ツンデ霊ナインシスターズ


俺の仕事は拝み屋だ。
霊払いとは違う。

霊と接触がもてる、という特殊能力を生かし
霊を説得して迷いを解消し成仏させてやるのが拝み屋だ。

今日の依頼は取り壊し予定の食品工場を占拠している少女の霊の成仏。
工事業者に事故が相次ぎ、霊の姿が確認されて俺に仕事が回ってきたって訳だ。

「…出ていけ」
確かに少女の霊だ。
結構可愛いが恨みがましい表情で俺を睨み付けてる。
「まぁまぁ、そうツンツンするなよ」
「え…?あんた、あたしが見えるの!?」
「ああ、こうして話も出来る。俺は君の力になりにきたんだ」
「な、何よそれ!余計なお世話よ!いいから帰りなさいよ!」

両手をぶんぶん振り回して怒鳴る少女。
どうも悪質な霊じゃなさそうだ。
彼女がもってる現世への未練が何か分かれば手も打ちやすいのだが…

「なぁ、なんで工事の邪魔をするんだ?」
「り、理由なんてないわよ!何もかもムカつくから祟ってやっただけなんだから!」

「嘘だね、君みたいな子がそんな事をする訳ないよ」
「ななな何言ってんのよぅッ!わわ私!
チョー悪い!そ、そう!もんのすごい悪霊なんだから!の、呪い殺すわよ!」

顔を真っ赤にしてわたわたとおかしな手振りをする彼女はどうみても悪霊には見えない。

『にゃ~』
対峙(?)する俺たちの間をぬって表れた数匹の猫。
少女の足元にまとわりつく猫たちは生まれて間もない子猫ばかりだ。

「だ、駄目!危ないから出てきちゃ駄目よ!」
慌てて子猫達を掻き抱く少女の霊。

「何で猫が…?」
「親猫がこの子達産んで…すぐ死んじゃって…いくトコないのよ、この子達」

「だから工場の邪魔を?」
「……」
無言で頷く少女。

「やさしいんだね」
「ちょ!違っ!」
真っ赤に赤面しながらぶるんぶるんと首を横に振る。


とにかく原因は解明した、あとは簡単だ。

「大丈夫、俺が力になるよ。君のために」
彼女に手を差し伸べる。
「……ほ、本当に?」

上目遣いに潤んだ瞳で俺を見つめる少女は
おずおずと手を握ってきた。

俺はその小さな手をしっかりと握り
「うん。だから…

俺と ファイトするんだ」

背後に控える助手(29歳未亡人)がカーンとゴングを鳴らすと
俺は彼女の腕を抱え一本背負いでコンクリの床に叩きつけた。

「ゲボッ!」
もろに背中から落ちのたうつ少女に馬乗りになる。

「拳は強く強く握りこむんだ。でないと骨を痛めてしまうからな」

ビキビキと筋が浮くまで拳を固める。
「ちょ…待…」

「ジェノッサァァーイッ!!」

オタケビと共に何度も何度も何度も少女の顔面に拳を叩きこむ。
「これで、終わりだ!」
浄化済みモンキーレンチで少女の頭蓋を柘榴のように断ち割った。

少女の躰はしぶとくビクビクと動いていたが、哀しげに顔を舐める子猫を
震える手で撫でるとそれっきり動かなくなった。

これで仕事は完了。
猫どもは保健所に直行だ。 
強い霊には口先で、弱い霊には実力で。

これがスマートってもんさ。
さぁとっとと帰って冷えたビールでも飲もう。    
『待てぇいッ!!』
「何ィ!」

上の手摺りに逆光を背負いポーズを決めてる八人の霊の姿が!!

『我ら地獄より来たりしツンデ霊ナインシスターズ!』

「不意をついたとは言え、猫使いの鎖妬禍を倒すとは」
「だが、鎖妬禍は末妹。実力では一番下…」

「次はこのハムスターキラー、魅隷霊がお相手しよう」

「いや!この屍姫、死火罵音が!」

「面倒だ!まとめてかかってこい!」

こうしてツンデ霊ナインシスターズと俺の死闘の幕が上がった。
最終更新:2010年02月03日 21:55