Call of Lyrical:Black Ops
「この位置で良いのか? …ああ、わかった」
閉め切った部屋。光が全く存在しない部屋に男は居た。
簡素なパイプ椅子に腰かけ、楽な姿勢を取る。蓄えた顎鬚を軽く撫で少しだけ唸る。
「さて、まずは何から話そうか…、初めから? だったらちょっと長くなるぞ?」
「あれは…、確か1961年のキューバだったな。下っ端だった俺にとって、初めて舞い込んできた異世界での任務だった」
「メイソン、ハドソン、ウッズ、ボウマン、ウィ―バー…皆、気の良い奴ばかりだった」
暗号番号:15-18 任命:X-RAY
OP40部隊 キューバ ピッグス湾
対象:フィデル・カストロ
ウッズ、ボウマン、メイソン、レジアス サンタマリアにて会合
05:00 1961年4月17日
キューバのとある酒場。窓から陽気な音楽と談笑する声が漏れている。
酒場の中、カウンターで5人の男が居た。タバコ、葉巻を吸う者。グラスに注がれた琥珀色の酒を飲む者。別の男と会話する者。
それぞれが適当に過ごしていたが、その顔には一部の隙も見当たらない。
全員が注意深く辺りを警戒し、自分達を見ている人間が居ないか確認している。
ふと、酒を飲んでいた男が葉巻を吸っている男。髭面、赤いポロシャツを着て白の長ズボンを履いた男に声をかける。
「おい、レジアス。その葉巻…」
レジアスと呼ばれた男は、ゆっくりと紫煙を吐き出しながら答える。
「ハバナだよ。キューバといったらこれだろ?」
「なに? おい、俺にも1本寄こせ」
「すまんな、これが最後の1本だ。お前の分まで楽しんでやるから安心しろ。ボウマン」
ボウマンと呼ばれた男は舌打ちし、『クソッたれ』と悪態を付いてそっぽを向いた。
「二人ともいい加減にしろ、良いか。もう一度確認するぞ」
そう言ったのは、シャツの袖の捲った部分にタバコの箱を差しこんだ男。名前は『ウッズ』。ウッズが懐から一枚の紙を取り出す。
紙には細々と文字が書かれており、あちこち黒のペンで消されていたり。赤いペンで添削が行われていたりと、かなりの加筆や修正が加えられている。
「いいか、飛行場はカルロスが押さえるから脱出の足は問題ない。対象の位置は恐らく…」
そこまで言ってウッズは口を閉ざした。鳴り響くサイレン、乱暴に開かれる酒場の扉。雪崩れ込んでくる銃を持った迷彩服の男達。
先頭の男が酒場の中央で踊っていた女性の片手を掴み、捲し立てる。女は乱暴に手を振り払い悪態を付くと酒場の奥に消えて行った。
それを皮切りに酒場の客達がぞろぞろと店を出て行く、レジアス達を残して。ウッズが手早く紙を懐に仕舞った。
銃を持った男達はレジアス達に気が付くと、つかつかと近寄ってきた。レジアスが何気ない動作でズボンのポケットに手を入れようとして、
「待て、引き付けるんだ」
隣のメイソンに小声で止められる。レジアスは手を止めた。
「どこから来たと聞いている! 貴様に話しているんだ!」
迷彩服の男、民兵がレジアス達が屯する机を勢いよく叩いた。それが合図となる。
民兵の隣にいたウッズが懐から銀色に輝く棒、照明を照り返すコンバットナイフを振り上げる。
躊躇うことなく机の上に叩きつけた民兵の手に突き立てた。
手と机がナイフで縫い付けられ、民兵が悲鳴を上げる。ウッズが手元にあった酒瓶で顎を打ち抜き、すぐに黙った。
レジアス達は懐から、ポケットから拳銃を引き抜き、後ろで呆気にとられている民兵達に銃口を向ける。
数発乾いた銃声が木霊し民兵全員が倒れた。酒場にサイレンの音が響く。
「よし、準備良いぜ」
カルロスが鉄とプラスチックの塊、M16を投げて寄越す。
レジアスは片手で軽々と掴み取るとコッキングレバーを引き、銃弾を装填。あとは引き金を引くだけで銃弾が飛び出す。
「車から何人か出てきた、ショットガンで武装してる」
外から拡声器で何やらがなりたてる声。様子を窺がうボウマンが相手の武装を伝える。
全員が窓際に張り付き、少しだけ顔を出す。外では赤と青のランプが舞い踊り、その中にショットガンを持った幾人もの人影。
「さぁ、行くぞ」
男達は闇夜に飛び出した。
そして歴史は動き出す。
殺害対象、独裁者、カストロ―――
「歴史的な瞬間に立ち会う準備は?」
「ああ、良いぜ」
突入。
目の前には肌が黒い男と女。男が女を盾にし、銃を構える。
相手が引き金を引く前に、彼は引き金を引き―――
ヴォルクタ、蜂起、友―――
「レズノフ、このアメリカ人は信用できるのか?」
「ああ、命をかけても良い」
地獄で出会った、唯一無二の『友』と呼べる男。
「ヴォルクタでは皆、兄弟だ。皆、捨てられ、忘れられ―――」
ペンタゴン、大統領、任務―――
「ニキータ・ドラゴヴィッチ、こいつが今回の目標だ」
目の前のスーツの男。ジョン・F・ケネディ大統領。
後の歴史で暗殺された悲劇の人物。大統領と向かい合っているメイソンは銃を手に取り―――
ベトナム、ケサン、激戦―――
「メイソン! 俺が合図したらスイッチを押せ!!」
スイッチを押した瞬間に襲い来る爆音、熱風、断末魔。
「フガシ地雷さ! 地元軍のお気に入りだ!」
ケサン攻防戦。多くの兵士が散った場所。入り乱れる銃火、悲鳴、弾丸―――
フエ市、亡命者、再会―――
「久しぶりだな、メイソン」
「レズノフ…、生きてたのか」
再会を果たす二人の男、明かされる『計画』。
「アメリカに警告をしにきた」
「…『ノヴァ6』?」
もたらされた情報、それは過去に封じられた禁忌―――
九龍、拷問、襲撃―――
「いい加減に吐いたらどうだ?」
「レジアス、少しやり過ぎだ。下手したら死んじまう」
「これくらいはやらなきゃ駄目なんだよ」
三人の男が取り囲むのは、一人の年老いた男。
椅子に縛られ、口から血を垂れ流している。彼の真下には粉々に砕け散った、血染めのガラス片。
「………わかった、話そう。私が任された事を」
男の口から伝えられることは―――
第二次世界大戦、北極、過去の記憶―――
「あれか…」
「ああ、あれだ。あの中に私が探し求めていた物があるんだ!!」
目の前には座礁した輸送船、その中に封じられている物、それは―――
裏切り、脱出、戦友―――
「ディミトリ!!」
目の前で戦友が死んでゆく。レズノフに出来ることは目の前のガラスを叩き続けることだけ。
外から聞こえる笑い声、爆音。レズノフの決意はここから始まった―――
黒い鳥、雪山、潜入―――
「準備は良いか、レジアス」
「ああ」
壁を蹴り、勢いを付ける。
ほんの少しだけロープを握る手を揺るめ、下降する。
目の間には二枚のガラス、その奥には呑気にコーヒーを沸かす兵士。
ガラスが突き破られ―――
ロシアンルーレット、洞窟、ヘリ―――
「…っはぁ! …っはぁ!」
目の前には古びた机、その上にはリボルバー、周りにはベトコン、後ろにはスペツナズ、地面には戦友の死体。
ウッズはリボルバーを手に取り、こめかみに当てる。震える手でハンマーを上げ、引き金に指をかけ、
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ハンマーが落ち―――
リバース島、実験、復讐―――
「我が名はヴィクトル・レズノフ!! 貴様に復讐する者だ!!」
強化ガラスが叩かれる。
「ここで貴様に復讐を果たす!!」
拳銃を取り出し、目の前のおびえるドイツ人に銃口を向ける。
「我が復讐はここで果たされる!!」
強化ガラスが砕け散った、レズノフは拳銃を―――
真実、数字、レズノフ―――
「何度言わせるつもりだメイソン!! リバース島にレズノフはいなかった!!」
「違う!! この目で確かに見たんだ!! 俺は確かに見た!!」
「いい加減にしろ!! レズノフは5年前のヴォルクタで―――」
デフコン1、コミュニスト、ノヴァ6、時間は無い―――
ルサルカ号、ドラゴヴィッチ、決着―――
「ここまで来たぞ、ドラゴヴィッチ!!」
「貴様か!! 何も知らなければ良かったものを!!」
「俺はここまで来た!! 復讐は俺が果たす!!」
ハドソンとレジアスの二人が見守る中、メイソンとドラゴヴィッチは―――
彼らの戦いは決して歴史には記されない、記されてはならない。
彼らの声は届かない、届いてはならない。
彼らは称賛されない、称賛されてはならない。
彼らは―――
「これが俺達の戦いの記録だ」
パイプ椅子に座りインタビューに答える男―――、レジアスの口から語られる歴史。
「あいつは、メイソンは―――」
Call of Lyrical: Black Ops
それは、決して語られることのない兵士たちの物語―――
最終更新:2010年12月24日 21:40