MW3_0

SIDE Task Force141(Disavowed)
八月一四日 09:55:21
ミッドチルダ クラナガン ミッドチルダ中央放送局本社ビル
ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹


 妙なことになった、と三〇階建ての高層ビルの屋上でローチは思う。
 彼は本来、地球における各国の精鋭部隊からさらに人員を選んで結集した特殊部隊"Task Force141"に属し、未だ各地に潜伏しているロシアの超国家主義者たちを討伐するのが任務のはずだった。それが様々な経緯を経て、今はこうして異世界の高層ビルの屋上にいる。変わっていないのは装備と、それから与えられた任務に対する姿勢くらいなものだ。
 吹き付ける風が止んだ。それが合図であったかのように、すぐ隣で待機していた仲間が動き出す。ポール・ジャクソンと言うこの元米軍の兵士は、ローチにとっては命の恩人とも言うべき存在だった。こちらが設置したトラップのおかげで殺されかけたにも関わらず、だ。

「そろそろ時間だ。ローチ、用意しろ」

 頷き、ローチは三点スリングで上半身に引っ掛けていた銃を手に持った。M4A1、地球の自由主義陣営を代表する傑作小銃M16から発展したカービン銃。フォアグリップとダットサイトを装着した以外は何の変哲もない代物だが、ローチはその何の変哲も無い銃にかえって違和感を覚えた。ここは戦友の故郷。魔法の世界。チェストリグの内側、迷彩服の胸ポケットに大切にしまってある手帳の持ち主が生まれた場所。そんなところに、俺たちは俺たちの世界の武器を持ち込んだ。鉄と火の、科学によって生み出される破壊の力を持つ武器を。
 感傷に浸る余裕がないのは、重々承知していた。この作戦は、全員がそれぞれの役割を果たして始めて上手くいく。雑念を脳裏から振り払い、先に動き出したジャクソンの背中を追った。
 三〇階建ての高層ビルの屋上から見下ろす下界は、まるでミニチュア模型のようだ。頬を撫でる風、照りつける日差しが無ければ現実感も感じなかった。
 魔法の世界であっても、このクラナガンという街はローチの知る地球の大都市とさほど変わりが無いように見えた。屋上の端に設けられた転落防止用のフェンスも、何の変わりも無いただの金属だ。そのフェンスに降下用のロープを引っ掛け、ジャクソンとともに乗り越える。下を見れば何十メートルという高さを否応無しに実感するが、今からここを降りねばならない。

「いいか、確認するぞ。まずは二六階に下りる。窓を突き破ってエレベーターホールを確保して――」
「チーム・ブラボーが地下一階の管制室を抑えてくれる。エレベーターで二〇階に下りて、放送スタジオを制圧する。そうだな?」

 分かっているならいい、と隣にいるアメリカ人は頷き、個人携行用の通信機の周波数スイッチを操作した。首元のマイクを押さえ、チーム全体に準備完了を連絡する。

「チーム・アルファ、配置に就いた。ブラボー、チャーリー、デルタ、それとエコーはどうだ」
≪こちらブラボー。いつでもいい、ギャズも準備出来てる≫

 チーム・ブラボーからの応答。幼い女の子の声だった。しかし、今更ローチは驚かない。彼が行動を共にしている部隊では、決して珍しくないのだ。

≪チーム・チャーリー、配置完了。やるなら早くしてくれ、隣の女剣士様がうずうずしてるんでな≫

 声だけでチーム・チャーリーの一人、陽気な黒人からの通信だと分かる。ジャクソンが一瞬、苦笑いした。

≪チーム・デルタ、準備よし。フェイトちゃんもOKです≫

 デルタからの通信、これは若い女性の声だった。チーム・ブラボーで応答した声の持ち主よりは大人びた印象があるが、それでも戦場で聞く声にしてはあまりに優しいもののように思えた。

≪こちらチーム・エコー、配置に就いた。作戦開始のタイミングはアルファに任せる。頼んだぞ、ジャクソン、ローチ≫

 最後に、チーム・エコーからの応答。こちらの方はブラボーやデルタに比べれば、まだ違和感はない。若い男の声だが、どこか落ち着いていて、それでいて毅然としたものがある。
 全てのチームの準備完了を確認した二人は、行動開始の直前、顔を見合わせた。どちらともなく頷きあい、互いに準備よしを確認し合う。本来ならどちらも死んでいた身だ。今更恐怖や躊躇いなどは無かった。

「作戦開始。アルファ、突入する」

 ジャクソンの声を聞いて、ローチは屋上からロープを掴んだまま飛び降りた。速度を調整しつつ、壁を蹴って降下していく。
 手筈通り二六階に達する直前、ぐっと勢いをつけて壁を蹴った。身体が宙に放り出され、振り子の原理で二六階の窓ガラスに向かい、突き進んでいく。足の爪先を立てて、ブーツで窓を叩き割り、内部へ突入。
 パリン、とガラスが叩き割られた。破片が舞い散り、迷彩服を纏った二人は屋内へ。当然、警戒していた敵兵は驚いて様子を見に来るだろう。首尾よく着地と侵入に成功したローチはロープを投げ捨て、ガラスの破片が散りばめられた床の上で素早く交戦準備を整える。

「いったい何だ、何の音だ!?」

 案の定、一人の魔導師が慌てた様子でローチとジャクソンが降り立った廊下に現れた。突然の侵入者を目撃した彼は咄嗟に魔法の杖、こちらの世界で言うところのストレージデバイスを構えようとした。それより早く、ローチの構えたM4A1が火を吹く。
 パンパンパン、とセミオート射撃で綺麗に三発を叩き込む。あ、と短い悲鳴を上げて、魔導師は倒れた――そう、彼らは今回、敵だった。管理局の魔導師。本来であれば味方であるはずの存在。しかし、今は違う。この放送局は彼ら報復強行派によって乗っ取られているのだから。
 銃撃を受けて倒れた敵ではあったが、目立った外傷は見当たらない。立ち上がることは出来ないようだが、うぅ、とうめき声すら上げていた。

「非殺傷設定って便利だな。物は壊せるんだろ?」
「そのはずだ。ミスターR謹製だからな」

 知り合いの名を口にするジャクソンもローチと同じM4A1を構え、前進を開始。まずはエレベーターホールの確保が第一の目標だった。
 廊下を進み、曲がり角で一度停止。銃床を本来なら右肩に当てるところを、左肩に変えて銃口と共に行く手を覗き込む。さすがに銃声があったとなれば、敵も侵入者が現れたと気付いたのだろう。エレベーターホールに繋がる道の奥で、指示を飛ばす声が飛び交っていた。
 ちら、と二人の兵士はアイコンタクトし、銃を構えたまま前進。廊下の向こうから強行派の魔導師が飛び出してきて、ようやく敵は侵入者であるところの二人を捕捉する。
 魔導の杖がこちらに跳ね上げられる直前、ローチは銃弾をお見舞いした。ダットサイトに捉えた敵は二発の銃弾を浴びてひっくり返り、戦闘力を失う。後からやって来た魔導師たちがデバイスを構えて反撃しようとするが、ジャクソンの銃撃がそれを阻んだ。壁に弾丸が叩き込まれ、敵は恐れをなして逃げてしまう。
 脆いな――事前の予測で、敵の練度は低いであろうとは言われていた。報復強行派は強引な手段によって管理局を掌握したに過ぎず、戦力の大半もアメリカへの報復攻撃に投入されていた。後方を警備する魔導師たちは、そういった重大な作戦に加われなかった程度の者でしかないということだ。しかしこれほどとは。ローチは敵に同情せざるを得なかった。
 脳裏に思考が渦巻くのを余所に、エレベーターホールに到着。その途端、ソファーや机を並べて設けられた即席バリケードの向こうから、光の弾丸をありったけ叩き込まれた。足元を魔力弾が跳ね飛び、頬を掠めた。

「下がれ、後退!」

 ジャクソンの指示が飛び、一旦曲がり角の奥に引く。同情しても敵はお構いなしだった。ローチは舌打ちし、チェストリグのOリングに引っ掛けてあったフラッシュバン(閃光手榴弾)を持ち出す。ピンを引き抜き、エレベーターホールに向け投げ込んだ。
 パン、と閃光と轟音が響き渡る。壁に身を寄せ、念のため瞳も閉じていたにも関わらず、視界の片隅が眩しく瞬いた。
 すかさず「GO!」と叫んで、ジャクソンと共に突入。即席バリケードを設けていても、人工の強烈な光と音は防ぎきれない。魔導師たちは視力と聴力を失い、ある者は目を覆い、ある者はデバイスを構えたまま、闇雲に魔力弾を乱射していた。放たれる光の弾丸は、壁や天井に穴を開けるだけだった。
 一気に接近し、ありったけの銃弾を叩き込む。至近距離にまで近寄れば、ソファーや机程度なら貫通する。障壁をぶち抜いた銃弾は魔導師に飛び掛り、命中の寸前ほんのコンマゼロ秒というところで、弾薬にかけられた非殺傷設定が機能する。銃弾に込められた殺意は止まり、それでも気絶させられる程度の威力が標的に着弾した。
 魔導師たちは次々と倒れていった。最後の一人に銃弾を叩き込んで、動かなくなったところでクリア。エレベーターホールを確保。

「チーム・アルファ、エレベーターホールを確保した。ブラボー、そっちはどうだ」

 マガジンを交換しつつ、ジャクソンが首元のマイクを押さえ、エレベーター制御室の制圧を担当するチーム・ブラボーを呼び出す。このままエレベーターを呼び出しても、敵が異変に気付いてこれを止めてしまえばジャクソンたちは袋のネズミになってしまう。
 ローチがマガジンを交換し、空になったそれをダストポーチに放り込む。ブラボーからの応答はない。まさか、と最悪の事態が一瞬脳裏をよぎる。

「チーム・ブラボー、応答しろ。ヴィータ、ギャズ」

 苛立たしげに、ジャクソンがもう一度通信を送った。これで返答がないなら、いよいよ作戦はまずい方向に進むことになる。

≪悪い、遅れた! チーム・ブラボー、エレベーター制御室を制圧した!≫

 ふぅ、とため息が漏れた。元海兵隊曹長の口から。安堵の表情を浮かべて、それも一瞬のこと。チーム・ブラボー、ヴィータとの通信を再開。

「遅いぞヴィータ。お前が手間取るような相手じゃないだろう」
≪悪い悪い。制御室をぶっ壊さないようにやんのが思ったより面倒でさー…今ギャズがエレベーターを操作してる。おい、どうだー?≫
≪今ジャクソンたちのいるフロアにエレベーターを送った。捜査権限はこっちにある、誰も止めることは出来ないだろうな≫

 通信を聞きながら、ローチはちらっとエレベーターの表示に目をやった。数字がどんどん三〇に近付いている。

≪それにしてもヴィータ、もうちょっと慎重にやれよ。あと五センチずれてたら操作端末ごと潰れてたぞ≫
≪しょーがねーだろ。敵が狭い室内で逃げ回るんだから。アタシもアイゼンも細かい作業は苦手なんだ≫
≪ドヤ顔で言うな≫

 チーム・ブラボーの会話を余所に、エレベーターは何の問題も無く、二六階に到達した。念のため銃口を前に突きつけて警戒しながら乗り込み、二〇階を選択。あとはほんのしばらく待つだけだ。
 来客用に見栄を張ったのか、二人が乗り込んだエレベーターはガラス張りで外の風景が見れる仕様だった。近代的な、それでいて地球のそれとはどこかデザインセンスが違うクラナガンのビルが立ち並ぶ風景。ここに大勢の人が暮らしている。
 ふと、ローチは立ち並ぶビルの間で、妙な光の軌跡を見たような気がした。眼を凝らし、ジャクソンも異変に気付いてガラスの壁の向こうに眼をやった瞬間、それは気のせいではなかったことを思い知らされる。特大の光の渦が、突如として異世界の空を桜色で照らしたのだ。
 光はそれだけではなかった。桜色の渦が収まると同時に、金の閃光が空を縦横無尽に駆け回る。距離があるから肉眼でも追えているが、実際に対峙すればおそらく反応すら出来まい。地上と空から光の軌跡を迎撃するように魔力弾が撃ち放たれているが、金の閃光はものともしていない。
 再び、桜色の光の渦が瞬いた。今度は地上に向かって。いったい何だ、と目の前の事態を必死に理解しようとしていると、通信が入った。片耳に入れたイヤホンに、若い女の声が響く。

≪こちらチーム・デルタ! 中央放送局に向かっていた敵の増援と交戦中! フェイトちゃん、あと一〇秒持ちこたえて! 三発目が撃てる!≫
「高町か。派手にやってるようだな、よく見えるぞ」
≪増援は防ぎきります。ご武運を≫

 そっちもな、と通信に答えたジャクソンが言う。気のせいか、青空の向こうにローチは少女の微笑みを見たような気がした。女の子とは思えない、不敵なエースの微笑みを。

「あの二人に任せておけば増援はないだろう。あとはこの建物内の敵戦力だけだ」
「管理局のダブルエースか、あれは。味方でよかったよ」

 肩をすくめて、ローチは苦笑い。相棒も同じ表情で答えた。
 エレベーターが二六階に到達。扉が開かれて、二人は銃を構えて警戒しつつ飛び出した。とりあえず、この階のエレベーターホールには敵の姿はなかった。




SIDE 時空管理局 機動六課準備室
八月一四日 09:55:21
ミッドチルダ クラナガン ミッドチルダ中央放送局本社ビル
ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長


 エレベーターホールを抜けて、放送スタジオへ向かう。
 上での騒ぎを聞いていないはずもないだろうに、不思議と敵が迎撃に出てくる様子は見えない。行き足は止まらないが、ジャクソンにはかえってそれが不気味だった。これはきっと、どこかで敵が待ち伏せしているに違いない。
 片耳に入れたイヤホンにノイズが入り、元海兵隊員は足を止めた。銃を右手で構えたまま、左手を上げて停止の合図。背後をカバーしていたローチが止まる気配を感じたところで、首元のマイクに手を当て意識を聴覚に集中する。

≪こちらチーム・チャーリー、現在敵と交戦中。奴らは侵入に気付いた、非常階段を使って上がって来てる≫

 通信機から聞こえるのは女の声には違いないが、交戦中と言う割りにずいぶん落ち着いたものだった。何より堅物の騎士のような話し方は、チーム・チャーリーの女剣士こと烈火の将、シグナムだ。
 ジャクソンは敵に同情する。実際に矛を交えた訳ではないが、彼女の剣の腕前は達人と呼ぶに相応しい。魔法を使わずとも、状況次第で近代的な銃火器すらも圧倒することが可能なシグナムと、閉所空間である非常階段でやり合うのはまず無謀だろう。
 案の定、通信機の拾う音声には敵の悲鳴とうろたえる声ばかり響いてきた。時折交じる銃声は、海兵隊時代からの戦友グリッグのものだ。非常階段を上がってきた敵に背後を突かれる、という心配は無くなったと見てよい。

≪チーム・チャーリー、こちらアルファ。そのまま敵を食い止めてくれ。出来るか?≫
≪無論だ。そちらは任務に集中してくれ――せぇあ!≫

 女騎士の雄叫びが聞こえて、ジャクソンは一度通信を切った。増援は彼女らに任せよう。
 しかしそうすると問題は――前進を再開し、危惧していたことが現実味を帯びてきたのを感じる。放送スタジオに敵が陣取っているなら、おそらくはそちらにもこちらの存在は知れ渡っているだろう。出てこないのは増援を待っているからか。
 二人の兵士は放送スタジオの扉に辿り着いた。両開きの大きな扉だったが、中の様子は窺い知ることは出来ない。スタジオというだけあって、防音仕様になっているのだろう。

「どうする。放送局の局員もいるはずだ、下手に発砲出来ないぞ」
「そうだな、向こうから出てきてくれればいいんだが……」

 ローチとの会話の最中、ふと、ジャクソンは扉の向こうに気配を感じた。音も聞こえず姿も見えないが、長年の兵士の勘とも言うべき感性が、人の気配を確かに捉えていたのだ。
 下がれ、と彼は相棒に指示を下す。扉から一旦離れ、曲がり角の陰に身を寄せた。M4A1を腰の後ろに回して、右太ももに装着していたホルスターからベレッタM9拳銃を取り出す。

「くそ、敵は何者なんだ。おい、放送は続けさせろ。逆らう者は殺すと言え――!?」

 バッと兵士は飛び出す。放送スタジオから出てきた敵の魔導師と眼が合った。どうやらリーダー格のようだが、その反応はあまりにも鈍い。突如現れたとはいえ、掴みかかったジャクソンに大して抵抗も出来ないまま首を抑えられ、こめかみに拳銃を突きつけられる。
 リーダー格の魔導師を取り押さえたまま、ジャクソンは放送スタジオに突入する。眼に映ったのは様々な放送機材、広いスタジオ、アメリカへの報復を訴える番組、脅される放送局員たち、それから強行派の魔導師たち。
 敵は突入してきた兵士に反射的にデバイスを構えて向けるが、リーダー格を捕らえられて盾にされていた。その一瞬の躊躇いが隙を生む。右手に持ったM9で、元海兵隊員は一人、また一人と撃ち倒していく。
 視線を左に移したところで、遅れてやって来たローチがM4A1を構え、こちらも正確なセミオート射撃で魔導師たちを撃ち倒す。スローモーションのような視界が元に戻った時、スタジオ内の敵は全てが無力化されていた。

「オールクリア。敵は全員倒した――あとはそいつだけだ」
「そのようだな」

 左腕一本で羽交い絞めにしていたリーダー格を、ジャクソンは蹴り飛ばす。無様に床に転がった敵は口汚い言葉で彼らを罵ろうとしたが、すかさず入ったローチの蹴りがその口を黙らせる。

「よし、スタジオを確保した。こちらチーム・アルファ、放送スタジオ確保。チーム・エコー、もう出てきていいぞ」
「聞こえてる。派手にやりすぎだ、二人とも。局員たちが怯えてるじゃないか」

 首元のマイクに向かって通信を送ったが、返事は肉声ですぐ後ろから来た。振り返ると、バリアジャケットに身を包んだ黒髪の青年が困った表情でスタジオに入ってきていた。同時に、ふんわりとした騎士甲冑姿の柔らかい雰囲気の女性も。

「銃を下ろしてください、ジャクソンさん。ローチも。ミッドチルダの人は銃なんか見慣れてないんですから」
「あぁ、あぁ、分かった。シャマルに言われちゃ仕方ない。ローチ、下ろせ」

 怒った様子で言う――ただし、あまり怖くはない――シャマルと呼ばれた女性の指示に従い、二人の兵士は銃口を下ろした。

「な、何だ。いったい何だ、あなたたちは……」

 怯えきった様子の放送局員たちがもっともな疑問を口にする。問いかけに答えようとした青年が口を開く直前、床に転がったままのリーダー格が、彼を指差して怒鳴る。

「貴様……クロノ・ハラオウン提督だな。報復に反対した裏切り者め、拘束されていたはずだぞ!」
「その通りだ。彼らに助けてもらったんだ」

 裏切り者、と呼ばれたにも関わらず、クロノと呼ばれた青年の表情は涼しいままだった。リーダー格の声など、まるで雑音か何かのようにしか思っていないようですらあった。

「聞いての通り、僕は時空管理局次元航行艦隊所属、クロノ・ハラオウン提督だ。この放送スタジオをお借りしたい。戦争を終わらせるために」




「ミッドチルダと各管理世界、そして地球の皆さん、突然の放送を失礼する。自分は時空管理局次元航行艦隊所属、クロノ・ハラオウン提督だ」

 その放送は、文字通り全世界に届けられた。ミッドチルダ中央放送局は民放ではあったが、テレビ、新聞、ネット、あらゆる情報伝達の媒体を手に持つ一大企業だった。これに次元宇宙で待機していた次元航行艦"アースラ"ならびに彼らに協力する時空管理局地上本部の支援も加われば、もはやどこにいてもその放送は耳に、あるいは眼にすることが出来る。

「この放送は、先日起きたミッドチルダ臨海空港の無差別殺戮テロに起因する、時空管理局と地球のアメリカ合衆国の間に引き起こされた戦争の黒幕に関するものだ。どうか、聞いてもらいたい」

 クロノは放送で、この戦争の真実を話した。臨海空港のテロはアメリカが行ったのではなく、そもそもの首謀者は超国家主義者たちのリーダー、ウラジミール・マカロフの手によるもの。報復強行派と慎重派で二つに割れた管理局は、強行派の強引極まりない手段で慎重派を封殺し指揮権を握られたこと。
 シェパード将軍の件は、意図的に伏せられた。これも真実には違いないが、アメリカの将軍もある意味でテロに加担していたことが判明すれば、報復強行派の勢いは削り切れないかもしれない。ローチは苦々しげな顔をしていたが、今は戦争の終結が最優先とされた。

「今、地球にいる管理局の強行派諸君。どうか冷静になって頂きたい。君たちの自分の世界を想う気持ちは大いに称えられるべきだ。だが敵を間違えてはならない」

 放送に協力した局員たちの手で、マカロフの映像も全世界に公開された。全ての元凶。倒すべき敵はこいつだ、そう世界に印象付けるために。

「次元航行艦隊提督として、管理局各部隊に命ずる。ただちに地球から撤退せよ。アメリカ合衆国の市民の皆さん、これで許してくれとは言わない。だがどうか、どうか今は矛を収めて頂きたい。我々の敵は、マカロフだ」

 地球からの撤退。無論、そう簡単に物事が運ぶはずがない。中には命令に反発し、地球での戦闘をやめない部隊も出てくるだろう。しかしそれでも、彼の下した命令は戦争終結への第一歩となるはずだ。
 戦争が終わり――また始まる。新しい戦争が。
 そして舞台は、World War Ⅲ(第三次世界大戦)へ。




WW3――MW3




Call of lyrical Modern Warfare 3





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最終更新:2014年07月21日 17:01