「・・・・め・・・・・・・・あ・・・・・」

 ・・・また、あの夢か。小さい頃から繰り返し見てるけど、真っ暗な所でもごもご言

われても、何を言っているのかさっぱりわからない。どうせ見るなら、あんなに切迫

した声じゃなくて、もっと甘い声で囁かれたいよ。
今日は変な夢を見た上に、今日は小学生からの友人Aと待ち合わせがある。
はっきり言って気が乗らない。一日家の中でじっとして何処にも出たくない気分だ。
だけど、行かないわけには行かないんだ。なんだかんだ言ってもAは数少ない友人
の一人だ。仕方ねえ、出かけてくるか。

うだるような暑さの中、俺は駅前にいる。
まだ5月だというのに真夏日って言うのは地球温暖化のせいなのかね?
温暖化ガスより先に目の前にいるイチャイチャしてる奴らを何とかした方がよっぽど
温暖化を防げるんじゃないんでしょうか!なんて、心の中で青年の主張を繰り広げて
熱くなっているからじゃないだろうが、あまりに暑くて頭がくらくらしだした頃にAが来た。

 ・・・しかも女連れだ・・・

急激に殺意が湧き上がる中、連れの女と目が合った時に俺の体は重力を失った。
早い話、倒れたのだよ。まあ、こんな暑い日だ。倒れるのも無理はない。
冷静にそんな事を考えていたら頭をどこかにぶつけた様だ。意識が薄れていく。



「おい!起きろ!来たぞ!」
   誰だ、俺の安眠を邪魔する奴は。俺は睡眠を邪魔されるのが何より嫌いなんだ。

「来たか!」
   ん、今しゃべったのは俺ですよね。しかも目の前にいるのはAじゃないか。何

   で着物なんか着てるんだ?

俺の体は俺の意思とは別に布団の脇にあった棒を持ってAに続いて走り出していた。

あたりは暗い。俺は貴重は休日の半日を寝てすごしていたらしい。
そんなくだらない思いとは裏腹に体はAの後ろを走り続ける。
竹やぶの角を曲がった所で何が来ていたのか分かった。

盗賊だ。

しかも時代劇に出てくるような奴だ。冷静に突っ込みを入れようと思ったとたん俺がAに話しかけた。

「おい、カエルは大丈夫か!」

「あいつは石を投げながら逃げてたから大丈夫だろう。」
   何だよカエルってw しかも石を投げるのか?

「早く助けに行くぞ。」

俺のくだらない突込みを無視するかのように俺は怒鳴り、駆け出していた。
手に持っていた棒は今は刀だと分かっていた。
村人たちが抵抗している只中に駆け込もうとした矢先、女を捕まえている男が視界に入った。

カエルだ。あれは俺の女だ!

前触れもなく怒りと共に思い出した。カエルは俺がつけたあだ名だった。

急に方向転換した俺にAはついて来れなかったようだ。
叫びながら男に向かっていった俺は急に腹部に焼けるような痛みを感じ転がった。
転がりながら笑って俺に止めを刺そうとしている男と、近くで刺され、腹から血が
溢れているカエルを見上げていた。
俺は転がった所をまた刺された。痛い。夢ではない。どうやら俺はここで死ぬらしい。
仕方ないと諦めた瞬間、体の上に重い物が落とされた。

いや、物じゃない。人だ。もぞもぞ動いて、顔の方に上ってくる。

「私より先に死んだらだめだ。もし先に死んだらあの世でも来世でも必ず追いかけて

痛い目にあわせてやる。」

ああ、真っ暗で見えないけどカエルが怒っている。怒りながらカエルが泣いている。

苦悩も後悔も無く、客観的にそう思いながら俺は死んだ。



頭が痛い。
うっすら目を開ける。どうやら木陰に寝かされているらしい。
Aが心配そうな顔でこっちを見ている。

「大丈夫か?いきなり倒れるからびっくりしたぞ。
頭から血を流しているのを見て○○ちゃんも倒れるし大変だったよ。
その内救急車も来るから静かに寝てろ。」

Aの言葉を聞いて、何とか身を起こして横を見ると確かにAが連れて来た女が横に寝ていた。

それにしても頭が痛い。服も血まみれだし、よほど打ち所が悪かったのか。
頭に手をやろうとした瞬間、「がっ」と痛いほどの力で腕を掴まれた。
驚いて見ると女が目を見開き、ニタリと笑って言った。

「やっと捕まえた。」
最終更新:2011年03月05日 09:51