遠い昔に聞いたような気がする
稀に生まれる通常と違った子供には「シャノン」と名づけるらしい
それが何もないものが守っているらしい
理由などとっくに忘れ去られているのにいつまでそんな下らない決まりごとを守るとは馬鹿馬鹿し過ぎる

「かの民」と聞いたときもありがたいとは思えなかった
ただ、面倒なだけだ

気がついたときには既にそうだったとしか言えない
一言で言えば『鈍い』
感情が足りない
側にいるのに時々遠く、何か壁を隔てているように感じた
同じように、触れる行為も素手なのに分厚い手袋をして触れているようだった
世界はこんなにも遠く、未知なもの
鏡の中の世界が本物で自分が偽者ではないか
そんなことを思った

世界はこんなにも醜くて美しいのに
それならばその遠い世界を見ながら 傷つけないように嘘をつく

足りないものは補えばいい
偽りでも演じ続けていれば真実に変わる
それがどんなに愚かなものであってもやらなければならない
生きていくというのはそういうことだ
他人に親切にするのも同じ
親切にすれば忘れられることはあれど、憎悪を持って覚えられることもない
そうだ
多分、きっと、「忘れられてここにいない存在」になりたかったのだと思う

届かないなら最初から手を伸ばさないことも正解の一つ
願わなければ始まりも何もしないから ただ憧れるだけ

熱した針の先は赤く 耳元で肉の裂ける音がした
そこから広がる肉の痛み 熱源
生々しく感じるそれに頼ってしまうくらい存在の理由がおぼつかない
新しく通した銀の小さな環は冷たく人々の見ている世界はきっとこんなものだろうと思った

憧れたのは 直接触れてみたかったあれ
嘘をついたのは ただの保身

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最終更新:2017年02月12日 10:16