俺は某地方鉄道会社の新人でなりたての列車の運転士。今日も今日とて下手くそなりに頑張っていた。
が、ある日列車を運転中に・・・
「もう!そこでブレーキ!追加!よし!緩め~」
女の子の声が聞こえて反射的に言うとうりにしたらピタっと停止位置に停まることができた。
何だ?と振り返ると
ツインテールでつり目の可愛い女の子がふわふわと浮きながら見下ろしていたのだ。
「・・・」
正直、ションベン漏らしかける程びっくりしたが可愛いかったので思わず見とれていた
「ほら!発車合図よ!早く運転なさい!愚図なんだから!」
「え?あ、はい・・」
「ああ、もう!ほらあ!もっとノッチはゆっくりめに・・・」
なんか仕事終わるまで指導された。
それからその女の子はある特定の車両の時にのみ俺の前に現れて指導してくれた。
俺はいつの頃からかその車両で仕事するのが楽しみになっていた。
ある日
「いつもありがとう。おかげで運転に少し自信できてきたよ」
と、いうと女の子はボンッ!と真っ赤になって
「ば、バッカじゃないの!私はあんたの為じゃなくてお客さんのためにやってんの!わ、私に言わせればまだまだなんだからね!」
「・・・はいはい」

どうやら女の子はこの車両の霊らしい。戦前から使われてる古い車両だからこういう事もありだろうな。と勝手に納得した。俺は一緒にのる車掌達に(運転中一人でぶつぶつしゃべる危ない男)という称号を得る事になってしまったが・・

だが、そんな楽しい日々もある日唐突に終わりを告げる事になる。


新型車をいれて旧型の車両は他の鉄道会社に譲渡される事になったのだ。
それが決まってからその車両に乗っても彼女は出てこなくなってしまった。
譲渡される前の日、俺は留置線にポツンと置いてあるその車両に夜遅くに忍びこみひたすら運転室でまった。三時間もしただろうか・・・
「何してんのよ?」
来てくれた。逢えた嬉しさと最後だっていう寂しさが同時に襲ってきて思わず涙がでてきた。
感極まるとはこういう事か。何もしゃべれずにいる、と彼女は明るい声で笑いながら
「やれやれよ、最初の国鉄からこの鉄道会社にきてここで終わるかなって思ってたらもう一回嫁ぐ事になるとはり私ったらモテモテね」
俺もなんとか笑顔をつくりながら
「はは、そ・・そだな。これで・・バツニだね・・・」
「あ、あんですと~。女の子にむかって何言うかな~。あんたなんか猫のウンコ踏めっ」
最初の出会いから続いてたいつものやりとり。
これからも続くと思っていたやりとり。
だけど・・・
俺が泣いていると彼女が優しい笑顔を浮かべ
「あんたさ・・いい運転士になりなさいよ。お客にも・・車両にも愛されるようなさ」
「・・・」
何も言えずただ何度もうなづいた。
「さ、そろそろいきなさいよ。いつまでもここでメソメソされたら迷惑よ」
「・・・ああ、さよなら・・」
「バイバイ」
彼女はニッコリ笑って消えた。俺は車両から降りて最後に振り返ると
ピカッ
パンタグラフもなくバッテリーもはずしてあるはずの車両のライトが一瞬光った。最後のお別れを言ったのだろうか。

あれから何年たったろうか・・・俺は彼女の言った通り頑張って運転している。が、たまに思いだす。あの強気なツリ目のツインテールな彼女の
「しっかりなさいよ、馬鹿!」
と、言う声を。
最終更新:2011年03月05日 22:32