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「明日の文化祭の自由時間さ、デートしない?」
「…………デート?」
「そ、デート。」
お昼休み。いつも通り食堂で彼氏と昼食を取っている最中に僕の方から話を切り出した。
からん、と彼は手に持っていたスプーンを取り落とした。……そんなにショックだったのだろうか。
「デデデ…デートですとおおおおおっ?!」
「うん。2つ目の初体験として、さ。………イヤかな?」
「めめめめめめめ、滅相もない!!」
「良かった。……学生服でってのがちょっと野暮だけど
屋台の食べ歩き出来るし、映画の上映会とかもあるし、割と良い機会じゃないかなって。」
お金もそんなにかからないだろうしさ。と、付け加える。
実は、こんな風にデートに誘う前にキス位はしておいた方がいいだろうと思って、
先に何度かキスをねだってみてたのだけど、彼の方が恥ずかしがってはその都度逃げられてしまっていた。
それならば、と学園祭を機にデートに誘ってみようと思ったのだ。
今時の男子高校生にしては珍しい程の純粋さ。天然記念物に指定したい位だ。
「お前らすげーな…こんな人前でデートの相談かよ。」
「別に聞かれて不味い話じゃないしね。
どーせ何処で話したって委員長の耳に入って、そっちも知る事になるんだろうし。」
傍らには僕のクラスメイトが2人同席して食事を取っている。どちらも中学からの友人。
片方は僕と同じように女体化してしまっているのだけど、もう片方は男の子のままだ。
「あ、どうせならWデートにしちゃう?キミ達もさ、そろそろ恋人らしい事した方がいいんじゃない?」
「なっ…ば、バカ言うなッ!誰が恋人だッ誰がッ!
だ、大体だ、SF研の喫茶店手伝わされる羽目になってんだから、そんな暇ねーよッ!」
「そうなんだ。残念。」
友人想いの僕はついでに彼女たちの仲も進展して貰おうとしたのだが、そうは問屋が下ろさないらしい。
それにしても、声を荒げて付き合いを否定する彼女とは対照的に、彼女の隣に座っている僕の男友達は涼しい顔でラーメンを啜っていた。
ハーレムクラス唯一の男子だし、他に付き合っている女の子がいたりして案外脈無しなのかもしれない。
「ん。喫茶店の手伝いって何するの?やっぱりウェイトレスとか?」
「ああ、しかもメイド喫茶らしいぞ。」
ふとした疑問を投げかけると、帰ってきた回答は彼女からではなく、隣の男の子からだった。
「おまッ?!バラすなッ!!」
「ふごッ!?げほっ………メ…メシ食ってる時にボディはないだろ、ボディは………」
「余計な事を言うお前が悪い!!!!」
「悪かったって、コレやるから機嫌なおせ、な?」
座っていると言うのに、腰の入ったボディブローを喰らった彼は、お腹を押さえつつ彼女にみつまめを差し出していた。
ラーメンとみつまめって、いくらデザートでも合わないだろうにって思っていたけど、そういう用途でしたか。
「……しょうがないな。あんま変な事言うなよ。」
しょうがないと言いつつも、あっさりと機嫌を直す彼女。
扱い慣れているからか、それとも彼だからだろうか。
どちらにせよ、脈無しだなんてとんでもない失言でございました。
ま、口に出してしまったわけではないのだけど。
「キミ達ってさ、つくづく長年連れ添った夫婦みたいに見えるよ。」
「そう見えるなら、お前さんの目は呪われてるぞ。」
僕の感想に反論しつつも、みつまめに舌鼓を打っている彼女の頭を優しく撫でている。
撫でられている方も、これまたふにゃふにゃに砕けた笑顔でそれを享受していた。
「かもしれないね。仲睦まじく見えて、軽く嫉妬をおぼえるよ。」
「そうかい。」
「俺は新婚みたいに見えるなぁ…」
彼氏は僕とは違う感想をぽつりと呟いた。
普通なら彼氏の顔面に拳が飛んでくる頃合なのだけど、デザートに夢中で耳に入っていないようだ。
「それはきっと普段の教室での様子を見た事がないからだと思うよ?
今は彼女がゴネてそれを治めてるだけだけど、地味~に立場が反対になる事も多いし。」
「意外だな。」
「……はむっ、んぐっ…ふぅ。人がデザート食ってる最中に好き勝手言いやがって。
ソッチのが新婚っぽいだろ。お前らのラブラブっぷりは見ててヒくっつーの!」
聞こえていなかったわけでは無いようだ。
彼女はみつまめを食べる手を止めて、反論しながらスプーンでボクの方を指差す。
「頭撫でられて、喉を鳴らしているキミに言う資格は無いんじゃない?」
「鳴らしてねーよっ!」
「な、なぁ…ヒートアップするのはソレ位にしないか?学食で火花散らすのも、ほら、な?」
彼氏が周囲を見渡すと、先ほどまでボクら以外は静まり返っていたのに、ガタガタと物音を立てたり咳払いをして目や体をそらす生徒が大勢いた。
世の中には委員長クラスではないにしても、出歯亀気質の人は多いらしい。
乾いた笑いしかでない彼氏に、至って普通の顔をしてラーメンを食べている男友達。
周囲の視線にやっと気付いたのか、みつまめを食べる手が止まったまま、俯いて赤面してしまった彼女。
そして、肩を竦めてため息をついているボク。
四者四様の反応だけど、これ以上言い争いを続けてしまうのは得策ではないと感じたのか、全員黙りこくってしまった。
「あ"ッ?!俺のハンバーグがあああああっ」
遠巻きにこちらの様子を見ていたであろう生徒の1人が不意に叫んだ。
ボクらが沈黙してしまっていたので、咀嚼音しか聞こえていなかった為か、ボクらも含めてその生徒に視線が集中する。
どうやら振り向いた際にどんぶりからおかずを床に落としてしまったようだ。
その生徒が食べていたものは月変わりの新メニューだったか、ハワイの郷土料理と言うには簡素などんぶりものだ。
自然と笑みがこぼれてしまう。ありがとう、名も知らない先輩。おかげで少し和みました。
「悪かったよ。ごめん。
でもさ、ボクらもキミ達みたいな関係になれたらいいなぁって思って、ほんとに羨ましかったんだよ。」
ソレをきっかけにボクの方から謝罪をした。彼女の方は相変わらず俯いたままだ。
「……べ、別に怒ってないからいいけどさ。ったく、変な所で素直だからやりにくいったらありゃしない。」
表情は見えないが、耳が真っ赤なので機嫌が悪いわけではなさそうなのが救いだ。
「でもこの2人みたいな、か……。ははっ…いや、ボディブローは流石にご勘弁願いたい。」
何を勘違いをしたのか、彼氏は腹を押さえて苦い顔をする。
行動まで同じになるのは想像が飛躍しすぎだと思う。
「雰囲気的な意味だよ?ボクが乱暴な事するわけないじゃない。」
「あ、ああ……そういう意味か。……んぐ…んくッ!?ぶはっ」
ワンテンポ遅れて意味を正確に理解したらしたで、口をつけたお茶が器官に入ったらしく、咳き込んでしまった。
思わずクスリと来てしまう。からかい甲斐のある男の子だ。
案外、男女の立場を入れ替えれば似たようなカップルなのかもしれない。
「ぷはぁ…やめとけ、オレ達を参考にしても不毛だぞ。」
「ふ…不毛なんですか。」
「不毛だ。」
「「………どこが不毛なのかちっとも解らないな(よ)」」
スープを飲み干した彼の言葉に、ボクと彼氏が図らずも二重音声になりながら突っ込んだ所で、昼食会はお開きとなった。
文化祭前日の今日の授業は4時限目までで、お昼以降は全て準備に割り当てられている。
とは言え、ボクらのクラスの用意については昨日まででほぼ終わらせていた。
あとは展示場所にするF組の机と椅子を空き教室へ移動させ、展示物のセッティングだけだ。
「模型の搬入終了っと。別教室で作っといてよかったよ。
大きすぎて教室においておけなかっただろうし。」
「だな。机と椅子の移動もたった今終わったから、あとは並べるだけか。」
「今日は早く終わりそうだね。」
「一時期は間に合わないと思ってたんだけどな。」
「…はぁ、お前らはここの準備だけで良いのがうらやましいわ」
「「…?」」
作業もひと段落したところで、ツインテールの友人がため息を漏らす。
「昼メシの時言っただろ、SF研の手伝い。この後衣装のサイズ合わせすっから来いとさ。」
と、委員長からの携帯メールをボクら2人に見せる。
「委員長ってSF研だったんだ?」
「ん?ああ、それもなんだが、アイツの兄貴がSF研の部長らしい。
ぶっちゃけゲーヲタ研みてーなとこだし、女手が足りないんだとさ。」
「ふーん。でもよく引き受けたよね。ウェイトレスって言っても、多分メイド服なんでしょ?」
「……格ゲーの賭け勝負に負けたからしゃーないんだ。誰がすき好んで引き受けるかよ。」
「ちなみにキミが勝っていたらどうなってたの?」
「ゲーム機貰ってた。箱○な。」
「釣られちゃったんだ。」
「大体だ、あのクソ委員長、ゲーセン一緒に行ってもパズルゲーばっかプレイしたから、楽勝だと思ったんだ。
そしたらさ、あいつの兄貴が闘劇の本選出た事があるらしくて家でその練習相手になってたんだと。
………パーフェクト且つストレートで完敗だったんだよ。どっちもバスケにテーレッテーで開幕10割持っていきやがってあのヤロウ。」
「闘劇??……バスケ?格闘ゲームだったんだよね?」
「……いや、知らねーならいいんだ。とにかくだ。」
「嵌められた?」
「Exactly(その通りでございます)」
「………どうしてそこで英語なの?」
「解らないならそのまま流してくれ……」
終始梅雨前線を背負った友人を眺めつつも、展示の準備は滞りなく終了した。
別れ際に見た彼女の背中から滲み出ていたものは梅雨前線からドス黒いオーラに変わり、すれ違う生徒が避けて通る始末だ。
あれでは折角の容姿も台無しだろう。
「はは……大丈夫かな、あの子。」
「委員長と絡むと最終的にはいつもあんな感じだから大丈夫だと思うよ。」
「酷いな、それ。」
「んー。気になるなら明日の模擬店、見に行ってみる?」
「そうだな。どうせ学祭の間は食堂閉まってるし、昼メシの時にでも行ってみるか。」
「うん。」
下駄箱で靴を履き替え、いつも通りに彼の腕に絡みつく。
一瞬たじろぐ彼なのだが、拒否する様子は見られない。
「えっとだな……その、し、白詰さん?」
「うん?」
「む、胸がですね…こう、アレですよ。ほら、あれなんですよ。」
「それ、朝も似たような事言ってたよね~。アレアレじゃわかりませ~ん。」
「……あのなぁ、俺の反応が面白くてからかってるだろう、絶対……」
「良いでしょ~?今は周りに誰もいないんだし、恥ずかしがる必要もないと思うよ?」
「まぁ……そうなんだけど。でも恋人同士ってさ、いつもこんな風にしてるもんなのか?」
「さぁ?ボクも初めてだから良く解らないけど、多分そうなんじゃない?」
「……解らないでやってたのか。無理してないか?」
「今はしてないよ。」
「"今は"……か。前は無理してたんだな。」
「あ……その……」
空気が変わった。
さっきまでは甘ったるくて蒸し暑さも気にならなくなっていたのに、たった一言で。
「ぃ”…いやいやいや、違う違う。ごめん、言い間違えた。今もしてない。うん、してない。
絶対に。断じて。誓って。」
「そっか。」
愚にも付かない弁解を吐き出したにも関わらず、彼からの追及はそれ以上なく、下校中終始黙ったままだった。
日付が変わって文化祭初日の朝。
すっかり日課となった彼との登校中、昨日の下校時とは打って変わって普通に雑談が出来ていた。
正直険悪になるのかもと心配していたのは取り越し苦労か。
とはいえ、お咎めが丸で無いのもそれはそれで不気味に思える。
頭の中ではまた尋ねられた時の言い訳を考えていたので、どんな雑談だったかは憶えていない。
多分、今日の学園祭どこから回ろうかとか、そんな事だったんだと思う。
「おはよう。今日もお盛んだね。」
校門前で委員長と出会う。壁に寄りかかっているので、偶然ではなく待ち伏せされたようだ。
「ん。委員長、おはよ~。」
「お、おはようございます。」
「お昼さ、SF研の模擬店に様子見に行きたいけどいいよね?」
「ああ、構わない。但し客としてきて欲しいがね。」
「勿論。」
「しかしだ、君達のデートには不向きな店だとは思うけど……ああ、そうだ。
2人の展示の見張り番は今日の終了間際に移動させておいたから、ゆっくりデートを楽しんでくれたまへ。」
「やっぱり知ってるんだね。」
どうやら当番の入れ替えを伝えるためだったらしい。そしてごく自然に漏れているボクらのデートの計画。
「当然。ああ、心配しなくてもあの2人から聞いたわけではないから。」
「いや、俺としてはその方が良かった……。」
全く持って同感だ。
朝のHRもそこそこに、3日間の学園祭がスタートした。
8時半から10時までは一般開放されず、生徒のみの催しとなる。
委員長曰く『模擬店周りをするなら、この時間帯に限る』らしい。
「最初に行くのは体育館でやってるフリマだったよな?」
「…へ?え?あ……うん。た、多分。」
「……多分って白詰さん、学校来る時『デートコースは考えてあるから』って
話してくれたじゃないか。しっかりしてく……いや、普通は男の俺が考えなきゃいけないよなぁ…」
「あ、あははは……ごめんね。ちょっとぼーっとしてた。」
今は展示物の最終チェックを終え、手を引かれるままに体育館へ向かっている最中だ。
昨日の帰り際をどうごまかそうか考えていたのだが、どうやらその様子は呆けているように見えたらしい。
「だ、大丈夫大丈夫。ボ、ボクだって元男だしさ、堅苦しく考えなくていいよ。」
「そうは言うけど、今の白詰さんは女の子なんだし。やっぱ俺がリードしないといけねーなぁとかさ。
思うわけですよ。」
「ふぇっ…?…っぁ、うん、そ、それもそう、かも、ね。」
今日に限って何故か立場が逆転し、ボクの方が狼狽えている。
これからする言い訳がうまくいくかどうか怖くなって緊張してしまっていて、その心持ちのまま答えてしまったからだろうか。
「あ、あのさ、き……昨日の帰る時の事なんだけどさ。」
「昨日?ああ、やっぱりあの子の言った通り無理してるんだな。」
断定気味に返事が来る。昨日と同じ様に、ピンと張り詰めた雰囲気を漂わせた。
「そ、そうじゃなくてさ、そ、その…さ、最初は確かに暑苦しかったりしたんだけど
恋人っぽい事しないといけないな、って思って。で、でもでもっ今は本当にあんまり気にならなくなってるの。」
「昨日も同じ事言ってたな。どうしてなんだ?」
「い、言わなきゃ駄目……?」
「駄目。ってのは冗だ──」「キ、キミの体温とか呼吸とか近くで感じたいって思うようになったからっ!」
「ん…な、なんですけど……。し、白詰さん?……~~~~~っ!?」
ごまかす時は嘘の中に事実を混ぜる。
何かの本で読んだ会話術だ。どこから嘘で、どこから事実かを悟らせないのがコツ。
全て嘘と感じるか、全て事実と勘違いするかは博打になる。
……とは言え、事実を混ぜすぎて胸の奥が熱くなった。
それをごまかす為に慌てて彼の腕にしがみつく。
「お……おわかりいただけたでしょうか?」
「お、おっ、お、おお…おわかりいただけました。」
「ところでさ、"あの子の言った通り"って何の事?
そもそも"あの子"って所が特に気になるのだけど…」
「へ?……ぁ、あはははは……な、何でもないから気にしないでくれ。うん。」
「うん、わかった。」
「え?」
「……問い詰めてほしいの?」
「い、いいえ、滅相もないッ」
追求しなかったのは、自分がそうされたくなかったからだ。
騙しているのだもの、騙されもするんだろうなって。
そうこうしている内に、フリーマーケットが開催されている体育館に着いた。
体育館全てが使われているわけではなく、入り口から約半分位のスペースまでで露店が並んでいる。
ステージ前にはパイプ椅子が整然とならんでいて、何かしらのイベントが行われる事を予想させる。
「結構規模がでかいな。ちょっと侮ってた。」
「右に同じ。」
品揃えはと言うと、女性物のみならず紳士物の古着からアクセサリー類は勿論のこと
古本、日用品、キャンプ用品、果てはこの学校の生徒にしか需要がないであろう本校指定のジャージや体操着に教科書、各種辞典に鞄類まで。
「壮観だね。」
「だな。」
「あ、服から見ていいかな?」
「ああ、買い物とかあんましないし、任せるよ。」
ハンガーラックにかけられた女物のブラウスを手に取り、不意にある事に気付く。
「………そういえばボク、私服全然持ってなかった。」
「え?……いや、1着くらいあるだろ?」
「……男の時のならね。全部サイズが大きすぎて着られなくなっちゃってるし。
なんで2ヶ月も気付かなかったんだろう…。」
「ああ……そっか。そうだな、あんまり高いのは買ってあげられないけど、何か買ってあげようか。」
「何か、って?」
「いや、服をさ。」
「え?いいよ、悪いし……買うなら自分で買うから。」
「そう言うなって、その…デ、デートなんだしさ。」
「あ、うん。そ、そっか、デートだったよねっ。うん、じゃあキミに選んで欲しいな。」
デートだと意識するだけでお互いに頬を赤く染めた。ボクらの様子に古着露店の店主が恨めしそうな顔をしている。
「え"?!な…難易度高いなぁ……女物の服なんて選んだ事無いし…」
「ボクもないから解らないんだよね……化粧品類はある程度解るようになったんだけど、今の今まで私服に気が回ってなかったし。」
「化粧品?化粧……してるのか?今も。」
「うすーくね。ファンデとかは塗ってないんだけどさ、色付きのシャインリップ塗って
マスカラも塗って。あ、マスカラはビューラーをさ、まつげの根元にあてて3回くらいに分けてカールし───」
「い…いや、待ってくれ。言われても理解出来ない世界だ……」
「だよねぇ。ボクもそうだったし。」
彼は陳列された婦人服を眺めたり、ラックから外して手にとってみたりしながらあーでもない、こーでもない、と唸っていた。
一方のボクは、彼がどんな服を選ぶのが気が気でなく、どこかそわそわしていた。
「これなんかどうだ?」
しばらくして、差し出されたのはノースリーブの白いワンピース。
スカートの裾には小さなフリルがあしらわれていて、腰回りは白いリボンで結ばれている。
それ以外は飾り気のない爽やかそうなものだった。
ハンガーラックの近くに姿見が置いてあったので、制服の上からどんな感じなのか確認してみた。
「うん。いい感じ。……んー。でも試着とかできないのかなぁ、これ。」
「できますよ。そこに試着室も用意してありますから。」
と、不意に店主に話しかけられて少し驚く。店主に示された先には洋服店によくある小さい試着室が置かれていた。
「ボク、この学校の学園祭って初めてなんですけど、フリマって思えないですね、ここ。」
「あら、新入生の方だったのですね。初めてなら驚くでしょう。
中古品を持ち寄ったマーケットではなく、新古品の扱いが中心ですからね。
いやはや…この時間帯にくる生徒さんならてっきり事情を理解されているとばかり。
失礼いたしました。」
「いえいえ、お気になさらずに。やっぱり…一般開放された後って混むんですか?ここ。」
「ええ、それはもう……人だかりではなくて人の波と形容した方が良い位に。」
「あはは……偶然だけど、めっけものだったかな。ちょっと試着してくるね。」
「ん。ああ、待ってる。」
「うん。」
試着室に入り、カーテンを閉めてから鏡の前に立つ。
胸元のリボンを解き、しゅるしゅると衣擦れの音を立てながら夏用の制服を脱いでいく。
脱いだ制服は畳んで持参している学校指定のバッグに入れておいた。
鏡を眺めると、下着姿で起伏の激しい、今ではすっかり見慣れた肢体が目に入った。
「よくもまぁ……ここまで大きくなったもんだよね。
生命の神秘というか、未だに信じ難いというか…」
胸の下側に手を当て、持ち上げて意味もなく重さを確かめる。
巨乳は肩が凝るってのは冗談だと思っていたけど、実際になってみると良く解る。
そう遠くない未来、ボクも肩凝りに悩まされるのだろう。
普通に生活する上では委員長みたいな貧乳の方が絶対に得だと思う。
多分こんな事を本人の前で喋ってしまうと、一生の秘密にしておいた事が次の日には公然の秘密となってしまう事受け合いだ。
……それにしても、そもそも大きくて得する場面ってあるのだろうか。
「何が大きくなったんだ?」
ぼそっと小声で呟いたつもりだったけど、外で待っている彼に聞こえていたらしい。
「うん?ああ、胸がさ、重くて肩凝りそうだな~って思って。」
「ああ、胸か………んん"っ!?…そ、そう、か。」
口調から照れている様子が目に浮かぶ。
もう少し彼をからかっていたい衝動に駆られるけど、あまり待たせてしまうのも悪い。
ここは抑えてささっと試着を済ませてしまおう。
選んで貰ったワンピースに袖を通す。
ノースリーブなのに袖を通すって間違ってる気がするけど、意味的には正しいはずだ。
日本語って難しい。
スカート丈は膝下10cm位とロングスカートになっていた。
通気性は思ったより悪く、春物のワンピースの袖だけをカットしたような着心地だ。
しかし麦わら帽子でも被れば深窓の令嬢にも見えなくもない可憐さは悪くは無い。
自画自賛ここに極まる。まぁ、見慣れただけで実感の湧いていない体だからだろうか。
おまけに袖がない分涼しいので生地の厚さについても問題はなさそうだ。
などと考えながら付属のリボンで腰回りを締め、おへその辺りで蝶々結びにした。
「どうかな?」
試着室のカーテンを開け、彼の前でくるっと1回転した後に両手を自分の背に回し、ポーズを取ってみた。
「あの…えっと、似合う?」
返事がなく、しばらく反応もなかった。流石にポーズをとったのは大袈裟だっただろうか。
聞きたい相手からは聞けず、店主の方からは素敵ですよとお世辞が飛んできた。
「………へ?あ、ああ!に、似合ってる」
しばらく呆然と待ってようやく返ってきた感想はぼそっと呟く程度で、それきりボクに背を向けてしまった。
彼のレスポンスは悪かったが、思いのほか気に入ったので買ってもらう事にした。
値札を外してもらって、着たまま彼に手を引かれてショッピングを続ける。
手を繋いで歩くのは構わないのだけど、何故だか彼は黙ったままこちらを見ようとしなくなってしまった。
試着室を出た時に取ったポーズが余程痛い子に見えて、顔を合わせなくしているのだろうか?
それにしては凍りついた雰囲気が感じられないし、手を引いて貰っている現状とも矛盾している。
「さっきから黙ってるのって、なんで?」
「え?」
「だってほら……これ試着した後からぼーっとしてるし。」
「な、何でもないから。」
「ならボクの目を見て言ってよ。さっきからずっと顔も背けてるしさ……どうして?」
「……り、理由言わなきゃ駄目か?」
「駄目。ボクが悪いのなら謝るし、もし他に理由があるなら知っておきたい。」
「い、いや…白詰さんが悪いわけじゃなくてだな……こう…アレだ。」
「アレって何?」
「その……えーと、なぁ…羞恥プレイに近いんだけど、勘弁してくれないか。」
「羞恥プレイ?……わけが解らないよ?ボクの事嫌いになった?」
「ない!それだけは絶対にない!」
「………?じゃあ理由は?」
「さ……察してくれ!た、頼むよ。」
「頼まれても……解らないものは解らないし。気になってデート続けられないよ。」
立ち止まって手を離そうとすると、強く握られてしまう。
彼の行動の意図が全く読めない。
「い、痛いってば……」
「ご、ごめん。」
「謝らなくてもいいから理由教えてよ。そうじゃないなら手を離して。」
「ぅ……い、言うから、手は離さないでくれ。」
「うん。」
彼の手から力が抜けて、緩やかに痛みが引いてゆく。
離すなと念を押されているので、嫌われたわけではなさそうだ。
「その……白詰さんに、み、みみ、見とれて…
可愛いとか、可憐だとか、神々しいとか……頭ん中ぐるぐる渦巻いたんだけど
う、うまく言葉に出来なかったんだよ。み、見てると顔が勝手にニヤけてきたし…
その……おまけに着たまま行きたいって言われたらさ、直視できなくて当然だろ。」
「え?っと、つまり要約すると……」
「~~~~っ!し、しなくていい!お願いですからしないで下さい!!」
「えー……。でもそれだと余計に見てもらいたいんだけどな~?
あははっ、な~んだ。はぁ……心配して損しちゃった。」
「か、勘違いさせて悪かった。」
「悪いと思ってるならしっかり見てほしいな。褒められて嬉しいんだからさ。
第一、キミに選んでもらったのだから存分に堪能してほしいな。」
「た…堪能って、な、何をだよ。」
「んふふっ、それをボクの口から言わせる気?」
たった一言褒められただけで機嫌を良くし、鼻歌交じりに隣を歩く。
彼の一挙手一投足に一喜一憂しているようだ。
常々ボクが彼を振り回しているのだとばかり思っていたが、その実逆なのではないだろうか。
きっとこの事を話すと彼は否定するのだろうけども。
「アクセサリも見て良いかな?」
「ああ、って…胡散臭い露店だなぁ。」
「あはは……かもね。」
見つけたアクセサリ屋の様な露店は、駅前の路地裏で木製の大きな鞄を広げ
たむろっている若者相手に商売をして偽物のブランド品を高値で売りつけているような、そんな風貌だ。
学校からの許可を得て出店しているのだから、あり得ない話か。
様々な形のリングやペンダントにイヤリング等が売られていたが、どれも銀細工が主の簡素な物だった。
ひょっとしたら銀メッキなのかもしれない。値段的にきっとそうなのだろう。
「欲しい?それ。」
五芒星のペンダントを見つけ、手に取って眺めていると彼からそう尋ねられた。
「え?うん、星の部分がさ、赤くて綺麗だから買おうかなって。」
「赤って好きな色なのか?他にも青とか白とかあるけどさ。」
「うん。……派手過ぎかな?」
「全然。おじさん、これ下さい。」
「へ?」
眺めていたペンダントをひょいっと取り上げられ、彼が代金を払う。
そして銀で出来たチェーン部分のホックを外し、ボクの後頭部へ両手を回してホックを留め直す。
あまりに自然な流れだったので呆然としてしまったが、要するにちょっと良いなと思って眺めていたネックレスをいつの間にか買って貰っていて、気がついた時には首にかけて貰っていたのだ。
「あ、ありがとう。でも服の上にペンダントまで買って貰うのは悪いような……」
「いいっていいって。さっきのお詫びと思ってくれれば。」
「うーん、でも……」
「安かったしな。」
先ほどと違い真っ直ぐな目で見据えられていた。今度はボクの方が気恥ずかしさから視線を逸らす。
「ああ…さっきの俺ってこんな感じだったんだな。」
「え?」
「いや、ついさっき試着した時のさ。」
「……うん?」
「やっぱ思った事は素直に言わないと勘違いさせちゃうよなぁ…。」
「や、その…さっきのはボクもはやとち──」
「それも似合ってるな。うん、可愛い。」
「!?」
不意打ち気味の一撃で顔から火が出そうだ。
返事が無いのは困るけど、面と向かって褒められても困るのだよワトソン君。
誰からともなく逃げるように、ボクは彼の手を引いて体育館から出た。
服を買って貰った時とは立場が逆になったのだが、先ほどと違う点を挙げるならば、ボクの心境はまるっとお見通しされている所だろうか。
彼の表情はどことなく綻んでいて、ボクの手を引き寄せるわけでも離すわけでもなく、歩調を合わせている。
眉間に皺を寄せて睨んだのだが、彼は意にも介さず満面の笑みを湛えていた。
「……………むぅ」
「ははっ、白詰さんもそんな顔するんだ。」
「ど~いう意味かなっ……それっ」
小馬鹿にされたような感覚に陥り、苛立ちを隠せず声を多少荒げた。
にも関わらず、彼の方は主導権を握った優越感に浸っているようだ。
「照れた表情ってのは今日初めて見たから。」
「──そうだっけ?」
「ほら、主導権?ってのをこう、握られっぱなしだったから見た事ないと思う。
登下校にしろ昼食にしろ、大体白詰さんから率先して、だったしなぁ。」
「解ってるなら、しっかりとエスコートして欲しいのだけどっ」
「はは、面目ない。」
「ぜんっぜん、誠意が感じられないっ」
「悪かったって、ほら、クレープおごるから機嫌直してくれないか?」
「……もう、しょうがないなぁ。」
校舎内の模擬店を回りながら、明らかに我侭としか言い様のない屁理屈にも機嫌を害さず、至って普通に応対してくれている。
今日に限ってどうしてこう、ボクの方が色々な意味で揺さ振られているのだろうか。
「………で、チョコレートとかじゃないんだ?」
「へ?おかしいかな?シーチキン。一口食べてみる?」
「ん、貰おうかな。はむ……(もしゃもしゃ)……んぐ。うん、割と旨いな。」
少し躊躇してから差し出したクレープにパク付く彼。
お返しにとばかりに彼のストロベリーチーズが差し出される。
「でしょ?ぁむ……(もぐもぐ)んぐ。たまには甘いのも悪くはないかな。
実を言うとさ、甘いの苦手なんだよね。」
「意外だな、ツインテールの子みたいに甘い物好きなのかと思ってた。」
「ん~。異性化すると味覚変わる人が多いらしいんだけどね。ボクは例外だったみたい。」
「ふーん。案外世間一般の常識って当てにならないもんなんだな。」
「そうでもないよ。風見くんなんかはその典型で甘い物好きになっちゃったし。」
「風見?誰だ?」
「……あれ?言ってなかったっけ?キミの言ったツインテールの子の事だよ。
よく学食で一緒になったでしょ?」
「名前聞いた事がなかったな。まぁ、聞く機会も無かったしなぁ。
それにしても、彼女にクン付けは不味くないか?」
「あ~……そうだね。男の子の時の癖がまだ抜けてないや。」
他愛のない雑談をしながらクレープを食べきり、模擬店周りを再開すると聞き覚えのない声に呼び止められた。
「おー、ご両人、早速デートか。」
「なんだ、お前か……邪魔だ、邪魔。声かけんな、シッシ」
「邪険にすんなよー、友達だろー。」
どうやら彼の友人かクラスメイトの様だ。
こちらとしては面識が無いので頭の上に疑問符を掲げていると、彼から説明が入る。
「ああ…白詰さんも会った事あると思う。ほら、俺の前の席に座ってるやつだ。」
「どーも、斉藤っス。こんちわ。」
「ど、どうも。」
軽く会釈を返す。言われてみると確かにF組の教室で見た顔だった。
「で、お前んとこはサバゲー同好会だっけか。……えーと、射的屋か。らしいっちゃらしいが。」
「だろ?」
「景品はどっから調達したんだ?えっらいファンシーだな。」
彼の視線の先を見ると、机を隔てて手の平サイズの様々なぬいぐるみが段々になった棚に並べられていた。
射撃位置から景品までは教室の端から端。距離にすると10mくらいだろうか。
「ああ、うちの部長とSF研の部長が顔見知りでさ、あっちから融通して貰ったんだ。」
「へぇ……ってSF研にあれがあるのも想像付かないな……」
「ははっ、あそこは色々と胡散臭いからな。
ウチの他に新聞部とも繋がりがあって校内の噂話は全てSF研と新聞部に集まるっつー噂もあるし。」
「初耳だな、それ。」
SF研と聞いてピンと来たので、彼らの会話に割って入った。
「多分、うちのクラスの学級委員長のせいだと思うよ、それ。」
「え?」
「ほら、井戸端会議好きだって昨日に言わなかったっけ?
SF研の部長って委員長のお兄さんだし、おまけに新聞部にいとこが居るからよくリークするんだってさ。」
「ああ…聞き憶えがあるな。へぇ……妙なつながりっつーか、不気──いや、悪い、聞かなかった事にしてくれないか。」
「あはは……別に言っちゃっていいよ。ボクもそう思ってるし。あ、1回やりたいのだけど、いくらですか?」
「300円だ。弾は5発な。装弾済みだから、そこの木箱に金を入れてくれればすぐ撃てるぞ。」
財布からお金を取り出そうとすると、既にちゃりんと箱の中に100円硬貨が3枚落とされていた。
「ささ、どうぞ。」
「あ、ありがと……」
彼に促されると必要以上に照れてしまうが、気に留めないふりをして射的に使用するライフルを持ち上げて構えようとした。
───のだが、予想以上に重かったのでよろけてしまう。
「でもなぁ……今年入学したばっかなのにもうそんな黒い噂が立ってるってのは……」
「噂じゃないよ、本人から聞いたの。ま、お兄さんも委員長と同じ様に情報網が広いから、そのせいもあるんだろうけどって、あわわ…」
転びそうになったのだが、彼に支えられて事無きを得た。ついでにひょいっとライフルを取り上げられてしまう。
「大丈夫?」
「ぅ…ぅん」
「ウィンチェスターM1873カービンだっけか。…………2,1キロあるだろコレ。」
「西部を征服した由緒正しい銃だぞ!」
「アホか……射的向きじゃねーよ。ンだよ、リアサイト外してあるじゃねーか。狙いにくいだろ。」
文句を言いながらも彼はライフルを構えて狙いをつける。
5回連続で小気味良い発射音が聞こえたかと思ったら、先にある景品が5つ倒れていた。
犬にうさぎ、それとテディベアっぽいのとカエルのキャラクター物にどこかで見た事があるような黄色いネズミのぬいぐるみ。
「ふぇぇ……すごい。」
全て命中させていたので感心してしまっていたボクとは対象的に、店番をしている生徒は何故か怒り出す。
「……狙いにくいっていいながら全部当てるな!お前が撃ったのは無効だ!無効!」
「ケチくせーなオイ。」
「ったく……お前どうしてウチに入らないんだ。何度も誘ってんのにさー。」
「別にいいだろ、確かに射撃は好きだけどさ、サバゲーは苦手なんだよ。」
「勿体ねーなぁ…」
「うっせー。弾出せ、リロードするから。」
「ったく、彼女の前だからっつってかっこつけようとしてんのか。ほらよ。」
ちげーよ。と、彼は受け取ったBB弾をチューブぽいものに詰め込み、銃身の先から差し込んだ。
そしてチューブの先を右に回し、コッキングしてボクに渡してくれた。
「あ……ありがとう。」
「今度はよろけないように支えてあげようか。」
「へ?ぇ?!」
断る間もなく彼に手を添えられてライフルを構えた。密着しているというか、背中から抱き付かれたような格好なので彼の息遣いが手に取るように解る。
解るのは息遣いだけではなく、心臓の鼓動も早くなっているようだ。ボクも人の事は言えないのだけども。
「うひょー…お前意外と大胆だな。白詰さんってファンクラブまで出来てる子なのにさぁ…すげーわ。」
「……ファンクラブ?」
「知らないのかよ。」
「知るかそんなもん。」
「E組の風見さんと白詰さんっつったらそらーもう有名なんだけどな。」
「どう有名なんだよ……」
照れ隠しに友人と話を始める彼。ボクは耳元でそれを聞きながら引き金を引く。
お互い耳が真っ赤になっていることだろう。
───パンッ
「どう、ってお前、風見さんは今年最初の発症者だったろ?
ツインテールに垂れ目でロリフェイス。そしてあの胸ッ」
「あっそう。」
「興味なさそうだなぁ…お前。」
「ないな。」
───パンッ
「ま、それに加えて男子の告白ことごとく蹴ってんだぜ、彼女。
サッカー部のキャプテン筆頭に野球部、テニス部、あとは…どこだったかな。」
「ボクが聞いた話だと生徒会副会長だったかな。副会長も玉砕したんだっけ?」
───パンッ
「そうそう、どこの部のキャプテンもそれなりに人気あるっつーのにさ。」
「で、どうして白詰さんも注目されてんだ?」
「さぁ…?ボクにはさっぱり。ボクも初耳だったし…」
「風見さんとセットで注目されてたんだよ。いつも一緒に行動してたみたいだしな。」
「あー…うん、確かに風見くんとはよくおしゃべりするけど……でもそれだけでってのはちょっと。」
───パンッ
「風見さんに負けず劣らずの巨乳!情熱的な真紅のロングヘアー!
ややつり目できつい印象を与えつつも、凛々しい面立ち!
そして見た目の印象に反して性格は温和で話しやすく、割とドジっ娘気質が萌えポイント!」
「あはは……ボクってそういう風に見られてたんだ。なんだかくすぐったいなぁ。」
───パンッ
5発撃ち切って、命中したのは1発だけ。照準はボク任せだったからなのだろう。
撃っている間ずっと支えてくれていたので、背から離れていく彼の胸板が少し名残惜しい。
「注目されてる人物の友人ってポジションも、案外注目されてるっつー例だなぁ。
実際、白詰さん美人だしな。」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ。おまけに風見さんのように色んなやつの告白蹴ってたっつーのに
お前にあんな大胆な告白しちゃうしな。お前と白詰さんの噂で校内もちきりだぞ、最近は。」
「……なんか腹立つなぁ」
「え?なんでだ?有名になれて羨ましいんだが。」
「ロクに白詰さんと話してもないのに、アレコレ噂されてもな。」
「ふーん。ホレ、景品。」
「ありがと~」
「ま、精々彼女に嫌われないようにな。」
「お前じゃねーんだから大丈夫だっつの。」
「へーへー。」
命中させた景品のテディベアを受け取って、射的屋を後にする。
次は視聴覚室で行われている映画の上映会に向かおうと言う話になって、階段を登っている最中に彼にこう話しかけた。
「あのさ、さっきの話なんだけど。」
「ん?ファンクラブの事か?」
「うん……もしかして、やきもち焼いてくれた?」
「ぶッ?!ぃ"……いやッ?!そそそ、そんな事ないですよッ?!」
「隠さなくてもいいのに。ボクは物凄く嬉しかったからさ。」
最終更新:2011年06月15日 18:40