Well come to Earth2

 ゼスト達が湖の中で未だに交戦中の中、万城目達は自分達のテントに篭りつつ、彼らの報告を待ち続けている。モニターが未だに使い物にならない現状の中、今は鷲尾達の報告だけが頼りだった。
 彼等の報告によると、二人は巨体同士の戦闘に巨人側として加担しているとの事だ。その報告を聞いた時は、流石の彼も一度は凍り付いたと言う。
 がしかし、万が一に備えて彼等に交戦の許可を彼は出している。それは勿論、調査が不可能に陥り、自分達の身に危険が迫った場合のみに限られている。
 万城目も多少の危険は予測していた物の、このような事態は予想してはいなかった。だが、この事態を乗り切る為には交戦は止むを得ないだろう。
 彼とその付近の部下二人は、鷲尾達の今後の報告を待ち続け、他の人間達は、其々の各書類を渡し合ったり、今後の事について話し合ったりしている。
 その付近では、マスコミと言った中継車が彼方此方で駐車されている。どうやら、この湖の調査の情報は彼らの耳にも届いていたようだ。
 それに目を通しながらも、部下の一人が視線をモニターから湖に変える。

「……チーフ、まさか彼らは命を落としたりは……しないでしょうね?」
「―――馬鹿言え! 二人は無事だ。そう易々と命を落とす訳ないだろう?」
「チーフが言うなら僕も信じますが、………やっぱりこの現状じゃ、心配ですよ。巨人と竜の喧嘩に加担しているみたいですから………。」
「彼らは無人探索機とは違う。危なくって来たら戻ってくるだろう。」

 万城目の台詞に、部下の一人は黙り込む。

「―――しかし、今朝来たマスコミの方ですが、まだ動きが見えていません。如何しますか? このままこっちに来させますか?」
「………待て、マスコミの方は来させるな。今日出る結果をまだ公にする訳にはいかんからな………。」

 自分に質問をした部下に、万城目は指示を出す。
 その次の瞬間である。湖に波揺れが発生し、それは次第に激しさを増す。その異変に部下の一人が気づく。

「―――ち、チーフ。あ、アレを!」

 彼は万城目を呼び出し、湖の方に指を刺す。
 その後、彼が目を丸くしたと同時に湖の方は更に激しさを増す。そして……

「あ、チーフ………何か出て来ます!」

 部下の報告に、テュポールが湖から上がって行き、激しい水飛沫が付近の陸―――勿論、テントの方には届かない―――に降り注ぐ。
 それに連れ、巨人も湖上へと上がり、付近の陸へと着地し、テュポールとまたしても対峙する。その光景を、彼らは見上げる。

「あれが彼らの言っていた巨人だが………、もう一方は湖の奥深くに潜んでいたヤツの正体だったのか………! 鷲尾二尉の言った通りだ。」

 万城目が目の前に現れた2体の巨体を見上げる一方、その後ろでマスコミもまた、彼等を見上げ、彼等独自で生中継を行っていた。

「………え~、視聴者の皆さんは御覧になっているのでしょうか? 之は映画ではなく、本当に驚くべき光景で、正に神々の領域と言うべきでしょう。たった今、この池田湖から巨大生物と巨人が姿を現しました! 
この2体の巨大な存在をなんと言ったら良いのでしょうか? まるで、今にも戦うかのように見えますが、何らかの因果関係でもあるのでしょうか!?」

 リポーターの実況が続く中、両者は威嚇するかの如く、またしても互いに睨み付ける。
 この清々しい青空と、その下にあるダムや山中を舞台に睨み合いを展開する中、テュポールが破壊光線を吐き出し、それ確認した巨人は身を伏せる。しかし、外した光線は後ろの山中に当たり、その周辺はやがて火事になる。
 惨事のような光景を見る彼は、失態を犯してしまったかのように右手を握り締める。テュポールが止めを刺すべく、口から光の粒子が更に多く、更に大きく集まって行く。
 巨人は視線を正面に戻し、ゆっくりと立ち上がる。今まで握っていた手を広げ、腕の筋肉が微量にも膨みを見せる。
 その最中にブレイドが漸く浮上し、近隣の陸地へと上がる。

「………何とか上がれたみたいだな。」
「ぁ、先輩。巨人の様子が変みたい。もしかして、また何かやるかも……!

 リニアに見上げられる巨人は両手に微量の火花をチラつかせ、それを未だに点滅を続ける胸の青い真珠のような球体へと近づかせ、力強く力む。其処から金色の光が顔を出し、それらは両手の方へと流出されて行く。
 両手をそのまま力ませ、光を伸ばして行く。後に左手は上に翳し、右手を下に下ろし、半回転をしながらも両手はやがてL字に組まれ、テュポールが先に大出力の光線を吐き出したと同時に右手から七色に光り輝く光線が大量に放出され、テュポールの光線を押し当てる。竜の光線は出力を最大にしている為、両者の力は今の所互角、以後の動きは全く見られない。
 が、何分かある程度時が経つに連れて竜側が巨人側を押していき、彼との間合いが徐々に迫っていく。 戦いの最中に負ってしまった傷の影響なのか、力が弱くなっていくように見えても不思議ではない。
 リニアは歯を食いしばり、自分の拳を握り締めつつ心の中で巨人を応援する。
 その祈りが通じたのか、巨人は腕の力を更に力ませる。それに連動したのか、彼の光線は微量にも拡張し、竜の光線を徐々に押していく。竜との間合いが狭くなり、この押し合いは巨人側の勝利となる。
 彼の光線を浴びるテュポールは悲鳴を上げ―――後に爆散し、その肉片が下の水や陸地に落ち、水に触れた物は沈んで行く。
 巨人はL字をゆっくりと崩し、目の前の湖を呆然と見つめる。
 ―――この巨人は竜を倒した。
 目の前の光景は、そう物語っている。
 この世界では信じられない程の領域に値するだろう。この星―――地球にある世界は他国の領域を巡る戦争は存在するものの、動物達や人間達を脅かす程の巨大生物とそれを倒す巨人はこの世界からは遠い存在に過ぎない。
 しかし、目の前に広がる光景は“未知との遭遇”を揺るぎない事実として示している。
ただ、この場に居る全ての人間達にとって、巨体を保つこの少年の戦いは突然の見せ物と言うイメージも有り得る。その目撃者の中には歓声を上げる者も居れば、竜を倒した巨人に圧倒される者も居るくらいだ。

「やった、巨人が勝っちゃった! 凄いや。」

 リニアがガッツポーズの状態で歓声を上げる中、ゼストは難しい表情を浮かべたまま、モニターに映る銀色と緑のその巨体を見つめる。
 巨人はこの時、まるで疲労が溜まったかのように肩の力を愕然と落とし、腰を下ろす。その瞬間―――光に包まれ、その体が縮んで行くかのように次第に姿を消していく。
 巨体が消えたその場にて、一人の少年がまるで眠っているかのように横たわっていた。
右肩には血が滲み出ている。
その位置は丁度、巨人が水中で噛まれた箇所と一致する。
 それを見つけたリニアはコクピットハッチを開け、機体を降りて駆け出し、その少年を仰向けに引っ繰り返し、抱いた状態で必死で揺さぶる。

「―――ねぇ……大丈夫!? しっかり、しっかりしてッ!」

 少年は少女の声にも揺さぶりにも反応せず、そのまま気を失ったままだ。
 ごく普通の一般市民ならば、この状況下で少年に怯えたり、触れることに多少の抵抗や非難を覚える可能性も出てくる。
 この状況が暫く続く後、ゼストが駆け寄ってくる。
 リニアは抱いている少年を見て、何かに気づく。

「―――先輩、さっきの巨人はこの子の変身なのかもしれないよ?」
「……なんで分かるんだ?」
「だって、この子のペンダント―――さっきの巨人に付いてた石と同じだし、傷口の箇所だってテュポールに噛まれた箇所と一致しちゃうし………。」

 ゼストに、ハッキリとした口調で自分が推理した事を話す。
 この場では意外な事に、この事態の中で一番冷静に対処していたのはリニアだった。
 彼女は元々、特撮番組や映画を、メンバーの中では多く視聴していた。カテゴリーは巨大ヒーローは勿論の事、怪獣対決や怪人物まで及ぶ。
 その為もあってこのような事態は、リニアにとって願っても無いパワーを発揮するような場所でもある。
 ゼストも同じものを見ているが、彼はリニアとは違って空想をちゃんと空想と取り分けており、こんな非現実的な事が起こり得る事を否定している。そんな自分だからこそ、この状況に多少の混乱を感じている事に気づく。純粋に感情とだけで行動出来るリニアが時々羨ましく思える。
 彼女は仰向けの少年を腕力の乏しそうな両手を使いつつ、おんぶで抱える。彼女のような少女にとっては多少重く感じるものの、少年が転落しないようにバランスを確りと整えている。
 その最中、ゼストは何かが近づいてくるかのような物音を聞き取る。
 カメラと何かを持っている所をみると、どうやらこの事に嗅ぎ付けたマスコミのようだ。

「―――まずい、マスコミがコッチに近づいてくる。急いで此処を離れるぞ!?」
「え!? ちょっと早いよ!」

 二人の会話の後、彼らの緊張感が次第に走ってくる。

「………取り合えず、俺は万城目チーフの所へ行く。リニアはその子と一緒にホテルへ帰ってろ!」
「分かった! そっちの方が終わったらゼスト先輩も部屋に来てね!?」

 リニアの言葉にゼストは返事をし、彼もこの場を去る。リニアもまたこの場所を後にし、二人が泊まる場所へと足を運ぶ事になった。
 ゼストはこの時、不思議な事態に、しかも真近くで遭遇した自分達の立場を改めて考える。まだ幼さを残すパートナーの推理で漸く事を理解したのか、或いは同じ推理で非現実的な事も信じるように決めたのか……、それは自分にしか分からない。
 ただ、この不思議な事態をまだ信じない為に、パニックを起こさないよりはマシだろう。
 リニアは少年を連れて自分達の泊まるホテルを目指し、走っていった。
 出発前に仁王参謀から詳細と行き先を紹介され、地図をコピーして持参してきた為、迷う事は無いだろう。
 池田湖から離れて30分くらいの場所に其処はあった。観光客が泊まるに相応しい和風の宿泊施設で、周辺の自然さ伺える絶好の背景がこの施設の優雅さを更に物語っている。
 出入り口前に立ち止まったリニアは息を切らし、少年の体重に耐えながらも何かを探すべくその周辺を見回していた。
 そして、自分の探している物が見つかった。

「……あった! 此処だ、このホテルなんだ。」

 自分達の看板名が掛かっている用紙である。“特殊自衛隊様”の右隣に“ハドソン事務所様”と習字用の筆を使って書いた字で書かれていた。
 ホテル内に入ったリニアは周辺に設置してあるソファーに少年を仰向けに寝かせ、すぐさまフロントに足を運ぶ。
 内装は何処か和風な雰囲気が漂っており、ロビーに設置してある喫茶や電気の影響で多少の洋風の雰囲気も漂う。

「―――御泊りで御座いますか?」
「うん、昨日予約したハドソン事務所なんだけど……」
「ハドソン事務所ですね? ちょっとお待ち下さい……」

 フロントの女性従業員は予約した客の名簿を取り出し、目の前の少女が言った名前を探し出す。ページをある程度めくった後にその名前があった。

「ぁ、ありますね。御待ちしておりました。ようこそ“豊水館”へ。御一人ですか?」
「もう一人は仕事中で、後で来るって言ってたみたいだから。」
「分かりました。それでは、鍵を先に御渡し致しましょうか?」

 女性従業員が部屋の鍵を渡そうとした時、リニアは本題に入ろうとする。

「うん。それから、救急介護の用意とか頼める? あの子、此処の近くで気を失ってたみたいだから。」
「―――え? 気を失ってた?!」

 リニアは少年を寝かせているソファーの方を指差し、女性従業員を手繋ぎで彼の元へと急ぐ。彼女は、少年の肩に負っている傷に戸惑いを見せる。やがてフロントのほかの従業員もやって来て、女性従業員と話し合いを始める。
 それから微量に時間が経つに連れ、和服姿の別の女性従業員がこの場に現れ、二人の様子に気づいた上で様子を伺うべく、近付いて行く。

「如何したの?」
「ぁ、梶川ちゃん。今来たお客様がこの子の救護をしてくれって……」
「えぇ? 救護を―――?」

 梶川と呼ばれた従業員はこの場の人間達の間に入り、リニアの隣で救護対象の子供を見る。その少年をまた彼女は、多少の驚きを見せ、この子供の事を思い出す。

「ぁ、この子!」
「え、知ってるの!?」
「はい。でも、良くは知らないです。昨日の夜、露天風呂に現れて暴れていた熊を眠らせて大人しくしてくれたんですけど、その後に此処出ちゃって……」
「そうなんだ……」

 梶川従業員の証言を聞いた時、リニアは竜と戦った巨人がこの少年の変身である事を確信した。しかし、少年は肩の傷の出血は止まっているものの、未だに気を失ったままだ。
 しかもあの時の戦いで相当な体力を使った為、早めの救護が必要である事をこの場まで運んだ少女は今でも頭に叩き込んでいる。

「でも、この状態じゃ体力が落ちちゃっているかもしれないから、早く救護しないと。取り合えず、リニア達の部屋に休ませたいんだけど……」
「じゃあ、私女将呼んで来ますね? 女将もその子に会いましたから!」

 リニアの“有難う”の返事の後に梶川従業員はフロントを後にする。やがて他の従業員は気を失い続けている少年を抱え、リニアと共に言った部屋を目指すのであった。



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最終更新:2008年08月31日 23:00
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