1
ゲドガキという土地には昔から化け物が住むと伝えられていた
ある晩丑松という男児がむずがって泣き止まないので、業を煮やした父親が驚かそうと
「いつまでも泣いているとゲドガキのバケモンにやっちまうぞ」と
暗闇の奥から『そんならくれや』と声が響いた
驚いた父親はつい「こいつが一人前になったらやるので…」とその場しのぎの返事をしてしまった
2
「…つまり私とあなたが許婚ってのは親同士が勝手に決めたことで、私は迷惑してるの。
勘違いしないでね!!」
都会の大学に進学し、絶賛
一人暮らし中の俺の部屋に突然押しかけてきた許婚を名乗る美少女は、
あっけにとられる俺のための事情説明の最後にこう言い足すとプイと顔をそむけた。
しかし…説明されたからといって、そうそう素直に信じられることではない。とりあえず、
「…人違い、ってことはないですかね?」
「そんなわけないでしょ。アンタの成長するとこ、ずっと見てたんだから。…監視の意味で!…パパとか子分が!!」
顔はそむけたままジト目で睨みつけてキッパリと否定されました。
まあ、確かに俺の生まれ育ったゲドガキ町の外れの荒地にはマジでお化けが出るという噂はあったし、
俺のコンプレックスである「丑松」なんて名前の奴は町中探しても俺しかいないだろうし、
八重歯というより牙ののぞく少女の口元やキーチェーンを素手で引きちぎった怪力を目の当たりにすれば
この少女が人外のものであるというのも分かる。むしろ人間である方が怖い。
しかし、いくらなんでもお化けと許婚の約束を認める親なんてものが存在するだろうか。
ここに向かう前に彼女は親父に挨拶に出向き、そこで約束を再確認し、俺の現住所も聞き出したというが
「…念のため、親父にも確認してみていいかな」
確かに息子の俺から見てもいい加減でチャラけた奴だが、最低限の常識は持っていたはずだ。
もしかしたら騙されたか脅されてるのかも…電話でその辺のニュアンスがくみとれればいいが…
携帯で実家の番号を呼び出しコール。呼び出し音が10回をこえようかというところででたのは親父。
「よう色男!!初夜を迎える気分はどうカナ?ウッシッシ」酔ってやがるのかコイツは…
こっちの状況は分かっているようなので、肝心な部分のみ尋問。
Q:許婚の約束→A:喜んで認めました むしろもらってくれてありがとう
Q:彼女は人外→A:知っています あ、でも俺パスポート持ってないから不便かな そりゃ外人やがな(ガハハ
Q:ちょっと待てやコラ→A:
カワイイんだしいいじゃんプー
「いや、だって彼女涙目でさー…ピッ
3
親父はまだ何か言っていたが無言で電話を切った。激しい厭世観に襲われるのを必死で耐える。
「ね?分かったでしょ?私の言ってることが本当だって」
なんか、嬉しそうだな…だが確かに、傍でこんな笑顔を向けられると、まあいいかという気にも…。
「…つまり、君はこんな都会くんだりまで許婚である僕を迎えに来てくれたの?」
「うん!そ…うん?そ…」「そんなわけないでしょ!?人間風情が由緒あるゲドガキの化け物との約束を
反故にするなんて許せないだけよ!そう、けして逃げられないことを思い知らせるために来たんだから!」
「アンタのような愚図男が私と許婚だなんて、私は全然認めてなんていないんだからね!?」
…俺は初対面の少女が顔を真っ赤にして罵倒せねばならないほどの愚図なんだろうか…。
親父との電話でストレスも限界超えてるし、なんか、もう…
「お、俺だってなあ、いきなりお前のようなちんちくりんと許婚だなんていわれてもいい迷惑なんだよ!
もう話も終わったんだろ!?サッサと出てってくれよ!」
「な、なによ、その言い方は!?いいわよ、すぐでていきますよ!私だってこんな臭いところゴメンだし!!
いつ襲われちゃうか分かんないし(泣!!」
モウハンナキカヨ!?とかクサクネーヨ!とかオソワネーヨ!とかカイリキフルワレナクテヨカッタ・・・とか募る想いはあるが、とりあえず
出て行ってくれるようだ。これでいい…。後のことは親父を締め上げて始末をつけさせよう…。
一応の形式上玄関先まで少女を見送る。なんだかちらちら見てるけど、これにて、一件落ちゃk…
「あ、あの、丑松君、その子は?」
4
おもむろに俺を呼ぶ声。
この声は…コッチに出てきてから初めてのガールフレンドの馬子さん?
「約束の時間になってもこないし、携帯電話も話中だし、来てみたんだけど…」
し、しまった!今日はデートの約束が!ようやくOKもらったのにコイツがいきなりくるから…!
少女の腕を取り、馬子さんの前にひっぱりだす。
「ご、ごめん!この子、田舎の親戚の子なんだけどさ、家出したとかで急にたずねてきてさ、
で、でももう帰るって言ってるし、な?」頼む、話を合わせてくれ…!!
「…」「はじめまして。私、丑松さんの田舎から本日急に伺ってしまった親戚の…」そうそう…
「というか許婚のゲドガキっていいます」あいたー…
「へえ、許婚の…」
「はい、こんなちっちゃいころから約束してて、もちろん親公認なんです」ピトッ
ゲドガキさん、いきなり腕を組んで体を密着させないでください。あと俺の腕がなんかメキメキいってますよ。
「今日から彼、あ、丑松さんと一緒に生活することになったんでよろしくお願いします」
お、お前こんなとこにいられないから帰るって…あう!!メキメキボキ
痛みで、声がでねえ…
「そうなんだ。・・・わたし、お邪魔みたいだし今日は帰るね。じゃあ丑松君、サ ヨ ナ ラ」
顔に張り付いたような笑顔と凍えるような空気を残して牛子さんは帰っていった。
ゲドガキさん、これはなんのつもりですか。
「…ま、こうなった以上、しょうがないからしばらくいっしょに暮らしてあげるわ。
あと、浮気は許さないからw」
俺のうらめしい視線は意にも介さず、満面の笑みでこう言い放つ少女。
トホホ、俺のキャンパスライフ、これから一体どうなっちゃうの!?
最終更新:2011年03月05日 23:10