―――3月30日、午後6:00 鹿児島県観光ホテル “豊水館”
この時間帯、付近のテントの下で行われていた特殊自衛隊のミーティングが終わり、それに参加していたゼストは漸くホテルの中に入り、フロントで何らかのやり取りを行った上で、エレベーターを使ってでも指定された部屋へ向かう。
既にリニアがこのホテルに入っていた事を健闘し、鍵がなくても自分達の部屋に入れる事は確定的だ。
エレベーターは後に指定の階の前で止まり、ゼストは廊下を歩きつつ自分の部屋を探す。何秒かの時が経つにつれ、漸く自分の部屋を見つけ、ノックをした上で部屋のドアを開ける。その部屋は和風で、畳に敷かれた布団にその少年が眠っていた。
それを看病しているのが、リニアと梶川従業員、そしてこのホテルの女将である。
「ぁ、先輩お帰り~。」
「リニア、その子の容態は如何だ?」
この部屋に上がり、布団の方へ近付くゼストを確認し、邪魔にならないように二人はその場から離れる。
「かなり大丈夫みたい。この部屋に運んだ後にちょっとうなされてたけどね。でも熱は全く無いよ?」
「そうか……」
ゼストは溜息をしつつ、この部屋にある椅子に座り込んで、窓の外を眺める。
その最中に女将は彼に近付いた上で話しかける。
「―――あのね? 話は御兄さんの助手に聞いたんだけど、この子……宇宙人なの?」
女将の突然の質問にゼストは慌てて、自分の身の回りで起こった事を二人の従業員に言い触らした張本人を直に睨む。
「リニア!」
「だって、誰も“この事は誰にも言うな”って言ってないでしょ!? それに向こうから聞いて来たんだから!」
二人のコントを聞きつつも、女将は彼等の頭が熱くなる前に間に入ってそれを止める。
気が沈んだ所で彼女達も、昨日自分達の周りで起こった事を二人に話す。はしの使い方が分からなかった事に対しての反応は無かったが、露天風呂で暴れた熊を眠らせ、野に運んだ事に対してはやはり驚きを隠せなかった。
が、しかし事実が事実故に、そんな事が出来ても今では不思議ではないと推測出来る。
ゼストは今後の事について考える。
あのような巨体を保つ形態に自分を変身させ、巨大生物を倒せるような力を保持している。それに女将が言った昨日の挙動の事も考えると、この時点で放っておける程の範囲では無いのは当然だろう。
「ねぇ、先輩……この事は特自に知らせるの?」
「――――いや、知らせない。むしろ、知らせたらこの子が危険なくらいだ。」
青年の行き成りの発言により、リニアは目を丸くして驚く。
「え? 特自にもこの事黙っちゃうの!? それってかなりヤバく無い? リニア達―――雇われてるのに事実の隠蔽なんてやばいよ!」
「しっ、静かにしろ! この子の力をお前も分かっただろ? あんな巨大な生物を倒せる程の力だぞ? それを特自なんかに知らせてみろ。一部の人間なんかが他の軍の人間にその情報を流し、軍属が管理している研究施設行きは確定的だ。兵器扱いは免れない。それをこの子のような精神力で乗り切れると思うか?」
リニアは自分の先輩の理由に納得せざるを得なかった。後にゼストは窓側の椅子に座ってリラックスし、リニアは少年が寝ている布団に四つん這いの状態で近付き、心配そうにその寝顔を眺める。
其処へ女将がタオルを洗面所で濡らし、それで少年の顔を拭く。やがて彼女も二人の会話の間に入っていく。
「あのさ………。こんなしがない女将の私が言うのも難だけど、私も君の意見に賛成だと思うの。」
その賛成意見にこの部屋に泊まる人間は自分達の視線を彼女に合わせる。
相手が自分に向けた視線を確認しつつも、女将は話し続ける。
「この子、日本の子供の皮を被ってるけど宇宙人だし、私達に害を与えないと思うけど、私達って他所の天体出身を簡単に認めない―――言わば幼い種族だから、ちょっとした感情が引き金にでもなったら、ほら………昔他所の国がやった魔女狩りみたいな扱いをこの子が受けるかも知れないわ。」
今言った意見の理由に対して、この場の人間は無言の状態で同意する。
数分程度の時間が経つに連れ、ゼストは目線をリニアに戻す。
「リニア、ノーパソは持って来てるよな?」
「うん、ちゃんと持って来てるよ?」
「良し―――直に起動し、通信用ワンセグを接続してくれ。ボスに緊急通信だ。 ―――ホテルの二方にも付き合って貰いますが、宜しいですね?」
リニアは自分のリュックからノートPCを取り出す。
ゼストの台詞の後半はホテルの従業員二人に向けての言葉で、二人も同意すると言う形でこの場の話題はペースを上げる形となっていく。
が、コンセントを接続した上で起動しようとする瞬間である。
今まで眠っていた少年が、布団から身を起こした。この部屋にいる一部の人間は突発的な出来事に慌てぶりを見せる。
「ぁ、坊や! 起きてて大丈夫なの?」
「うン、今の所ハ何処も痛クはあリませン。」
少年は後、まるで蛹が成虫に脱皮するかのように布団から体を抜き出し、ゼスト達二人に視線を合わせ、礼を行う。
「あノ時ハ有難う。 貴方達が助けが無かッたラ、あの怪獣ニ僕はやラれていマしタ。」
「それはお互い様だよ。 君の助けも無かったらリニア達はあの怪獣に食べられちゃったのかも知れないじゃん。所でさぁ、あんな姿に変身しちゃうけどさぁ、君ってやっぱり宇宙人なの?」
リニアの質問に少年は率直に“はい”と答え、後に彼女の心は上がっていくテンションと共に徐々に浮かれていく。この不思議な存在を生で見ているのだから、冷静に対処するのは難しい所だろう。
「やっぱり!? じゃあ、もしかして君ってさぁ、何処かの星から来た宇宙警備隊員か何かなの!? もしそうだとしたらさぁ、課せられた重要な使命とかはあったりする? 例えばさぁ、この宇宙を凶悪な宇宙侵略者から守るとか!」
「おいッ! リニア、落ち着け! ―――兎に角、お前が宇宙人だと言う事は分かったが、お前が一体何者なのかを俺達に教えてくれないか?」
冷静に対処するゼストの質問を確認した少年は、この場に居る人間に、自分に対しての説明をする。
「―――僕の母星ハ、白鳥座にあル“S37星”でス。」
「S37星………?」
「そウでス。僕ノ名は“
マルドゥーク”、超銀河連合に所属しテいル警備隊員でス。」
「超銀河連合?」
「はイ、超銀河連合は他の星ノ代表者同士ノ話し合イと、断固たル揺ぎ無イ決議で結成さレた総合警備組織でス。僕達の長でアる“キング”は上層部ノ仲間入りでス。」
「そうか、成る程な。 ……では次の質問に入るぞ? その警備隊員であるお前が何故この地球に来た?」
「………こノ星に“サラマンデス星人”が逃げ込ンだかラでス。」
「………サラマンデス星人。それってもしかして宇宙の凶悪な侵略者だったりする?」
「はイ、全宇宙ノ平和を乱す闇ノ侵略者デす。彼は全宇宙ニ散らバる侵略者やナラず者、そシて凶悪者を無数ニかキ集めテ大規模な軍隊ヲ作り、数々の星ノ資源を食イ潰しタり、破壊し続けテいマしタ。」
リニアは目の前の宇宙人の言う宇宙凶悪犯だけで編成された軍隊を想像した上で自分の顔に青ざめを見せる。それを他所に彼は、二人に説明を続ける。
「今かラ2年前、僕の星モ彼等に襲撃さレまシた。当時、訓練生ダッた僕も警備隊に緊急入隊シ、迎撃に加わリまシた。出せルだケの力を全て彼等ニ押し当テまシたけド、僕の星の半分が取らレ、抵抗力も削らレまシた。
でモ、そノ1年後に同じ銀河連合に属すル他の星の警備隊が力を貸し、そノ1年後に何とか劣勢まデ追い込ム事が出来まシた。」
「―――じゃあ、リニア達が今年の初めを迎えた頃にはもう貴方達が優勢になってたって訳なんだね?」
「そウ言う事ニなリまス。そしテ4日前、漸く“サラマンデス星人”ヲ追イ詰めル事ガ出来まシたガ………」
「―――逃走して俺達の住むこの地球の何処かに隠れてしまった………と言う訳だな?」
「そノ通りでス。」
少年宇宙人の説明が終わり、この部屋に沈黙が小さな時間の中で生まれた。
自分達の知らない世界では数多の惑星を食い潰すほどの大軍団を相手に今でも戦っている。それを知らされただけでも戸惑いは隠せない。
その大軍団の関係者が自分達の踏んでいるこの地に逃げ込んだとなると、何かに巻き込まれる事の可能性は少なからずある。
ゼストは女将達にお茶を注がれ、それを一度啜った後で、溜息をする。
「―――先輩、如何すんの? この子の事態は物凄く重そうなんだけど………。」
「分かってる。こう言う事に関しては俺は軍隊の信用に苦しむ。だがな、やっぱり放っておく訳にも行かないな………。 兎に角、緊急通信の用意だ。至急、ボス達に繋いでくれ。」
「分かった。」
リニアはノートPCの電源を居れ、立ち上がったのを確認すると、端末にワンセグを接続。アンテナを伸ばし、電波の送受信感度の調整をする。
何分かの時間が経つにつれ、感度の良い場所を確保する。
「OK。通信出来るよ?」
「―――良し、直に始めてくれ。」
二人が端末の前で作業する間、女将達は床畳から立ち上がる。
「あのさ、貴方達は御飯………如何する?」
「? あぁ、リニア達は此処で食べるから。」
「分かった。早速作ってくるから。」
彼女達はこの部屋を後にして調理室へと向かう。
この時、TVニュースの話題は池田湖で起こった事態に関しての話題で埋め尽くされ、その目撃者達がブラウン管に次々と映って行く。
最終更新:2009年03月13日 01:20