迷う指先の辿る軌跡ⅩⅣ~ⅩⅧ

---迷う指先の辿る軌跡--- ⅩⅣ

「ねぇ、私にもケイコの体触らせてよ」
 私はそう言いながら互いの位置を入れ替えて、ケイコを仰向けにし、両の掌を押さえて組み敷くようにしてみた。う~ん、男の時にこうするべきだったか。
「う……なんか、恥ずかしい」
「さっきまでさんざんそういうこと私にしてたヤツがよく言うわ」
 私はまずキスをして、舌を絡めて、ケイコの股に足をおいて足を閉じれないようにし、手を押さえたまま乳首に舌を這わせた。少しだけ、気持ちよさそうな声が聞こえた。
 すぐに大きくなった乳首をしばらくそうして舌で弄び、私は押さえていた手を離してお腹の上に舌を這わせながら陰部に顔をもっていった。
「ミノリの舐めといてなんだけど、汚いから舐めなくていいよ」
「私のが舐めれるほどキレイならケイコのもきっとキレイだよ」
 何を言われたってやめるつもりはない。
 電気を消している上に毛布があるから真っ暗でよくわからないが、本で見た情報を必死に引っ張り出して照らし合わせつつ、ケイコの秘所に手を添えて開いてみる。
 暖かく湿った不思議な、独特な匂いがして、私の動悸を早くさせた。これが女の子の秘密の場所……まぁ、自分にもあるんだけどね。
「ん……」
 どうにか舌でクリトリスを探し当てると、舌先が触れた瞬間ケイコの体がビクッとなって声を漏らした。もっと自分の体をよく見て学んでおけばよかった……
 最初はいろいろ考えながらやっていたのだが、段々頭がボーッとしてきて、夢中でケイコのクリトリスを舌でなぶっていた。
 少しそうしていると、急にケイコの足がぎゅっと私の頭を挟むように閉じて、ケイコの体が撥ね、少し痙攣した。
「ちょ、待って」
 足の力を抜くと、ケイコがそう言って私の頭を押さえてきた。
「え?」
「あの……イっちゃったから……もういいよ」
 暗がりで恥ずかしそうにそう言うケイコがかわいかった。

 とりあえず私は顔を上げ、ケイコの顔を見ながら秘所、蜜で濡れている秘裂に指を這わせた。
「顔見るな!」
 腕で顔を隠されてしまった。まぁ、その態度もかわいいけど。
 私はぬるぬるする秘裂の、蜜の出所を見つけると、中指をゆっくり中へいれてみた。すんなり入るというわけでもないが、きつすぎるということもない。
 お返しとばかりにさっき私がやられたようにやわらかい上の壁を撫でる。
「……仕返しでしょ」
「もちろん」
 そうやってケイコの反応を楽しみながら秘所をいじっていると、ケイコがもどかしそうに私を引き寄せた。
「ねぇ、キスして」
 言われるまま、そっと唇を重ねる。

「あたしにもさせて、ミノリも気持ちよくしたい」
 私は濡れそぼったケイコの秘所を解放し、二人とも横向きに寝て互いの陰部に顔を近づける。
「ミノリ濡れてる、あたしのいじって濡れちゃったの?」
「ケイコだって、滴りそうなくらい潤ってるよ」
 そうやって互いを辱め合いながらそっと、牝の匂いでお互いを求めている秘裂に舌を這わせる。
「あ……ん……」
 少ししょっぱいような、不思議な味がする。
 が、すぐにそんなことも気にできなくなる。私がしてるようにケイコも私の秘所を舐めているのだから。
 ケイコの部屋には、ぴちゃぴちゃと淫靡な水音だけが響く。
 断続的に訪れる、予想できない感覚に翻弄されながらも必死にケイコへとお返しをする。もしかしたらケイコも同じ気持ちなのかも……
「ん……は、あ、だめ、ケイコ、なんか……」
「あ……ん、イキ……そう?」
「わかんない……気持ちいいの……」
 イクというのがどういうものかはまだよくわからないのだけど、なんだか腰の後ろがゾクゾクして意識をもっていかれそうな感じがする。
「いいよ……おいで……」
 ケイコがいっそう強く激しく私の陰部を吸い上げながら舌を這わせてくる。なんか、もう、どうにかなってしまいそうだ。
 声も出ないまま私も必死にケイコの秘所を激しく攻め立てる。ケイコの体も急にビクビクし始めたのはわかった。

 が、わかったのはそこまでで、私は体を電気が走り抜けたような感覚と腰から落下していくような快感に襲われてもう何が何だかわからなくなってしまった。

「ん……あ……はぁ……」
 ぐったりしている私の頭をケイコが撫でてくれた。
「気持ちよかった?」
「……うん……でも私ばっかりだった気がする」
「そんなことないよ、あたしも気持ちよかったし、なにより嬉しかったから」
 ケイコが唇を重ねてきた。さっきまで互いに快感を運んでいた口で今度は愛情を伝え合う。
 そして、裸のまま抱き合って私はすぐにまどろみの中へ沈んでいった。

 こうして、私達の初めての夜は過ぎていったのだった。


 -おしまい?-



---迷う指先の辿る軌跡--- ⅩⅤ 「上」

 翌朝、カーテンの隙間から差し込む陽光で眠りから引っ張り出された私は、真っ先に目に入ったケイコの寝顔を見て反射的に昨夜のコトを思い出してしまった。
 すやすや眠るケイコの隣で赤面して縮こまる私。これでも元男なんだぜ。
「………」
 途中からは無我夢中であんまり覚えてないけど、恥ずかしさと幸福感が混ざったような不思議な時間だったと思う。
 やっぱり、男の頃に抱いてあげるべきだったかなぁとも思ったけど、そうならなかったってことはまぁ、そうなるべきじゃなかったってことなんだろう。
「………」
 とりあえず、もっかい寝よう。


「ミノリ~そろそろ起きて~」
 二回目に目を覚ましたときは、もうカーテン全開のリアル太陽拳状態だったのですぐ起きた。パジャマ姿のケイコがベッドの横にしゃがんで私をのぞき込んでいる。
「朝ご飯食べよう。ミノリはまず顔洗っておいで」
 そんな感じで昨晩のことには触れないようにつつがなく朝食を済ませ、特に目的もないので例の如く一緒にゲームをし、昼食を食べてしばらくしたら眠くなってきた。よく寝たのになぁ。
「なんか眠くなってきちゃった」
「お腹いっぱいだしねぇ。ちょっとお昼寝する?」
「う~ん、なんか寝てばっかになっちゃうねぇ」
「じゃぁ、いちゃいちゃしようか」
 そう言うとケイコが後ろから抱きついてきた。背中が柔らかくて暖かい。
「昨日十分したじゃん」
「そうだけど、こういうのはし続けたって足りるなんてことないもん」
 それはそうかもしれない。
「かわいかったなぁミノリ。ねぇ、おっぱい触ってもいい?」
「だめって言っても触るんでしょーに」
「よくわかってらっしゃる」
 私はてっきり私を抱きしめる手がそのまま上がってくるのかと思ってたのだけど、ケイコは服の下に手を入れて直で触ろうとしてきた。
 まぁ、ブラジャーはしてるけど。
「ちょ、服の上からじゃないの!?」
「じゃぁこっちは服の上から」
 と言ってケイコは片方の手を私の股間に伸ばしてきた。
「そっちはだめ……あ……ちょっと、やめ……」
 反応してしまう体を止めるってのは今の私には無理で、段々艶を帯びてくるケイコの息が私の首をくすぐる。さすがにケイコは女の体には詳しくて、気持ちいいところを的確に攻めてくる。
 徐々に抵抗する力を奪われて、ケイコに抱かれながらあのよくわからない腰の後ろがゾクゾクする感覚が近づいてくる。
 と、そのとき。

「ただいま~」

 玄関の方でガチャっと音がして、ケイコの親らしき声が聞こえてきた。思わず二人して硬直する。


 -続く-



---迷う指先の辿る軌跡--- ⅩⅤ 「下」

「………いいところだったのに」
 とケイコは言うが、それはこっちのセリフだ。
「しょうがない、とりあえず下に……あ」
「………私のことこんなにしやがって」
 若干はぁはぁしながらおそらく頬を紅潮させて私は言っているのだろう。これが自分じゃなければすごい萌えるんだろうなぁ。
「ご、ごめんごめん」
 だがまぁ、親が帰ってきた以上こんなことを続けるわけにもいかず、とにかくケイコは一階へ降りていった。
 私はとにかく呼吸を整えて身繕いをし、その場で待つ。少しするとケイコが私を呼びに来たので、下へ降りた。ケイコの親には私のことをどう言ったらいいんだろうか……
「友達泊まりに呼んだんだ」
 ケイコがリビングにいる母親にそう言った。私はまだ廊下に隠れている。何故隠れる。
「サナエちゃんでも呼んだの?」
 一回……いや、二回くらいか、ケイコの親に会ったことはある。お母さんはなんかこう、天然っぽいというか、おおらかな感じだった。お父さんは……すごいケイコLOVEだった気がする。
「いや、ミノリ……あー、ミノルだよ、前にウチ遊びにきたことあるじゃん」
「なにぃー!?」
 奥からケイコのお父さんがすっ飛んできた。マンガみたいな展開だなおい。
「お、お、男と一晩過ごしたのかケイコ!?」
「あー、いや、男というか女というか……」
「ちょっとそいつ連れてきなさい!」
 ケイコがリビングから顔だけ出して苦笑し、手招きしたので私はガクブルしながら部屋に入った。
「おまえがウチのケイコ……を……?」
「えと……お邪魔してます」
 けっこうビクビクしながらそう言うと、ケイコのお父さんは毒気を抜かれたようにポカーンとしていた。お母さんは、あらまぁと言って私をまじまじ見ている。そりゃそうだわな。
「え、えぇと、あの、キミは……?」
「以前こちらにお邪魔したこともあるのですが、藤井といいます、藤井……今はミノリです」
 と、いうわけでケイコがいろいろ事情を説明し始めた。
 お母さんの方は最初驚いたものの、なんだかすぐ違和感なく受け入れてしまったようで、普通に娘の友人が来たという感じでお茶など淹れてくれた。
「うぅむ……しかし、この場合女の子だからと言って安心していいものかどうか……」
「平気平気、私が攻めだか……あ」
 またもやお父さんはぽかーんとしている。お母さんは、あらまぁと言っている。私はというと……うつむいてため息つくしかないじゃんか!

 という感じで、いろいろ大変だった。
 で、明日は月曜である。学校である。サナエとワタルとコースケのいる学校である。


 -続く-



---迷う指先の辿る軌跡--- ⅩⅥ


「おはよー」
 さすがに着慣れてきたが、下半身の心許なさだけはぬぐえない女子制服を着て普通にいつも通り登校した。いつも通りだよね? 何もおかしくないよね?
「ミノリおはー、ちょっとこっちおいでこっち」
 さっそくサナエに呼ばれる。うむ、想定の範囲内である。
「お、ミノリ来たか。コースケ、行くぞ」
 サナエと示し合わせてでもいたのだろう、ワタルも私に気づくとコースケと一緒にサナエの元にやってきた。想定の範囲内。
「で、どうだった?」
 いきなりかい。でも想定の以下略。
「えぇまぁ、ご期待には添えずといいますか……」
 もちろん正直に答えるわけはない。ヤっちゃいましたなんて言えるか!
「ほうほう」
 あり? この反応は想定の範囲外だ。
「うんうん、想定の範囲内だね、その返事は」
 なんかサナエが余裕の笑みでそんなことを言っている。えー!?なにもしてないのー!?とか言われると思ったんだけど……
「コースケの言ったとおりね」
「え?」
「ミノリのことだから、仮になんかあっても絶対正直に言うはず無いって」
 私はじとーっとした目でコースケを見た。コースケは苦笑している。
「いやすまん、悪気はないんだが」
 それだけ私のことをよくわかってるってことは友達として喜ぶべきかもしれないけど、こういうときに発揮するなと小一時間以下略だ。
「とまぁそういうわけで、真打ち登場のようです。ケイコー!」
 ちょうど登校してきたケイコをサナエがめざとく見つけてこちらへ呼ぶ。私は疲れたように額に手を当てていろいろ諦めた。っていうかすでに疲れた。
「ん? どしたの?」
 机に鞄を置いたケイコがこちらへやってくる。私は机に突っ伏す作戦に出た。
「一昨日ミノリ泊まりに行ったんでしょ?」
「うん、来たけど」
「ミノリが泊まりに行く前に一緒に買い物しててさ、ミノリに新しい下着をオススメしたんだけど、どうだった?」
「あ~、水色のレースのヤツでしょ、かわいかったよ~」
 ………ばか。
「じゃぁさじゃぁさ、下着の中身も見たの~?」
「え……ちょっと、どういう意味よ」
 さすがにケイコも踏みとどまってくれた。まぁ、焼け石に水って感じだけど。
「んもぅ焦れったいわねぇ、えっちはしたのってこと!」
 もっと小声で言えよサナエ。
「あー………ノーコメントで」
 よし、なかなか微妙な返事だ、グッジョブケイコ。
「ふ~ん、何にもしてないなら別に恋愛感情とかのない友達同士のお泊まりだったのね~。だったらあたしもミノリとえっちするチャンスはありそうね~」
「だめ! それはだめ!」
「なんでよ~二人はただの友達でしょ~?」
「うぅ……」
 サナエめ……仕方ない、腹をくくろう。私は突っ伏していた顔をあげてケイコの手を取り、引き寄せて腰に抱きついた。
「ケイコはすっごいかわいかったよ。寝顔も、ベッドの中でもね」
 にんまりしながらそう言ってやると、案外サナエたちの方が後ずさった。ケイコは赤面してそうだな。
「ど、堂々とそう言われると対処できねぇぜ……」
 ワタルがそう言う。ちょうどそのときチャイムが鳴ったので、うまいことそれ以上の追求を避けることができた。


 まぁ、結局昼休みにまたさんざん取り調べされたんだけどね。


 -続く-




---迷う指先の辿る軌跡--- ⅩⅦ

 それからしばらく、特に変わったことはなかった。
 私もかなり女として生きることに慣れ、言葉遣いや仕草などもだいぶ[それっぽく]なったと思う。
 頭で考える言葉はまだちょっと男っぽいけど。

 で、ケイコとの関係だけど、うん、まぁ、つつがなくといった感じかなぁ。
 今までと変わらず、ウチでゲームすることもあるけど、サナエも一緒に三人で買い物に行ったりもする様になった。
 ワタルとコースケと遊ぶこともあるし、学校でも相変わらず男女両方と仲良くしてる。女子と関わる機会の方が増えたけど。

 そして、七月に入って早々、げんなりする出来事があった。

「ス、スクール水着………?」
 そう、水泳の授業である。
 私に手渡されたのは、ビニール袋にぴっちりと収まっている紺色の布だった。
 去年までは多少なり女子がそれを着るのを楽しみにしていたものだが、それを知っているだけに、自分が今度はそういう目で見られると思うとなんか、複雑だ。
 それにねぇ、なんかねぇ、どことなく自分が変な趣味の人間なんじゃないかっていう気がしてしまうわけよ。体的には相応しいんだろうけど、さすがにまだ女としての自覚がそこまで根付いてないし。
「これ、着るの?」
「うん」
 サナエとケイコは私が戸惑ってる方がおかしいとでも言うかのようだった。
「誰が?」
「あんたが」
「なんで?」
「あんた、海パンでおっぱい丸出しのまま水泳の授業やるつもりだったの?」
 まぁ、そういうことなのだろう。確かにそれはまずい。
「………男達の視線の意味を知ってるだけに、すごい嫌だ」
「大丈夫だよ、ミノリのおっぱい小さいから」
「……………さすがにそう言われるのはむかつくようになってきた」
 女らしくある方が相応しく、女らしくない方がだめっていう認識になるのはなかなか一筋縄ではいかないのである。
 元男のわかってもらいづらいジレンマなのだ。
 まぁでも女の子の胸は今でも好きなだけに、その魅力が弱いと言われるのはなんか嫌だ。ついに私も女の子の悩みを抱えるようになったかぁ。
「とにかく、これを着ない訳にはいかないから、ちゃんと家で一回着とくんだよ~」
 それこそなんかすごい変態じみててアレなんだが。

 で、三日後に水泳の授業をひかえたある暑い火曜日、昼休みが終わってみんなが席につき、五限の開始を待っていたのだが、一人、昼休み中からずっと机に突っ伏して寝てるヤツがいて、近くの席のヤツがどんだけゆすってもまったく起きる気配がなかった。
 そうこうしてるうちに先生が来たんだけど、先生がゆすってもまったく起きず、保健の先生を呼ぶことになった。クラスがざわざわとうるさくなる。
 結局保健の先生もよくわからないらしく、あれこれしているうちに五限目が終わろうとしていた。
 そしてチャイムが鳴り、五限の授業の先生と保健の先生が頭を悩ませている中、そいつ「山瀬 レン」がもぞもぞと動き出し、顔を上げた。
「………あれ?」
「山瀬、どこか具合悪いのか? 五限の間ずっと眠ってて全然起きなかったんだぞ」
「え? もう昼休み終わってるんですか?」
「昼休みも何も、五限が終わってるぞ」
 山瀬が時計を見てびっくりしている。その山瀬を見るともないしに見ていた私は気がついた。
 気がついたので、先生に小声でそれを伝えてからちょっと山瀬を教室の外へ連れ出した。
「おい藤井、どうしたんだよ?」
 その質問には答えず、私は急いで山瀬の手を引きながら屋上扉前まできた。ここなら誰もこないだろう。
「山瀬、おまえ、夢見てなかった?」
「え? なんで知ってるの? オレ寝言とか言ってた?」
「………ちょっと失礼」
 私はそう言い、思い切って山瀬の股間に手を当てた。
「ちょ! 藤井何するんだよ!」
「あぁ………うん、ようこそ、こっちの世界へ」
「え………?」
 私がため息と共に苦笑しながらそう言うと、山瀬は慌ててズボンの中に手を入れ、硬直した。

 こいつがウチのクラスで二人目の女性化男子になったのである。


 -続く-



---迷う指先の辿る軌跡--- ⅩⅧ

 そんなわけで水泳の日がきた。ちなみに山瀬はちょっとあれからパニクっちゃっていろいろ大変だったらしく、水泳は見学ということになった。さすがに女体化してすぐ水着はきついだろうと。
 まぁ、私ですらまだきついからね。
「そういえば、どこで着替えるの?」
「プール脇に更衣室があるんだよ」
「へぇ……男子は教室で履き替えて上にシャツだけ着て行くから知らなかった」
 一応先生も気を遣ってくれて、見学でもいいと言ってくれたのだけど、さすがに水泳の授業全部見学するわけにもいかないし、最初やらないと嫌になっちゃいそうだからがんばるのだ。
 というわけで更衣室へ行く。いわゆる銭湯の脱衣所みたいな感じだった。ただ、窓が小さくて照明が少ないから暗い。あと狭い。
「えと……ここでみんな着替えるの?」
「そうだよ?」
「……恥ずかしいんだけど」
「またまた~女同士じゃな~い」
 ためらっていたらすでに下着姿まで脱衣が進んでいるサナエにどんどん服を脱がされてしまった。
「ほらほら、早く着替えなさ~い」
「うぅ~……」
 渋々脱がされた服を棚に入れ、棚の方を向いてブラジャーを外す。そのとき皆の目がキラーンと光った、らしい。私は見えてないから。
「ちょっと見せて!」
「男の子が女の子になるとどんな胸になるの!?」
 急にクラスの女の子達が群がってきて私の胸を凝視する。もちろん手で隠したけど。
「えぇ!? みんなと変わらないよぅ! ちっちゃいから見る価値ないよぅ!」
 ついつい口調まで女の子っぽくなってしまう。う~ん、成長したなぁ私。などと悠長なことを考えている場合ではない。
「いいじゃない、あたしのも見せるから!」
 とみんなが口々に言う。それはちょっと見てみたいけどこっちが見られるのは……
 すると、後ろからケイコが私を抱きしめてきた。
「はいは~い、みんなそれくらいにしてあげて。ミノリはシャイなのよ。それに、ミノリの体はあたしのものなの」
 ニヤッとしながらケイコがそう言った。それも十分恥ずかしいんだが。
「えぇ~! ケイコの独り占めずるい~!」
「だってあたしらはカップルだもん。彼女が困ってたら助けるのが彼女の役目でしょ」
「いや、それは彼氏の役目かと……」
 という私の言葉は誰も聞いていないようだ。
「けち~!」
「修学旅行の温泉で見れるじゃない。それまではあたしに独占させてよ」
「しょうがないなぁ。でもケイコはもう見たのよね?」
「そりゃまぁ、全身くまなく……」
 それを聞いて赤面する私を見た女子達が急に息を荒くし始めた。おいおいこのクラスやばいんじゃないか。みんなレズっ気ありすぎだろ。

 というわけでようやく水着に着替え、プールサイドに出る。今日は日差しが強いので早く水に入りたいなぁ……
 などと思っていたらぞろぞろと男子が入ってきた。思わず硬直する。
「堂々としてなって。下手に恥ずかしがると男子は喜ぶだけよ」
 サナエがそう呟いてくれたので、かなりのがんばりを必要とはしたけどとりあえず堂々とすることにした。まぁ、ぶっちゃけ注目浴びるほど胸が大きいわけでもないし……と考えると少し悔しい。
 と思ったのだが、男子はどうやら女としての魅力云々よりも、クラスで初の女性化した元男子の体が気になるようで、すごい視線を感じる。
「う~ん、見事に話題の的になってるね」
「すごく帰りたい」
 こういうときの女子の団結力は見事で、なるべく男子の目につかないようにとみんなが壁になってくれた。
「おい男子、あんまり藤井をじろじろ見るな。他の女子に失礼だぞ」
 体育の先生がそう言って男子をたしなめる。いや、まぁ、私を見るなって言うのはいいんだけど、その理由がちょっとおかしくないですか。

 そんな感じで授業はつつがなく進み、水に入ってしまえば視線も気にならなくなって、私はスク水の洗礼をどうにかこなしたのだった。
 クラスで初とか学年で初とか、過酷。


 -続く-


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最終更新:2011年01月05日 20:54
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