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“桜花月刀流”。
女性の為に作られたこの流派は、男よりも非力な女の身で、男と対等以上に戦う術を手に入れるために作られた流派だった。
その性質ゆえ、求められるのは何よりも「個」を消し、ただひたすらに剣を、技を磨くこと。
力が足りぬならば速さで補え。速さが足りぬならば工夫で補え。工夫が足りぬならば鍛錬で補え――
足りぬところをひたすらに埋め、既にあるものはひたすらに伸ばし、ただただ強さのみを求めていく流派。
故に、継承の条件は、血統に関係なく、そのとき最も強い弟子であること、その一点のみである。
また、継承者となったものは、先代が受け継ぎ磨き上げてきた技の全てと、「櫻月 劔」という名を受け継ぐことになる。
そして「劔」となったものは、今までの己(古い名:本名)を捨て、次の「劔」が現れるまで、ひたすらにその技を、磨き、練り上げていくことを求められる。
それは、刀剣を鍛え、砥ぐという作業そのものにとても良く似ている。
文字通り、名の通りに、ただ一振りの劔となって己を磨くその道に、「個」は存在しないのだ。
彼女がこの流派を受け継いだのは5年ほど前のこと。
当時継承者であった祖母が、ジャームとの交戦で負った傷が元になり、命を落とす間際、彼女を継承者として選んだことで、
彼女は今までの自分を捨て、「劔」として生きることになった。
両親もおらず、姉とも疎遠になっていた彼女は、そこで完全に家族と決別することになる。
その後UGNの勧誘を受け、戦闘部隊として各地の作戦行動に参加。ジャームの制圧作戦が主な任務だったが、その後裏切り者の処分も請け負うようになる。
そしてジャームとの、あるいはオーヴァードとの命を削りあう戦いの中で生き残り、レネゲイドの力をも利用して、
「劔」である為に、「劔」を理解する為に、ただひたすらに技を、己を磨き続けた。
それは、所属が戦闘部隊から支部長に変わっても、変わることはなかった。
だが彼女は、自分の代でこの流派を終えることを決めている。
自分は「劔」として生きることを決めている。だが、一人の人間ではなく、ただ一振りの「劔」であることが、本当に「劔」の為なのだろうか。
「櫻月 劔」の名を受け継ぎ、激務に追われる中でふと生まれた疑問は、彼女に流派の断絶を決意させた。
延々とつないできた過去を自分の代で断ち切ってしまうことに、彼女は痛みを感じている。
けれど彼女の決意は揺らぐことはない。
“櫻月 劔”は、花や自然をこよなく愛し、如何なる時も慈愛に満ちた天使や女神の如き優しさを持つような人間ではない。決してない。
だが、彼女の根幹にはいつでも他者への愛情がある。他者への優しさがある。
困っていれば手を無理やりにでも掴んでしまうし、迷っていれば背中を突き飛ばしてしまう。
それは決して器用ではないが、確かに彼女の中に存在する。
だからこそ彼女は裏切りも、それが当人の「正義」や「真実」であるならば受け入れ、その為の障害として立ちふさがる。
自分ひとりも越えられないようでは、この先その正義や真実を守り、戦って行くことなどできないと思うからこそ、彼女は立ちふさがる。
流派への痛みも、裏切りの痛みも、彼女は全て己の内に受け入れる。
そして今日も、何事もないかのように笑うのである。
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