第4話

「谷田 拓武…えっと、改め…拓海です、今日からっ、女子としてよろしくお願いしますっ…」

…わかってはいるけど緊張する。オレは今、黒板前でクラスメートの好奇の目に曝されている。
通過儀礼とはいえ、まだ『男子』の意識がある身でこれは相当キツい、羞恥プレイだ。
特に一部の男子の視線がスゴい…これって視姦じゃね?…コラそこ、誰がロリじゃッ!!バカッ!

黒板に大きく書いた『谷田 拓海』の字。
オレが生まれた時と同じ、じぃじが付けてくれた。オレの新しい名前だ。

そして身を包む真新しい女子用の制服。紺ブレである。
BDシャツの色はライトブルー。ネクタイの柄は青系のレジメンタルストライプ。
大体、男女共に似たようなデザインだけど女子の夏服にはチェック柄の替スカートがあるらしい。

昨晩、我が家で催されたスタイリスト@静花、モデル@オレのランウェイショーでもこの姿は披露させられた。
篤史はいつもの如く写メを構え、オトンは『愛情は手のひらサイズ』を持ち出していた。…全て削除させたが。

※谷田母がバックアップを保管していました。あとでみんなで美味しく頂きました。

「もっとスカート短くすれ」との篤史の声にいつもの調子で蹴りを喰らわすと

「…さくらんぼのドット柄っ…グフッ」
「~っ!死ねッ!死んでしまえ!!」
「タクちゃん、黒パン穿かなきゃー」
「…静花、余計な入れ知恵をするなっ…ギェっ」

実際に自分が着るまでは『女子の制服がギャルゲーのコスプレみたいなのだったらオレ得なのに』とか思ってましたゴメンナサイ。

「やあ、お疲れ様」
「…八重ん時もこうだっけ?」
「ああ、結構照れたよ」
「すげー堂々としてような覚えが…」
「フフっ…ポーカーフェイスだよ」

机に突っ伏して唸っていると同じクラスの山根八重が声を掛けてきた。
こいつは中3の時に女体化した、いわば女体化の先輩にあたるワケか。
元の名前は『山根 泰仁』。知的な印象の整った顔とスラっとしてるけどメリハリのある体躯…胸、静花よりもデカいよな。
…羨ましいとか思ってないもん。
身長は162cmと平均より高め…それはフツーに羨ましい。
長過ぎない黒髪をツインテールにしている姿は生来の女よりも女らしく見える。
あ、薄ーくメイクもしてんだな。静花に教わってたからわかったけど…
黒のハイソックスを履いた脚を組む姿なんか、もう完璧に女じゃん、こいつ。

「まあ、相談は睡眠中以外なら受け付けるよ」
「頼りにしてるよ」

八重とはスイミングスクールで知り合った。
オレの通うスイミングにやたら見学に来ていた篤史と静花とも親しい。
いわば幼なじみその3だ。
例の2人と比べ絡む事は少ないけど、結構大事なタイミングでアドバイスやヒントをくれる。信頼出来るヤツだ。

篤史や静花も八重を頼っているらしく、卒業式のあの日の事も八重に相談していたみたいで、
篤史が静花に告白する事は最初は八重から聞いた。オレが何も知らなかったので
「悪いことをしたかな?」と言っていたが、もしかしたら八重なりの考えで気を遣って教えてくれたのかもしれない。

それから、篤史に『少し離れたトコ』から告白するのを見させてほしいと頼んだ。篤史は少し気まずそうに
「…振られたらカッコ悪ぃから、OKだったら報告しようと思ってたんだが…」と渋々了解してくれた。…結果、現在だ。

「お~、山根と女(にょ)タクのツーショットとは眼福」
「…その略称、次使ったら殺す」
「まあ、殺しても罪には問われないだろうね」
「なんという」

女体化してからオレは篤史に対してのツッコミが男の時よりキツくなってしまった様な気がする。
…て、ゆーか何故かついキツく当たってしまう。

「あの、谷田クン」
「はい?」

声の方を向くと普段あまり絡まない女子グループ、
その様子をしきりに窺う一部のアレな感じの男子グループ。…イヤな予感しかしない。

「背ぇ小っちゃ~い?何cm?」
「顔も小っちゃくてカワイイ系?あ、でも谷田クンって元々…」
「っーかヤベくね?この目とか?ウチのと取り替えろっつの!」

…囲まれた…

篤史は頬杖つきながら、八重は軽く腕組みをして共にオレの方に生暖かい視線を送る。
わかってはいたが、コイツらどうしてくれよう…

…あの、さっきから質問のペースが早過ぎて一つも答えられてないんだが…

「それにしても、谷田クンが童貞だったのって」
「そーそー結構意外かも」
「…なんで?」
「ほら敷島さんとさ仲良いから」
「『そう』なんじゃないかなって」
「いや、ソレちがっ…静花は篤史と」

「敷島は谷田・浅倉の性欲処理施設と言う定説は崩れたでゴザルな」
「い、いや、ま、まだ、ゆ、百合の可能性も…フシュー」
「3Pとかwwwなにそのエロゲーwww」
「敷島マジビッチ」
「静花きもちいすぎてバンザイしちゃうぅっ!バンザイっ、ばんじゃいっばんじゃいっ!ぱゃんにゃんじゃんじゃいぃぃっ!!」
「WWWWWWWW」

後方のアレな男子グループが笑いながら言った。

「テメぇらっ!!」
「っ!?谷田ッ!」

思わず囲んでいた女子達を掻き分け男子グループへ飛びかかる。
八重の制止の声が聞こえた気がするが知ったことか!!
真ん中に座ってたピザの胸ぐらを掴んで…

「よせって」
「っ!?」

オレの右手首を篤史が掴んでいた。

「あー、コイツ女体化したばっかで気が立ってんだ、スマンな」
「ちょっ…!!」
「でも、まーキミらの言った事は失礼だよな?静花にもオレらにも」
「フ、フシュゥ?」
「謝ってもらえるかな?」

篤史は穏やかな顔を崩さないまま…でも、肌で感じられる程のプレッシャーをピザに掛けていた。

「ス、スイマセンでした…フシュー」
「よろしい」


篤史はオレの肩を抱き、踵を返す。席へ戻りながらオレは頭をポンポンと軽く叩かれた。

「落ち着けバカ」
「…うるせーバカ」

これをされると落ち着くから不思議…その余裕がムカつくけど…

「…ありがと…」
「っ、このアホ」

篤史の顔を見上げながら礼を言ったら、何故か顔を真っ赤にして明後日の方を向かれてしまった。
なんなんだ?このバカ。

席に戻るとポカン顔の女子グループとやや呆れ顔の八重。

「あ…ゴメンな」
「い、いやーウチらこそなんかキッカケ作ったみたいでゴメン」
「静花は篤史と付き合ってるんだ、だからオレはただの友達だよ」

『どちらとも』な、言ってて虚しいな。

「ただの友達じゃないだろ?今見ての通り浅倉はお前の飼い主じゃないのか?」
「いや、寧ろ俺が飼われてるし?」
「随分と躾が行き届いたペットだな、ご主人様に『待て』が出来るとは」
「オイっ!お前らがそーゆーこと言うから誤解されんだろーが!バカ!」
「まじめな話、『友達』じゃないだろ?『親友』?」
「…ワリィ、間違えた『親友』」
「よろしい」

「おーい、ヲマイら授業を始めるぞー」
「やべっ」

授業の始まりと共に皆、それぞれの席に戻る。

授業が終えて休み時間。先程のトラブルを聞きつけた静花が来た。
静花のクラスは二つ離れているが今朝の騒ぎはちょっとした噂になったらしい。

「そーなんだー」

静花はコトの顛末を聞きながら右手で携帯を操作している。
これ、オレらが何かに巻き込まれた時なんかによくしてるけど、癖とかかな?

1週間後、翌日から何故か休んでいた例の男子グループが全員見事な美少女になって学校に登校して来た。
ピザなんかもう別人だろ、アレ。…でも、どこか脅えてるような?

「あいつら全員同じ誕生日だったんだな」
「谷田…それ本気で言ってる?」


第5話へ続く


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最終更新:2011年07月14日 14:37
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