魔法少女リリカルなのはSAVERS第一話

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喧嘩番長現る ミッドに迫る闇   夜の闇と静寂が支配する荒野で二つの影が戦っていた。 一方は赤い鎧を身に纏い、炎で出来た羽と剣、盾を持つ竜人。 もう一方は赤いマントで全身を覆った、悪魔を連想させる翼を持った巨人。 「あのマント野郎……結構やるじゃねぇか」 竜人の右肩、その上に立つ青年は巨人を正面から満足げな笑みを浮かべ睨み付ける。 この世界に来てから五年間、今回のように気性の荒い奴に襲われる事は多々あったが目の前にいる巨人ほどの強敵はいなかった。 自分の相棒、子分である竜人と共に戦いここまで苦戦したのは五年前に戦った聖騎士達、そしてこの世界の神と戦った時以来だろう。 「兄貴、どうする?」 視線を巨人に向けたまま、竜人が青年に話しかける。 巨人は散々自分達を苦しめた紅蓮の炎を右掌の上に燃やし、いつでも放てる体勢を整えている。 竜人の操る炎と互角かそれの威力を持つ巨人の炎……まともに喰らえばただでは済まないのは巨人の炎で吹き飛び、クレーターが出来上がった大地を見ればわかる。 それに、あの巨人はまだまだ余力を残しているであろう事を青年と竜人は直感的に悟っていた。 「どうするかって? へっ……決まってんだろ!」 竜人の問いかけに青年は笑みを浮かべる。 相手はまだ余力を残し、こちらは最初から全力で飛ばして苦戦している現状からして普通は逃げるべきかもしれない。 しかし、青年に逃げるつもりはない……相手が強ければ強いほど燃えてくると言う物だ。 竜人も最初から青年がそう答えるのは理解しており、両手に構える炎の剣と盾を大剣へと一体化させる。 「行くぜ、シャイングレイモン!」 「おぉっ!」 竜人、シャイングレイモンは大剣を振りかざし巨人へと正面から挑みかかる。 巨人は右手に燃やす炎をシャイングレイモンへと向け、放つ。 「フレイムインフェルノ!」 シャイングレイモンの炎の大剣、巨人の放つ紅蓮の炎。 二つの炎が正面から激突し、荒野一帯を爆発が包み込んだ。 同時刻、樹海の奥深くにその入り口を覗かせる洞窟の最深部でトーレは確保を指示された目標物を発見した。 紫色の毒々しい色をしたタマゴを両手で抱きかかえるように持ち上げ、後ろに控えていたセインが持っていたケースへと入れる。 「しっかし、こんな妙な世界にまで来てこんなタマゴを持ってこいなんて……ドクターは何考えてるんだろうね?」 セインはケースに入れられたタマゴを見やりながら生みの親であるドクター、ジェイル・スカリエッティの指示への疑問を口にする。 今いるこの世界は自分達はおろか、管理局すら存在を知らない未確認の世界。 5年前のある日に突然現れ、協力を申し出てきたあの男からの説明を受けねば知ることは無かっただろう。 「知らん。それに、今回の指示もドクターというより……あの男からの要請だぞ?」 「そうだよねぇ。あいつからの要請素直に聞くなんてドクターらしく無いって言うかさぁ……それで気になったんだけど」 「何か考えがあっての事だろう……あの男の目的はわからんが、何か物騒な連中を手駒に揃えているようだしな」 トーレの言葉にセインは顔を引きつらせ、「あいつ等かぁ」と小さく呟く。 今回の任務にはもう一人、水先案内人と言う形で同行している者がいた。 今は野暮用があると別行動中でこの場にはいないが……内心、セインはホッとしている。 「私、あいつ等苦手……っていうか嫌いだなぁ。何考えてるかわかんないし」 「ここで愚痴を言っても始まらんだろう……目的は達した、さっさと帰るぞ」 「りょーかい」 ケースをセインが抱きかかえ、二人は洞窟を後にする。 同行者との合流ポイントまで向かい、そこで元の世界へと帰還する。 二人が持ち帰ったタマゴが、後に自分達の目的とする計画に与える影響など二人はまだ知るよしもない。 レジアス・ゲイズは手に持っていた書類を軽く読み流した後、ゴミでも捨てるような仕草でデスクの上に置く。 内容は聖王教会の騎士カリム・グラシアの持つ稀少技能、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)による予言の内容。 半年から数年先の未来を詩文形式で書き出し、予言する能力。 「フン……くだらん」 大規模な事件や災害に関する予言の的中率が高く、聖王教会や次元航行部隊のトップも目を通す物。 しかし、レジアスは自身の稀少技能嫌いもあって好意的には見ていない。 本音を言えば読む前に処分したい所だが、重要書類扱いであるこれを気軽に処分する事など出来る筈も無い。 (この予言……まず間違いなくアイツの事か) 予言に書かれた内容……全てでは無いが、彼は察しがついていた。 旧い結晶と無限の欲望が交わる地 七つの大罪解き放たれ、王の翼は蘇る 悪夢は始まり、大地は終わらぬ蹂躙に汚れ果て やがて、王の翼は海を消し去り全てを闇へと還すだろう この予言の最初の文に書かれた旧い結晶は4年前かた度々発見されているロストロギア、レリック。 残りの部分はさっぱり解らないが、あの男が何か事を起こそうとしているように取れる内容だ。 「今の内に釘を刺すなりしておいた方がいいかもしれんな……」 普段なら気にも止めない所だが、内容の一部を下手に理解出来てしまった為に捨て置く訳にもいかない。 念の為、最高評議会の方にもそれとなく警戒するように伝えようとも思ったが……あの三人はあの男を自分達の手駒と信じ切っている。 伝えた所で「無用な心配だ」と言い返されるのが目に見えるようだ。 「言った所で無駄だな……」 予言が書かれた書類をファイルに閉じ、本棚に仕舞った所で乱暴にオフィスの扉が開かれる。 見ると、自分の秘書であり娘でもあるオーリスが荒くなった息を吐きながら開け放った扉に手をついていた。 普段から生真面目で優秀な秘書の娘が取るにしては乱暴な行動に、何かが起きたのだと察するのに時間はかからなかった。 「オーリス、何があった?」 「中将! 外を……空を見てください!」 言われるがままに後ろの窓から日が沈み、暗くなった空を見上げる。 普段なら夜空を彩る星が浮かぶ空……そこに、有り得ない光景が広がっていた。 「なっ……なんだ、あれは?」 レジアスの視界に映り込む物。 夜空に開いた穴と、その穴から出現する炎の翼と大剣を持つ竜人だった。 同時刻、八神はやては知人との食事を終えて帰路へついていた。 夢にまで見た自分の部隊、機動六課を立ち上げたばかりでまだ色々と忙しい時期故、最初は断るつもりだったのだがどうしても、と半ば強引に誘われてしまった。 どうも知人は連れてきていた管理局の重役に、自分の事を紹介したかったようだ。 (まぁ、コネが一個増えた思って前向きにとらえよか) その重役は決して良い男では無く、むしろ嫌いなタイプであったが、はやては前向きに思考を切り替える。 管理局のお偉いさんとのコネが出来たと思えば、この先色々と都合が良いかもしれない。 (……活用する気は無いけどな) などと心の中で毒づき、帰りのタクシーでも拾おうと駅前まで来た時であった。 何やら、街ゆく人々が一斉に空を見上げている。 「ん? なんや……何か……あ……った……って……?」 その光景に、はやては言葉を失った。 夜空を引き裂くように突如として開かれる大きな穴。 その中よりゆっくりと、炎の翼を持った巨大な何かが姿を現したのだ。 かなり上空にいるのか、姿ははっきりと見えないが、少なくとも鳥や飛行機の類では無い。 「ちょ……なんや、あれ」 何が起きているのかと呆気にとられ、茫然と空を見上げていると、不意に首から下げたデバイスから電子音が鳴り響く。 六課からの緊急通信の際になるアラームだ。用件は聞かずとも解るが、通信に出ない訳にはいかないだろう。 「はい、こちらはやてやけど……用件は空のあれ?」 『はい。突然クラナガン上空に出現した……恐らく、生物だと思われますが』 「せやろなぁ……」 『それと、微弱ながら空間の歪みも検知出来ます……恐らく、異世界の者かと』 映像は無く、音声だけの通信だが相手の……六課で自分の補佐をやっているグリフィス・ロウランの面喰ってる様子がリアルに想像できる。 普段から余り表情を崩さず、慌てない人物だけにその様子を是非とも見たかったが、流石にそう茶化す余裕もない。 『現在、こちらから動けるのはなのは隊長と……』 「あぁ……それより、ちょっと飛行許可だしてくれへん?」 『は?』 「いや、そっちからなのは隊長とか飛んでくるより早いやろし……っていうか、今現場の真下におるんよ」 『……えぇっ!?』 通信機の奥から聞こえてくる、普段のグリフィスからは想像もできない裏返った声。 本当に、どんな表情をしているのか見てみたかった。 「なんかえらい騒ぎになりかねんし、こういう場合はさっさと対応した方がええ」 『は……はぁ、しかし危険では……?』 「危険なのは誰がやっても一緒やって。一応、何があってもええようにそっちでも準備はしといてくれる? ほれ、さっさと許可出して」 『あ、はい。飛行許可、承認しました』 「了解。さて、ほないっちょ行ってきますか」 通信を切り、軽く準備運動のつもりで両肩をぐるりと回してからデバイスを手に持ち、起動させる。 「セットアップ」 全身が光に包まれ、一瞬で茶を基調とした管理局の制服から黒のアンダーと白のジャケット……自身のバリアジャケットを身に纏う。 右手に愛用の杖型デバイス、シュベルトクロイツを握り締め、背中から伸びる六枚の黒翼を羽ばたかせて飛翔し、一気に飛び上がる。 視界に捕えた巨大な何かは、出現した場所で静止して周囲を窺っているのか、目立った動きは見えない。 (すぐに襲われる……って、事は無さそうやけど) 相手が未知の存在である以上、油断はできない。 戦闘にでもなったら、自分も街もただでは済まないだろうと覚悟しつつ、相手を刺激せぬように対応しなければならない。 やがて、はやては目標の……太陽のように紅く燃える翼を持った竜人と、その肩に乗る青年の正面で静止した。 深呼吸し、相手との対話を始めようと口を開いた、その直後だった。 「うぉっ!? 人が空飛んでる!?」 「……は?」 青年のどこか間の抜けた、驚きの声が聞こえてきた。 彼は茶色がかった髪を後ろで軽く纏めた、黒地のノースリーブシャツの上にまた袖の無い赤い上着を着込んだ少年だった。 (歳は、私と同じぐらいかな……? 顔つきからして、日本人っぽい気もするけど……) 見た目からしてそう判断し、さっきの言葉からあまり悪い人でも無いんじゃないか、という妙な安心感すら抱いてしまう。 ハッとなって軽く頭を振って、やや鋭い目つきで少年を見やる。 油断しては駄目だ。見た目や口調で相手を判断するのは危険すぎる、と自分を戒めて再度口を開こうとしたら……。 「兄貴、空飛べる人間っているもんなんだな」 「あぁ、世界は広いっていうけどなぁ」 「……えぇっ!?」 思わず声が出た。 青年はともかく、まさかこの竜人まで人語を使用し、普通に喋れるなんて思ってもいなかった。 しかも、その言葉使いはかなり流暢で思わず感心してしまうレベルだ。 「しゃ、しゃ……喋った……?」 「ん? どうか、したのか?」 「えっ!? い、いや、何でも無いです」 おまけに心配までされた。 中々に気が効くと言うべきか、何と言うべきか。 (って、完全に出鼻くじかれてるやん私!?) 張りきって来てこれでは、何と言うか色々と立場が無い。 あまり空の上で話し込んでいる、と言うのも問題であるし、せめて場所を移すべきかもしれない。 「え、えっと……お二人さん?」 「「何だ?」」 「色々と聞きたい事あるんやけど……ええかな?」 「ん? あぁ、別に構わねぇ……っていうか、俺達も色々聞きたいし、な?」 「あぁ」 青年と竜人、やはり話が解るのか快く申し出に応じてくれた。 ほっと胸をなでおろし、はやては続ける。 「あと、何時までもここに追ったら色々と迷惑掛かるんで……場所移してもええかな? 案内するから」 「あぁ、それもそうか……下、これ街だよなぁ」 眼下の街を見下ろしながら、青年は頷く。 彼らとしても、何時までもこの場にいると言うのは本意では無かったようだ。 「それじゃ、私についてきてな」 「あぁ、行くぞシャイングレイモン」 「わかった、兄貴」 シャイングレイモンと呼ばれた竜人は青年の言葉に頷き、先を飛ぶはやての少し後ろにぴったりついて移動を開始する。 やはり、十五メートル近い巨体が空を飛ぶとなると少しばかり風が乱れるが、はやてが飛ぶのに支障が出る程度では無い。 むしろ、はやてが自身の飛行で巻き起こす風で吹き飛ばぬように遠慮しながら飛んでいるのではないか、とさえ思えるような飛び方だ。 (……流石に、考えすぎかなぁ?) いくらなんでもお人よしすぎないか、自分と心中で苦笑する。 相手が誰なのかも解らないのに、そうそう自分の都合の良いように捕えていい物か。 「大門大だ」 「へっ?」 突然、青年が口を開いた。 「俺は大門大だ。一応名乗っとこうと思ってな」 「あぁ……私は、八神はやて。よろしゅうな」 「おう。こいつは俺の子分、シャイングレイモンだ」 「よろしくな」 青年、大門大と共にシャイングレイモンも小さく頷く。 それを見て、はやては二人を交互に見やって、呟いた。 「……でっかい子分やなぁ」 それはあまりにも、あんまりすぎる意見であると共に、誰もがそう思うであろう感想であった。 「そんなにおっきいと一緒におるんも一苦労ちゃう?」 「いや、別にそんな事ねぇよ。普段からこんなにでけぇ訳でもないし」 「あれま、そうなんや」 機動六課所属の仲間に、竜を使役する召喚士の少女がいた事をはやては思い出す。 彼女の連れている竜のように、普段は力を封印して小柄な姿で行動する召喚獣もいると聞くから、シャイングレイモンもその手の類なのだろう。 最も、人語を喋る召喚獣なんて見た事も聞いた事も無いのだが。 (まぁ、魔法使ってる感じもなんかせぇへんしなぁ……) もし、シャイングレイモンの姿が召喚などの魔法による物なのであれば何らかの魔力を感じ取れる。 しかし、そんな気配は全く感じ取れない。 では一体何なのか、と思考を始めるもよく解らない。 (むぅ……) 好奇心が刺激され、今すぐにでも問いただしてみたいが、飛びながらするような話でも無い。 とりあえず誘導先である六課隊舎で、腰を落ち着けてゆっくりと聞くまで我慢しよう。 真下は海。ここを超えれば、後十分経たずに隊舎に到着するのだから。 『八神部隊長!』 「ん?」 緊急アラームと共に正面に通信ウィンドウが浮かび上がり、グリフィスの顔が映し出される。 何があったのか、非常に慌てている様子で焦りや驚愕が表情に見てとれる。 「うお!? なんだそれ!?」 「あぁ、ちょっと静かにしてくれる? で、グリフィス君、どないしたの?」 後ろから通信ウィンドウを興味深そうに覗き込む大を抑え、はやてはグリフィスへ向き直る。 『クラナガン上空にて、空間の歪みが発見されました!』 「なんやて!? 私が今連れて行ってる二人の時のとは違うんか!?」 『全く別の……新たな反応です! 現在の隊長達の位置からそう遠くな……で……さ……』 「ちょ、ちょっと!? グリフィス君!? グリフィス君!? ちょっと、どうなってんの!?」 突如、通信ウィンドウが歪み音声が途切れ始める。 やがては壊れたテレビのように砂嵐のような画像と耳障りな雑音が流れ、完全に通信が途絶えた。 舌打ちしてウィンドウを切り、イラついたようにはやては吐き捨てる。 「何がどうなってんねんなっ、ほんま!?」 「おい、どうしたんだよ?」 「んっ? あぁ、ちょっと厄介な事起きてるみたいでな……」 大へ適当に返事をしつつ、はやてはイラついた頭を冷やし、思案する。 空間の歪み、とグリフィスは言っていた。それはかなりの大事だ。 ほんの少しならともかく、その歪みが大きなものならば他の世界をも巻き込むほどの次元震を引き起こしかねない。 更に、他の次元世界と比べても圧倒的と言ってよいほど、空間が安定しているクラナガンでそれが二度も起きるなどふつうはあり得ない。 (誰かが、意図的に起こしたんか……それとも……) 「あれは……兄貴! はやて!」 「どうした!?」 「へっ!?」 はやての思案を遮る様に、シャイングレイモンが空の一点を見やりながら叫ぶ。 二人がそこに目を向けると、夜空を引き裂くように開かれた巨大な穴より、赤いマントの巨人が出現しようとしている、その瞬間であった。 背中より翼を伸ばし、天に向かって突き立つ二本の角を持った、十数メートルの巨体の赤いマントの怪物が。 「なっ……なんや……あれ……」 「兄貴、あいつは!」 「あぁ……間違いねぇ、ヤツだ!」 「二人とも、あれが何なのか知ってるんか!?」 はやての問いに二人は答えない。 ただ、ひたすらに敵意の籠った目であの巨人を睨みつけていた。 巨人は完全に出現を終えると共に、ゆっくりと周囲を見渡し、小さく唸る。 「ふぅむ……不味いな」 言葉の内容とは裏腹に酷く落ち着きはらった様子で、巨人は呟く。 目的の世界には移動できたが、出る場所が大きくズレてしまったのだ。 普段の巨人ならば、決してありえぬ失敗だった。 (まぁ、出てしまったものは仕方があるまい。今回ばかりは、どうにもならん) 少々空間移動を行う手順と状況に問題があった。 ただ、それだけの事と巨人は片付ける。 一度出てきてしまったのなら仕方が無い、さっさとこの場を立ち去ればよいだけの事だ。 そう考え、巨人がゆっくりと顔を向けると……。 「……ほぅ」 こちらへ真っ直ぐに飛んでくる竜人の姿が確認できた。 その肩に乗る人間と、すぐ後を追うように飛んでいる人間がもう一人。 「これは、珍しい処で出会う物だな」 自身の前で静止し、対峙する竜人……シャイングレイモンと大門大。 「……やれやれ、面倒な事になったものだ」 「何妙な事言ってやがる!?」 巨人の落ち着きはらった、それでいてどこか楽しげな口調に反し、大の声は怒気を含んでいた。 「テメェだろ! 俺達をこんな処に飛ばしたのは!」 「はて? 何の事かな? ワシには身に覚えが無いが……」 「とぼけんじゃねぇ!」 その場に少し遅れて到着したはやての耳にも、その会話は届いていた。 「デジタルワールドでテメェと戦ってた途中でこんな処に飛ばされたんだ! お前以外に誰がやるってんだよ!」 「なっ……ちょっと、それどういう……」 「成程……お前は、決定的な勘違いをしているようだな」 「んだと!?」 はやての言葉を遮り、大の言葉を無視して巨人は進める。 「詳しく説明する義理は無いが一つ言っておこう。お前達がこの世界に飛んできたのは単なる偶然だ、ワシがやった事ではない」 「ふざけんな! そんな話、信用すると思ってんのか!」 「信用してもらおう等とは思っておらんよ」 巨人はふんと鼻を鳴らし、右掌に炎を出現させる。 「それともう一つ。お前と遊んでいる暇は無い」 無造作に右手を振り上げ、その炎を放つ。 咄嗟にシャイングレイモンが体を捻ってそれを回避し、はやても反射的に回避行動をとる。 「なっ!? いきなり攻撃やなんて……っ!?」 炎は完全に回避したが、それにより発生する熱風がはやての身に叩きつけられる。 バリアジャケットで防御している筈なのに、まるで直接肌を焼かれているかのような熱さだ。 もしも直撃をすれば、消し炭にすらならないであろう事は、明白だった。 「っ……んのぉ! 先に手ぇ出してきたんはそっちやで!」 攻撃を受けたのならば、正当防衛が成り立つ。 あの炎をもう一度放たれる前に、万が一にでも街へ被害が出る前にあの巨人を取り押さえねばなるまい。 はやてはシュベルトクロイツを掲げ、詠唱を開始する。 非殺傷設定、出力調整を行い、はやての足元に展開されるのは魔法陣。 周囲に浮かび上がる、四つの魔力球の狙いを巨人へ定める。 「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ」 本来、海上とはいえこんな場所で使用するような魔法では無い。 しかし緊急事態だ。あとで始末書を何枚でも書いてやる、と心の中で吐き捨て、放つ。 「フレースヴェルグ!」 闇夜を切り裂くように魔力が解き放たれ、閃光と如き砲撃が巨人を直撃する。 立て続けに四発。いくら非殺傷設でとはいえどもたたでは済まない一撃だ。 「ほぅ……」 「なっ!?」 しかし、爆発の中より現れたのは無傷でたたずむ巨人の姿。 その身を包むマントすら傷ついた様子もなく、平然と佇んでいる。 手加減をしての攻撃だったといえ、いくらなんでも無傷は、マントすら傷つかないのはあり得ない筈だ。 体格差も考え、威力もさほど押さえずに撃ち込んだと言うのに。 「この世界の人間は面白い技を使うな……聞いていた通りだ」 「無傷……そんなっ!?」 「はやて! どいてろぉ!」 巨人の側面より、轟音を立てながらシャイングレイモンが炎を纏った拳で殴りかかる。 その巨体に加速の勢いを乗せた一撃が繰り出されるも、巨人は難なくその拳を左手で受け止めた。 「ぐっ!?」 「ふん……人の話を聞かない連中だ」 そう言うなり、巨人は無造作にシャイングレイモンを放り投げる。 「ぬあっ!?」 空中へと投げ飛ばされるシャイングレイモン。 「おぉわぁっ!?」 「兄貴!?」 「危ない!」 その肩よりバランスを崩し、大が海面へと向かって落下する。 空を飛べる筈もなく、重力に従って墜ちていく大の真下へと移動し、両手を広げたはやてが全身を使ってそれを受け止める。 「っう!?」 人一人の体重と落下分の勢いが加算された衝撃がその身を貫くが、バリアジャケットの防御機能で持ちこたえる。 崩しかけたバランスもどうにか整え、大を両手で抱えたままはやては空中へと飛翔する。 「っぅ……大門君、大丈夫かいな?」 「あ、あぁ……助かったぜ。そっちこそ、大丈夫かよ?」 「私は平気。こう見えても結構丈夫なつもりやで」 「そっか……って、シャイングレイモンは!?」 直後、激しい激突音と共に海面に巨大な水柱が立ちのぼる。 それが、シャイングレイモンが海へと落下した為の物だと二人が気付くと共に、巨人が口を開いた。 「言った筈だ。お前達と遊んでいる暇は無いとな」 「てんめぇ!」 「ちょっ、落ち着きや!」 腕の中の大を抑えつけながら、はやては巨人へ問う。 「あんた……一体何者や?」 あきらかに余力を残した状態で圧倒された敵へ向ける物とは思えぬ程、強い意志の籠った瞳で睨みつける。 先程の一撃はやては巨人との実力差を感じ取っていた。しかし、だからどうしたと言うのだ。 この騒ぎで仲間達もすぐに駆けつけてくれるだろうし、何より管理局員の、部隊の隊長としての意地がある。 この程度の事で、敵に屈する事はあり得ない。 「ほぉぅ……」 その目に巨人は小さく、感心したように唸りながらも、小さく首を横に振る。 「答える必要は無い」 「何ぃ!?」 「今知らずとも、いずれ嫌でも知る事になる」 マントの奥、蒼く怪しく光る目を歪めながら巨人は言う。 背中の翼を広げ、ゆっくりとその巨体を舞いあがらせる。 「テメェ! 逃げんのか!」 「お前達とはいずれまた戦う事になろう……その時は、もう少し遊んでやる」 そうして、巨人はその巨体からは想像もつかぬ程の速度で夜空へと消えていった。 「んだとぉ!? 待ちがやれ、コラァ!」 「ちょっ! 暴れんな言うたやろ!? ええ加減にせんとバインドで縛るで!」 この後、はやてが大をバインドで拘束するまで五分と掛からなかったと言う。 「……以上が、現場よりの報告です」 地上本部、自身の執務室でオーリスが受け取った報告を聞きながら、レジアスは忌々しげに鼻を鳴らした。 機動六課……何度聞いても忌々しい名前だ。 本局所属の部隊が地上にて自由に活動している、と言うのは正直気に入らない。 クラナガンの、地上を守っているのは自分が率いる地上部隊だと言う誇りを汚されているような気分になる。 「解った……で、その竜人を連れた奴はそのまま六課が?」 「はい。身柄を保護するそうです」 「ふむ……」 報告の内容は、現場からとりあえずという形であがってきた物でお世辞にもまとまっているとは言い難いが、竜人を連れた青年の事は少々気になる。 突如出現したと言う巨人とも顔見知りであるような、敵対しているような言動を取ったのなら、ただものではない筈だ。 近いうちに、何らかの形での接触を試みるべきか、と思案する。 「あとで正式な報告書を提出させろ、明日の昼までにな」 「了解しました」 一礼して退室するオーリスの背を見送り、レジアスは背後にある窓より外を見やる。 クラナガンの街並みを一望できるこの場所は、公私ともに気に入っていた。 生まれ育ったこの街を自分が守っているのだと、そう改めて実感させてくれるからだ。 クラナガンを守っているのは、この自分だ。この街を守る為ならば、どんな事にでも手を染める覚悟ができる。 (何が起きようとも、好きにはさせんさ……) この街で、この世界で何かが起きようとしていると、長年の経験と直感が告げている。 だが、必ずその何かを叩き潰して見せよう。 自分の誇りと命に代えてでも。 機動六課隊舎前。 結局バインドで縛られ、半ば連行に近い状態の大と海より無事に飛び上がってきたシャイングレイモンを連れて、はやては帰還していた。 ふぅと一息つき、バリアジャケットを解除。光に包まれたそれが一瞬で元々彼女の身に着けていた管理局の制服へと変わる。 「服が変わった? 何だそれ、どうやったんだ?」 「ん? あぁ、まぁ後で色々説明するから……」 「主!」 「はやて!」 自分を呼ぶ声と駆け寄ってくる足音に、はやてが振り向くと二人の仲間がこちらに走ってきていた。 桜色の長髪をポニーテールに纏めた長身の少女と、二本の三つ編みに纏めた茶髪の幼い少女の二人、シグナムとヴィータだ。 「ご無事でしたか」 「怪我とかしてないよな?」 「うん、平気。怪我もなんもしとらんよ」 六課に所属する部下、仲間であると共に大切な家族である二人へと笑顔を見せ、安心させる。 「申し訳ありません。我々が動いていれば」 「いやいや、そんな謝られても困るて」 「まぁ、怪我無いならいいけど……後ろの、誰だ?」 ヴィータが目を向ける先……バインドで両腕を固定され、まるで手錠を掛けられた犯罪者のような格好の大と、跪いたシャイングレイモン。 もの凄く何かを言いたそうな眼で、無言で睨んでいるその顔は、少々怖い。 「あぁ……ごめんごめん、そろそろバインド解かんとな」 バインドを解除され、拘束を解かれた大は両腕を軽く振りながら愚痴る。 「やれやれ、やっと解いてくれたか……」 「それに関しちゃ自業自得。っと……落ち着いたところで、改めて自己紹介しとこか」 ゴホンとわざとらしく咳をして、はやては言葉を続ける。 「私は八神はやて。時空管理局古代遺物管理部機動六課隊長やってます、よろしく」 「じく……何だって?」 「時空管理局。知らんのかな?」 「全然聞いたことねぇ……て、まぁいいか」 色々と解らない事だらけ、と言うのは正直言って気に入らない。 だが、今は自分達を助けてくれた彼女への礼儀を果たすべきであろう。 大も一息置いて、改めての自己紹介を行う。 「俺は大。喧嘩番長の大門大だ、よろしくな。んで、コイツが……って、あれ?」 自分の次に、と後ろにいる筈のシャイングレイモンへ視線をやるとそこにあの巨体がいない。 一体どこにと思うよりも早く、聞こえてくるのは間の抜けた、聞き慣れた声だった。 「兄貴ぃ……ずっとバーストモードだったから腹減っちまったよぉ」 「なっ……アグモン、お前なぁ」 「……へ?」 はやては、訳が解らなかった。 確かさっきまでは、あの無骨な逞しさと太陽の如き炎を纏う巨大な竜人だった筈だ。 それが、いつの間にか見る影もない黄色い二足歩行のトカゲのような姿に変わっている。 いくらなんでも、とてつもない変わりようだった。 (フリードでもまだ面影あるんやけどなぁ……) 同じ部隊の少女が連れている、あの小さな子竜を思い出す。 あれはそのまま巨大化するような、そんな感じの変貌を遂げているが目の前のトカゲは違う。 なんというか、変身というレベルの変わりようではないか。 「……あ~、コイツはアグモンってんだ。俺の子分」 「よろしくなぁ……ところで何か喰わせてぇ……」 「あ、ぁぁ……うん。とりあえず、食堂いこか。シグナム、まだ開いてるよな?」 「え……えぇ、まだ大丈夫ですが」 目を回しながら空腹を訴える黄色い二足歩行のトカゲとは、何ともシュールな光景だろう。 恐らく二度とお目に描かれないであろう光景をシグナム、ヴィータと共に呆気にとられた様子で眺めつつ、はやては大とアグモンを連れて隊舎へと入っていく。 この出会いが、ミッドチルダ全域を、全次元世界を襲う事件へと発展するなど、今の彼女達には知る由も無かった。 [[目次>やまさん氏]] [[次へ>]]
喧嘩番長現る ミッドに迫る闇   夜の闇と静寂が支配する荒野で二つの影が戦っていた。 一方は赤い鎧を身に纏い、炎で出来た羽と剣、盾を持つ竜人。 もう一方は赤いマントで全身を覆った、悪魔を連想させる翼を持った巨人。 「あのマント野郎……結構やるじゃねぇか」 竜人の右肩、その上に立つ青年は巨人を正面から満足げな笑みを浮かべ睨み付ける。 この世界に来てから五年間、今回のように気性の荒い奴に襲われる事は多々あったが目の前にいる巨人ほどの強敵はいなかった。 自分の相棒、子分である竜人と共に戦いここまで苦戦したのは五年前に戦った聖騎士達、そしてこの世界の神と戦った時以来だろう。 「兄貴、どうする?」 視線を巨人に向けたまま、竜人が青年に話しかける。 巨人は散々自分達を苦しめた紅蓮の炎を右掌の上に燃やし、いつでも放てる体勢を整えている。 竜人の操る炎と互角かそれの威力を持つ巨人の炎……まともに喰らえばただでは済まないのは巨人の炎で吹き飛び、クレーターが出来上がった大地を見ればわかる。 それに、あの巨人はまだまだ余力を残しているであろう事を青年と竜人は直感的に悟っていた。 「どうするかって? へっ……決まってんだろ!」 竜人の問いかけに青年は笑みを浮かべる。 相手はまだ余力を残し、こちらは最初から全力で飛ばして苦戦している現状からして普通は逃げるべきかもしれない。 しかし、青年に逃げるつもりはない……相手が強ければ強いほど燃えてくると言う物だ。 竜人も最初から青年がそう答えるのは理解しており、両手に構える炎の剣と盾を大剣へと一体化させる。 「行くぜ、シャイングレイモン!」 「おぉっ!」 竜人、シャイングレイモンは大剣を振りかざし巨人へと正面から挑みかかる。 巨人は右手に燃やす炎をシャイングレイモンへと向け、放つ。 「フレイムインフェルノ!」 シャイングレイモンの炎の大剣、巨人の放つ紅蓮の炎。 二つの炎が正面から激突し、荒野一帯を爆発が包み込んだ。 同時刻、樹海の奥深くにその入り口を覗かせる洞窟の最深部でトーレは確保を指示された目標物を発見した。 紫色の毒々しい色をしたタマゴを両手で抱きかかえるように持ち上げ、後ろに控えていたセインが持っていたケースへと入れる。 「しっかし、こんな妙な世界にまで来てこんなタマゴを持ってこいなんて……ドクターは何考えてるんだろうね?」 セインはケースに入れられたタマゴを見やりながら生みの親であるドクター、ジェイル・スカリエッティの指示への疑問を口にする。 今いるこの世界は自分達はおろか、管理局すら存在を知らない未確認の世界。 5年前のある日に突然現れ、協力を申し出てきたあの男からの説明を受けねば知ることは無かっただろう。 「知らん。それに、今回の指示もドクターというより……あの男からの要請だぞ?」 「そうだよねぇ。あいつからの要請素直に聞くなんてドクターらしく無いって言うかさぁ……それで気になったんだけど」 「何か考えがあっての事だろう……あの男の目的はわからんが、何か物騒な連中を手駒に揃えているようだしな」 トーレの言葉にセインは顔を引きつらせ、「あいつ等かぁ」と小さく呟く。 今回の任務にはもう一人、水先案内人と言う形で同行している者がいた。 今は野暮用があると別行動中でこの場にはいないが……内心、セインはホッとしている。 「私、あいつ等苦手……っていうか嫌いだなぁ。何考えてるかわかんないし」 「ここで愚痴を言っても始まらんだろう……目的は達した、さっさと帰るぞ」 「りょーかい」 ケースをセインが抱きかかえ、二人は洞窟を後にする。 同行者との合流ポイントまで向かい、そこで元の世界へと帰還する。 二人が持ち帰ったタマゴが、後に自分達の目的とする計画に与える影響など二人はまだ知るよしもない。 レジアス・ゲイズは手に持っていた書類を軽く読み流した後、ゴミでも捨てるような仕草でデスクの上に置く。 内容は聖王教会の騎士カリム・グラシアの持つ稀少技能、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)による予言の内容。 半年から数年先の未来を詩文形式で書き出し、予言する能力。 「フン……くだらん」 大規模な事件や災害に関する予言の的中率が高く、聖王教会や次元航行部隊のトップも目を通す物。 しかし、レジアスは自身の稀少技能嫌いもあって好意的には見ていない。 本音を言えば読む前に処分したい所だが、重要書類扱いであるこれを気軽に処分する事など出来る筈も無い。 (この予言……まず間違いなくアイツの事か) 予言に書かれた内容……全てでは無いが、彼は察しがついていた。 旧い結晶と無限の欲望が交わる地 七つの大罪解き放たれ、王の翼は蘇る 悪夢は始まり、大地は終わらぬ蹂躙に汚れ果て やがて、王の翼は海を消し去り全てを闇へと還すだろう この予言の最初の文に書かれた旧い結晶は4年前かた度々発見されているロストロギア、レリック。 残りの部分はさっぱり解らないが、あの男が何か事を起こそうとしているように取れる内容だ。 「今の内に釘を刺すなりしておいた方がいいかもしれんな……」 普段なら気にも止めない所だが、内容の一部を下手に理解出来てしまった為に捨て置く訳にもいかない。 念の為、最高評議会の方にもそれとなく警戒するように伝えようとも思ったが……あの三人はあの男を自分達の手駒と信じ切っている。 伝えた所で「無用な心配だ」と言い返されるのが目に見えるようだ。 「言った所で無駄だな……」 予言が書かれた書類をファイルに閉じ、本棚に仕舞った所で乱暴にオフィスの扉が開かれる。 見ると、自分の秘書であり娘でもあるオーリスが荒くなった息を吐きながら開け放った扉に手をついていた。 普段から生真面目で優秀な秘書の娘が取るにしては乱暴な行動に、何かが起きたのだと察するのに時間はかからなかった。 「オーリス、何があった?」 「中将! 外を……空を見てください!」 言われるがままに後ろの窓から日が沈み、暗くなった空を見上げる。 普段なら夜空を彩る星が浮かぶ空……そこに、有り得ない光景が広がっていた。 「なっ……なんだ、あれは?」 レジアスの視界に映り込む物。 夜空に開いた穴と、その穴から出現する炎の翼と大剣を持つ竜人だった。 同時刻、八神はやては知人との食事を終えて帰路へついていた。 夢にまで見た自分の部隊、機動六課を立ち上げたばかりでまだ色々と忙しい時期故、最初は断るつもりだったのだがどうしても、と半ば強引に誘われてしまった。 どうも知人は連れてきていた管理局の重役に、自分の事を紹介したかったようだ。 (まぁ、コネが一個増えた思って前向きにとらえよか) その重役は決して良い男では無く、むしろ嫌いなタイプであったが、はやては前向きに思考を切り替える。 管理局のお偉いさんとのコネが出来たと思えば、この先色々と都合が良いかもしれない。 (……活用する気は無いけどな) などと心の中で毒づき、帰りのタクシーでも拾おうと駅前まで来た時であった。 何やら、街ゆく人々が一斉に空を見上げている。 「ん? なんや……何か……あ……った……って……?」 その光景に、はやては言葉を失った。 夜空を引き裂くように突如として開かれる大きな穴。 その中よりゆっくりと、炎の翼を持った巨大な何かが姿を現したのだ。 かなり上空にいるのか、姿ははっきりと見えないが、少なくとも鳥や飛行機の類では無い。 「ちょ……なんや、あれ」 何が起きているのかと呆気にとられ、茫然と空を見上げていると、不意に首から下げたデバイスから電子音が鳴り響く。 六課からの緊急通信の際になるアラームだ。用件は聞かずとも解るが、通信に出ない訳にはいかないだろう。 「はい、こちらはやてやけど……用件は空のあれ?」 『はい。突然クラナガン上空に出現した……恐らく、生物だと思われますが』 「せやろなぁ……」 『それと、微弱ながら空間の歪みも検知出来ます……恐らく、異世界の者かと』 映像は無く、音声だけの通信だが相手の……六課で自分の補佐をやっているグリフィス・ロウランの面喰ってる様子がリアルに想像できる。 普段から余り表情を崩さず、慌てない人物だけにその様子を是非とも見たかったが、流石にそう茶化す余裕もない。 『現在、こちらから動けるのはなのは隊長と……』 「あぁ……それより、ちょっと飛行許可だしてくれへん?」 『は?』 「いや、そっちからなのは隊長とか飛んでくるより早いやろし……っていうか、今現場の真下におるんよ」 『……えぇっ!?』 通信機の奥から聞こえてくる、普段のグリフィスからは想像もできない裏返った声。 本当に、どんな表情をしているのか見てみたかった。 「なんかえらい騒ぎになりかねんし、こういう場合はさっさと対応した方がええ」 『は……はぁ、しかし危険では……?』 「危険なのは誰がやっても一緒やって。一応、何があってもええようにそっちでも準備はしといてくれる? ほれ、さっさと許可出して」 『あ、はい。飛行許可、承認しました』 「了解。さて、ほないっちょ行ってきますか」 通信を切り、軽く準備運動のつもりで両肩をぐるりと回してからデバイスを手に持ち、起動させる。 「セットアップ」 全身が光に包まれ、一瞬で茶を基調とした管理局の制服から黒のアンダーと白のジャケット……自身のバリアジャケットを身に纏う。 右手に愛用の杖型デバイス、シュベルトクロイツを握り締め、背中から伸びる六枚の黒翼を羽ばたかせて飛翔し、一気に飛び上がる。 視界に捕えた巨大な何かは、出現した場所で静止して周囲を窺っているのか、目立った動きは見えない。 (すぐに襲われる……って、事は無さそうやけど) 相手が未知の存在である以上、油断はできない。 戦闘にでもなったら、自分も街もただでは済まないだろうと覚悟しつつ、相手を刺激せぬように対応しなければならない。 やがて、はやては目標の……太陽のように紅く燃える翼を持った竜人と、その肩に乗る青年の正面で静止した。 深呼吸し、相手との対話を始めようと口を開いた、その直後だった。 「うぉっ!? 人が空飛んでる!?」 「……は?」 青年のどこか間の抜けた、驚きの声が聞こえてきた。 彼は茶色がかった髪を後ろで軽く纏めた、黒地のノースリーブシャツの上にまた袖の無い赤い上着を着込んだ少年だった。 (歳は、私と同じぐらいかな……? 顔つきからして、日本人っぽい気もするけど……) 見た目からしてそう判断し、さっきの言葉からあまり悪い人でも無いんじゃないか、という妙な安心感すら抱いてしまう。 ハッとなって軽く頭を振って、やや鋭い目つきで少年を見やる。 油断しては駄目だ。見た目や口調で相手を判断するのは危険すぎる、と自分を戒めて再度口を開こうとしたら……。 「兄貴、空飛べる人間っているもんなんだな」 「あぁ、世界は広いっていうけどなぁ」 「……えぇっ!?」 思わず声が出た。 青年はともかく、まさかこの竜人まで人語を使用し、普通に喋れるなんて思ってもいなかった。 しかも、その言葉使いはかなり流暢で思わず感心してしまうレベルだ。 「しゃ、しゃ……喋った……?」 「ん? どうか、したのか?」 「えっ!? い、いや、何でも無いです」 おまけに心配までされた。 中々に気が効くと言うべきか、何と言うべきか。 (って、完全に出鼻くじかれてるやん私!?) 張りきって来てこれでは、何と言うか色々と立場が無い。 あまり空の上で話し込んでいる、と言うのも問題であるし、せめて場所を移すべきかもしれない。 「え、えっと……お二人さん?」 「「何だ?」」 「色々と聞きたい事あるんやけど……ええかな?」 「ん? あぁ、別に構わねぇ……っていうか、俺達も色々聞きたいし、な?」 「あぁ」 青年と竜人、やはり話が解るのか快く申し出に応じてくれた。 ほっと胸をなでおろし、はやては続ける。 「あと、何時までもここに追ったら色々と迷惑掛かるんで……場所移してもええかな? 案内するから」 「あぁ、それもそうか……下、これ街だよなぁ」 眼下の街を見下ろしながら、青年は頷く。 彼らとしても、何時までもこの場にいると言うのは本意では無かったようだ。 「それじゃ、私についてきてな」 「あぁ、行くぞシャイングレイモン」 「わかった、兄貴」 シャイングレイモンと呼ばれた竜人は青年の言葉に頷き、先を飛ぶはやての少し後ろにぴったりついて移動を開始する。 やはり、十五メートル近い巨体が空を飛ぶとなると少しばかり風が乱れるが、はやてが飛ぶのに支障が出る程度では無い。 むしろ、はやてが自身の飛行で巻き起こす風で吹き飛ばぬように遠慮しながら飛んでいるのではないか、とさえ思えるような飛び方だ。 (……流石に、考えすぎかなぁ?) いくらなんでもお人よしすぎないか、自分と心中で苦笑する。 相手が誰なのかも解らないのに、そうそう自分の都合の良いように捕えていい物か。 「大門大だ」 「へっ?」 突然、青年が口を開いた。 「俺は大門大だ。一応名乗っとこうと思ってな」 「あぁ……私は、八神はやて。よろしゅうな」 「おう。こいつは俺の子分、シャイングレイモンだ」 「よろしくな」 青年、大門大と共にシャイングレイモンも小さく頷く。 それを見て、はやては二人を交互に見やって、呟いた。 「……でっかい子分やなぁ」 それはあまりにも、あんまりすぎる意見であると共に、誰もがそう思うであろう感想であった。 「そんなにおっきいと一緒におるんも一苦労ちゃう?」 「いや、別にそんな事ねぇよ。普段からこんなにでけぇ訳でもないし」 「あれま、そうなんや」 機動六課所属の仲間に、竜を使役する召喚士の少女がいた事をはやては思い出す。 彼女の連れている竜のように、普段は力を封印して小柄な姿で行動する召喚獣もいると聞くから、シャイングレイモンもその手の類なのだろう。 最も、人語を喋る召喚獣なんて見た事も聞いた事も無いのだが。 (まぁ、魔法使ってる感じもなんかせぇへんしなぁ……) もし、シャイングレイモンの姿が召喚などの魔法による物なのであれば何らかの魔力を感じ取れる。 しかし、そんな気配は全く感じ取れない。 では一体何なのか、と思考を始めるもよく解らない。 (むぅ……) 好奇心が刺激され、今すぐにでも問いただしてみたいが、飛びながらするような話でも無い。 とりあえず誘導先である六課隊舎で、腰を落ち着けてゆっくりと聞くまで我慢しよう。 真下は海。ここを超えれば、後十分経たずに隊舎に到着するのだから。 『八神部隊長!』 「ん?」 緊急アラームと共に正面に通信ウィンドウが浮かび上がり、グリフィスの顔が映し出される。 何があったのか、非常に慌てている様子で焦りや驚愕が表情に見てとれる。 「うお!? なんだそれ!?」 「あぁ、ちょっと静かにしてくれる? で、グリフィス君、どないしたの?」 後ろから通信ウィンドウを興味深そうに覗き込む大を抑え、はやてはグリフィスへ向き直る。 『クラナガン上空にて、空間の歪みが発見されました!』 「なんやて!? 私が今連れて行ってる二人の時のとは違うんか!?」 『全く別の……新たな反応です! 現在の隊長達の位置からそう遠くな……で……さ……』 「ちょ、ちょっと!? グリフィス君!? グリフィス君!? ちょっと、どうなってんの!?」 突如、通信ウィンドウが歪み音声が途切れ始める。 やがては壊れたテレビのように砂嵐のような画像と耳障りな雑音が流れ、完全に通信が途絶えた。 舌打ちしてウィンドウを切り、イラついたようにはやては吐き捨てる。 「何がどうなってんねんなっ、ほんま!?」 「おい、どうしたんだよ?」 「んっ? あぁ、ちょっと厄介な事起きてるみたいでな……」 大へ適当に返事をしつつ、はやてはイラついた頭を冷やし、思案する。 空間の歪み、とグリフィスは言っていた。それはかなりの大事だ。 ほんの少しならともかく、その歪みが大きなものならば他の世界をも巻き込むほどの次元震を引き起こしかねない。 更に、他の次元世界と比べても圧倒的と言ってよいほど、空間が安定しているクラナガンでそれが二度も起きるなどふつうはあり得ない。 (誰かが、意図的に起こしたんか……それとも……) 「あれは……兄貴! はやて!」 「どうした!?」 「へっ!?」 はやての思案を遮る様に、シャイングレイモンが空の一点を見やりながら叫ぶ。 二人がそこに目を向けると、夜空を引き裂くように開かれた巨大な穴より、赤いマントの巨人が出現しようとしている、その瞬間であった。 背中より翼を伸ばし、天に向かって突き立つ二本の角を持った、十数メートルの巨体の赤いマントの怪物が。 「なっ……なんや……あれ……」 「兄貴、あいつは!」 「あぁ……間違いねぇ、ヤツだ!」 「二人とも、あれが何なのか知ってるんか!?」 はやての問いに二人は答えない。 ただ、ひたすらに敵意の籠った目であの巨人を睨みつけていた。 巨人は完全に出現を終えると共に、ゆっくりと周囲を見渡し、小さく唸る。 「ふぅむ……不味いな」 言葉の内容とは裏腹に酷く落ち着きはらった様子で、巨人は呟く。 目的の世界には移動できたが、出る場所が大きくズレてしまったのだ。 普段の巨人ならば、決してありえぬ失敗だった。 (まぁ、出てしまったものは仕方があるまい。今回ばかりは、どうにもならん) 少々空間移動を行う手順と状況に問題があった。 ただ、それだけの事と巨人は片付ける。 一度出てきてしまったのなら仕方が無い、さっさとこの場を立ち去ればよいだけの事だ。 そう考え、巨人がゆっくりと顔を向けると……。 「……ほぅ」 こちらへ真っ直ぐに飛んでくる竜人の姿が確認できた。 その肩に乗る人間と、すぐ後を追うように飛んでいる人間がもう一人。 「これは、珍しい処で出会う物だな」 自身の前で静止し、対峙する竜人……シャイングレイモンと大門大。 「……やれやれ、面倒な事になったものだ」 「何妙な事言ってやがる!?」 巨人の落ち着きはらった、それでいてどこか楽しげな口調に反し、大の声は怒気を含んでいた。 「テメェだろ! 俺達をこんな処に飛ばしたのは!」 「はて? 何の事かな? ワシには身に覚えが無いが……」 「とぼけんじゃねぇ!」 その場に少し遅れて到着したはやての耳にも、その会話は届いていた。 「デジタルワールドでテメェと戦ってた途中でこんな処に飛ばされたんだ! お前以外に誰がやるってんだよ!」 「なっ……ちょっと、それどういう……」 「成程……お前は、決定的な勘違いをしているようだな」 「んだと!?」 はやての言葉を遮り、大の言葉を無視して巨人は進める。 「詳しく説明する義理は無いが一つ言っておこう。お前達がこの世界に飛んできたのは単なる偶然だ、ワシがやった事ではない」 「ふざけんな! そんな話、信用すると思ってんのか!」 「信用してもらおう等とは思っておらんよ」 巨人はふんと鼻を鳴らし、右掌に炎を出現させる。 「それともう一つ。お前と遊んでいる暇は無い」 無造作に右手を振り上げ、その炎を放つ。 咄嗟にシャイングレイモンが体を捻ってそれを回避し、はやても反射的に回避行動をとる。 「なっ!? いきなり攻撃やなんて……っ!?」 炎は完全に回避したが、それにより発生する熱風がはやての身に叩きつけられる。 バリアジャケットで防御している筈なのに、まるで直接肌を焼かれているかのような熱さだ。 もしも直撃をすれば、消し炭にすらならないであろう事は、明白だった。 「っ……んのぉ! 先に手ぇ出してきたんはそっちやで!」 攻撃を受けたのならば、正当防衛が成り立つ。 あの炎をもう一度放たれる前に、万が一にでも街へ被害が出る前にあの巨人を取り押さえねばなるまい。 はやてはシュベルトクロイツを掲げ、詠唱を開始する。 非殺傷設定、出力調整を行い、はやての足元に展開されるのは魔法陣。 周囲に浮かび上がる、四つの魔力球の狙いを巨人へ定める。 「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ」 本来、海上とはいえこんな場所で使用するような魔法では無い。 しかし緊急事態だ。あとで始末書を何枚でも書いてやる、と心の中で吐き捨て、放つ。 「フレースヴェルグ!」 闇夜を切り裂くように魔力が解き放たれ、閃光と如き砲撃が巨人を直撃する。 立て続けに四発。いくら非殺傷設でとはいえどもたたでは済まない一撃だ。 「ほぅ……」 「なっ!?」 しかし、爆発の中より現れたのは無傷でたたずむ巨人の姿。 その身を包むマントすら傷ついた様子もなく、平然と佇んでいる。 手加減をしての攻撃だったといえ、いくらなんでも無傷は、マントすら傷つかないのはあり得ない筈だ。 体格差も考え、威力もさほど押さえずに撃ち込んだと言うのに。 「この世界の人間は面白い技を使うな……聞いていた通りだ」 「無傷……そんなっ!?」 「はやて! どいてろぉ!」 巨人の側面より、轟音を立てながらシャイングレイモンが炎を纏った拳で殴りかかる。 その巨体に加速の勢いを乗せた一撃が繰り出されるも、巨人は難なくその拳を左手で受け止めた。 「ぐっ!?」 「ふん……人の話を聞かない連中だ」 そう言うなり、巨人は無造作にシャイングレイモンを放り投げる。 「ぬあっ!?」 空中へと投げ飛ばされるシャイングレイモン。 「おぉわぁっ!?」 「兄貴!?」 「危ない!」 その肩よりバランスを崩し、大が海面へと向かって落下する。 空を飛べる筈もなく、重力に従って墜ちていく大の真下へと移動し、両手を広げたはやてが全身を使ってそれを受け止める。 「っう!?」 人一人の体重と落下分の勢いが加算された衝撃がその身を貫くが、バリアジャケットの防御機能で持ちこたえる。 崩しかけたバランスもどうにか整え、大を両手で抱えたままはやては空中へと飛翔する。 「っぅ……大門君、大丈夫かいな?」 「あ、あぁ……助かったぜ。そっちこそ、大丈夫かよ?」 「私は平気。こう見えても結構丈夫なつもりやで」 「そっか……って、シャイングレイモンは!?」 直後、激しい激突音と共に海面に巨大な水柱が立ちのぼる。 それが、シャイングレイモンが海へと落下した為の物だと二人が気付くと共に、巨人が口を開いた。 「言った筈だ。お前達と遊んでいる暇は無いとな」 「てんめぇ!」 「ちょっ、落ち着きや!」 腕の中の大を抑えつけながら、はやては巨人へ問う。 「あんた……一体何者や?」 あきらかに余力を残した状態で圧倒された敵へ向ける物とは思えぬ程、強い意志の籠った瞳で睨みつける。 先程の一撃はやては巨人との実力差を感じ取っていた。しかし、だからどうしたと言うのだ。 この騒ぎで仲間達もすぐに駆けつけてくれるだろうし、何より管理局員の、部隊の隊長としての意地がある。 この程度の事で、敵に屈する事はあり得ない。 「ほぉぅ……」 その目に巨人は小さく、感心したように唸りながらも、小さく首を横に振る。 「答える必要は無い」 「何ぃ!?」 「今知らずとも、いずれ嫌でも知る事になる」 マントの奥、蒼く怪しく光る目を歪めながら巨人は言う。 背中の翼を広げ、ゆっくりとその巨体を舞いあがらせる。 「テメェ! 逃げんのか!」 「お前達とはいずれまた戦う事になろう……その時は、もう少し遊んでやる」 そうして、巨人はその巨体からは想像もつかぬ程の速度で夜空へと消えていった。 「んだとぉ!? 待ちがやれ、コラァ!」 「ちょっ! 暴れんな言うたやろ!? ええ加減にせんとバインドで縛るで!」 この後、はやてが大をバインドで拘束するまで五分と掛からなかったと言う。 「……以上が、現場よりの報告です」 地上本部、自身の執務室でオーリスが受け取った報告を聞きながら、レジアスは忌々しげに鼻を鳴らした。 機動六課……何度聞いても忌々しい名前だ。 本局所属の部隊が地上にて自由に活動している、と言うのは正直気に入らない。 クラナガンの、地上を守っているのは自分が率いる地上部隊だと言う誇りを汚されているような気分になる。 「解った……で、その竜人を連れた奴はそのまま六課が?」 「はい。身柄を保護するそうです」 「ふむ……」 報告の内容は、現場からとりあえずという形であがってきた物でお世辞にもまとまっているとは言い難いが、竜人を連れた青年の事は少々気になる。 突如出現したと言う巨人とも顔見知りであるような、敵対しているような言動を取ったのなら、ただものではない筈だ。 近いうちに、何らかの形での接触を試みるべきか、と思案する。 「あとで正式な報告書を提出させろ、明日の昼までにな」 「了解しました」 一礼して退室するオーリスの背を見送り、レジアスは背後にある窓より外を見やる。 クラナガンの街並みを一望できるこの場所は、公私ともに気に入っていた。 生まれ育ったこの街を自分が守っているのだと、そう改めて実感させてくれるからだ。 クラナガンを守っているのは、この自分だ。この街を守る為ならば、どんな事にでも手を染める覚悟ができる。 (何が起きようとも、好きにはさせんさ……) この街で、この世界で何かが起きようとしていると、長年の経験と直感が告げている。 だが、必ずその何かを叩き潰して見せよう。 自分の誇りと命に代えてでも。 機動六課隊舎前。 結局バインドで縛られ、半ば連行に近い状態の大と海より無事に飛び上がってきたシャイングレイモンを連れて、はやては帰還していた。 ふぅと一息つき、バリアジャケットを解除。光に包まれたそれが一瞬で元々彼女の身に着けていた管理局の制服へと変わる。 「服が変わった? 何だそれ、どうやったんだ?」 「ん? あぁ、まぁ後で色々説明するから……」 「主!」 「はやて!」 自分を呼ぶ声と駆け寄ってくる足音に、はやてが振り向くと二人の仲間がこちらに走ってきていた。 桜色の長髪をポニーテールに纏めた長身の少女と、二本の三つ編みに纏めた茶髪の幼い少女の二人、シグナムとヴィータだ。 「ご無事でしたか」 「怪我とかしてないよな?」 「うん、平気。怪我もなんもしとらんよ」 六課に所属する部下、仲間であると共に大切な家族である二人へと笑顔を見せ、安心させる。 「申し訳ありません。我々が動いていれば」 「いやいや、そんな謝られても困るて」 「まぁ、怪我無いならいいけど……後ろの、誰だ?」 ヴィータが目を向ける先……バインドで両腕を固定され、まるで手錠を掛けられた犯罪者のような格好の大と、跪いたシャイングレイモン。 もの凄く何かを言いたそうな眼で、無言で睨んでいるその顔は、少々怖い。 「あぁ……ごめんごめん、そろそろバインド解かんとな」 バインドを解除され、拘束を解かれた大は両腕を軽く振りながら愚痴る。 「やれやれ、やっと解いてくれたか……」 「それに関しちゃ自業自得。っと……落ち着いたところで、改めて自己紹介しとこか」 ゴホンとわざとらしく咳をして、はやては言葉を続ける。 「私は八神はやて。時空管理局古代遺物管理部機動六課隊長やってます、よろしく」 「じく……何だって?」 「時空管理局。知らんのかな?」 「全然聞いたことねぇ……て、まぁいいか」 色々と解らない事だらけ、と言うのは正直言って気に入らない。 だが、今は自分達を助けてくれた彼女への礼儀を果たすべきであろう。 大も一息置いて、改めての自己紹介を行う。 「俺は大。喧嘩番長の大門大だ、よろしくな。んで、コイツが……って、あれ?」 自分の次に、と後ろにいる筈のシャイングレイモンへ視線をやるとそこにあの巨体がいない。 一体どこにと思うよりも早く、聞こえてくるのは間の抜けた、聞き慣れた声だった。 「兄貴ぃ……ずっとバーストモードだったから腹減っちまったよぉ」 「なっ……アグモン、お前なぁ」 「……へ?」 はやては、訳が解らなかった。 確かさっきまでは、あの無骨な逞しさと太陽の如き炎を纏う巨大な竜人だった筈だ。 それが、いつの間にか見る影もない黄色い二足歩行のトカゲのような姿に変わっている。 いくらなんでも、とてつもない変わりようだった。 (フリードでもまだ面影あるんやけどなぁ……) 同じ部隊の少女が連れている、あの小さな子竜を思い出す。 あれはそのまま巨大化するような、そんな感じの変貌を遂げているが目の前のトカゲは違う。 なんというか、変身というレベルの変わりようではないか。 「……あ~、コイツはアグモンってんだ。俺の子分」 「よろしくなぁ……ところで何か喰わせてぇ……」 「あ、ぁぁ……うん。とりあえず、食堂いこか。シグナム、まだ開いてるよな?」 「え……えぇ、まだ大丈夫ですが」 目を回しながら空腹を訴える黄色い二足歩行のトカゲとは、何ともシュールな光景だろう。 恐らく二度とお目に描かれないであろう光景をシグナム、ヴィータと共に呆気にとられた様子で眺めつつ、はやては大とアグモンを連れて隊舎へと入っていく。 この出会いが、ミッドチルダ全域を、全次元世界を襲う事件へと発展するなど、今の彼女達には知る由も無かった。 [[目次>やまさん氏]] [[次へ>魔法少女リリカルなのはSAVERS第二話]]

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