第1話

放課後の教室、残っている生徒は一組の男女。
女子は頬を染め目の前の男子に告げた…

「オレをセフレにしてくれ」

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入学式から一週間経ち、オレは16歳の誕生日を迎えた。
体が怠くて少し熱っぽい…保体の教科書に載っていた『兆候』まんまの症状な事に憂鬱になる。

15、16歳の誕生日で男性は女性化する―TS症候群。保体や生物の教科書にも載ってる世界の常識。
15歳で女性化するのは女性化者全体の1割以下で、多くの場合は16歳で女性化する…
回避する方法は『童貞を捨てる』事。相手がいない奴の為には国が運営する『国営ソープ』とかあるんだけど…

「…ってきまぁす…」

家のドアを開けると向かいの家の玄関先に見慣れた2人の男女がいた。

「うっス!朝からだるそうにしてんな?」
「…っせぇよ…」
「マジに調子わるそうだな?風邪か?」

黒縁の眼鏡かけてるクセに不良っぽいコイツは向かいの家の住人で幼なじみその1、浅倉 篤史だ。
背が165cmのオレより20cm位高いのが非常に気に食わない。

「タクちゃん、本当に大丈夫?」
「大丈夫、風邪じゃない…筈だから」
「?…タクちゃん?」

遠慮がちにのぞきこんでくるショートカットのよく似合うちっちぇー顔、 背もちっちぇーけど。154cmとか。
おとなしそうな外見で、性格もそのまんまおとなしい…天然ボケなトコが可愛いやら、稀にイラっとするやらな
幼なじみその2、敷島 静花だ。 ちなみに篤史の彼女な、篤史死ね、氏ねじゃ(ry

それで、『タクちゃん』ってのはオレ、谷田 拓武のコトな。

「…今日、オレ誕生日…」
「あ、そうだね、おめでとうー」
「っ!そうじゃねえだろ静花!…タク、お前…」
「おぅ、多分…オレ女になる、と思う」

体調が悪いのも『兆候』だと思う。

「…あっ…ごめんー…」
「イヤ、気にすんなよ!…しゃーねぇし」
「…イイんかよ、タクはそれで」
「いいよ、しゃーねぇし」
「イヤ、しゃーねぇじゃねぇだろ!?今ならまだ予防とか間に合うじゃねえか!」
「…っ!」

予防ってのはつまり『国営ソープ』に『童貞証明』持って行ってこいって事だろ?
…そりゃ、女にはなりたくねぇけど…好きでもないヤツとセックスなんてしたくねぇよ…っ!
出来れば好きなヤツとヤッて、男でいたいよ!!でも、好きなヤツは…

「…タクちゃん…」
「…っ!!…」

好きなヤツにはもう恋人がいるじゃねぇか…クソっ!
居たたまれなくて走り出そうとした瞬間だった。

――ドクンッ

周りの人にも聞こえたんじゃないだろうかという音と共に心臓が異常に早く脈打ちだし
背中や腋や額から汗が噴き出す…足に力が入らない…オレは立っていられずその場にうずくまった。

「っオイ!?タクっ!」
「タクちゃん!?」

…気が付くと近所のけっこうデカい総合病院のベッドに寝かされてた。
高熱の為か纏まらない思考の中で、オレは『あの日』の事を思い出していた…

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中学校の卒業式も終わり、人影も疎らになった校舎内。
オレ達3人の定番の溜まり場になっていた図書室の前。

篤史が静花に告白をしている。

それを少し離れた所から見ているオレ。
少し照れくさそうに報告しに近付いてくる篤史と静花。

…もう、わかっている。

上手く笑顔が作れるだろうか?いつも通りに振る舞えるだろうか?

「俺ら、な、付き合う事になった」
「…避妊はちゃんとしろよ?」
「バっ…早ぇよバカ」
「タクちゃん…」
「そういうコトだろアホ。あ、静花、イヤな時はちゃんと断れよ」
「…タクちゃんも篤史くんも私にイヤな事しないでしょ?」
「甘ぇよ?コイツだって女体化すんのは勘弁だろうし」
「イヤ、無理やりとかしねーし、そもそも、そういうのはだな…」
「あのね、タクちゃん…」
「あー、わかったわかった、とりあえずオレは先に帰るから」
「ちょっ…!一緒に帰んねーのかよ?」
「オレ邪魔だろーが」
「一緒に帰ろーよ?一緒が良いよ」
「いや…オカシイだろ?」
「…一緒に帰るぞ、タク」
「…邪魔…っ…したくねェんだよっ」

篤史と静花がそれぞれにオレの手を引く、オレは涙を堪えるのに必死だ

「らしくねーよ、遠慮とか、それにだな…」

篤史が何か言ってるけど、あんま聞こえない。オレはもう泣いていたかもしれない

「ずっと一緒だよ、タクちゃん」

それは、辛いかもしれないな…2人の幸せを近くで見るのは。
でも、2人がオレがいる事を、3人一緒にいる事を望んでくれるんなら…
それで、いいな。それが、いいな。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

…頬に涙が伝う感触で目が覚めた。

「拓武、起きた?」
「…オカン…?なんで?」

あぁ、オレ倒れて…2人が病院まで運んでくれて、オカンに連絡してくれたのか…迷惑かけたよなぁ…
……ちゃんと『我慢』も出来なかったし。

「オカン…あの」
「…うん、アンタはね」

その先の言葉はわかってる。でも、それより気になった事があった。

「アイツら、ちゃんと学校行った?」
「…アンタねェ…2人とも病室の外で待ってくれてる」

オカンが着いてから「もうイイから」と言ったが「ここで待ってます」と言って聞かなかったらしい。

「学校サボらせちまった…謝んなきゃ」
「アンタ、それよりも」
「…気付いてるよ」

いつもより高く響く声、長くなってる髪、小さくなってる手、胸の辺りの違和感、多分、股間も…

「女に…なってんだろ?」
「アンタ…施設とか行かなかったのね、彼女とかいないのは知ってたけど」

ワリーなモテた事なくて…

「…ゴメン」
「謝ることじゃないの、でも、ちゃんと納得してるの?」
「…覚悟はしてたよ…」
「そう…コレで『自分』を確認しなさい」

オカンからメイク直し用の少し大きめな折り畳み式の鏡が手渡された。
鏡の中にいたのは、オカンにソックリの『美少女』、ウチのオカンは見た目はどう見ても十代前半という所謂『ロリオバン』だ。

…ってゆう事は…まさか…

「…よっと」
「ちょっと、大丈夫?」
「…あ~…やっぱりかっ…」

ベッドを降りてオカンの横に立ってみる。身長146cmのオカンと背の高さがそんなに変わらない、っーかオレの方が少し低い…
着ている制服がダボダボだ…ズボンの裾なんか何回巻いてんだコレ?

「…絶望した」
「アラ?アンタ可愛いわよ?」
「…ねーよ、つかソレって自画自賛じゃね?」

さっき女になったばっかりだ。『可愛い』って言われて素直に喜べない。っーか喜べる日なんて来るのか?

「じゃあ、母さん先生を呼んで来るから」
「あっ、うん…じゃあ、オレ2人んトコに」
「動いて大丈夫?」
「大丈夫…礼、言わなきゃ」
「…『ゴメン』じゃなくて『ありがとう』よ?」
「っ…わかってるよ!」
「そう?」

…どんなツラしてた?オレ…

病室を出て直ぐの待合所の長椅子に2人は座ってた。2人ともすぐにオレに気付いたみたいで驚いた様な表情をしている。
オレは怯んでしまい2人の方に近付けないでいた。そうしてると篤史がこちらに歩いてきた。

「おー、チビが更にチビになったな」
「…あ?」
「見てみ?静花、コイツお前より小せーぞ」
「…オイ…?」
「ちょっと、篤史くん…でも本当、可愛いー…」
「なー、顔も小母さんソックリでなー」
「萌えっ!だよねー、コレってー」
「…テメェら…いい加減にしやがれよ!?背が有り得ねぇくれー縮んでんのは分かってんだよ!凹んでんだよ!! 察しろよ!!篤史っ!!テメーはワザとだろうけどよ!!」

と、キレてはみたが肝心なコトをまだ言ってない…

「篤史、静花」
「ん?」
「なに?」
「学校サボらせて、ゴメ…っじゃねぇ…ここまで運んでくれて…ありがと、な?」
「」
「」
「…なんだよ?…黙ってんじゃねー…」
「デレたぞ、この生き物」
「すごーい、タクちゃんツンデレなんだー」
「ちょっ」
「うわぁ…やっべぇ、不覚にもマジ萌えた、中身タクなのに」
「すごーいタクちゃん、天才?」
「…なぁ?アレだ?お前らバカなんだ?バカップルなんだ?」

しかも『ツンデレ』って違くねぇか?

「ところで…なぁ、体大丈夫か?」
「ぉん、熱はまだあるっぽいけど、まぁ平気」
「教科書通りなんだねー」
「みたいだな」
「付き添い、しようか?」
「いや、オカンもいるし、この後、多分検査とかで時間かかると思うから」
「じゃあ、帰ったら
連絡してね?わからない事とか相談してね?」
「…うん、サンキュ」
「俺にも報告しろよ?主にその体の(ry」
「死ね」

その後、色々な検査をされた。
結果、オレの身体は間違いなく『女』になっているらしい。いずれは心も、と説明された…そっか…
役所に提出する診断書やら証明書とかを渡された。書類の束の中にカウンセリングの案内とかもあった。
熱や脱力感、筋肉痛とかは人それぞれだがすぐに治まるとか。あと、今日中に『初潮』が来るとか…。

……生理…だと…?

帰り道、オカンに促されコンビニに寄る。

「何用?」
「間に合わせの普通のパンティーと生理用ショーツ」
「売ってんの!?コンビニに!?」
「何言ってんのアンタ?」

はァー、スゲーなコンビニは。

帰宅後、冷えピタを額に貼り付けながらオカンのお下がりのパジャマに着替える。っーか何故にピ○チュウのツナギ…。

…パンティー?穿いたよ?何故、あのコンビニは縞パンを置いてたか店長を呼んで小一時間問い詰めたい。
初パンティーの感想?思ったよりは普通っーか…もっと窮屈かと思ってたから…
ただ、なぁ…ウチのムスコはもう帰って来てくれないのだと現実を目の当たりにすると……はぁ…。

オカンからナプキンの使い方をレクチャーされてる最中、ちょっとトイレに行ったら…生理なう。
タイムリーすぎ、自重しれ生理!

…もっと血かと思ったら、なんと言うか、ウ○コっぽい?…イヤ、スマソ…
最初ウ○コ漏らしたかとビビった…トイレで騒いでたらオカンに見付かって渋々説明したら

「アラ、おめでとう」

ですって!だんだん血になるらしいよ…本当の地獄はこれからだ…。

「あ、アタシ軽い&短いだからアンタもそうじゃない?」
「こーゆーのって遺伝すんの?」
「知らんがな」
「ヲイっ!」

まぁ、期待しとくか…教わった通りにナプキン装着!(キリッ
…と、ポーズとるまでには永きに渡る悪戦苦闘がありましたとさ。
それ用のショーツに穿き替えたので縞パン終了のお知らせ。ナプキンはオカンのをとりあえず拝借。
自分用はドラッグストアとかで買った方が店員にアドバイスもしてもらえるので良いとの事らしい。

「あと、コレ」
「ポーチ?ちょっとデザインかっけー」
「女の子っぽいのイヤなんでしょ?」
「うん、ありがと…ってコレ、P○RTERじゃん!」
「結構、値段するのねソコの」
「マジありがとう!」
「それから…」
「さらに小遣いとな!?」
「必要な物を買う為のお金よ!無駄遣いしないように!!」
「ですよねー…」

女体化者は通常1週間休校出来る。
でも、入学したばかりで授業に遅れたくないから出来れば明日中には準備を済ませたい。
教えられた買い物リストをメモる。

役所の手続きはオカンが出勤前に済ませてくれるらしい。
ウチは両親、共働きでオカンは結構忙しい時期らしいのだが…本当にありがたい。

「制服は明日の夕方にはお店で用意しとくって、ほら、バスターミナル向かいの…」
「了解~、把握した」
「買い物には付き添えないけど…」
「あ、静花と篤史にメールしたら付いてきてくれるって」

正確には断ったが「絶対に付いて行く」との事、おまいら…
静花に関しては助かるが篤史、邪魔じゃね?…しょうがねぇ、か。

それから、やっぱり下っ腹が少し痛いので生理痛和らげる薬飲んだ、
薬を飲むのは錠剤でも顆粒でも苦手なのに…これが毎月とか…憂鬱だ…

あと、オカンにお約束通り言葉遣いと一人称の変更を要求されたけど
「どうか、ご猶予を!」と嘆願してる最中だったりする。
オレの最早ちり紙同然となった『男』のプライド(と、書いてる香具師の趣味)の為だ。

…ん?今、異物が混じった?

そうこうしてるとオトンが帰宅した。

目 が ヤ バ い !

オカンに頼まれたらしい赤飯と鯛の尾頭付きを抱えてる。もう一度言おう、オトンの目がヤバい。
張り切り過ぎだろ、落ち着け。あと、風呂には一緒に入らん!オカン、アンタもだっ!
えっ!?髪の洗い方とか男んときのまんまじゃダメなん?アソコの洗い方?生理ん時は気を付ける事がある?…スイマセン、その辺は詳しく…

風呂から上がると用意されてたのは、またもピ○チュウ。コレ何着あるんだろ…

その晩は、夜用のナプキンに慣れない所為か、そもそも変わってしまった身体の所為か、寝付けない。
ケイタイを弄りつつ窓から見える空をぼんやり見ていた。

――コンっ!

ガラスに何かが当たる音、窓の下を見ると…やっぱりだ。…しょうがねぇ、出るか。

「…何してやがる」
「憂いを帯びた表情の美少女を眺めてた」
「…中身はオレなワケだが…」
「だが、それがいい?」
「アホだろ?」
「…なぜにピ○チュウ着てんの?」
「…黙秘する」
「写メ撮って良い?」
「拒否する」
「既にさっき下から撮ってるけど」
「なっ…!」
「俺の携帯のカメラスゲーのよ、ホラ待ち受け」
「バっ…静花が見たら怒るだろ!」
「いや~、大丈夫じゃね?」

それは、『お互いに信頼しあってます』と言っているように聞こえて…少し、ムカついた。

「…あー、話変わるけど…朝、な」
「ん?」
「悪かったな、無神経だった、反省してる」
「…んーん、別に…」
「『国営ソープ』とかさ、俺も抵抗あるのにさ、スマネ…」

…オメェには静花がいるじゃねぇか!と思った自分が厭だった…

「…イヤ、オレの方こそ意地張ってた、ワリぃ…っ」

言いながら少し泣きそう…堪えろよっ、オレっ!お前は出来る子だ!ちゃんと『平気』でいるのがお前の役目だろ?

ポン、と頭に篤史の手が乗せられて、ハッとなる。

「なっ…!」

ヤロー、オレの反応を無視してやがる…別に良いけど…なんか…心が、すごく落ち着く気がするし…
…でも手のひらからの感触や体温が、篤史のものだと意識すると、何か…

しばらくの間、篤史は何も言わずにオレのアタマを撫でたりポンポンとしたりしていた。

「さて、と…そろそろ、寝るかな」
「…ぁ…」

その手が離れるのがひどく寂しい気がしたのは、体の変化で不安だから、だよな?イヤ、そうに違いないんだけど。

「…何?」
「…えっ、何が……っ!!」

気が付くと篤史のパーカーの裾を掴んでいた。スゴい勢いで顔が熱くなるっ!

「あああっ!?あしたっ…そう!またっ!よろしく…かいもの、とかっ!なっ?」
「落ち着け、バカ、どうした?」
「~っ!!なななっなんでもねーよ!バカ!!」

パッと手を離し、何となく手持ち無沙汰なその手が宙を掻く。

「ふ~ん?」
「…んだょ…」
「じゃな、おやすみ」
「…ゃすみ」

思わず目を逸らしてしまった。…なんで篤史如きにこんな辱めをっ…屈辱だ…バカっ!



第2話へ続く


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最終更新:2011年07月14日 14:12
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