色の光に呑まれた。 天空から桜色の閃光がベルセルクを覆い尽くす。ドーンハンマーでその身を焼かれた時のように絶叫し、苦悶する。 その光景を中庭にいた四人は茫然と見つめた。 閃光が徐々に収束し勢いを衰える。完全に消え去ったあと。凶戦士はゆっくりと地面に倒れ、動かなくなった。 「今のは…」 ドムの呟き、そして上空から降りてきたのは、 「「なのはさん!!」」 純白の衣装を纏い、その手には真紅の宝玉を従えた杖を持つ女性、管理局が誇る『エース・オブ・エース』高町なのは。 上空からゆっくりと降下、着地と同時に足の羽が散り、ドム、スバルとティアナが駆け足で近寄る。 「二人とも大丈夫?」 「はい!!」 「それより何でここに?」 「実はヘリでポイントに向かう途中ところだったんだけど、さっき空から大きな光が落ちてきて、これは何かあるに違いないって思ったの」 「それで飛んできて…」 「バンダナの人がローカストに襲われているいるところだったから、急いでディバインバスターを殺傷設定で砲撃、そして今に至るってわけ」 一通りの説明を終えた所で件の『バンダナの人』、マーカスが近寄る。 「助かった、礼を言う」 「こちらこそ」 「ところでスバル、ティアナ、さっき名前を叫んだが知り合いか?」 「知り合いも何も、私達の上官です!!」 スバルの返答に驚いたような表情を見せるマーカスとドム。なのはとスバルを交互に見た。 マーカスは右手を差し出し自己紹介を始める。 「自己紹介が遅れたな、あんたの部下を預かっているマーカス・フェニックスだ、よろしく頼む。マーカスと呼んでくれ」 「親友のドミニク・サンチャゴだ、ドムって呼んでくれ」 「時空管理局所属の高町なのはです」 差し出された右手をしっかりと握るなのは。 グローブに包まれた岩石のような厳つい手に、白い素手が握られる。 握手を終え、なのははスバルとティアナを向き。ゆっくりと、悟らせるように話す。 「二人とも、よく聞いて。ここの戦いはミッドチルダに居た時は全く違うの。非殺傷設定なんてものは存在しない、痛い、と感じた時は既に死んでいる」 互いに見つめ合い、黙ってなのはの話に耳を傾ける二人。 マーカスとドムも黙ってその様子を見る。 「二人がそう簡単にやられなんて思ってないけど、気を付けてね。私は二人を信じているから」 「「はい!!」」 「うん、それじゃあそろそろヘリに追い付かないと、マーカスさん二人をお願いします」 「ああ、あんたの部下は責任持って守るぜ」 「部下、じゃなくて『仲間』です。それでは!」 最後に困ったような笑みを浮かべ、エース・オブ・エースは空へと帰っていった。 その姿が見えなくなるまで、四人は空を見ていた。 そこに二人の人物が訪れる。マーカスの命令で逃げていた、コールとベアード。 「マーカス、生きてたか!」 「ああ、ご覧の通りさ」 「まさかベルセルクを殺っちまうとはな…」 「まぁ、俺の戦果じゃねぇけどよ…」 マーカスが小さく何か呟き、首を傾げるベアード。 コールはベルセルクの死体をつま先で小突いたり、ランサーの銃口で突いていた。 相変わらず空を見上げている。スバルとティアナにマーカスは集合を促す。 「二人とも、そろそろ行くぞ」 「「了解!」」 全員が集合し、中庭の外へと向かう。 その中でベアードが小走りでドムに耳打ちし、先程の呟きのことを尋ねた。 「なぁ、マーカスが何か呟いたが、何かあったのか?」 「え? ああ、大したことじゃないさ」 納得のいかない返答だったらしく、舌打ちし露骨に不満を表すベアード。 六人は中庭を後にした。 オマケ とある量産型カーマインの運命の出会い 「あぁ…、なんだよ…あれ…」 フルフェイスのヘルメットを被った若い兵士が悲痛な呻きを漏らす。 迫り来る地を蹴る疾走音。徐々に大きくなるにつれ、合わせてその場の全員の不安と恐怖も増大する。 「お、俺は逃げる!! 俺は逃げるぞ!!」 突然叫び、持っていた獲物すら放り出して若い兵士は、正面の突き当たりに向かって走り出した。 届かないと理解しながらも、手を伸ばし警告をマーカスは促す。 「おい!! 単独行動は取るな!!」 その警告が耳に入るわけもなく、若い兵士は突き当たりを右に曲がって姿を消した。 曲がり角の傍に灯いている炎が、兵士の影のみを突き当たりの壁に映す。 若い兵士はそのまま向こうに―――向かう前に壁が吹き飛んだ。瓦礫を撒き散らし、突き当たりの壁に全身が異様に隆起した影が加わる。 逃げ出した兵士は隆起した影にぶつかり、その場に尻もちをついた。 「うわっ…!! たすけ」 叫び終える前に聞こえたのは骨と肉を砕く音―――ではなく。 「ちょっと、あんたどこ見てんのよ!!(CV:釘宮理恵さん)」 妙に可愛らしい、それでいて強気な声。 「へ?」 「へ? じゃないわよ!! ちゃんと前を見て走りなさいよ!!(CV:クギミー)」 「いや、ちょっと…」 「ああ、もう!! 遅刻しちゃうじゃない!! 遅刻したら、あんたが責任取りなさいよ!!(CV:くぎゅ)」 そういって隆起した影は、兵士が逃げようとした方向に消えていった。 その場にいたデルタ部隊、スバルとティアナ、そして若い兵士。全員が沈黙する。 しばらく静寂が辺りを満たした。そして――― 「え、あ、ちょっと待てよ!!」 同じ方向に兵士の影が走っていった。 再び沈黙が訪れ、やがてマーカスが口を開く。 「何なんだ?」 「知るかよ」 ドムが突っ込みを入れた。 [[戻る>Gears Of Lyrical_03]] [[目次>第22SAS連隊隊員氏]] [[次へ>Gears Of Lyrical_05]]
[[Gears of lyrical]] 第4話「迫り来る凶戦士」 「あぁ…、なんだよ…あれ…」 フルフェイスのヘルメットを被った若い兵士が悲痛な呻きを漏らす。 迫り来る地を蹴る疾走音。徐々に大きくなるにつれ、合わせてその場の全員の不安と恐怖も増大する。 「お、俺は逃げる!! 俺は逃げるぞ!!」 突然叫び、持っていた獲物すら放り出して若い兵士は、正面の突き当たりに向かって走り出した。 届かないと理解しながらも、手を伸ばし警告をマーカスは促す。 「おい!! 単独行動は取るな!!」 その警告が耳に入るわけもなく、若い兵士は突き当たりを右に曲がって姿を消した。 曲がり角の傍に灯いている炎が、兵士の影のみを突き当たりの壁に映す。 若い兵士はそのまま向こうに―――向かう前に壁が吹き飛んだ。瓦礫を撒き散らし、突き当たりの壁に全身が異様に隆起した影が加わる。 隆起した影の背丈は兵士の影を遙かに凌駕し、見下している。 「うわ…、助け」 叫び終える前に、隆起した影の剛腕が兵士の影を殴りつけた。何かが潰れ引き千切れる音が響く。同時に硬い物が砕ける音も聞こえる。 剛腕が振るわれるたびに潰れる音と砕ける音が鳴り響き、微かな兵士の呻き声も響く。血飛沫と肉片が飛び散り、突き当たりの壁に赤い斑模様を作ってゆく。 二の腕までしかない右手が反対側の廊下に飛んでいった。 次第に呻き声も消え、しばらく湿った何かを潰し続ける音だけが石造りの壁に乱反射する。 一しきり殴った後、隆起した影は通路の奥に消えていった。地を踏み締める足音が消えると同時に、一同は息を吐く。 「今の…何なんです?」 「ベルセルクだ、奴は音と匂いで獲物を見つけるんだ…、下手に音を立てたりするなよ」 「音と匂い?」 「ああ、奴は目が退化して殆ど何も見えないんだ。その代わりに聴覚と嗅覚が異常に発達してる」 ティアナの質問にベアードは小声で答える。彼にしては珍しく額から冷や汗を垂らし落ち着きなく周囲を窺っている。 その間にマーカスは通信を入れた。 「こちらデルタ、ベルセルクに遭遇した」 「ベルセルクですって!? 銃撃は中止して、ベルセルクに普通の武器は効かないわ!」 「ああ、どうすればいい?」 「ドーンハンマーは持ってる?」 「あー…、持ってる」 先程、逃げ出した若い兵士が放り投げていった獲物、「ドーンハンマー」の誘導装置を持つドムを見ながら答えた。 「いい、よく聞いて。あと数分で貴方達の上空を衛星が通過するわ。それまでにベルセルクを中庭に誘き出してドーンハンマーで倒すのよ」 「了解した、デルタアウト」 通信を切り、振り返る。全員が不安な顔でマーカスを見つめていた。 デルタ部隊の隊長であることを自分に言い聞かせ落ち着かせる。指揮官の不安は、そのまま隊員にも伝わることをマーカスはよく知っていた。 落ち着き払い、普段通りの口調で指示を出す。 「いいか、みんなしっかりしろ。必ず無事ここから脱出させてやるからな。コールはレゾネイターを持っていろ、ベアードはその護衛に、ドムは俺と来い。残りの二人はコールとベアードに付いていけ」 「マーカスさん達二人じゃ危険すぎます!」 「お前たちを危険な目に合わせるわけにはいかない。それに最優先すべきはレゾネイターだ、こいつを失ったら意味がない」 「でも!」 「…ああ、わかった。そこまで言うなら勝手に付いて来い。但し骨は拾ってやらんぞ?」 「了解!」 歩き出したマーカスにドムが近寄り、小声で話しかけた。 「で、どうする?」 「しょうがねぇ、鬼ごっこでもするしかねぇな」 一歩、また一歩と静かに、そして確かに踏み出す。足捌きに細心の注意を払い、可能な限り音を立てないように足を動かす。 入口から移動を始めた六人は、ベルセルクに自分達の位置を悟られぬように慎重に歩いている。自分自身の呼吸音、果ては心音ですら煩く感じるほどに、墓の中は静まり返っていた。 皆が全神経を耳に集中している時だった。パキン、と小さな硬い音がした。音を聞いた途端に全員が固まる。 先頭にいたバンダナ男が油の切れた機械の様にゆっくりと振り返る。視線の先には、今にも泣き出しそうな顔をした鉢巻少女が全身をプルプルと震わせていた。 柔軟体操を思わせる動作で、鉢巻少女はゆっくりと足を上げる。その下には粉々になった小石があった。 直ぐ後ろにいたオレンジ髪の少女は、何か言いたげに口をパクパクさせ目の前の鉢巻少女を睨む。 全員が辺りを警戒し、何も異常が無いことを確認すると再び静かに動き出す。少しだけ進んで祭壇が置かれている部屋に着いたとき、墓の内部が揺れだした。 長年積み重なった土埃が振動で崩れ、辺りに舞い散る。水溜りに幾つもの波紋が浮かんだ。六人全員の額から冷や汗が吹き出す。 十秒にも満たない揺れが収まり。静寂が再び辺りを支配した。収まってからも六人はしばらく硬直し、警戒を続行する。 異常が無いことを確認すると、一斉に息を吐いた。全身が酸素を要求し、呼吸が荒くなる。 部屋の向かいにの出口に進み、曲がり角を左に曲がる。すぐ目の前の右側にまた出入り口があった。歩みを進めて入ろうとした時だった。 耳をつんざく轟音と破壊音と共に正面の壁が吹き飛び、中から隆起した白い巨体が現れる。 「行け!早く行け!!」 マーカスの叫びを合図に、後方のコールとベアードが来た道を戻っていった。そして、その叫び声に反応した凶戦士がマーカスに迫る。 間一髪で出入り口に飛び込み、ベルセルクの剛腕を避ける。続けてスバルとティアナ、ドムが飛び込んできた。 奥に走り込む四人、その行く手を鋼鉄の扉が阻んだ。 全身の力を足に込め扉を蹴り飛ばすマーカス。しかし、扉は軋むばかりで全く開く気配を見せない。 「くそっ!!」 「マーカス、ジャックにやらせろ!!」 「ダメだ、時間が掛かり過ぎる!!」 焦りから早口になり、唾を飛ばしながら互いに叫ぶ。 スバルも扉を開けるために、右腕のリボルバーナックルで扉を殴りつけるが、同じく軋むばかりで結果は同じだった。 その間にも後方から盲目の凶戦士が迫る。クロスミラージュで射撃魔法を叩き付けるティアナ。着弾した射撃魔法は体表で弾け、傷一つ付かず牽制にすらならない。 尚も凶戦士は迫る。両者の距離が1メートルを切り凶戦士は右腕を振り上げ、 「ッ!」 剛腕が振り下ろされる直前に、ティアナの体が左に引っ張られる。襟首に力がかかり、喉が押し潰され息が詰まりそうになる。 背中から豪快に石畳に転び、全身に痛みが走る。 ティアナが体を打ち付けた直後に、ベルセルクの剛腕が一瞬前までティアナが立っていた位置を通り抜け、後ろにあった柱を捉え粉々に砕く。破片が四散しティアナの顔を掠めた。 「馬鹿野郎!! 死にてぇのか!!」 バンダナを巻いた男が怒鳴る。彼が寸前の所でティアナの襟を掴み引き寄せたため、彼女は辛うじてミンチを免れた。 突然の怒声に身を竦ませるティアナ、その声に反応しベルセルクがマーカスに狙いを定める。 軽い発砲音、ベルセルクの頭部に何かが命中し一瞬の火花が散る。突然の攻撃にベルセルクは物体が飛んできた方向を向いた。 その方向には銃口から硝煙が昇る、スナッブピストルを構えたドムが立っていた。 立て続けに引き金を引き、二発、三発と次弾を放つ。弾丸は全てベルセルクに命中するが、初弾と同じく全てが弾かれる。 怒り狂ったかのように凶戦士はドムに向け突進、先程と同じく剛腕でドムを叩き潰さんと腕を振り上げた。 すれ違い様に前方へ飛び込み、ドムは剛腕を避ける。髭面の男を捉える筈だった剛腕は壁を貫通。石作りの壁を易々と貫通し、ベルセルクの腕が肩までめり込んだ。 「マーカス、何か良い方法はないのか!?」 「考えているところだ!!」 辺りを見回し扉を開ける方法を模索する。 そして『それ』が目に止まった。 「扉の前に集まれ!!」 その声に従い四人が扉の前に集合する。 何か名案が思い付いたのだろうと、バンダナ男に三人は期待の眼差しを向ける。 バンダナ男は懐からスナッブピストルを取り出し、銃口を前方に向ける。向けた方向には腕を抜こうともがく凶戦士の背中。 躊躇いなく発砲。鉛弾が撃ち出され凶戦士の背中目がけて飛翔する。反動で腕が軽く持ち上がり、排莢された金色の空薬莢が石畳へと落下する。 小口径の弾丸は白い背中に弾かれ明後日の方向に跳弾。瓦礫を撒き散らしながら、ようやく腕を引き抜いた凶戦士が濁った眼でバンダナ男を睨む。 「マーカス! 何考えてんだ!!」 「マーカスさん!!」 「何考えてるんですか!!」 「まぁ、見てろって」 三人の声に動じた様子も無く、マーカスは落ち着き払った態度で身構える。その行動に何かを感じた三人も自然と身構えた。 ベルセルクは扉の前に集まっている四人目がけて疾走、肩を体の前に構え四人に迫る。 一気に相対距離が縮まり、あと1秒足らずで四人を薙ぎ倒せる距離になった瞬間。 「避けろ!!」 ベルセルクの向かって右側にマーカスとスバル。反対側にドムとティアナが飛び込んだ。 獲物を粉砕することなくベルセルクの肩は鉄扉を直撃。 耳をつんざく轟音を響かせ、マーカスの蹴りでも、スバルの拳でも開かなかった扉が歪に変形しながら開いた。 「ベルセルクをこっちに誘き寄せろ、その隙に進め!!」 走る、ただ只管にもと来た道を辿る。 時折背後から木霊する咆哮と破砕音に背筋を震わせながら、二人は脇目も振らずに走る。 「ベアード、戻るのはいいがどうするんだ?」 「これだけデカイ墓場なんだ、きっと別のルートがあるに違いない」 背中にレゾネイターを背負った黒い肌の男コールは、先程から自分の前を走り続ける男に疑問を投げかける。 前を走る金髪、ベアードは額に運動とは別の汗を噴出させながら答えた。 ベルセルクに遭遇した際にマーカスからの指示で逃げた二人。来た道を戻りベルセルクから逃げられるルートを探す。 そして瓦礫を積み上げ、即席のバリケードを作った入口まで戻ってきた。墓場に入った際にベルセルクに惨殺された兵士が逃げた道に進み。角を右に曲がって、 「う…」 「どうし…」 突然立ち止まった先導に訝しげに話しかける。それでも答えないので彼の前を覗き込んだ。 先頭のベアードの足元には赤い水溜りが広がっていた。そして水溜りの中央には逃げ出した兵士―――元は逃げ出した兵士だった肉塊が転がっていた。 装着していたアーマーは引き千切られ、右腕を除いた四肢が有り得ない方向に折れ曲がっている。 ヘルメットは半分以上が破壊され、頭部を構成していた内容物がよく見える。 「…」 ベアードは無言でしゃがみ、肉塊の首の辺りに指先を入れて何かを探す。指先が探し物を掴みそっと摘む。 摘ままれていたのは紐、そのまま引上げるとひしゃげた小さな二つの歯車、COGの認識票である。『COGタグ』がぶら下がっていた。 タグを胸に仕舞い、十字を切って簡単に黙祷を捧げる。コールもそれに倣い黙祷を捧げる。 「安らかに眠れ…、仇はマーカスが取ってくれる…」 小声で呟き、立ち上がる。 後ろの友人に目配せして、二人は再び走り出した。 「死ぬんじゃねぇぞ、マーカス」 咆哮が呟きを掻き消した。 殴られた鉄扉が衝撃に耐えられず吹き飛んだ。錆び付いた蝶番が粉々に砕かれ、破片へと変わる。 扉を殴りつけた張本人の頭に鉛弾が当たった。 「出口だ!!」 これで計三枚目となる鉄扉をベルセルクに開かせ、破壊された扉の先に見えたものは黒い石作りの墓場、ではなく茶色い地面、曇天の空。 ティアナが囮となり射撃魔法を叩きつけ、ベルセルクを出口から引き離す。 既に三回も繰り返された作業に、ティアナは淀みなくベルセルクの脇をすり抜け、出口に向かう。 外に出たと同時に全員が左右に散開。開いた中央の道をベルセルクが走り抜けた。 ベルセルクは勢い余って中庭の中央、枯れた噴水に突っ込み砂埃を舞い立たせる。 「マーカス!!」 「ああ、アーニャ、ドーンハンマーを使う!!」 「OK、衛星はオンラインよ!」 体制を立て直し背中から奇妙な形の機械、『ドーンハンマー』の誘導装置を取り出す。 噴水の砂埃に先端を向け、引き金を引く。先端から弾丸の代わりに一筋の赤い光が照射される。 誘導装置から一定のリズムで電子音が鳴り、数回鳴った後、音程の違う電子音が最後に鳴った。 「喰らいやがれ!!」 突如、鉛色の雲で覆われていた空に大穴が開いた。 一筋の光柱が鉛色の空に穴を開け、本来の蒼い空を覗かせた。光柱は一直線に砂埃に落ちる。 「グゥオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!!」 直撃と同時に砂埃のカーテンが引き裂かれた。 中から全身を雷に焼かれ、白い体表を赤々と赤熱させた凶戦士が現れる。 雷は数秒間、凶戦士を焼き続け凶戦士は踊り狂う。 ドーンハンマーの攻撃が収まり、ベルセルクはその場で膝を着いた。先程は違い、全身から湯気を昇らせ呼吸も荒い。 「マーカス、あと一息だ!!」 「わかってる、もういっちょ!!」 再び誘導装置をベルセルクに向け、引き金を引く。 全く同じ音階の電子音が鳴り、あと数回で再度の雷が落ちようとしたとき。 ベルセルクが立ち上がり、今まさに自分に止めを刺そうとしている男に向け突撃する。 墓場内部で幾度となく繰り出されたその攻撃に、マーカスは慌てることなく、そして淀みなく避けようと左に飛び込む。 飛び込むタイミングも体の運び方も完璧だった。ただ一つだけ、ベルセルクの繰り出す剛腕が一瞬だけ速かった。 その一瞬の速さによって『ズレ』が生じ、本来は掠りもしない拳がマーカスの右手。ドーンハンマーの誘導装置を捉える。 誘導装置の中心を捉え、ひしゃげる所かありとあらゆる部品を破壊し、ベルセルクの唯一の対抗手段である誘導装置は粉々に砕け散った。 「ドーンハンマーが!!」 「「マーカスさん!!」」 着地後に自分の右手に何も握られていないことに気付くマーカス。ベルセルクは既に次の突撃の為に身構えている。 突然、背中から主武装であるランサーアサルトライフルを取り出すマーカス。 「ドム!! スバルとティアナを連れてコールとベアードと合流しろ!!」 「!? 何考えてんだ!!」 その声に答えることなく、ランサーの引き金に指を掛けフルオート射撃。絶え間なく弾丸が撃ち出される。 排莢された空薬莢が次々と地面に落下、薬莢同士がぶつかり合い金属音を奏でた。マーカスの足元が徐々に茶色から金色に染まる。 弾丸はベルセルクに命中するが、傷を付ける事すら敵わず弾かれてゆく。 銃撃と銃声に反応しベルセルクが狙いを定め、再度突撃。両者の距離が縮まり始める。 引き金から指を離さずに銃撃を続けるマーカス。ベルセルクが接近しつつあるが、避ける素振りを全く見せない。 ランサーの銃口が熱で真っ赤に染まり、銃声もマガジン内の残弾が少ないことを示す独特の銃声に変わり始めた。 弾丸を弾かれようが、マガジン切れが近いだろうが、それでも構わず撃ち続ける。 両者の距離が3メートルまで縮まった瞬間にランサーが沈黙、残弾が尽きたことを知らせた。 ベルセルクが腕を振り上げる。 「畜生!!」 男が遺言になるであろう最後の悪態をついた。 「ディバイィィィーン…」 そして凶戦士は――― 「バスター!!」 桜色の光に呑まれた。 天空から桜色の閃光がベルセルクを覆い尽くす。ドーンハンマーでその身を焼かれた時のように絶叫し、苦悶する。 その光景を中庭にいた四人は茫然と見つめた。 閃光が徐々に収束し勢いを衰える。完全に消え去ったあと。凶戦士はゆっくりと地面に倒れ、動かなくなった。 「今のは…」 ドムの呟き、そして上空から降りてきたのは、 「「なのはさん!!」」 純白の衣装を纏い、その手には真紅の宝玉を従えた杖を持つ女性、管理局が誇る『エース・オブ・エース』高町なのは。 上空からゆっくりと降下、着地と同時に足の羽が散り、ドム、スバルとティアナが駆け足で近寄る。 「二人とも大丈夫?」 「はい!!」 「それより何でここに?」 「実はヘリでポイントに向かう途中ところだったんだけど、さっき空から大きな光が落ちてきて、これは何かあるに違いないって思ったの」 「それで飛んできて…」 「バンダナの人がローカストに襲われているいるところだったから、急いでディバインバスターを殺傷設定で砲撃、そして今に至るってわけ」 一通りの説明を終えた所で件の『バンダナの人』、マーカスが近寄る。 「助かった、礼を言う」 「こちらこそ」 「ところでスバル、ティアナ、さっき名前を叫んだが知り合いか?」 「知り合いも何も、私達の上官です!!」 スバルの返答に驚いたような表情を見せるマーカスとドム。なのはとスバルを交互に見た。 マーカスは右手を差し出し自己紹介を始める。 「自己紹介が遅れたな、あんたの部下を預かっているマーカス・フェニックスだ、よろしく頼む。マーカスと呼んでくれ」 「親友のドミニク・サンチャゴだ、ドムって呼んでくれ」 「時空管理局所属の高町なのはです」 差し出された右手をしっかりと握るなのは。 グローブに包まれた岩石のような厳つい手に、白い素手が握られる。 握手を終え、なのははスバルとティアナを向き。ゆっくりと、悟らせるように話す。 「二人とも、よく聞いて。ここの戦いはミッドチルダに居た時は全く違うの。非殺傷設定なんてものは存在しない、痛い、と感じた時は既に死んでいる」 互いに見つめ合い、黙ってなのはの話に耳を傾ける二人。 マーカスとドムも黙ってその様子を見る。 「二人がそう簡単にやられなんて思ってないけど、気を付けてね。私は二人を信じているから」 「「はい!!」」 「うん、それじゃあそろそろヘリに追い付かないと、マーカスさん二人をお願いします」 「ああ、あんたの部下は責任持って守るぜ」 「部下、じゃなくて『仲間』です。それでは!」 最後に困ったような笑みを浮かべ、エース・オブ・エースは空へと帰っていった。 その姿が見えなくなるまで、四人は空を見ていた。 そこに二人の人物が訪れる。マーカスの命令で逃げていた、コールとベアード。 「マーカス、生きてたか!」 「ああ、ご覧の通りさ」 「まさかベルセルクを殺っちまうとはな…」 「まぁ、俺の戦果じゃねぇけどよ…」 マーカスが小さく何か呟き、首を傾げるベアード。 コールはベルセルクの死体をつま先で小突いたり、ランサーの銃口で突いていた。 相変わらず空を見上げている。スバルとティアナにマーカスは集合を促す。 「二人とも、そろそろ行くぞ」 「「了解!」」 全員が集合し、中庭の外へと向かう。 その中でベアードが小走りでドムに耳打ちし、先程の呟きのことを尋ねた。 「なぁ、マーカスが何か呟いたが、何かあったのか?」 「え? ああ、大したことじゃないさ」 納得のいかない返答だったらしく、舌打ちし露骨に不満を表すベアード。 六人は中庭を後にした。 オマケ とある量産型カーマインの運命の出会い 「あぁ…、なんだよ…あれ…」 フルフェイスのヘルメットを被った若い兵士が悲痛な呻きを漏らす。 迫り来る地を蹴る疾走音。徐々に大きくなるにつれ、合わせてその場の全員の不安と恐怖も増大する。 「お、俺は逃げる!! 俺は逃げるぞ!!」 突然叫び、持っていた獲物すら放り出して若い兵士は、正面の突き当たりに向かって走り出した。 届かないと理解しながらも、手を伸ばし警告をマーカスは促す。 「おい!! 単独行動は取るな!!」 その警告が耳に入るわけもなく、若い兵士は突き当たりを右に曲がって姿を消した。 曲がり角の傍に灯いている炎が、兵士の影のみを突き当たりの壁に映す。 若い兵士はそのまま向こうに―――向かう前に壁が吹き飛んだ。瓦礫を撒き散らし、突き当たりの壁に全身が異様に隆起した影が加わる。 逃げ出した兵士は隆起した影にぶつかり、その場に尻もちをついた。 「うわっ…!! たすけ」 叫び終える前に聞こえたのは骨と肉を砕く音―――ではなく。 「ちょっと、あんたどこ見てんのよ!!(CV:釘宮理恵さん)」 妙に可愛らしい、それでいて強気な声。 「へ?」 「へ? じゃないわよ!! ちゃんと前を見て走りなさいよ!!(CV:クギミー)」 「いや、ちょっと…」 「ああ、もう!! 遅刻しちゃうじゃない!! 遅刻したら、あんたが責任取りなさいよ!!(CV:くぎゅ)」 そういって隆起した影は、兵士が逃げようとした方向に消えていった。 その場にいたデルタ部隊、スバルとティアナ、そして若い兵士。全員が沈黙する。 しばらく静寂が辺りを満たした。そして――― 「え、あ、ちょっと待てよ!!」 同じ方向に兵士の影が走っていった。 再び沈黙が訪れ、やがてマーカスが口を開く。 「何なんだ?」 「知るかよ」 ドムが突っ込みを入れた。 [[戻る>Gears Of Lyrical_03]] [[目次>第22SAS連隊隊員氏]] [[次へ>Gears Of Lyrical_05]]

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