食欲、それは三大欲求の一つ。
食欲、それは甘い誘惑。
食欲、それは――グルメハンターの原動力?
「Shall We Dance or Sing or …… Eat??」
imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
(絵:ホーリーさん)
(クリックで大きくなります)
白にして秩序の治める国、都築藩国。その存在はまだ有名とはいえません。
新興国であり、また小国であるので仕方がないのですが、けれど“立国した以上はやっぱり皆に知ってもらいたい”というが人のサガというものです。それは人だけでなくオーマな藩王都築つらね氏も同じようでした。
そんなわけで現在、外交のためという建前の下、都築藩国では宣伝も兼ねた大規模なパーティーがいくつも開かれています。
今日は政庁の大広間を開放してのダンスパーティーの日。帝國内のあらゆる国から客人が招かれ、皆ダンスや歓談に興じています。その中に彼の姿はありました。
銀の髪と砂除けが付いた青いターバンが特徴的な青年『蘭堂 風光』。彼は取り皿に乗ったローストビーフを食べなが――訂正、食べ終わって次の料理をささっと取り皿に確保しながら、テーブルの合間をすり抜けて行きました。
迅速に、しかし料理は味わって。どう考えても矛盾しているその行動を彼は難なくこなしてみせます。
おっと、取り皿がまた空になりました。彼はすぐさま次の料理を探します。人と人の隙間からテーブルの料理を確認するその様子はどこか熟達の古参兵を彷彿とさせました。一人で感覚評価10とか出しそうな勢いです。
当然のように判定に自動成功した彼は、次の獲物を発見、ささった取り皿に収めていきます。
そんな彼が参加者の目に留まるのはある意味必然だったのでしょう。
密かに紛れ込み、都築藩国の国民と思しき女性と踊っていた共和国民の青年が、彼の行動の速さを見て思わずぎょっとします。少し離れた場所ではAマホで参加者と遊んでいたX型の仮面をつけた男が、早速ゲームのネタにしているようです。他にも、気付いている者が何人かちらちらと彼の姿を追っていました。もっとも、肝心の本人は特に気にすることなく、蜜を求める蜂のようにテーブルからテーブルを飛び回り続けているようですが。
さて、そうこうしているうちにパーティーも終盤に差し掛かります。
宴もたけなわ、ダンスを踊る人の数も減り、帰り支度を始める人もちらほらと。そしてもちろん、料理の残りもわずかです。
しかし、彼は焦りません。なぜなら、後一品で全種の料理を食べ終えることが出来るからです。無くなるのが早い人気の品を優先して食べるという彼の作戦は見事に勝利を収めたようでした。
ゆっくりとした足取りで彼は、事前に位置と数を確認し、最後の最後まで取っておいた大好物、おにぎりの前に立ちます。まぶしい純白の三角形とそれを覆う緑がった黒が彼の食欲を刺激します。(なんでパーティーにおにぎりが、とか突っ込んではいけません)
そして、彼は最後の一品にかぶりつきました。
一口。二口。米のうまみと、梅干の酸味が口の中にじわーっと広がっていきます。最後ということでゆっくり味わいながら、その全てを胃に収めました。
と、どこからか“あの人、今日の料理全種残さず食べたみたい!”という声が上がりました。それに呼応して“まじで?”“そりゃ凄い”といういくつかの呟きとともに拍手が起こり始めます。
流石にこの展開は予想していなかった彼は、いつの間にか盛大なものになった拍手に恥ずかしそうに苦笑いながら、一杯になったお腹を満足そうにさすって歓談の輪の中に消えていったのでした。
後に、一部の者の間では、彼はこう呼ばれることになります。
“グルメマスター『蘭堂 風光』”と。
(文:らうーる)
最終更新:2008年06月08日 00:25