ある朝起きると、あたしは猫になっていた。

なんで?なんで?何があたしに起きたの?良く思い出して!

そうだ…、あたし殺されたんだ…。部屋に独りでいる時に誰か入って来て…刺されたんだっけ。相手の顔は…思い出せない…。
でも、それがどうしてこんな事に?

そうだ!ママに連絡しなきゃ!あたし生きてるって。助けてって。
電話…あ、あった!ママ、心配してるだろうなぁ…。えっと…実家の番号は…うん、大丈夫。覚えてる!

って、だめじゃん…。肉球じゃボタン押せないよ…。そうだ!爪で押せば良いのよね。爪を出して…っと…よし!

プルルルル…プルルルル…

お願い!出て、ママ!

カチャッ…「もしもし」

やった!ママだ!あたしだって告げなきゃ!助けてって言わなきゃ!

「にゃあ」

何言ってるんだ、あたしは。いやいや、そうじゃない。ちゃんと言わなきゃ!

「にゃあ」

…そりゃそうだよね。猫だもん。にゃあ…としか言えないよね。あ、ママ待って!切らないで!…切られちゃった…。
何か他の方法考えなきゃ。とりあえず、ここはどこなんだろ…。男の子の部屋みたいだけど…。

あ、誰か帰って来た。



部屋に入ってきたのは男の子だ…。年齢はあたしと同じ位。大学生かな?

あれ?でも…何か見た事ある気がする…。どこで見たんだろ…。

「ただいま。ミーコ。大人しくしてたか?」

ちょ、ちょっと!触らないでよ!えっち!まだ誰にも触らせた事ないんだからね!あんたなんかに触らせてあげないんだから!そんな困った顔してもだめですよーだ!

…何か表情に陰りあるね…どうしたの?や、やだ!心配してる訳じゃないんだからね!ほ、ほら!あたしの事、何か知ってるかもしれないし…。

「今日は機嫌悪いなぁ…どうしたんだ?まぁ良いや。邪魔されたくないしな…」

邪魔?あたしが何を邪魔するっていうのよ!失礼なヤツ!後ろから引っ掻いてやる…。

あ、新聞…。あたしの事件の記事だ。これも、あれもだ!あたしの記事ばかり集めてる…。なんで?あたしの事知ってるの?

もしかして…そうだ…この人があたしを殺したのかも…、だからあたしはこの人の猫に入っちゃったんだ…。きっとそうだ。よーし!証拠見つけてやるからね!

「ミーコ。俺、またちょっと出てくけど、お利口さんにしとくんだよ」

ふん!良く言うよ、人殺しのくせに!



あいつのいない間に証拠見つけなきゃ!何かないか探してやる!

えっと…まずは服だね。きっと血のついた服とかあるはずだよね。洗濯物は…あ、こっちか。

あったあった、脱衣籠。うわぁ、きったないなぁ…。これだから男って…。くさいけど我慢して…あ、これなんて怪しい…くっ…引っ掛かってる…
きゃあーーーっっ!こ、これパンツじゃないっ!やだっ!きたないっっ! 服を探すのは後にしよ…。くすん…。

他は…そうよね。凶器探さなきゃ。テレビなんかでも凶器が見つかって犯人逮捕!ってやってるもんね。隠すとしたら…ベッドの下が怪しいよね。

狭いけど、こんな時猫って便利!スイスイ入っていけちゃう!ん?何?この袋…怪しい…調べるべきね。よいしょ…。

ぅわ…これ全部えっちな物だ…。まぁ男の子だもんね。んと、本やDVDに…何?この浮輪みたいなの??

 ・・・・・・ちょっと見ちゃおかな。
やっぱり男の子って胸大きい人が良いのかなぁ…。巨乳の女の人ばっかりだぁ…。あたしだって人間だった時は、結構それなりだったんだよ?
胸だって…Cはあったもん。時にはBの場合もあったけどさ…。

ってこんな事してる場合じゃないっ!



他に隠すような場所ってどこがあるかなぁ…。ん?机の上のあれは何?

スクラップブックにアルバムだ…。あたしの記事、こんなに集めてる…。それに、たくさんのあたしの写真。小さい頃のまである…。
あれ?この写真…見覚えがある…。どこで撮ったんだっけ…。

そうだ。思い出した!あいつ…幼馴染みのケン君だ。ケン君があたしを殺したの?なんで?
あ…ちょっと待って…。まだ何か思い出しそう…。

「ミーコ!やった!犯人見つかったって!彩を刺した犯人が捕まったんだ!」

突然帰って来てなによ!騒がしいわね!大声出さないでよ!触らないでったら!

 ・・・・・ぇ?今、何って言った?犯人捕まった?あんたが犯人じゃなかったの?

「しかし、ミーコ…やってくれたなぁ…。部屋の中めちゃくちゃじゃないか。」
「うわっ!こんな物まで引っ張りだして!こらっ!」

そうだ。思い出した。
あの日、ケン君が来るのを部屋で待ってたんだ。そしたら宅配便が来て、ドアを開けたら変な男の人で…。声出したら、刺されちゃったんだ…。

ごめんね、ケン君…。疑っちゃった…。何年ぶりかなのに、笑顔じゃなくて。
死んじゃってごめんね…。



あたしが死んだ後、ケン君はあたしの実家へ通い、何度も謝っていたそうだ。
もう少し早く着いていたら、あたしは死なずに済んだのに…って自分を責めているみたい。
警察へも何度も足を運び、手掛かりを探し歩いたりもしていたらしい。

そんな話をミーコになっちゃったあたしに涙ながらに話してくれた。
あたしはケン君の膝の上で丸くなりながら、じっと聞いてた。聞く事しか出来なかった…。

小さい頃にした『おとなになったら、けっこんしよう』って約束。まだ覚えててくれたんだね…。
あたし本当はね、そんな約束忘れてた。でも、心のどこかで覚えてたのかもしれない。だから誰とも付き合ってこなかったのかも…なんて今は思ったりするよ。

今、こうやってケン君の膝の上に抱かれて頭や背中を撫でられていると、本当に幸せだよ。
結婚は出来ないけど…ずっと一緒にいようね。これからは、あたしはケン君の側にずっといるから。

それと…浮気は許さないからね!えっちな本もだめ!見つけたら爪立てて破いてやるんだから!
最終更新:2011年03月02日 21:04