眞一郎と比呂美が付き合い始めてから時は流れ、桜が咲き乱れる季節 お互い二年生となり新学期が始まってようやく落ち着いた頃 比呂美はバスケ、眞一郎は絵本にそれぞれ打ち込んでいた
部活が終わり更衣室でお互いの疲れをを気遣う会話 いつもと少し急いで着替えを済ませようとする比呂美を朋与はニヤニヤと見つつ
と比呂美をからかう
それにそんな先までの事判らないじゃない…その…結婚なんて」 顔を真っ赤にしながら比呂美は否定する
朋与の『未来の夫』発言で恐らく確実に来るであろう未来を比呂美は遠い眼差しをして想像していた
朋与はそんな『心、此処にあらず』な比呂美を現実の世界に呼び戻す様に呼ぶ その茶化した言葉で反応した比呂美は
本気ではないが怒り交じりな口調で朋与を叱る
しかし、よくOKしたわよね?あれだけ見せつけられたのに」 眞一郎と乃絵が付き合っていた頃の比呂美を見ていた朋与だから言える台詞だった
まるで遠い過去のように比呂美は言う
比呂美は弄られてる仕返しと言わんばかりに朋与に反撃する、だが
と朋与はその攻撃をさらりと避ける
冗談交じりに比呂美は聞く
優しいのは良いけど好きな子を不安にさせてるのが気にいらない ちゃんと線引きしろっての」 朋与の眞一郎の評価に比呂美は愛想笑いをする
ま、そういう理由があるから高校にいる時はないでしょ」 またもや茶化されたのを返すかのように
比呂美は朋与の前に手を出し請求する
今みたいな返しはしなかったし」 朋与の言葉にえ?と比呂美は反応する
前と接し方は変わってはいないんだけど 以前は一歩後ろにいたような感じに思えるのよ 今はそれが無くなったっていうか 仲上君以外の事でも悩みがあったけどそれも解消されたとか?」 朋与の推察の凄さに恐れながらも比呂美は答える
ごめんね親友なのに頼らなくて、でも…」 比呂美が謝罪を込めて今まで悩んでいた事を言おうとした時 朋与は比呂美の目の前に手を出しストップのジェスチャーをして
私にすら言えない事だったんでしょ? その調子だと恐らく仲上君にも言えなかっただろうし それに親友だからって何でも話してもいい理由もないそれを察して聞かないのも親友よ」 と比呂美を優しく気遣う そんな朋与の気遣いにありがとうと比呂美は自然と言葉が出てくる
未来の夫を待たせてるみたいだから先行って弄ってやろう」 いつの間にか着替えを終わらせていた朋与が比呂美を急かすように茶化し、 更衣室から駆け抜けるように出る
比呂美も後を追う形で更衣室を出た
絵本作家を目指す事に本腰になった眞一郎は学校の図書室などに寄るようになり よく題材を集める為、比呂美の部活が終わる頃まで学校に残る事が多くなった
校門前で待ってる眞一郎は玄関を眺めながら待ち遠しく、つい口にしてしまう 気晴らしに玄関を背に向け周りを眺める
後ろから眞一郎が待っていた台詞だったが
チッと舌打ちして残念がる朋与 遅れて
振り向き比呂美と眞一郎は声を掛け合う
やっぱりあんた達見てる方が面白いわ」 そんな光景を見せつけられた朋与は呆れ顔で冷やかす
眞一郎は朋与の前に手を出し請求する
さっき更衣室で比呂美と同じ対応した眞一郎と比呂美を見ながら さらに呆れて朋与は言う 眞一郎はへ?と顔し、隣では比呂美が笑いを堪えながらクスクスと笑っていた
朋与が常々思っていた疑問を二人にぶつける
それに知ってるのは朋与と野伏君くらいだけだよ」 比呂美は照れながら言い、続けて眞一郎も話す
まだお互いよく知らない事多いしこれからさ」
二人で決めた事を眞一郎も比呂美も改めて感じていた
朋与は何かを納得するように二人に言った
朋与が言った『アレ』が何の意味か咄嗟に判った二人は 同時に顔を真っ赤にし、大声で朋与を怒鳴る
朋与はそんな二人をあしらう様に落ち着かせる そんなやり取りをしているところに
眞一郎には見覚えが無い女生徒が声をかけてきた 制服から見て一年生どうやら女子バスケ部の後輩のようだ
比呂美と朋与は後輩に声を掛けられつい話し込む 談笑する三人、眞一郎は自然と蚊帳の外の状態となる
眞一郎に気付いたのか後輩の子が比呂美と朋与に聞く
朋与は簡潔に後輩に眞一郎を紹介した
恋人同士だと絵になりますね」 後輩の子の純粋な言葉に眞一郎と比呂美は思わず照れてしまう
後は二人に任せて一緒に帰ろうか?」 朋与は二人にウインクしまるで付き合っていないかのように言い、後輩に帰りを促す
朋与と後輩の子は立ち去り、比呂美と眞一郎が取り残される形になった
比呂美の後輩の子に言われた事を二人はまだ照れつつ校門を後にする
坂を並んでゆっくり下りながらさっき会った後輩の子の話をする二人
比呂美は話が一段落したのを見計らって眞一郎が書き始めた絵本の話に移す
眞一郎の熱意が伝わったのか絵本をいつも送っている出版社から 一般の人を対象にしたコンクールがある事を教えてくれた 自分の足りない物を知るには良い機会だと思い、眞一郎は応募を決意した
それに他の人がどんな話を書くのか興味もあるしね」 眞一郎は子供が将来の夢を言う様に比呂美に話す
でもコンクールって言葉のせいかな?大事の様に聞こえる 大賞取ったら雑誌とかに取材されたりするのかな?」 少し大げさに比呂美は言う
同じ様なものだよ」 コンクールを試合に例えて優しく眞一郎は言った
でも、眞一郎くんの夢って険しいね」 少し不安そうに比呂美は言う
でも、俺が自分で決めた事だから」 眞一郎は真剣に比呂美を見て話す
比呂美の正直な言葉に眞一郎は頭を掻き照れてしまう
でも、今まで手伝いに来てもまで泊まる事無かったのに どうして今日から朝錬が無い時は泊まる事にしたんだ?」 今朝の事だった 比呂美が翌日に朝錬がない日は仲上家に泊まると言ったのだ 眞一郎の両親と比呂美の間では既に話し合いが済んでいるらしく 眞一郎が知ったのは今朝のホームルーム前だった
それに、将来は眞一郎くんの家に就職したいって思い切っておばさんに言ってみたの そしたら、気持ちは嬉しいけど大学に行ってからでも遅くない でも、経験があるのに越した事ないから私の好きな様にしなさいって」 比呂美は嬉しそうに眞一郎に話す
憧れるように眞一郎は言う
あ、着いたわ眞一郎くん悪いけど少し待っててすぐ準備済ませてくるから」 顔を赤らめて何かを言おうとして無理やり話を切り上げ比呂美はアパートに駆け足で入っていく
アパートの入り口の階段が鳴り大きめのバックと学生カバンを持った比呂美が出てくる
眞一郎にバックを渡し並んで歩く二人
自然に思った事を眞一郎は言う
今後は制服と翌日の授業の用意になるからそんなに多くならないよ」 眞一郎の思った事に簡単に答える比呂美 そうか、と眞一郎は言い、思い出したかのように次の話をする
竹林での告白から数日後、眞一郎は比呂美と付き合う事を両親に報告しようと比呂美に持ちかけた 比呂美もそのつもりだったらしく二人一緒に報告した 眞一郎の両親は快く認めたがこの手で定番である台詞である
最も、【お互いもっと知っていこう】と決めた時に二人共そのつもりでいた
比呂美もその時の事を懐かしく思い出し表情を綻ばせつつ言う 眞一郎は頃合かと思いつつ思い切って比呂美に尋ねた
あの事故以降、比呂美に優しく接しているのは眞一郎も気付いていた 麦端祭りの後なんか『比呂美ちゃん』と実の娘の様に言うくらいだ 急な変化に眞一郎は少し戸惑っていた
そのお陰で気兼ねなくおばさんと向き合えるようになった」 比呂美はその時の事を懐かしく言う
でも、比呂美は今までの事は簡単に許せないんだろ」 眞一郎は悪いと思いながら聞いてしまう
でも、色々おばさんと話しておばさんの気持ちも今なら分かる。私も前まで似た事もあったから だから、いつか全部許せて笑える日がくると思う。長い時間が必要だけど 最近ね、おばさんに甘えれるようになったの」 比呂美は穏やかな口調で嬉しそうに答えた
仲上家に着き、比呂美はかつて使っていた部屋へいた
比呂美は懐かしむように置いてある机を撫でながら思っていた 部屋は流石に閑散としていたが綺麗になっておりある程度必要な物は揃っていた
比呂美は感謝の気持ちでいっぱいになり約束通り、学校での勉強を始める 泊まって事務を本格的にする代わりに条件として 学校の勉強を優先させる事と無理をしない事を約束させられたのだ 途中、夕食を挟み予習と復習を終わらせ次に事務に向かう いつも手伝いで使っているパソコンがある店舗に行き、電源を入れる パソコンの横にはいつもは見ない使い古されている事務に関する本がいくつかパソコンの横に置いてあった 比呂美は本を手に取りパラパラと捲ってみる 重要な部分が赤の蛍光ペンで色付けされりと見やすくなっている
早速、要点をノートに書き止め、作業に取り掛かる 作業の量は手伝いの時とさほど変わらず 作業が一段落し、少し休憩をしようと目を閉じ、椅子に寄りかかる 気が緩んだのか、眠気が比呂美を襲ってきてコクコクと体を揺らし始めた
比呂美が気になり見に来た眞一郎は声をかけるが 比呂美の寝顔につい見とれてしまう
そんな衝動に駆られつつも眞一郎は比呂美を起こす事にする
比呂美の体を優しくユサユサと揺らし目覚めを促す 比呂美はう~ん、と少し唸りハッとし
みっともないところ見られちゃった」 少しパニックになり顔が真っ赤になって比呂美は思わず眞一郎から離れる
心配な顔をしながら眞一郎は冗談っぽく脅す
眞一郎の優しさを感じ感謝する
比呂美は作業に戻り眞一郎にここに来た理由を聞く
そしたら比呂美が眠ってたから、寝顔、綺麗だったなぁ」 さっきまで思ってた事を添えて眞一郎は答えた
さっきのお返しの様に眞一郎を気遣う
慣れた手つきでパソコンを終了させつつ答える お疲れさまと眞一郎は比呂美を労ってそして不意に比呂美を抱き抱えた
比呂美は不意に抱き抱えられた事で混乱しつつも眞一郎に全てを預ける
照れつつも比呂美を抱き抱えながらゆっくりと歩いて言う
自然と比呂美が言うしかし、眞一郎は、思っていたより軽いなと口走ってしまう その瞬間、眞一郎の首筋に激痛が走る
眞一郎は思わず怒鳴ってしまう
比呂美の顔は微笑んでいたが口調は全く別で怒りが篭っていた
痛てててだから、首を抓るなって」 慌てて眞一郎は弁明するが比呂美は答えを最後まで聞かずまた首筋を抓る
もう少し女心を判って欲しいな」 と優しく眞一郎を叱る 眞一郎は、はい、努力しますと素直に比呂美の忠告を受け止めた
反撃するかのように比呂美は言った
意外と全身を使うから結構体力もいるよ それに、絵本で行き詰まった時は気晴らしに体を動かしているからな」 眞一郎は比呂美の疑問に簡単に答えた そんなやり取りをしているうちに比呂美の部屋の前に着き比呂美を下ろす
名残惜しむ様に比呂美は眞一郎に言う
その…とても大切な日にとか」 言葉の最後はほとんど聞き取れないような声で眞一郎は話した そして、眞一郎は無理やり話題を変える
突然の誘いに比呂美は素直に答え、
それを聞いた眞一郎は優しい表情でよかったと答える
お互い、今日最後の言葉を交わしそれぞれの部屋に帰った
おわり
おまけ 翌日の朝 比「おはようございます、おばさん」 マ「おはよう、比呂美ちゃん、弁当を作りに来たの?」 比「はい」 マ「そしたら、急で悪いけど眞ちゃんの分もお願いしようかしら?」 比「え?いいんですか?」 マ「良いも悪いないでしょ?比呂美ちゃんは眞ちゃんの彼女だもの」 「作ってあげなさい」 比「ありがとうございます」
比・眞「「いってきます」」 比「眞一郎くんコレ」 眞「ん?コレって弁当か?…まさか比呂美お手製?」 比「うん、初めて作ったから気に入って貰えると良いけど・・・」 眞「比呂美の作った弁当かぁ、昼食が楽しみだ」 比「ふふふ、まだ学校にも着いていないのに気が早いんだから」