LYLICAL RIDER WARS_02前編

決して、今回が初めてではなかったのだ。その夢を見るのは。
視界を埋める何もない荒野の最中で、彼は一人佇んでいる。
そう、何もないはずなのだ。足を踏み出すが、特に行き先は決まっていない歩みである。見渡す限りの地平線、目標などどこにもないし見当たらない。
それでも彼は歩き続けた。もちろん、明確な目的や成すべきことが分かった訳ではない。このまま一人佇んでいても、どこか居心地が悪いだけだ。
おや、と唐突に表情を変える。緑色をした瞳が、何もなかったはずの荒野に蠢く何かを見出したのだ。
興味は、あった。蠢くそれは遠目には人のように見え、彼の好奇心を誘う。こんな何もない場所で、何をしているのだろうと。
もっとも、同じ疑問を相手も持っている可能性は充分にある。聞かれたらどう答えるべきか思考を巡らせながら、歩みを進めた。
距離が縮まるに連れて、対象が何者なのか概ね察しがついた。人間だ。若い男、おそらくは二十歳もそこそこだろう。首からぶら下げた二眼レフのカメラだけが、唯一の持ち
物らしい。
彼は、若い男に声をかけようとした。向こうはこちらの存在に気付いていないらしく、振り向いてもらうにはそうするしかなかった。

「――!」

開きかけた口が、言葉を発せなくなった。そのまま息を呑んで、彼は歩みを止める。
どこからかは分からない。いつ現れたのかも分からない。本当にいつの間にか、地平線の向こうにいる男の周囲を、明らかに人間とは異なる生物が取り囲んでいた。二本足で
立っているのは間違いないが、どいつもこいつも人の形をしていない。それぞれ特徴はあるようだが、共通していることがある。殺意。敵意。彼らは本能の赴くまま、闘争本
能を露にしていた。標的は、カメラを持った若い男。
大変だ、と口走る。事情はさっぱり不明だが、異形の怪物たちに男は狙われているのだ。助けなければ、と駆け出そうとした。夢の世界でも魔法が使えるかどうかは分からな
いが、身体はもう前に出てしまっている。
その間にも怪人たちはそれぞれ雄叫びを上げ、地を蹴り男に襲い掛からんとする。だと言うのに、男の顔はいつまで経っても変化がなかった――否。ニヤリと一瞬、不敵な笑
みで口元が歪む。それまでこちらの存在に気付いていなかったのかと思いきや、男の視線は確かに彼を捉えていた。
男の口が動く。なんと言ったのかは聞こえなかったが、意味を読み取ることは出来た。すなわち、よく見ておけ、と。そのまま、男は一枚のカードを取り出した。大きな白い
バックルに、それを差し込む。

<<KAMEN RIDE DECADE>>

果たしてそれが何を意味していたのか、彼には分からない。ただ、いくつもの影が男の身体に重なり、姿を大きく変えてしまっていることだけは理解できた。
男の身体は、人ではなくなっていた。マゼンタを基調にした装甲を身に纏い、緑色の大きな複眼で襲い来る怪人たちを眺める。パンパンッと手を叩き、戦闘態勢へ。
マゼンタの男は左腰にぶら下げていた、四角い銀の箱を持ち出す。鋭利な刃が姿を見せた。刀身を撫でて、敵に向かって振り抜く。
斬撃音。異形の怪物たちは火花を散らし、大きくよろめいた。反撃に備えて構える男、その背中に別の怪人が飛び掛る。男は、軽々と反応してみせた。ハッと短い雄叫びと共
に剣を振り抜き、返り討ち。怯む怪人に向けてキックを叩き込み、無理やり距離を開かせる。
怪人たちに、隙が生じた。男は逃さず、剣となっていた銀の箱を腰に戻し、カードを取り出す。
傍観者となっていた彼には、目の前の事態をただただ見守ることしか出来なかった。たった一人なのにこのマゼンタの男は、襲いかかる怪人たちを軽々とあしらってみせた。
そればかりか、男はカードを持ち出す度、相手によって姿をまったく別物に変えた。

<<KAMEN RIDE KUUGA>>

ある時は炎のように赤い鎧を身に纏い。

<<KAMEN RIDE AGITΩ>>

ある時は神のような金色の姿に身を変えて。

<<KAMEN RIDE RYUKI>>

ある時は龍のようで、それでいて騎士のような姿となって。

<<KAMEN RIDE 555>>

ある時は赤い閃光を放つ、機械のような身体となり。

<<KAMEN RIDE BLADE>>

ある時は文字通り剣の如く、銀と青の鎧で戦いに臨み。

<<KAMEN RIDE HIBIKI>>

ある時は鬼の姿を借りて、清めの音を叩き込み。

<<KAMEN RIDE KABUTO>>

ある時は昆虫のような姿となって、超高速の世界へ飛び込み。

<<KAMEN RIDE DEN-O>>

ある時は昔話のヒーローたちのように、敵を懲らしめ。

<<KAMEN RIDE KIVA>>

ある時は吸血鬼の如く、怪人へと襲い掛かり。
全ての敵を薙ぎ払い、それでもなお足掻く怪人たちに向けて、いくつもの姿を経てマゼンタに戻った男は一枚、カードを掲げる。

<<FINAL ATACK RIDE DE DE DE DECADE>>

光の壁が連なり、一つの道のようになって怪人たちに繋がっていく。男は短い雄叫びと共に大きく跳躍、右足を前へと突き出し、一気に敵へ目掛けて急降下。光の壁、男の頭
部を模した紋章を貫く度に速度が増し、それが力となって繰り出されたキックは光り輝く。
ドンッと、大気をも振るわせる轟音。回避も防御もままならなかった怪人たちは男のキックの直撃を浴び、まとめて吹き飛ばされる。大地をゴロゴロと転がったかと思うと、爆
散。肉片一つ残さず、異形の怪物たちは無に帰った。
呆然と、彼はその光景を眺めることしか出来なかった。理解不能な事態の連続、必死に理解しようと努めていると、ようやくマゼンタの男はまともに、こちらに振り向いた。バッ
クルを開くと、身に纏っていた装甲は消えうせ、元の二眼レフカメラを持った青年が姿を見せる。
君は、いったい何者だい? 気付いた時には、彼は男に向けて声をかけていた。複雑に絡み合う思考の中、もっとも優先すべき質問はそれだったからだ。
男は、と言うと――すぐには答えなかった。無言のままにバックルを外し、まるで手渡すように彼へと差し出してきた。訳も分からないまま、とにかく受け取る。
これは? 疑念に満ちた視線を向けるが、やはり男は答えない。ただ一言、俺は、と最初に投げかけられた質問にだけ答えた。

「俺は、通りすがりの――」




EPISODE02:ユーノ編 前編



「司書長――司書長、起きて下さい」

ハッと、まどろみの奥から意識を引きずり出される。ヘリの機内、どうやら居眠りをしてしまっていたらしい。見れば、ぼやけた視界の向こうでパイロットが操縦桿を片手に
微笑みを浮かべていた。彼が起こしてくれたのか。慌てて、眠りの最中でずれた眼鏡をかけ直す。
もうすぐですよ、と目的地が近いことを教えてくれたパイロットに礼を言いつつ、一旦はかけ直した眼鏡を外す。緑色をした瞳を窓に向けると、ガラスに映る自分の顔が見え
た。一見女性にすら見える、優男の顔。色素の薄い長く伸びた髪が、余計に彼の顔を女のように見せかける。だからと言って彼が、今年で一九歳になるユーノ・スクライアが
自分の顔に特別、感情を動かすような真似はしない。もともとこういうものなのだし、と受け入れてしまっていた。
しばらく飛び続けると、と大きく掘り下げられた発掘現場、その手前でライトを手にした誘導員のいる白地のヘリポートが見える。パイロットは地上の通信室と交信し、着陸
許可をもらうなり、機体の高度をゆっくりと下げ始めた。そのまま特に危なげなく着地。誘導員が扉を開けてくれて、ユーノは大地へと足を踏み下ろした。

「よく来てくださいました、こちらです」

降りるなり、ヘリのローターが繰り出す風を強引に無視する形で発掘現場の責任者らしい、中年の男が彼の元に駆け寄ってきた。年下に対してずいぶん腰の低い態度のように
感じたが、ユーノの身分、役職を聞けば特に親しい者を除いてほとんどの人は自然と敬語になってしまう。
次元世界の治安と秩序を預かる時空管理局、そのデータベースとも言うべき存在、無限書庫。若くしてユーノはそちらのトップ、司書長を務めていた。同時に、彼は考古学者
としても高い地位にある。そんなの気にしなくていいのに、とは本人の弁だが。
責任者に連れられ、ユーノは発掘現場の中にある一つの長いテントに入った。決して暇ではない身分の彼がわざわざ呼び出された理由が、そこにあるとのことだ。

「我々もここで相当長い間、発掘と調査を続けていました。おかげで古代の人々のここでの暮らしが概ね、分かってきましたよ」

例えばこの壷なんかもね、と前を行く責任者は一旦立ち止まり、台の上に並べられていた出土品をユーノに見せる。フムン、と彼は顎に手をやり、壷をじっくり品定め。

「ゴルゴヴ時代の壷と似てますね。でも、こっちの方が技術は高そうだ」
「その通り。こっちはここで出土したグライジズ時代の壷です。デザインが似てるのはたぶん、ゴルゴヴ時代の名残なんでしょうな」
「ははぁ、なるほど。グライジズは確か火を扱う技術が進歩してましたね、だからこっちの壷はより原型を留めてるんでしょう」
「ご明察。いやぁ、さすがスクライア博士だ。その辺の知識はもうバッチリですね」

相手も考古学者の端くれなのか、しばらく出土品を片手に"昔話"に花を咲かせる。まぁこの辺はどうでもいいんですが、と責任者が本来の目的を思い出してくれなければ、し
ばらくユーノは無限書庫での忙しい日々を忘れられただろう。考古学は、半分は趣味でやっているところもあった。
こちらです、と責任者はテントの奥から木箱を持ち出してきた。曰く、先日の発掘作業で出土したものらしい。しかし、土の中から姿を現したそれを見て、責任者を始め作業
現場の人々は怪訝な表情を露にした。明らかに、他の出土品と比べて時代が、いや世界が異なっている。イタズラも考えられたが、ここまで掘るのに強力な重機を何台も投入
し、何百人もの手で地道な作業を続けてきた。面白半分で後から埋めたにしては、どう考えても時間と労力が釣り合わない。
だから、僕が呼ばれたんだ。今更ながら、ユーノは己が使命を自覚する。奇妙な胸騒ぎは、おそらく好奇心。考古学者としての本能が、強い興味を示しているのだ。
――否。本当に、これは好奇心なのだろうか? 考古学者としての興味なのだろうか?
ふと、疑問が脳裏をよぎる。発掘現場の責任者の持つ木箱を見ると、胸騒ぎはより強く、騒がしくなっていく。
何故だ。自問自答をしてみたところで、無論答えは出なかった。木箱の蓋が開かれる。中にあったものを眼にした時、ユーノの瞳は大きく見開かれた。

「妙ですよね。我々もこれまで相当長い間発掘と調査を続けてきましたが、こんなものが出てきたのは初めてで――」

責任者が何か言っていたが、後半はほとんど彼の耳に届いていなかった。脳裏を埋め尽くす言葉はただ一つ、何故。
結局のところ、夢は夢に過ぎないはずだった。たまに奇妙な夢が続いても、疲れているんだろうと切り捨てることがほとんどだ。
だが、だとすれば。目の前のこれは、果たして偶然なのだろうか。運命と呼ぶには、あまりにも唐突な再会。
木箱の中に入っていた物。土を被って薄汚れてはいたが、間違いなく夢で見た――あの、二眼レフのカメラの若い男が持っていた、白い大きなバックルだった。



先ほどからずっと、脳裏をグルグルと回転し続けている。
原因など分かりきっていた。手元にあるバックル、それに付け加えるような形で現れた銀の箱。弄り回しているうちに中を開くことが出来て、ユーノはその中から何枚かのカ
ードを見出した――真っ先に眼についたのは、"DECADE"と銘打たれた一枚のカード。
発掘現場からバックルを受け取った彼は、詳しく調査をすると言う名目の下、無限書庫の私室へと持ち帰った。以後は局員に現場を任せ、ひたすらこの奇妙な出土品と睨み合
う。すでに私室に篭って数時間、寝食も忘れるほどだった。

「ディケイド、か」

呟いた言葉は、カードの名前。たった一枚の薄っぺらいカード、そこに描かれていたマゼンタの仮面がユーノを捉えて離さない。
見覚えは、あった。夢の中で出会ったあの若い男、彼のもう一つの姿。思い返せば、彼は姿を変える時にこのカードをバックルに差し込んでいた。試しにバックルを確認して
みると、確かにカードを差し込める部分があった。装着者の意思に合わせて、自ら身体にベルトを回す行為すらやってみせた。その逆もまた然り。
肝心のカードの部分も、私室にあった端末や機材である程度調べることが出来た。要するに、カードの内に込められているのは電子化された「実体」だ。バックルはこれらを
読み取り、開放するための読み込み装置と言える。
だが、それ以上に。ユーノはカードの奥にある仮面に、「ある存在」へ繋がる共通点を見出していた。
昆虫のような、大きな複眼。人並み外れたパワーとスピード。人間ならば致命傷であっても耐えうる、強固な防御力。そして何より、装着者の顔を覆いつくす、仮面。
もし、間違いでないのなら。夢の中で、途中で掻き消された男の言葉の続きが判明する。
彼はなんと言っていたか。確か、通りすがりの――

「っと――通信か」

思考中断。やむなくユーノはバックルとカードを手放し、端末のキーを叩いた。通信回線、オープン。液晶でもなければブラウン管でもない、文字通り魔法のディスプレイが
目の前に現れる。同時に飛び込んできたのは、聞き慣れた女の子の声だった。

「こんばんわー。お久しぶり、ユーノくん」
「あ……なのは?」

自然に手にしていたバックルとカードを、画面の外にやる。大切な幼馴染からの通信を無視するほどのめり込んでいた、と言う訳ではなかった。



彼女とはかれこれ、もう一〇年の付き合いになる。
高町なのは。出身は九七管理外世界、現地惑星名"地球"。魔力素質を持つ者はほとんどいないとされているが、彼女に関しては例外だ。ユーノの出身世界、管理局のお膝元で
あるミッドチルダの中であっても桁外れの魔力を持ち、しかも空間認識、判断力、並列思考とあらゆる点で群を抜いていた。若くして精鋭揃いの教導隊でもトップクラス入り
を果たし、人は彼女をエースオブエースとすら呼んだ。
だけども、だ。それらは全て、ユーノと出会わなければあり得なかった話となる。現に、幼馴染と再会して――ディスプレイ越しではあるが――喜びを隠そうともしないなの
はの顔は、年相応の女の子そのものだ。

「久しぶり。どうしたんだい、急に?」
「うーんとね、ちょっと重大発表があって」

重大発表。いったいなんだろう、とユーノは怪訝な表情を露にする。ディスプレイに浮かぶなのはの顔は嬉しさを隠し切れない様子だから、きっと悪い話ではないのだろうが。

「なんと、ドラマに出ることになりましたー!」
「……ドラマ? え、どういうこと?」

思わず聞き返した彼の反応が予想通りだったのか、幼馴染は楽しそうに事の経緯を説明してくれた。
広報部を通じて彼女の元にやって来たのは、とあるミッドチルダで放映されている人気ドラマへの出演依頼だった。何でも次に撮影する話では管理局の部隊が登場し、悪の組
織と戦う主人公の手助けを行うらしい。そこに白羽の矢が立てられたのが、なのはだった。すでに雑誌からの取材などで彼女の名前と顔は世間に知れており、エースオブエー
スが本人役そのままに出演すれば番組視聴率は確実に上がる。管理局としても彼女が出れば、それは広報活動になる。

「あー、その、ごめん。経緯は分かったんだけど」

説明に納得しつつも、しかし眼鏡の奥で緑色の瞳はまだ合点のいってない様子。
何?ときょとんとした表情を浮かべるなのはに向かって、いかにも彼は言い辛そうな顔で口を開く。

「ええとね。僕、無限書庫に来てからはほとんどテレビとか見てないからさ――そのドラマ、どんな奴だっけ?」
「えー!?」

ほらやっぱり。驚きの声がディスプレイの向こうより上がり、たまらずユーノはたじろいだ。信じられないものを見たような表情で――彼曰く、「恐竜の化石の中にICチップ
を見つけたような」とのこと。この考古学オタクめ――なのはは、流行に疎い幼馴染に怒涛の攻撃、いや"口撃"。

「ユーノくん知らないの!? 嘘、ホントに!?」
「ほ、ホントだよ。テレビなんか、無限書庫の中じゃ休憩室にしか置いてないし、点けてもニュースくらいしか見ないし」
「うわ、重傷だぁ……」

頭を抱えるなのはを見て、思わず彼は苦笑い。そりゃ悪かったね、と投げやりな謝罪を付け加えてみたが、彼女が聞いている様子はなかった。

「駄目だよユーノくん、そういうとこ乗り遅れちゃあ……ほら、前にニュースの芸能部門で取り上げられなかった?」
「そんなこと言われてもなぁ――なんか、僕でも知ってそうな有名な俳優とか出てる?」
「藤山弘さんと倉川てつをさんと要潤一さん、って分かる?」

あぁ、あの人たちか。告げられた俳優の名前を聞いて、ユーノは思案顔。記憶に探りを入れるととりあえず、顔と名前は一致した。ほとんど無限書庫に入り浸りな自分でさえ
知っていると言うことは、やはりそれなりに名のある方々なのだろう。特に最初の方は、現代の特撮ヒーローの祖とも言うべき存在を演じていたように思う。後の二人も、特
撮ヒーローから俳優として名が売れ出したはず。
とにかく、と。思考を中断し、結論を下す。とりあえずなのはが本人役で出ると言うそのドラマは、大物俳優が何人も集っているほど人気なものらしい。

「なるほど、分かった」
「ホントに?」
「ホントに」
「ホントにホント?」
「しつこいよ」

ごめんごめん。つい疑い深く探ってしまったことを謝りながら、なのはは撮影する日時と場所を教えてくれた。三日後、クラナガンの中央公園で。

「良かったら見に来てね。ひょっとしたらサインとか、もらえるかも」
「"高町なのは"役の人からはもらえないの?」

ぷ、と幼馴染は吹き出す。もちろんユーノも冗談のつもりだったが、笑いながらも彼女の顔は少し嬉しそうだった。
その後、取りとめのない話をしばらく続け、「それじゃあまた」と笑顔のまま、なのはとの通信を終える。
楽しい時間だった。別に勇気付けられたり、褒められたりした訳でもないのに、ユーノは幼馴染との何気ない会話に深い安らぎを得ていた。そして思う、出来ることなら僕も
一緒にドラマに出たかった。
にやけそうになる顔をどうにか元に戻し、視線は手放したバックルとカードへ。まだ分からない部分も多い上に、そろそろ個人で調べるのも限界のように思える。いっそのこ
と、管理局の技術部に持っていくべきか。そうだ、それなら三日後に行くことにしよう。なのはの言うドラマの撮影を見てから行けば。二つの目的を一度に果たせることが出
来るではないか。

「よし、それなら」

腰掛けていた椅子から立ち上がり、彼は私室を後にする。まずは、この無限書庫に広がる自分の仕事を片付けよう。そうしなければ、三日後の行動予定が仕事に埋め尽くされ
てしまうかもしれないのだ。バックルとカード、それらが織り成す一つの単語などもはや、彼の脳裏にはどこにもなかった。
ユーノ・スクライア。この時はまだ、若くして大きな仕事を任されながらも、ごく普通の人間として生きているべき存在だった――まだ、「この時」は。
カードに銘打たれた名は、"DECADE"。彼が、その込められた力を知るのは三日後のことである。



次回 【LYLICAL RIDER WARS】 ユーノ編 中編

「高町なのは。その命、貰い受ける」

「レイジングハート、セットアップ!」

「僕に、力を貸してくれ――!」


「変身!」


全てを破壊し、全てを繋げ!


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最終更新:2010年05月16日 19:59