衣替えのため、押入れの中をひっくり返していた。
奥のほうから古い熊のぬいぐるみが出てきた。
何か嫌な感じがしたので戻そうと思ったが間に合わなかった。
ぬいぐるみの顔がぐにゃりとゆがんだ。まるで本物の生き物のように。
「みつかっちゃったぁ」
スロー再生しているテープのような野太い男の声でそう言い笑いだした。
忘れていた記憶がフラッシュバックした。
大事にしていた熊のぬいぐるみ。
一人っ子で且つ人見知りが激しかったので、小学校に上がるまでは唯一の友達だった。
ある日彼とかくれんぼをしようと思った。
熊を部屋の真ん中に置き、「10数えるから隠れてね」と言ってベッドに頭を伏せて数え。
振り返ると熊のぬいぐるみは本当に姿を消していた。
家中探しても見つからず、両親にはどこか外でなくしたのに嘘をついていると思われて散々叱られ、
暫くは怯えていた嫌な記憶と重なって、すっかり忘れてしまっていた。
なのに20年以上経った今、何故何度も出し入れでひっくり返している場所から出てきたのか。
くすくすと笑う熊を見おろす。
子供の頃は両手で抱きかかえるくらい大きかったのにな。
さらに色はくすみ埃で汚れ、ところどころほころんでいる。
「つぎはぁ、きみのばんだよぉ」
「先ずは風呂」
「えっ」
じたばた暴れるぬいぐるみを片手でぶら下げ洗濯ネットに押し込み洗濯機に放り込みスイッチオン。
悲鳴が聞こえたが無視。すぐに静かになる。
脱水が終わり明らかに目を回している熊をネットのまま吊るして陰干し。
衣替えの続きをしていたら目を覚ましたのだろう「だせーだしてー」と野太い声でわめき出した。
「なら乾燥機に入る?」と訊いたらおとなしくなった。
で、乾いた所でほころびの補修。
色あせはどうしようもないが、それ以外は完璧に仕上がった。
「さあかくれんぼしよう。こんどはきみがかくれるばん」
仕切りなおしだという感じでソファーの上で偉そうに仁王立ちする熊。オッサン声も耳になじんできた。
「何で今頃出てきたの?」
「え?い、いや?そんなことないよ?じぶんからでてったらかくれんぼにならないじゃないかわすれられちゃったのかなぁとふあんになったとかそんなわけじゃないからな」
早口になっても声が高くなるわけじゃないのか。そりゃまあそうだ。
「そうか、そうだよね。実際
熊さん上手に隠れすぎたから忘れちゃってたけどね」
「!!!」
シビアな現実にショックを受けてがっくりと崩れ落ちる熊。
ぬいぐるみの癖に喜怒哀楽の表現が豊かで見ていて楽しい。
「私は家事とかで結構忙しいけど、娘がそろそろ幼稚園から帰ってくるから、かくれんぼ以外で相手してくれるとありがたいな」
「なんでそんなこt…むすめ!?」
浦島状態でプチパニックの熊さん。
娘とも良い友人になってくれると信じている。
「娘の相手をしてくれないならこのゴm…えっとビニール袋の中にはいtt」
「かくれんぼいがいであそぶというとままごととかおにごっことかかたのしそうだなはっはっはぁー!」
最終更新:2011年03月06日 08:44