俺は夜が怖い。12時。決まってこの時間から怪異が始まる。
ガツン、ガツン、ドン…ドンドンドン、バタバタバタバタ…
最初は音だ。
そして
電気が唐突に消える。昨日まではこの後電気がついて、同じことが朝まで繰り返された。
だが…、今日は…。


12時。涼子が自ら命を絶った時間。
遊びのつもりだった。俺には他にも女がいた。
ひどいふり方をしたと、いまでは後悔している。
だが、あいつが死んだとき、これで後腐れがなくなったと喜んだのも事実だ。

ごめん、俺が悪かった、涼子許してくれ。

俺は布団の中で目を瞑り、ガタガタ震えながら今日が無事終わることを祈った。


あいつが死んで一週間後。俺に手紙が届いた。
〝一人はさみしい。1週間後、迎えに行くわ〟
文面にはそう書かれていた。
差出人は涼子。消印は涼子が死んだ日になっていた。

怪異は涼子の手紙が届いた日から始まった。
その日から今日でちょうど一週間。
そう。約束の日だ。
…ガチャッ
ぎぃ…

鍵をかけたはずの、部屋のドアが開く音がした。
ぎしっぎしっぎしっ…
床を踏む足音が聞こえる。

俺は布団の中で震えながらも何者かが隣にいる気配を感じた。

許してくれ、許してくれ、許してくれ…必死に祈る。

何者かの息遣いが布団越しに聞こえる…


「来たわよ」りょ、涼子の声だ。
俺は耐え切れず叫んだ。
「許してくれ!!」
俺が声を発すると同時に布団がはがされた。そして、数秒の沈黙。
俺はうっすらと目をあけた。

暗闇に俺を見つめる人影があった。

「さみしいの。一人は」
「あ、あ、あ、あ」
俺は壊れた人形みたいに口をパクパクさせる。
「見て、私のおなか」
闇夜になれると涼子の姿がはっきりと見て取れる。

涼子は妊娠した。俺はそれをおろせと迫った。
あきらめない涼子に腹が立った俺は、学生時代の悪友に頼み解決してもらった。
その夜、涼子は死んだ。

死んでいるはずの涼子の腹はぽっこりしていた。
「あなたの子よ。あなたの…」涼子が俺の顔に腹を近づける。
ごくり…唾をのみこむ。冷や汗が滝のように吹き出る。

「あなたになら、何をされてもよかった。遊ばれてるのもしってたわ…」
顔を俺に近づけ耳元でささやく。

「ゆ、許してくれ…涼子」
「こわい? 私がこわい?」
「許してくれ許してくれ許してくれ…」
そのとき、涼子が泣いているのに気がついた。
俺は自分の罪の深さを改めて思い知らされた。

「りょ…涼子」俺は涼子の頬に手を這わせた。
ぱしっと払われる。
「いまさら、なに…」涼子の目には侮蔑の眼差しと…戸惑いの色があった。
「お、俺、本当にわるかったと…わるかったと思っている」精一杯心を込めて言った。
涼子はじっと俺を見つめている。
俺は何度も何度も、床に頭をこすりつけて謝った。

「いいわ。もう」
「ほ、本当に!?」た、助かった。俺は顔に出さないようにその幸運をかみしめた。
「あ、あなたのためじゃないのよ。もう、どうでもよくなっただけなんだから」
ちがう、こいつはまだ俺を好きなんだ。だから、だから…。
「さようなら」
涼子は俺から離れて窓に向かった。もう一度、俺を振り向く。未練が感じられる。
「りょ、りょうこ…」
ガラリと、窓をあけ、涼子はそこから消えた。まるで、死んだあの日を再現するように。


…呆然と俺は開け放たれた窓を見つめていた。
改心しよう。もう2度とこんなまねはするまい。
恵子ともわかれ、静香ともわかれ、真紀ともわかれ、美智子ともわかれよう。
おれはこれから、あいつの冥福だけを祈って生きていこう。
そう決意した。
そしておれは、涼子の消えた窓に近づいた。窓から空を見上げる。
「涼子…」
「呼んだ?」
はっと下を見ると、窓の下に…涼子がいた。


「今日はなんの日か知ってる?」涼子が手を伸ばしながら聞いた。
唾を飲み込みながら俺は、必死に考えた。
「時間切れ」すっと手が俺の首をつかむと、そのまま引っ張られた。

俺は落ちながら、涼子の嬉しそうな声を聞いた。
「許すわけないでしょ、ばかね。」

「…今日はエイプリルフールなの」

―END―




因みにこの時、。

名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/03/32(土)

という日付でしたが、この日付、じつは4月1日のことなのです。
最終更新:2008年05月26日 00:30