THE OPERATION LYRICAL_05

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ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL 第5話 ホテル・アグスタ防空戦 襲い来る鋼鉄の翼――立ち向かうのは、焦る銃士。 ユージア大陸北方、ノースポイント――。 ISAF空軍基地のパイロットたちの待機室では、二人のパイロットがポーカーをしていた。 「しっかし、メビウス1はどこに行ったんだろうねぇ」 手にしたカードを弄んでいるのは、先週から消息の途絶えたメビウス1の同僚、ヴァイパー6。 「五回目だ」 「あ?」 「今日その台詞を聞くのは」 カードをテーブルの上に置いて見せつけるのは"不死身の男"の異名を持つオメガ11。彼の見せたカードにはハートの四から八が並んでい た。いわゆるストレートフラッシュだ。 ヴァイパー6は露骨に舌打ちし、カードを放り出す。ハートとダイヤの二が二枚のワンペアでは話にならない。 「おい、ホントにイカサマしてないだろうな?さっきからお前ずっと勝ってるぞ」 「失礼な。悔やむなら自分の運の無さを悔やめ」 「この万年ベイルアウト野郎が」 口では文句を言いつつもヴァイパー6はカードを束ねて、慣れた手つきでシャッフルを始めた。 「……だが、確かに彼はどこに行ったんだろうな」 「気になるだろ? いきなり光に飲み込まれて…」 ヴァイパー6のシャッフルの合間に、オメガ11が口を開く。 それは要塞メガリスを撃破した帰り道、祝勝パーティーで誰が最初に飲み潰れるかを議論していた最中だった。 この時ばかりは私語を許したAWACSのスカイアイがレーダーに異変が起きていることに気づいた時、メビウス1のF-22は空中に発生した光 の中に突っ込んだ。 誰もが我が目を疑った。次の瞬間光は消えうせ、メビウス1の姿はどこにも無かった。 ISAF空軍総司令部はただちに周辺空域の調査、メビウス1の捜索をすると共に厳重な情報統制を行った。 この戦争を勝利に導いた英雄が行方不明になった―こんな話をエルジア残党軍が聞いたら、また活発な行動を繰り返すだろう。 とは言え、大々的な捜索では怪しまれる。行方不明の英雄を探しているのは演習の名目を背負った海軍の小規模な哨戒隊にヘリが数機だけ と言うのが現状だ。 だが、メビウス1の同僚たちは彼が死んだとは考えていなかった。ストーンヘンジも黄色中隊もメガリスも打ち破ってきた彼のことだ、き っとまたどこからともなくひょっこり帰ってくる―少なくともそう考えるようにしていた。 英雄の突然の行方不明を、死んだとは結論付けたくない。メビウス中隊全員の共通の願いであり考えだった。 「それに連動するように、各地のエルジア軍の兵器が一斉に消えたって話もあるな」 シャッフルを終えたヴァイパー6はカードを配りながら言う。 メビウス1が行方不明になってすぐ、終戦により解体や戦勝国による押収を待つエルジア空軍の戦闘機が消えると言う事件が起きた。 エルジア残党軍の仕業とも言われたが、メガリスが陥落してから彼らは沈黙を保っている。 「異世界にでも行ったんじゃないのか?」 「はぁ? どういう意味だ?」 カードを受け取ったオメガ11は、最近はまっていると言う漫画を見せた。海軍の最新鋭イージス艦が、六〇年前にタイムスリップすると 言う内容だ。 「……俺はこの本の作者は潜水艦の方が好きなんだ」 「それは残念だな」 オメガ11はつまらなさそうな顔で漫画を元の位置に戻し、自分のカードの組み合わせを確認するとすぐにヴァイパー6に見せつけた。 「フルハウスだ、また俺の勝ちだな」 自信たっぷりに言ってみせる―だが、ヴァイパー6はまるでこの瞬間を待っていたかのように不適に微笑んだ。 「何勘違いしてやがる…ここからは俺のターンだ。覚悟しろこのbailout野郎!」 テーブルにカードを叩きつける。ダイヤの十、ジャック、クイーン、キング、エースが揃っていた。ロイヤルストレートフラッシュ。 いきなりフルボッコにされたオメガ11は信じられないような表情を浮かべ、目をこすってみたり頬を抓ってみたりしてみたが、目の前の 事態が現実であることを認めざるおえないと判断した瞬間――行動に出た。 「Omega11,I'm ejecting! 」 必殺、オメガ11イジェクト。イジェクトと言っても座ってる椅子諸共射出された訳ではない。テーブルをひっくり返しただけだ。 「あああああああ、汚ぇ!!テメェ、この、万年ベイルアウト野郎!」 待機室に喧騒が響き渡る。今日もユージア大陸は平和だ。 ミッドチルダの首都クラナガン南東にあるホテル・アグスタ――。 周囲を森林に囲まれたこのホテルにて、骨董美術品のオークションが行われようとしていた。 オークションに出品される物の中にはロストロギアもある―ただし、いずれも管理局に許可を受けた危険性の無いものだ。 今回の機動六課の任務は、その警備だった。 「それで、俺はタキシードなんか着せられてるのね」 いつもの飛行服ではなく、タキシードに身を包んだメビウス1がぼやいた。 「いやぁ、よう似合ってるよメビウスさん。よ、色男!」 そう言ってメビウス1の肩を叩くのははやて。こちらも今日はドレスで着飾っていた。 「ホント、カッコいいですよ」 「映画の主人公みたいです」 はやてに続くのはなのはとフェイト。彼女たちも今回任務のためドレス姿だ。 映画の主人公って言うか俺元作品じゃホントに主人公なんだけどなー、なんてメビウス1はぼやいてみたりして、改めて三人揃った機動六 課の隊長格を眺める。 一応メビウス1もまだ若い男だ。美人が三人、ドレスで着飾っている姿を見るのは悪い気分ではない。任務ではあるが、彼女たちも「なの はちゃん綺麗やなー」とか「いやいや、はやてちゃんだって」とか「フェイトちゃんも更に美人になっとるでー」とか「ふふ、ありがとう」 とか言って和気藹々としている。 「ま、役得かな」 自然と表情が緩くなる。 高町、俺としては髪型はツインテールの方が好みだ。でも下ろしてるのも大人っぽくてGOODだ。 ハラウオン、お前自分が今振りまいてる色気自覚あるか?胸元見せつけちゃって。でも嫌いじゃないぜ。 八神、他の二人に比べて胸は小さいがドレスが身体にフィットしてるからな、ラインがいい味出してる。 この場に彼の同僚がいたら「メビウス1、てめぇー!」と飛び掛ってくるに違いない光景を眺めながら――いかんいかんと頭を振って気分を 切り替える。任務で来たのだ、美人を眺めに来たのではない。 「メビウス1」 「……っと、こちらメビウス1」 その時通信が入り、彼は懐から小型の通信機を取り出した。念話の出来ない彼にとっては必需品だ。 通信はヘリのパイロットのヴァイスからだった。 「あんたの言うとおり、ホテルから後方二〇キロの地点にF-22を輸送しておいた」 「助かる。それじゃあ機体の点検のため整備員を何名か残してこっちの屋上に来てくれ。何かあったらすぐ俺を運んでもらう」 「OKだ、交信終わり」 通信は途切れた。今回も戦闘機の出現が懸念されるため、彼は出来る限り近くにF-22を待機させておいた。 六課から離陸してホテル上空をCAP(戦闘空中哨戒)してもいいのだが、燃料を消費して給油のため戻っているところを襲撃されてはたまっ たものではない。戦闘機の爆音は来客者たちを不安にさせるというホテル側の意向もあった。 今、F-22はホテルから後方二〇キロの建設途中の高速道路にて待機している。 メビウス1は最初F-22と共に待機するつもりだったが、はやてが「現場では眼は一つでも多い方がええ」と言ったので今に至る。 ――とか言って八神、単に俺にタキシード着させたかっただけなんじゃ? 慣れないタキシードの感触にメビウス1は違和感を覚えながら、ホテルのオークション会場の確認を始めた。 六課の戦力はつくづく異常を通り越して無敵――。 以前から思っていたことだが、あのパイロットが加わってからはティアナはますますそう考えるようになった。 「八神部隊長がどんな裏業を使ったかは知らないけど――」 ホテルの駐車場で、辺りの状況や地理を把握しながらティアナは呟く。 隊長格全員がオーバーS、副隊長でもニアSランク、他の隊員たちだって、前線から管制官まで未来のエリートばかり。 彼女の脳裏で皆の顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。その中で、自分だけがひどく浮いている気がした。 あの歳でもうBランクを取ってるエリオ、竜召喚なんてレアスキル持ちのキャロ。危なっかしいけど潜在能力はとてつもないものを秘めて いて、優しい家族のバックアップもあるスバル。 同じ新人フォワード部隊のメンバー。だが、それでも自分の姿は浮いて見えた。 ――やっぱり、うちの部隊で凡人はあたしだけか。 「そして、いきなり現れた質量兵器のパイロット……」 今のところ彼女が最も気に食わない存在が脳裏に浮かび上がってきて、ティアナは表情をわずかに歪めた。 確かに、メビウス1の戦闘能力は凄まじい。愛機F-22の操縦桿を握らせれば、リミッター解除のなのはでも勝てるかどうか。 だがあれは紛れも無い質量兵器ではないか。ミサイルの推進方式を魔力に頼ったからと言っても彼女は納得いかなかった。 「いいわよ…私が証明してみせる。あんな奴いなくたって、私が……」 ぎゅっと拳を握り締めて、彼女は空を睨んだ。 戦闘機が来るならば、むしろ望むところ。自分の存在価値を証明し、質量兵器なんていらないことを明らかにするチャンスだ。 森の中、遠くのホテル・アグスタを眺める一人の男に一人の少女。 「あそこか」 男の名はゼスト・グランガイツと言う。ゼストは傍らに立つ少女―ルーテシア・アルピーノに視線を向けた。 「お前の探し物は、ここには無いのだろう?」 確認するように言ってみたが、ルーテシアのこちらを見上げる視線はそれを否定しているようだった。 「何か気になるのか?」 こくり、と彼女は頷く。ちょうどその時、一匹の小さな虫がルーテシアの元に寄り添うように飛んできた。 虫はルーテシアの指先に乗ると、足を器用に動かして彼女に何かを伝えた。 「ドクターのおもちゃが、近付いてきてるって」 か細い声で、ルーテシアはゼストに向かって言った。ドクターのおもちゃ――すなわち、ジェイル・スカリエッティのガジェットのことだ。 最近になってそのおもちゃには新しく異世界の質量兵器が加わった、とゼストは聞いた。 あいつが欲しがりそうな物だな――。 ゼストの脳裏に浮かぶのはかつての友人。優秀な魔導師を多く抱えた管理局の本局と違い、質量共に劣る装備で地上の平和を託された彼の ことだ。魔力資質が無くても並みの空戦魔導師を圧倒できるあの存在は喉から手が出るほど欲しいに違いない。 「――始まったか」 しばらくして、森の向こうで爆発と閃光が巻き起こる。管理局の魔導師とガジェットたちが戦闘を開始したのだろう。 だが、魔導師たちの技量がずば抜けて高いのか爆発と閃光は同じ場所でばかり起こっている。つまり、ガジェットたちは目標に向けて前進 できていないのだ。 そう時間はかからないうちにガジェットは全滅に追い込まれる。 ゼストがそう思った時、目前にディスプレイが出現した。映っていたのはドクターことスカリエッティ。 「ごきげんよう、騎士ゼスト。ルーテシア」 「ごきげんよう」 「……何のようだ?」 毅然とした態度を崩さず、ゼストは言ってのける。彼は正直、スカリエッティのことは信用できなかった。協力しているのも単に利害関係 が一致しているからで、レリックが関わっていないのなら互いに不可侵を決めている。 「冷たいね……近くで状況を見ているんだろう? あのホテルにレリックはないが、実験材料として興味深いものがあるんだ」 ――要するにそれを確保して欲しい、と言うことか。 スカリエッティの思考を読んだゼストは、 「断る」 と短く言い放った。相手も分かった上で言ってきたのだろう、わざわざ理由を説明してやるまでも無い。 「……ルーテシアはどうだい?頼まれてくれるかな?」 スカリエッティは大して気分を害した様子も無く、今度はルーテシアに訊ねた。 「いいよ」 「優しいなぁ……今度お茶とお菓子をおごらせてくれ」 スカリエッティは笑顔を浮かべ、しかしどこか冷たさの入り混じった声で言った。 直後、ルーテシアのグローブ状のデバイス"アスクレピオス"にこのマッドサイエンティストの欲しがっている物のデータが送り込まれた。 そうしてスカリエッティに「ごきげんよう」と別れを告げたルーテシアは羽織っていたローブを脱ぐ。 「……いいのか?」 ローブを受け取ったゼストが表情は崩さず、しかし彼なりに心配してくれた。 「ゼストやアギトはドクターのこと嫌うけど――私はドクターのこと、そんなに嫌いじゃないから……」 「……そうか」 全ては、母のため。 あの狂気の科学者はそう言って、こんな少女さえ血生臭い戦いに引きずり込んでいる。 だが彼女は彼のことを「嫌いじゃない」と言った。それは彼が自身の母親に何をしたのか知らないだけなのか―それとも、知った上での言 葉なのか。 ルーテシアは両手を広げて、近代ベルカ式の魔法陣を展開。 いくらかの詠唱を終えて、彼女は両手を合わせる。 「――召喚、インゼクト」 魔法陣から現れたのは先ほど伝令役を務めた虫と同じ型のもの。それらが複数、苦戦するガジェットたちに群がって行く―。 「っく――」 突然動きが鋭くなったガジェットのレーザー攻撃、烈火の将ことシグナムはそれを古代ベルカ式の防御魔法"パンツァーシルト"で弾く。 さっきの召喚魔法の反応と、何か関係がある――? 愛剣レヴァンティンを構え直し、シグナムはいや、と思考を振り払った。 「余計な事を考える暇は無い――はぁっ!」 跳ね上がり、大型のガジェットⅢ型に向かってレヴァンティンを振るう。二本のアームで受け止められたが、この程度は予測済みだ。 レヴァンティンを絡めとられて動きを封じられる前に、ガジェットⅢ型の装甲を蹴って後退。ぐっと地面を踏み込んで目にも止まらぬ速さ で突進、レヴァンティンの刃先をガジェットⅢ型に突き立てる。 正面から串刺しにされたガジェットⅢ型は断末魔のようにカメラを点滅させ、息絶えた。 「シグナム、下がれ!」 上空で援護射撃をしていたヴィータから警告。咄嗟にシグナムはバックステップで後退。直後、ほんの数瞬前まで自分がいた位置にガジェ ットⅠ型のレーザーが叩き込まれる。 「ぶち抜けぇ!」 ヴィータはシグナムに不意の一撃を浴びせようとしたガジェットⅠ型に鉄球、"シュワルベフリーゲン"を放つ。 だが、ガジェットⅠ型はその外見からは思いもよらない軽快な機動でシュワルベフリーゲンを回避。 「っち――さっきから動きがよくなってる」 「無人機の動きではない……明らかに何者かが操っている」 レーザー攻撃を潜り抜けてきたシグナムが、ヴィータの傍らまで後退してきた。 「……よし、ヴィータ。防衛ラインまで下がって新人たちの援護だ。召喚師がいるなら、回り込まれる可能性がある」 「分かった――え?」 「ちょっと待って、二人とも!」 突然会話に乱入してきたのは現場指揮を担当しているシャマル。緊迫した様子なのを見ると、どうやら何かあったようだ。 「どうした、シャマル?」 「厄介なのが近付いてきたわ」 「――ああ、今聞こえてきた」 ヴィータが苦虫を噛み潰したような表情で空を見上げた。 よく晴れた青空に、突然響きだした雷のような轟音。間違いなく、ジェットエンジンの音だ。 「……来るぞ!」 シグナムの叫び。二人はただちに回避機動に入った。 青空の向こうから、四つの飛行機雲がこちらに伸びてきているのが見える。飛行機雲の群れは二つずつに分散し、それぞれシグナムとヴィー タに向かって突っ込んできた。 「――戦闘機!」 先のリニアレールの戦闘からその存在を聞かされた質量兵器。シグナムに襲い掛かってきたのは、タイフーンと呼ばれる機動性に秀でた機 体だ。それがヴィータを追う分も含めて合計四機。 タイフーンの主翼下から短距離空対空ミサイル、IRST-Tが発射された。烈火の将に赤外線誘導のミサイルとは、なんとも皮肉だ。 IRST-Tはまっすぐシグナムに迫る―だが、戦闘機のパイロットに勝るとも劣らないシグナムの眼は確実にIRST-Tを捉えていた。 「ふん!」 レヴァンティンを振り抜き、衝撃波を打ち出す。シュトゥルムヴィンデ、かつてフェイトと対峙した時に使った技だ。 衝撃をもろに浴びたIRST-Tは全身を捻じ曲げられ、爆発。しかしタイフーンは続いてBK-27二七ミリ機関砲を撃ち込んで来る。 ぐ、と彼女は表情を曲げてパンツァーシルトを展開させ、二七ミリ弾の雨を耐え抜く。 反撃するべくレヴァンティンを構えるが、もう一機がまた機関砲を撃ち放ってきてそれを妨害。牽制のための適当な射撃だったので当たるこ とはなかったが、攻撃を仕掛けてきた一機は悠々と上昇して行く。 「こいつら――連携が絶妙だ。火力も機動力も……」 下には動きのよくなったガジェット、上にはタイフーン。とても新人たちの防衛ラインに増援を送る余裕など、無かった。 「ちっくしょー! どうにもならねぇのか!」 シュワルベフリーゲンを乱射しながらタイフーンと対峙するヴィータが叫ぶ。だが、タイフーンはそれを嘲笑うかのように華麗な空戦機動 で回避、回避、次いで攻撃。機関砲弾が飛び交い、それらを彼女はどうにか避ける。 「ザフィーラ……そっちは!?」 「無理だ! ガジェットたちが集中砲火をかけてきている!」 少し離れたところで同じくガジェットと交戦していた守護獣ことザフィーラは、シグナムとヴィータがタイフーンの攻撃に晒されているた め、ガジェットたちの猛攻を一手で引き受けていた。これでは防衛ラインまで下がれるはずもない。 まずい――そんな言葉がヴォルケンリッターズの脳裏によぎる。 だが、次の瞬間――はるか上空から、突如として一機の鋼鉄の翼が舞い下りて来た。 「こちらメビウス1――遅れてすまん!」 戦闘機出現の報告を受けたメビウス1のF-22はようやく戦闘空域に到着。状況は思わしくなく、タイフーン四機のおかげでシグナム、ヴィー タが追い回されてその隙にガジェットたちが一斉に前進。それをザフィーラがかろうじて止めている。 「メビウス1、戦闘機を落としてください! そうすればシグナムたちがザフィーラの援護に回れます!」 「了解――メビウス1、交戦!」 シャマルの指示を受けて、メビウス1はウエポン・システムをオンに。エンジン・スロットルレバーを叩き込んでアフターバーナー点火、 まずはヴィータを狙うタイフーンの二機編隊に挑む。 主翼に描かれている国籍マークは――やはり、エルジア空軍のものだ。 「ヴィータ、上昇しろ!」 「メビウス1か!? 分かった、上昇だな!」 通信機を通じてヴィータに上昇するよう指示。彼女が勢いよく上昇するとタイフーンはそれを追いかける。 かかった――! ヴィータを追い掛け回すのに夢中になっていたタイフーンはメビウス1の接近に気付かず、無防備な背中を曝け出している。 パネルを操作して兵装、AIM-120AMRAAMを選択。レーダー、ロックオン。 ようやくタイフーンはロックオンされたことに気付き、回避機動を取るがすでに遅かった。 「フォックス3、フォックス3」 ミサイル発射ボタンを連打。胴体下のウエポン・ベイからAIM-120が二発、発射された。 魔力推進の証である白い光跡を描きながらAIM-120はタイフーンに急接近。タイフーンはレーダー波を撹乱させるアルミ片のチャフをばら撒 くものの、タイミングが遅れて二機とも直撃を浴びた。胴体を真っ二つにされた敵機二機はパイロットを射出しないまま落ちて行く。 「サンキュー、助かったぜメビウス1! んじゃ、あたしはザフィーラの援護に行く!」 「了解、グッドラック」 ヴィータは手を振ってメビウス1に礼を言って、ザフィーラの元に向かう。それを見送ったメビウス1は次なる目標、シグナムを追うタイ フーンに狙いを定める。 ――あれだな。 機体を軽く左に傾けると、眼下でタイフーンがシグナムを囲むようにして飛んでいた。まるで猟犬に追い詰められた狐のようだった。 AIM-120は―駄目だ、近すぎる。爆風と破片でシグナムにまで被害が及ぶ。 兵装を素早くM61A2二〇ミリ機関砲に変更。通信機でシグナムに呼びかけた。 「シグナム、聞こえるな? 三秒後に援護射撃する、その隙に離脱しろ!」 「その声は……メビウスか。了解した!」 メビウス1は操縦桿を突いて機体の機首を下げる。急降下、敵機との距離は一気に縮まり、機関砲の射程内に。 照準を合わせる必要は無い。要はタイフーンの注意を逸らすだけでいいのだ。メビウス1は引き金を引き、適当に二〇ミリ弾を一〇〇発ほ ど一機のタイフーンに向かって浴びせた。寸前で気付いたタイフーンは急上昇、ほとんど垂直に近い角度に機首を向け機関砲弾を回避。 だがその隙にシグナムは離脱に成功する。 「散々やってくれたな――礼をさせてもらう」 レヴァンティンをシュランゲフォルムに。鞭のように伸びる連結剣はトリッキーな動きでタイフーンを混乱させ、ついに一機を捉える。 刀身がタイフーンの特徴的なカナード翼を切り裂き、主翼すらも食いちぎる。翼をもがれたタイフーンはぐるぐると回転しながら地面へと 落ちていった。 やるなぁ、さすがライトニング分隊の副隊長――。 頭の片隅で新鋭機の部類に入るタイフーンを撃墜したシグナムに感嘆しながら、メビウス1は残り一機のタイフーンを追いかける。 敵機は右、左と交互に旋回してなんとかメビウス1のF-22を振り切ろうとするが、機動がパターン化してしまっていた。 タイフーンの後を追って追従旋回していたメビウス1は途中で操縦桿を捻りロール、タイフーンは右旋回から左旋回に切り替えて、F-22の 真正面に躍り出てしまう。メビウス1に未来位置を先読みされたのだ。 レーダーロックオン。躊躇することなく、メビウス1はミサイル発射ボタンを押す。 「メビウス1、フォックス3」 胴体下のウエポン・ベイからAIM-120を発射。一気に加速したAIM-120は最短距離でタイフーンに接近し、命中。特徴的なデルタ翼を吹き飛 ばされたタイフーンは空中分解しながら落ちていった。 「スプラッシュ3……よし、敵戦闘機は全て蹴散らしたぞ」 「感謝する。私はザフィーラの援護に向かうが……シャマル、メビウス1はどうする?」 ひとまず全ての敵機を撃墜したため、シグナムはシャマルに指示を仰いだ。 「シグナムはそのままザフィーラの援護に。メビウスさんはとりあえず待機しておいて、もう来ないとは言い切れないから」 「メビウス1、了解……じゃあ気をつけてな、シグナム」 「言われるまでも無い」 不適に微笑んで見せて、シグナムは森の中へ降下して行く。これでガジェットたちもこれ以上前進は出来なくなるだろう。 メビウス1としてはガジェット攻撃に参加したいところだが、対地攻撃可能な兵装は機関砲のみ。低空へ降りて弾をばら撒くのは効果は絶 大だが同じくらいの危険も――例えば地面への激突、対空射撃による被弾―あり得る。 高みの見物しかないか――。 酸素マスクの中でため息を吐くと、シャマルから通信が入った。 「メビウス1、大変です!」 「どうした?」 「ホテル・アグスタに敵機接近、あと八分で上空に到達します!」 「何? だがレーダーには何も……そうか、ステルスか!」 この世界に来てから非ステルス機ばかり相手にしていたせいか、すっかり失念していた。自分の機体もステルス戦闘機なのだ。相手が使っ ていても何ら不思議ではない。 「シャマル、この際だから許可は後回しだ!音速巡航を使う!」 「了解……やむを得ませんね」 機首をホテル・アグスタの方向に向けて、アフターバーナー点火。F119エンジンが咆哮を上げ、F-22は音速を突破する。 地上に被害が及ぶ可能性があることから、普段は音速飛行は禁止されていた。それほどにまで音速の衝撃波は凄まじい。だが、規則に縛ら れてより甚大な被害が出るならやむを得ない。 「間に合えよ、くそ!」 猛然と加速したF-22のコクピットで、メビウス1は焦燥に駆られていた。 その頃、ホテル・アグスタの最終防衛ラインでは新人フォワード部隊が展開し、転送魔法によって出現したガジェットたちと対峙していた。 「迎撃、行くわよ!」 『おう!』 指揮を務めるティアナの声に、スバル、エリオ、キャロが応える。 ――今までと同じ。証明すればいいんだ。 クロス・ミラージュを構えて、ティアナは思いを馳せる。 ――自分の勇気と能力を証明して、あたしはいつだって、そうやってきた! 魔法陣が彼女の足元に浮かび上がる。ガジェットたちがまるでティアナの戦意に応えるように襲い掛かってきた。 「はぁぁあああ……!」 両手に持ったクロス・ミラージュをガジェットに向けて連射。魔力弾を浴びたガジェットは内部爆発を起こすが、他のガジェットがレーザ ー 攻撃を放ってくる。 「!」 身を屈めて回避。お返しに二発ほど撃ち返すが、ガジェットも急機動で避けてみせた。 「スバル!」 だが、それは彼女にとって予測の範囲内だ。新人たちの中で突っ込ませたら右に出るものはいないスバルに指示を出す。 「了解! うぉおおおお!」 ウイングロードを渡って上空からスバルがガジェットに突撃を敢行。右手のリボルバーナックルに魔力を収縮、ガジェットを直接ぶん殴る ナックルダスター。側面から思い切り叩きつけられたガジェットは5メートルほど周りのガジェットたちを巻き込みながら飛び、爆発。 残りのガジェットたちが仇討ちとばかりにレーザー攻撃をスバルに放とうとするが、これもティアナの予測の内。クロス・ミラージュを構 え魔力弾を連射。直撃弾を浴びたガジェットは大破し、そうでなくてもスバルを取り逃がしてしまった。 「……スターズF、聞こえる!?」 その時、突然シャマルから念話による通信が入った。 「こちらスターズ4!」 「気をつけて、そっちに戦闘機が近付いているわ!今メビウス1が援護に急行してるから、それまでなんとか持ちこたえて!」 「戦闘機!?」 ええい、ガジェットだけでも忙しいのに――! ティアナはクロス・ミラージュの銃身を交換して魔力弾を補給すると、エリオとキャロに指示を下す。 「エリオ、キャロ!ガジェットの相手をお願い!残りは少ないけど、油断しないように!」 「は、はい……っ」 「ティアナさんと、スバルさんは?」 「戦闘機が来るそうよ。あたしたちはそっちの相手をする……頼んだわよ。スバル、戦闘機の迎撃!」 「おう!」 二組に分かれたフォワード部隊はそれぞれの敵へと向かう。エリオ、キャロはガジェットと交戦。残っているのはⅠ型ばかりで数も少ない。 エリオたちの実力なら大丈夫だとティアナは判断した。 ティアナ、スバルは予想される敵戦闘機の進路に立って迎撃。シャマルの指示は"持ちこたえる"だったので無理に迎撃することも無いかも しれないが、ティアナは守ってばかりではいけないと判断した。 ――守りに入って素通りされて、ホテルを爆撃されたら洒落にならないわ。 間もなく、空の向こうから轟音が聞こえてきた。忌々しい質量兵器のジェットエンジンの咆哮だ。 「スバル、敵機が射程内に入ったらクロスシュートA、行くわよ!」 「了解……って、もうそこまで来てる!?」 「え!?」 見上げれば、二機の黒い歪な形をした戦闘機が正面から来る。確か九七管理外世界の資料にあった、史上初のステルス戦闘機であるF-117だ。 ステルス戦闘機とは言っても、F-117は攻撃機としての性格が強い。敵に気付かれること無く接近し、重要施設に爆弾を放り込むのが主な任務 のはずだ。 急行すると言ってのにF-22の姿はまだ見えない。 「……援護をアテになんかしていられないわ。スバル、突っ込んで!」 「分かった!」 ティアナに言われるがまま、スバルはウイングロードの上を猛然と加速しF-117の二機編隊に突っ込む。 F-117は編隊を解いて回避するが、その動きは鈍い。F-22と違って、まだステルスと言う概念が生まれたばかりの頃に開発されたF-117は機動 性を犠牲にしてステルス性を確保しているのだ。 もちろんティアナがそこまでの事情を知っているはずも無い。ただ動きが予想以上に鈍いのは助かった。 カートリッジ・リロード。同時に四発のリロードは身体にもデバイスにも大きな負担だったが、ここで手を抜く訳には行かない。 「証明してみせる――すごい魔力なんか無くても、一流の隊長たちの部隊でも、質量兵器なんか無くても」 クロス・ミラージュを構える。上空ではF-117がスバルにキリキリ舞いをさせられていたが、撃墜するには至っていないようだ。 「ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって――!」 彼女の周りに魔力弾が浮かび上がる。目標の敵機は射程内だ。 「クロスファイアー……シュート!」 腕を振り下ろす。周囲に浮かんでいた魔力弾が一斉に飛び出し、F-117の編隊に襲い掛かる。 一機のF-117が避けきれず魔力弾を食らい、ガクンと速度を落とす。そこに他の魔力弾が集中し、その歪な形をした機体を引き裂いて行く。 爆発。魔力弾で全身を傷だらけにされたF-117は空中に散る。 「はぁああああああ!!」 残り一機に向けて、魔力弾を乱射。F-117は乏しい機動力を精一杯使って回避するも、やがて力尽きたように魔力弾を浴び、火災を起こした。 だが、火の鳥と化したF-117はここで思わぬ行動を見せた。最後の力を振り絞って機首をこちらに突っ込んできた。 「特攻!? そんな冗談……」 勘弁して、とさらに魔力弾を撃ち続けるが、F-117は落ちない。まるで怨念の塊になったようだ。 「ティア、逃げて!」 スバルの叫びが聞こえて、ようやくティアナはこれ以上は無理と悟り逃げようとするが、間に合わないのは確実だった。 たまらず恐怖で悲鳴を上げそうになる――まさにその瞬間、いつかの時と同じようにF-117の側面に矢のような物体が突っ込んできた。 矢を食らったF-117はその場で爆発。爆風と破片がティアナに襲い掛かってきたが、思い切り正面にダイブしてかろうじて避けた。 見上げると、リボンのマークをつけたF-22が頭上を飛びぬけて行く――あの時と、まったく同じだった。 「こちらメビウス1、聞こえるかスターズ4?生きているなら返事してくれ」 「……おかげさまで、生きてます」 身体にかかった砂を払い落としながら、ティアナは憮然とした声で念話を送った。 ――また、助けられた。 [[戻る>THE OPERATION LYRICAL_04]] [[目次>T-2改氏]] [[次へ>THE OPERATION LYRICAL_06]]

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