リリカルミッドナイト SERIES 6. 首都高の白い悪魔

SERIES 6. 首都高の白い悪魔

 

 

 オーバー200km/hで走ると、まわりの車は止まって見える──

 250km/h──止まった車は自分に向かって突っ込んでくるようになる──

 そして300km/h──まわりの動きが、人間が知覚できる限界を超え始める──

 湾岸、最高速──
 永遠に終わりのないとびきりの瞬間──

 もっと、もっと速くとあなたは急かす──

 ──それは、ただひたすらに純粋な欲望。

 東の空が白み始める頃、まるで悪魔が太陽の光を避けるように、その白いZは消えていく──

 

 

 早朝の海鳴市、ガレージに戻ってきたZは、しばしのアフターアイドルを終えてエンジンを切られた。
 熱くなったエンジンオイルが、チリチリと音を立ててポンプとオイルタンクの中で眠りにつく。

 ほとんど日課のようになった走りの余韻を、なのははしばらくかみしめていた。

 もともと、体力には自信がある方だった。剣術をやっていた兄の稽古に付き合って、夜遅くまで、また朝早くから鍛えていた。毎晩の走り込みも、苦にならない。
 走りこむごとに、このZの奥深さがわかっていく。同時に、このZを作り上げた人間の、妥協のない願いも。

 その願いは、時に、危険な魔力となって人間に牙をむく。

 首都高の白い悪魔と恐れられたこのZ。誰も乗りこなせなかった危険な車。
 だが、それは違うとなのはは思っていた。
 こいつはただ純粋なだけなんだ。純粋に、速く走ろうとしているだけなんだ。
 変な色眼鏡をつけて見るから、このZの姿を正しく見ることができないんだ。

 自分だけは、このZを信じていたい。信じる。そう、なのはは願っていた。

 

 

 いつもの3人で、屋上でお昼を食べていると、シャマルがやってきた。

「一緒にいいかしら?高町さん、ここんとこちゃんと学校に来てるみたいね」

「ええ、まあ」

「そーそ、なのは、あんたも素材はいいんだからキレイにしてりゃーモテモテよ?」

 アリサは相変わらず調子がいい。中学のころまでは、こういうふうに言うとなのははあどけない照れ笑いを見せていたが、今はずっと大人っぽい、遠くを見るような微笑みをする。

「ん……別にいいかナ、そーゆうのは」

「これだもんー、なのは、あんたもさー、こーんな男っけのない青春じゃあツマンナイでしょーが」

 ピリリ、となのはの携帯が鳴る。

「おーっ、なのはにもついにオトコが」

「ユーノ君からだよ、えーっと、うん、Zの車検、ちょうど更新だったから手続き頼んでたんだ」

 Z、という言葉にわずかにシャマルの瞳が曇る。

「えー車検って、あんなごっつい改造車でも車検だいじょうぶなの?」

「大丈夫だって、ちゃんと申請すれば」

「アリサちゃんも見たでしょう、なのはちゃんのZ、ナンバーが横浜33になってたでしょ?
2000cc以上のエンジンの車は3ナンバーになるから、今の3100ccエンジンでちゃんと登録されてるのよ」

 すずかが補足する。本来のS30Zは2リッターエンジンを搭載した5ナンバー(小型乗用車)の車だが、改造申請によって3ナンバー(普通乗用車)として登録されている。
 公認を取得した立派な公道走行可能な車両だ。
 中身はほとんどすべてに手を入れられていても、現代日本の定める最低限の基準はクリアしている。

 携帯をしまって、空の弁当箱を包みに戻してから、なのははシャマルに声をかけた。

「先生、今夜あいてます?聖祥の問題児の夜遊び、また見張りに行きませんか」

「おーっ?教師と生徒の禁断のカンケイ」

 アリサがわざとらしく茶化す。

「なっ、なのはちゃん、あんまり大人をからかうもんじゃありません」

 頬をふくらませるシャマルだったが、まんざらでもなさそうだった。
 正直なところ、はやての大切な親友であるなのはに、ヴィータも懐きはじめていて、シャマルとしても気になるところではあった。それだけに、毎晩一人で走りに出かけているというのは気をもむことだ。

 わいわいとはしゃいでいるアリサとすずかを後目に、なのはは制服のスカートを翻す。

「どーします?迎えに行ってもいいですけど」

「ううん、10時にあなたのガレージに行くわ。はやてちゃんを心配させるのもまずいし──」

「わかりました」

 

 

 海鳴から首都高まで、普通に走れば30分ほどで入れる。
 平日の早めの時間帯、帰宅ついでに雰囲気を味わいたい者たちがそれなりに通りがかってきている。

 いろんな車が走っているのを見るのも楽しい、となのはは思っていた。

 走りの定番であるシルビアや180SX、そしてRX-7、GT-Rなど──
 もちろん、スポーツ系車種だからといってすべて走りに使われているわけではない。
 単なる足として、でも、どこかに少しだけの自己主張がある。

 

 

 環状を数周し、湾岸を回って芝浦パーキングに入る。
 さすがに平日では停まっている車も少ない。

「先生、コーヒーでいいですか?」

「……結構走り方変わったのね、なのはちゃん」

「そーですか?」

「なんていうか……動きに安心感があるっていうか。確かにスピードは速いんだけど、危うさを感じさせないっていうかね。車に詳しくない私でも、隣に乗っているとわかるわよ」

「でもブラックバードにはかないませんよ」

「…………」

 シャマルはしばし黙る。

「──彼女はヒトを横に乗せないから──はやてちゃん以外はね」

 言葉が途切れたところで、パーキング入口に野太いエキゾーストノートが響いた。
 1台、入ってくる。

「この音は──」

 銀のボディに青と黒のカッティングシートで、剣をモチーフにしたバイナルグラフィックが描かれている。
 JZA80スープラ。ボディサイドには青いアンダーネオンが装備された、いかにもアメリカ西海岸風のチューンドスープラだ。なめらかなタービンの過給音と、ブローオフバルブの排気音が鋭く奏でられる。


 左ドアとボンネットを使って、“デュランダル”と描かれている。
 室内に張り巡らされたロールケージとも相まって、じつに迫力のあるシルエットが出来上がっていた。

「いい音させてますね」

「あら、なのはちゃん来てたの」

 クロノとマリーだ。それぞれ軽く挨拶する。
 そういえば、この二人の場合休日は関係ない。それこそ毎晩でも出てこられる。
 その意味では、出会いやすい、同じ流れの中にいる人間ということができる。

「あっ、こっち、私のガッコの先生です」

 なのはは後ろにいるシャマルを紹介した。さすがに、いかにも本物風の人間に近づくのはシャマルも腰が引けている。

「へえ、学生さんだったの、ってことはそのZの改造費もアルバイトして?」

「ええまあ、最初からある程度パーツはついてたんで、オイルとか消耗品関係ですかね、あと知り合いの工場貸してもらってオーバーホールとか」

「それはイイわね、やっぱり自分の手でやるのがいちばん覚えるのよ」

「スープラはもう完成ですか?」

「ええ、セッティングもほぼキマったし。あとはクロノ君の慣れね」

「おいおい、僕を誰だと思ってる」

 900馬力の2JZエンジンは、さらに仕上げのNOSを組み込まれ、重い車体を自在に動かすパワーを得ている。
 機械が、力を持っている。力にあふれた機械のみずみずしさ、躍動感。

 たまらなく惹かれるカタチだ。

 

 

 なのははクロノから、ブラックバードと悪魔のZにまつわる話を聞いた。
 スカリエッティからは、悪魔のZに施されたチューニングの内容を聞いた。

 そのいずれもが、客観的に見ればきちんと理解のできる話だった。

 80年代末、日本がバブル景気に沸き高性能スポーツカーが深夜のハイウェイにあふれていた中、旧時代の化石のような古い車が、そんな最新の車たちを圧倒するスピードを持って現れた。

 限界を超え、常軌を逸したチューニングを施されたその車は、ベース車両としてS30を、エンジンはL28改3.1リッターツインターボを採用し、掛け値なしの320km/hオーバーを出す車だった。

 ジャパニーズ・チューンドカーの、ひとつの究極のカタチがそこにあった。

 それは、妥協のできない人間が作り上げた、まさに異形だった。

 そしてその異形は、まわりと折り合いをつけ、ウマく世の中を渡ろうと苦心していた人間たちの、心の後ろめたさを抉るような鋭さを持っていた。
 そんな生き方でいいのか。周囲に合わせ、自分をひっこめ、他人に同調して、そんなことでいいのか。
 自分の気持ちは、自分の意志はどうした。ごまかすだけか。本当の気持ちをなぜ隠す。

 悪魔のZ。

 悪魔は、いつだって人間の心の中に隠れているものだった。

 湾岸を、160km/hでクルージングする。一般車よりもわずかに速いそのスピードは、路面の振動でテールランプを揺らし、色とりどりのサンゴの海をゆったりと泳ぐような感触を与える。
 ここからアクセルを一杯まで踏み込んでいけば、そこには別世界が現れる。
 別次元といってもいい世界へ飛び込める。

 いったん知ってしまったら、もう目をそらすことはできない。

 

 

 その屋敷は、時の庭園と呼ばれていた。
 一線を退き、悠々自適に過ごすために、プレシア・テスタロッサはこの屋敷を手に入れた。
 それはアリシアが進言したことでもあった。落ち着いた静かなところで暮らそう、家族みんなで、と。

 幼い顔立ちでも、ずっと大人びて、他人を慮ることのできた姉だった。

 フェイトはそんな姉をずっと見ていた。

 プレシア、リニス、アリシア、アルフ──みんなが、この屋敷で穏やかに過ごせる──
 不器用な母親だと、少女心に思えたものだった。アリシアが生まれてからも仕事は続けていたが、家に帰ることも少なく、ひたすら働きづめだった。
 ありていに言えば、仕事と家庭を両立させられなかった、それだけなのだが、それは、単純に心のリソースが半分になるというわけではない。
 自分がそういう状態に置かれているという認識が、さらに心をすり減らさせていく。

 妥協のできない人間だった。自分の事情はみんなわかってくれていたのに、仕事を周囲に任せることができず、全部自分で抱え込んでいた。周囲を頼ろうとしなかった。

 はた目にも、無理しているというのは分かりすぎていた。

 それでも無理がきくうちはまだいい。だが、しょせん人間、いつか限界は来る。

 だからどうか、もう何も心配せず、この夢のような時の庭園で、静かに生きていこう──

 ──そうしよう、母さん──

 

 

「母さん──……」

 目を開けると、見慣れた銀髪と赤い瞳がフェイトを見下ろしていた。

「すみませんね──あなたのお母さんじゃあナイんですよ」

「ブラックバード……」

 つぶやくように声に出す。そういえば、彼女を本名で呼んだことはなかった、とフェイトは思い出していた。

 八神凛、はやてたちからはリインと呼ばれている。
 海鳴大学病院で外科医を務める優秀な医師だ。
 若くしてドイツ留学帰りの経歴を持ち、将来を嘱望され、美人で腕も立つ。
 何一つ不足のない人生を送っているように見える。

 そんな彼女がなぜ、危険な湾岸の走りをしているのか──
 ──もっとも、フェイトも人のことを言えたものではないが。

「ひとまず日常会話は大丈夫です──歌うのは、もう少し待ってください」

「はい……」

「今度は勝手に抜け出したりしないでくださいね」

「はい……わかりました」

 あなたに才能があるのは私がよくわかってる。アリシアはフェイトにそう言った。
 正直、自分は姉のように一家を背負って立つ自信がなかった。歌で、自分の才能をつかって稼ぎ、一人で生きていく。その方が性に合う。そう思いながら、後ろめたさをぬぐいきれなかった。
 いつだって自分の生き方を自分で決める。そう思ってやってきたはずなのに、ここにきて、今更のように母や姉との思い出に囚われている。
 本当はみんなと一緒に暮らしたかったのか?一人は寂しかったのか?

 この気持ちに決着をつけなければ、もう一度あのZとともに走ることはできない。
 こんな気持ちの状態で走ることを、きっとあのZは許してはくれないだろう。

 

 

 リインがその日の勤務を終えて帰ろうとしていたとき、駐車場に見覚えのあるGT-Rがいるのを見つけた。

「面会の受け付けは終わりましたヨ」

「いやわかってる、ちょっと寄ってみただけだよ……本人が休んでても、マネージャーの仕事はたくさんあるんだ」

 リインはいつも911を職員駐車場のいちばん奥にとめている。外見からはけして派手な改造車というわけではなく、いっけん普通のポルシェのように見える。

「珍しいキーホルダーだね」

 きらめくメタリック塗装にアルフが目を留めた。
 剣を十字架のように束ねた意匠の、金のカギだ。

「ええ……はやてがくれたんですよ。ドイツのアクセサリー屋でさがしてきたとか……
“シュベルトクロイツ”というそうですね」

 キーを差し込み、エンジンをかける。静かな夜に、地鳴りのような水平対向エンジンの始動音が響く。
 ポルシェを特徴づける、空冷エンジンの音。それでも、この音を掻き消して、聞こえてくるような気がする。

「Zの彼女はドクター・スカリエッティに会いました。色々聞いたでしょう──あの車のことを」

 アルフは黙っている。

「どうしても、追うのかい。アタシにはわからない……」

「いいんですヨ──私も、無理にわかれとは言いません。ただ、私にはよくわかることで……私が走り続けるのは事実です」

 ポルシェが発進し、夜の通りに消えていく。
 アルフのGT-Rは、基本的にパーツ自体は何も変えず、ブーストコントローラーで設定値を0.9kg/cm2に上げただけだ。パワー的には400馬力弱といったところか。
 とりあえず格好だけでもそれなりのものを見せてやればフェイトも満足だろう、と思っていたが、今は、フェイトが自分のそばを離れ、今にも手の届かない遠くへ消えてしまいそうで怖い。
 振り返ることなく、誰も彼もを捨てて、あの悪魔にいざなわれて消えていってしまいそうだ。

 一蓮托生を決めたのではなかったのか──自分の覚悟が足りなかったというのか。

 アルフにできることは、このGT-Rで首都高を流すことだけだった。

 

 

 静かなアンビエント系の環境音楽が流れ、一種独特の異世界のような雰囲気をつくっている。
 透明度の高いルージュでメイクアップしたなのはは、その夜もいつものように客の相手をしていた。

 海鳴市にも、中心街をやや外れた地下の一角に、近寄りがたい匂いを感じさせる風俗街がある。

 近隣の横浜や遠見から流れてきたような、島宇宙のような空間だ。

 その特異な性格ゆえに求人の審査条件は厳しい。だが、その分給料もいい。
 なのはの場合、メイドバーが6時から9時まで、その後でクラブが12時まで(走らない日は2時まで)だ。
 両方あわせて一日あたり2万円以上はいく。
 都内のこぎれいなメジャーな店と違い、未だに旧世紀のアンダーグラウンドな雰囲気が海鳴には残っている。

 毎晩のように首都高の走りをしていれば、ガソリンはもちろん、タイヤやオイルをはじめとした消耗品の交換頻度も高くなる。
 Zはタイヤサイズが225幅の16インチのため、ハイグリップラジアルの4本セットで10万円程度だ。ガソリンも、一晩で70リッター使うとするとそれだけで1万円近くになる。
 オイルもまたしかり。2週間に一度の交換で、2缶使う。それにオイルフィルターも換える必要がある。
 オイルフィルターやエアクリーナーなどの小物パーツはユーノのつてである程度安く入手できるにしろ、スポーツカーというのは普通の乗用車に比べて途轍もなくランニングコストがかかるものなのだ。

 そして、乗りっぱなしでろくに整備をされていない車両も、実際はかなり多い。いや、ほとんどがそうだ。
 毎日乗る車をきちんとメンテナンスしてコンディションに気を使っている人間などほとんどいない。
 どこかが故障してからあわててショップに駆け込んでも、その時点ですでに大ダメージを受け、再起不能になっていることも多い──。

 

 

 ある夜、オーナーの昔の知り合いが来るというので、クラブの店長はその応対になのはを指名した。
 君なら話も合うだろうから、と言われ、最初は何のことかと思っていたが、やがて現れたその客の男の顔を見てすぐに理解できた。同じ匂いを持つ者どうしなんだと。

「アーリータイムズでいいですか?」

 二人にグラスを差し出す。
 清純なドレスに身を包んでいても、向こうは、たぶんこのフロアに入ってきた瞬間に空気を感じ取ったのだろう、なのはを見て、緊張とも違う高揚した表情を浮かべている。

「たまたま、こないだケンちゃんから君のコトを聞いてネ」

 坊主頭で大柄な体格をしたオーナーが言う。
 ケンちゃん、というのはここの店長のあだ名だ。嬢でも長く勤めている者からはあだ名で呼ばれることもある。

「ラジオでやってた頃から聴いてました、城島洸一さんですよね」

「懐かしいね、あれ確か8年位前だよね」

「車関連の番組って当時ほとんどなくて、城島さんのぐらいだったと」

 なのはが車に興味を持ち始めたのは、スポーツ系車種をよく扱っていたそのラジオ番組を偶然聞いてからだった。
 当時、F1やGT選手権のテレビ中継もほとんど枠がとられなくなり、モータースポーツ番組自体が消滅しかかっていた。
 もはやかつてのようなスポーツカーなど売れない、コストばかりかかって、商品として成り立たない。
 21世紀を迎え、自動車メーカー各社は売れ筋のミニバンやコンパクトカーに注力し始めた。

「実はここへ来る途中で見てきたんだ──うすうす予感はしてたけど、本当だったんだね」

「あ、見たんですか」

「今更かもしれないが圧倒されたヨ。本当にいたんだ、と──悪魔のZが」

 

 

 閉店時間にはまだいくらか早かったが、なのはは城島とオーナーと一緒に外に出た。
 先輩ホステスの一人がなのちゃんの初アフターだね、などと冷やかしていた。

「けっこー意外でした?」

「まあー、オレの頃でも全く居なかったてワケじゃあないヨ、女のコのドライバーは」

 路地裏に路駐されたZは、まるでその周辺だけがタイムスリップしたかのように、不思議な時空感覚を醸し出している。S30が全盛だった70年代の空気と、国産チューンドが隆盛を誇った90年代。

「そーゆう雰囲気みたいなのって、やっぱりあるんですね」

「ああ、これはオレと松木サンが昔やってたショップ──“ゼロ”の頃から口癖みたいなモンだった──
──本当に速い車にはオーラがある、と」

 気持ちのいい熱い冷や汗を垂らしながら、城島が言う。
 今夜は、アシとして使っているベンツSL600で来ていた。これはベンツのスポーツクーペ現行の2シーターカブリオレ、V型8気筒エンジンを搭載するモデルだ。
 パワーは排気量5.5リッターにツインターボを組み合わせて517馬力、トルクは実に84.6kgmを誇る。
 なのはのZも2シーターでお互いに2人ずつしか乗れないため、それぞれの車で移動する。

 ドレスを着て車を運転するのは初めてだったが、Zはこのようなシチュエーションにもよく似合う。

「“氷の微笑”みたいだな」

「オイオイ城島あ、お前のキャラじゃねーだろォソレ」

 オーナー松木が笑いながら肩を叩く。なのはもやや苦笑しつつ、それでも優雅さを崩さない。

「いや昔そーゆう映画があったのヨ、シャロン・ストーンが主演で、ロータスエスプリをバリバリ乗り回してたもんさ」

「エスプリってゆうとあの背の低い尖った感じのヤツですよね、あーゆう系のデザインはスキです、今じゃああんな低いのはムリなんですかね、安全基準とかあって──」

 車体の大きいベンツと並ぶと、S30はとても小さく見える。
 だが、その車体に不釣り合いなほどの幅広タイヤを履き、トレッドを広げてツライチにセットし、直進安定性を出すためにネガティブキャンバーを強くかけたアライメントセッティングにしているZは、獰猛かつ均整のとれた肉食獣のようなたたずまいを見せている。

 普段、そのコワモテから、嬢たちからもあまり話しかけられないオーナーだが、今はその理由がわかった。

「オーナーはもともと風俗の人じゃあなかったんですよね」

「最初はキャバの雇われ店長だったヨ──そっからいろいろ任され始めてネ、なんだかんだで──
でも今はそれもそうわるくはなかったと思ってるよ、コイツも今は落ち着いたし──」

「──いるべきところにいる、それはそれだけでとても幸せなコトなんだ、って」

「そうですね」

 大通りの端から、道行く車と人ごみを眺める。
 通勤する嬢たちも、危険な道は避けるにしろ、わざわざ見せびらかすように通りを歩いてきたりはしない。
 日陰者だということを、心のどこかで認識している。

 そんな空気を感じ取ったから、どこまでも親しくなりきれない部分があったのだ。

「実は今日はKレコードさんに呼ばれて行ったんだよ、そしたらアシスタントの交代の件で話が出てね」

「あ、それで」

「わりと狭い業界だからね、フェイトちゃん経由でオレのところに噂が聞こえてきたワケさ、とんでもなく速いS30Z──“悪魔のZ”が、まだ走り続けているってね」

「確かフェイトちゃんは今……」

「ああ、事務所とも話はさせてもらって、復帰第一号の仕事としてオレの番組に来るってことで進めてもらってるよ、向こうさんにとってもいいキャリアになると思うしね」

「ま、だからこそオレも今のまんまは惜しいと思ってンだけどな、出演、構成、企画、ついでに渉外まで、ナンでもやれる城島ほどのマルチタレントは今どきいねーだろって」

「彼女ほどのフェラーリ乗りも今世界中さがしてもいないと思いますよ」

 城島の目はいきいきとしている。もうだいぶ年をとり、落ち着いた自動車評論家としての地位を固めてきているというのが世間の評価だが、まだその闘志は衰えてはいない。
 オーナー松木も、普段は見せない笑顔を見せている。

「だよな、1000馬力だっけ?ただでさえジャジャ馬なフェラーリをあれだけのパワーアップだろ、サーキットでも持て余すだろうにそれを公道じゃあ、とてもマトモに踏めたもんじゃないだろーて」

「そのベンツも確か600馬力くらいあるんじゃないんでしたっけ?」

「いやーこれはただのSLだから、トップグレードなら確かにそんくらいはいくけどナ、でもどっちみちフェラーリとはだいぶ性格が違うよ、こっちは」

 素敵な玩具を前に、はしゃぐのを抑えきれない男の子のように。
 いくつになっても変わらない気持ち、というのはある。普段は抑えていても、それを忘れないことが心を錆びつかせないために必要だ。
 逆に、いくら年齢だけ若くても、それを忘れてしまったらあっという間に心も体もすれてしまう。

 自分の未来に対する漠然とした不安を振り切るために、自分より先を歩いてきた大人たちの姿を見たい──

 またそれを見ることが必要なんだと、なのはは思いはじめていた。

「ソッコー口説き入れたいとか思ってます?」

「いーぜぇ城島、オレんとこの娘ナンだから」

「いえいえ、今日はそーゆうのじゃなくて」

 ネオンの明かりを反射する白いZは、一見宝石のように、しかしどこまでも深い魔力を放っている。

「勇気をもらった気ィするんですよ──自分の生きてきた人生が間違ってなかったっていう、世代交代しても、あとに続く人間が一人でもいてくれるっていうだけで──」

 なのはは思い返しながら、確か昔のラジオ番組をやっていた頃で30過ぎだった、と記憶を確かめた。

「やっぱりいくつになっても必要ですか?勇気、ってのは──」

「単純にトシだけ食えばいいてモンじゃあナイのよ、要はその時間の中でどれだけの経験を自分のものにできるかってコトだろ?
経験ってのは要するに物事の判断基準なワケだ、それをどれだけ自分の中にたくわえられるか──てコトだ」

「今までの基準で判断できないことにぶつかったとき──」

「そう、そーゆうときに大事なのは勇気なワケよ、立ち向かうにしても、引くにしても」

 ベンツのフェンダーをそっとなでる。車に詳しくない人間には、一見ただの高級車にしか見えないだろう。
 だがこの車も、ひとたびフルスロットルをくれれば瞬時にレーシングスピードに突入できる。
 ダイムラー・ベンツの擁するトップスポーツであり、ダイムラーもまたドイツツーリングカーレースで活躍しているれっきとした自動車メーカーだ。成金向け高級セダンばかりをつくっているわけではない。

「単純に立ち向かえば勇気がある、引いたら勇気がない──そーゆうワケじゃあナイですよね」

「もちろんサ──引くってのはものすごく勇気がいるコトなんだ、自分の欲望、恐怖、あと体面とか──
そーゆうモノをきちんと飲み込まないと、引くってことはできないんだ、それは単にアクセルを踏まないとかスピードを落とすとかじゃないよ」

「ですね──私も、この車に乗るようになってわかったんです、勇気を出して踏んでいかないと、また抜くとこではきっちり抜かないとダメなんですね、腰が引けてる状態で走らせちゃあ、この車はそれを見逃してくれないんですね──」

 Zに乗り始めたばかりの頃、ブラックバードとのバトルでの2度のクラッシュ。
 自分と向こうと何が違ったのか、それは経験の差だった。がむしゃらに踏み込んでいくだけではだめだし、また中途半端にアクセルを抜くような、ビビった走らせ方をすると、このZはたちまち機嫌を損ねてしまう。

 チューニングカーのセッティングとしては、いわゆるコントロールの幅が狭い車──にあたることだが、それがこのように言葉に表すと、とても身につまされるとなのはは思った。
 無謀な若者──偏見が含まれているにしても、本当に、無謀な乗り方ではこのZは速く走らせられない。
 悪魔の車、上等だと言ってやたらにアクセルを踏んでいっても、それではこの車はこたえてくれない。

 確かに以前の自分はそういう乗り方、走らせ方をしていたと思う。ひたすら息を止めて、心臓がすくみそうになるのをこらえて、1秒でも長くアクセルを開けることが速く走る方法だと思っていた。
 それだけでは、車を速く走らせることはできない。
 鉄砲玉のように飛ばすだけでは、壁にぶつかるだけだ。

 ブレーキを踏むことは恐怖に負けることではない。恐怖に負けたと思いたくない自分の心を、冷静に見つめて処理すること、それが本当の勇気だ。

「確かにオレは評論家としていろんな車を乗ってきたし、いろんな車の走らせ方もわかる。
どういう操作をすればどういうふうに車が動くかというのも分かっている、それをどんなときでもきちんと自分の引き出しから取り出せるコトが大事なんだ、頭を真っ白にして踏み込むだけじゃあ命がいくつあっても足りない、そーゆうのは勇気とは呼ばないんだ──」

「私のZを見て──、何か、得られることはありましたか?私と話しても──」

「そりゃああるさ、たくさん──できれば、話し続けていきたいよな」

「ありがとうございます。私も、城島さんとこうして会えてよかったと思ってます。
首都高に来れば、きっとまた会えます」

「なあ、城島──オレも、なのはちゃんがうちの店に来てくれてよかったと思ってるんだよ。
やっぱ、好きなコトから目をそらして、言い訳付けてガマンしてちゃあココロによくないってな。
あのFC、まだあるんだろ。なんだかんだで結局まだ見せてもらってなかったよナ──いつか持ってきてくれよな。
きっちり、仕上げてあるんだろ」

「はい──オーナー」

「城島先生──『クラブ・アグスタ』は──いつでもご来店をお待ちしてます」

 

 

 東京都文京区にオフィスを構えるKレコードのエントランスに、赤いR32GT-Rと黒いポルシェ911ターボが来ていた。深夜の目白通り、仕事帰りの人通りもひと段落して道はまばらになっている。

「おやおや、来てたのかいブラックバード」

 スカリエッティの姿を認め、リインはかるく会釈する。スカリエッティは今日はアルフの車に同乗し、リインは病院の勤務を終えたその足でここに来ていた。

「無愛想なカオしてても気になるのかね、あのお嬢さんが」

「それはそっちも同じじゃないですか」

 なめらかなV8ツインターボの音が近づいてくる。
 アルフはこの音をいちど聞いたことがある。スカリエッティも、この音の持ち主がただならぬ雰囲気を持ったドライバーであることにすぐ気付いた。

「ども……おひさしぶりですスカさん」

「城島か……何年振りかね」

 スカリエッティの雰囲気に多少押され気味ではある。後ろからジト目で腕を組み、アルフが割り込む。

「オッサン、んなのァ今はいーから──城島サン、今日は確か海鳴に行くって言ってましたよね、どうでしたか……?」

「ああ、ちゃんと会ってきたよ。Zの彼女に──フェイトちゃんのこともいい感触で受け止めてくれてたよ」

 Z。
 悪魔のZ──それは、ここにいる皆だれもが、心を構成する要素の一つとしてとらえている偶像(アイドル)だ。

 城島洸一は、ゼロ時代にスカリエッティとは旧知であった。
 ゼロのオーナー松木が、もともとはスカリエッティにチューニングを依頼していた客であったからだ。

 そこでポルシェターボをしばらくやり、その後、松木自身がチューニングショップを設立するにあたって城島が専属ドライバーとして迎えられた。

 とくに信頼性に重点を置いたチューニングスタイルで、『速くて壊れない』と高評価を得ていたショップだった。
 それはチューナーたちの腕と、車をきちんと乗りこなせる城島の腕の両方があってこそだった。

「スカさんがあのコのフェラーリをチューンしたと聞いたときは正直おどろきましたヨ……
もう日本でのチューニングはやってないと思ってましたから」

「ま、いろいろとあってナ」

「そんなにすごいかったんですか、このオッサン」

 アルフもさすがに聞き捨てならなかったようだ。

「ウチもずいぶん勉強させてもらいましたよ、チューナーからチューナーへ、人づてに渡っていったノウハウは、やっぱりスカさんあってこそでした、やっぱりドコの世界でも日本人は2番手──そう痛感させられました」

 スカリエッティが行っていたチューンは、けして目新しいものではなかった。
 セオリー通りにきっちりエンジンを組み直し、ブロックとヘッドを加工し、ガソリンと排気ガスの抜けをよく、メカニカルロスを少なくする。
 言葉にすれば当たり前のことだが、それをどのような手段で実現するかということが、日本ではどうしても遅れがちだった。
 設計の古い、開発技術もまだなかったころのエンジンで、いじるにしても元々のつくりがよくないから、などと言い訳もできた。
 だが、スカリエッティはそれら日本産エンジンも果敢にチューンしていった。
 設計が古いなら、加工してつくりなおせばいい。ベースはすでにある。そして、改良の余地もある。
 それは自動車メーカー自らが証明して見せていることだ。それをチューナーがやってはいけないという道理はない。

「考えてみれば当たり前のコトなんですがね──燃焼室の形状ひとつとっても、きちんと半球型に削りなおしてピストントップも形状合わせて、プラグもバルブ位置もガイド打ち直して──
手間がかかる、もとからそういうエンジンだったから、は言い訳にならないんだって、あの当時の我々は思い知らされたモンですよ」

「今のチューニングはもっと進んでいるのではないのかね?あのZだってもう機械としては古くさいモノだよ」

 悪魔のZがどのようなチューンを施されているか。それはあの車を追う誰もがのどから手が出るほどほしい情報だ。リインとアルフは目をかすかに引く。

 

 

 Kレコード本社ビルから目白通りを走ってすぐの護国寺ランプから首都高5号池袋線へ乗る。
 城島のSL600にはスカリエッティが同乗し、リインの911ターボ、アルフのGT-Rが先行して走る。

 SL600は電動メタルハードトップを備えるオープンボディの車だ。
 ボディ剛性は、強固なモノコックシャーシによって発揮される。ピークトルクはわずか1900rpmで84.6kgmを発生し、911やGT-Rにも余裕をもってついていける。

「あのZは今もスカさんがみているんですか?」

「いーや、私はずいぶん前に手放したよ。いくつもの事故を重ね、何人もの走り屋の命を奪い──
──解体屋送りにされたと聞いてはいたが、まさかそれをなおした人間が現れるとは」

 城島はわずかに息をのむ。
 スカリエッティがチューニングショップを事業として成功させられなかったのは、その妥協のなさゆえだった。
 そこそこにおさめ、安全マージンを十分残した車をつくる、そういうことができなかった。
 常軌を逸した速さと、その代償となる危うさ、乗る人間の技量が追い付かなければあっという間に限界を超えさせてしまう、そんな危険な車だった。

「私はあの車はサワってない。というか、むしろあの彼女がそれを望んだんだ。
このZは自分の思うようにしていく、私には頼らないでやってみたい──と」

「確かフェイトちゃんと同い年でしたよね──」

「いや、1コ下だったな。今年の春に免許を取ったばかりの女子高生だ。しかし、彼女にはセンスがあるよ」

「遅い奴はいつまでもダメですからね。単純な運転技術は反復練習でそこそこのレベルにはもっていけますが、車を乗りこなすセンスは才能です、後付けではどうにもなりませんから」

 スカリエッティの言葉通り、悪魔のZに施されたチューンというのは、“当時のストリート仕様としては”という但し書きがつけばこそハイレベルではあったが、レースシーンで使われた枯れた技術で組み上げられたものだった。
 新しいアプローチをあえて避け、確実にパワーを発揮できるようつくられていた。

 竹橋ジャンクションから環状線外回りに入る。
 911とGT-Rは江戸橋直進で湾岸へ向かい、城島もSL600を2台に続ける。

「送っていきますヨ、スカさんは今はどちらに?」

「保土ヶ谷だ、常盤台で降ろしてくれればいいよ」

「わかりました、湾岸本牧から神奈川環状へ回ります」

 深川線に入ると、2台はがぜんスピードを増した。

「もともとのベースエンジンは横田基地に持ってきた米国仕様の1975年式S30に載ってたヤツだ……
当時ですでにL28Eというインジェクション仕様があったんだが、いかんせん当時のインジェクションは信頼性が低くてね。すぐに使い慣れたソレックスキャブ3連装に取り換えた」

 SL600のハンドルを握りながら、城島はスカリエッティの話に聞き入る。

「日本国内でL28エンジン搭載車が出るのはそれから3年後の……S130へのモデルチェンジ後ですね」

「インジェクション自体、排ガス規制に適合させるためのものだった。当時のキャブ化はそれだけでパワーが上がった。
だがもちろんそれだけでは終わらせない。シリンダーボアを89ミリに拡げ、3リッター化する。
これにストローク83ミリのクランクシャフトを組み合わせることで排気量は3.1リッターだ。
これはもちろん当時のポピュラーな排気量アップだ……3リッター版のほうが高回転では有利だったが、ライナーとピストンリングの加工でこれもクリアした。
ノーマルのターンフローヘッドはLYヘッドに付け換えたが、どちらにしろ2バルブSOHCなもんだからヘッド周りには余裕がある、私は迷わずツインプラグ化したよ。
キャブエンジンはとにかく確実な点火が必要だ、でないとすぐにカブるからね。
バルブとカムシャフト、ロッカーアームにはタフトライド加工で強度を上げ、バルブスプリングは135kgf/mmに荷重セットした。バルブガイドはもちろん全部打ち直してある。
で仕上げはドライサンプ化だ、エンジン底部のオイルパンを取っ払ってポンプを付ける。
ヘッド周りを確実に潤滑するには強力なオイル供給圧を保てるドライサンプが不可欠だ。オイルタンクはタービンの反対側に置いた。
左右の重量バランス的にも、冷却面でも合理的だ。タービンはKKKのK26を2基掛けだ。
インテークからエキマニを経由してタービンアウトレットへ、パイピング全体がS字を描くようにレイアウトした。
バンパー中央にインタークーラーとラジエーター、左右にそれぞれオイルクーラーとエアコン用コンプレッサーを配置する。これらはすべてサブフレームに取り付けている」

 スカリエッティの作る車の特徴の一つとして、どんな車でも例外なくサブフレームを採用することがあった。
 もともとリジッド(直付け)の車の場合、わざわざパイプフレームを使って現車合わせで製作するほどだった。

「私はモノコックボディというものを信用していないんだよ」

 SL600のサイドシートでスカリエッティは笑う。

「ボディ剛性の低さは日本車のウィークポイントでしたからね」

「第2世代GT-Rでようやく及第点といったところだ。それくらい、モノコックというのは大パワーに弱い。
どこか1か所でもクラックが入ればたちまち全体がダメになる。応力分散のためにはセパレートフレーム構造は不可欠だ。
ちなみにお嬢さんのテスタはもともとパイプフレームシャーシだが、生産効率の点からセンターキャビン部のみモノコックになっている。
もちろん前後のパイプフレームをロールケージで連結する、これだけでフェラーリの走りはグンとよくなる。
あのS30には、ロールケージと連結したサブフレームを車体底面全体に組み込んだ。ボディパネルはほとんど応力を受けないようにしてある。
前後左右4か所のストラットタワーをそれぞれ上面と底面のタワーバーで連結し、箱型をつくる。これにクロスバーを入れる。
これだけで簡易的なパイプフレームシャーシができあがる。サスは純正のストラット式がこの場合相性がいい。
ロアアームを直接サブフレームに取り付けられるから、がぜん剛性が高くなる。キレのいい走りの秘密はここだよ。フロントがバタつかないからアクセルが踏みやすくなる。ハンドルを切りながらでも自在に加減速ができる」

「スペック上は同じ馬力でも、スカリエッティチューンの車は速かったですもんね──
パワーさえあればいいというわけではなかった、我々が気づくのはかなり後になってからでした」

 現時点で、悪魔のZが発生させているパワーはおそらく650馬力程度だろうとスカリエッティはみている。
 オーバーホールしたとはいえ、経年劣化によって各部のクリアランスや重量バランスも悪くなっているし、セッティングも安全マージンを大きくとったものにせざるを得ない。
 もし本気で速さを取り戻そうとするのなら、スカリエッティとしてもZのエンジンに手を入れるほかないと考えているが、なのはは今のまま走りたいという。

「(ま、せいぜいがんばってみたまえ──L型はエンジンを学ぶにはもってこいの教材だ、君はあの悪魔のZを師匠に、走りの修業を積んでいくんだ──)」

 

 

 

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最終更新:2012年12月19日 12:07