『人身事故から始まるラブストーリー』前編

春は出会いの季節と言いますね
通学路である河の畔には、季節の花が咲く桜並木があります
まぁ、そんな事はどうでもよろしい

ぺーっぺっぺっぺっぺっぺ

女性経験の無い男子が女体化してしまうと言うのはこの世界では結構有名な事だ
しかしその可能性は絶対ではなく、30%にも満たないとか
そんな訳で彼女すら居ない俺も幸か不幸か男のまま高校一年という節目を越えた
春休みという休息時間を経て今日から高校二年となる訳だ
春は出会いの季節といいますが
学校が始まると思うと、軽く鬱が入る
確かに勉強が大切だと言うのは解っているが
大して将来に希望も望みも無い状態でただ漠然と『将来の為』と言われてもな
この感覚は………そう、マラソンに似ているな
何か目的の為に走るとういう訳でもなく『ゴールする為に走る』と言うのは凄くダルい
それと、皆から遅れてゴールするやつに対しての拍手。アレは無い
自然と出る拍手ならまだ救いようはあるが、先生とかが強制するともう駄目だ
完全に上から目線の拍手をされても困るだろ。泣くだろ
本来教師に向けられる筈の憎しみっぽい感情まで自分に降りかかるんだ
教師を恨んでも妙に恩着せがましいことを言う
それはもう不登校を促進してる感じだよな
とま長々と不満を書いてきたが、小中高とマラソンの無い学校だったけどな

ぺっぺっぺっぺっぺー

というか、何だ?この音は
後ろから近付いてきてるような………

ベスンッ

腰の辺りに熱い衝撃
身体が少し浮いて3Mほど飛んだ

「あ………」

女の子の声と、機械音
スクーターに跨った女の子がこちらを見ている
銀色の髪が美しい
何処か無表情そうな印象を与える顔は結構可愛かった
手に持ったヘルメットをくるくると回している
制服が俺の通う高校だ。校章の色は俺と同じく2年の色
しかし、こんな娘は見たこと無いな
そしてスクーターの免許って2年の始業式までに取れたっけ?あれ?
まぁその辺は何かあったんだろうな。大人の都合的な作者の都合が
作者?何言ってるんだ?俺

「…………」

スクーターから降りた彼女は口元に手を当て、何かを考えている
手押しで俺のいない路肩へと移動し、跨る
そしてフルフェイスのヘルメットを被り、なにやらの操作
手間取っているらしく何度か同じことをしていた
そして………

ペーっぺっぺっぺっぺっぺ………

「………ほったらかしかい!」

「あ、生きてた……」という声が聞こえたような気もする





「普通に轢き逃げじゃね?それ」

始業式で眠くなるような有り難いお言葉を承った後、2年C組の教室の机に居る
話してる相手は小学校の頃からの付き合いであり、女体化現象を共に乗り切った友である
名前は………えーっと、A君で良いや

「何だよ!何でだよ!俺の名前は柳生 小宇宙(ヤギュウ コスモ)だよ!」

あーもー、勝手に名乗ってんじゃねぇよKY野郎
最近流行ってるしイニシャルもあってるからKY野郎で良いだろもう。無駄に格好良い名前しやがって

「何だこれ?俺一応友達だよな?」
「あー……うん」
「自信なさそうに返答すんなよ!」
「KYー、静かにしろー」

いつの間にか遣ってきていた先生まで呼び始めた。去年と一緒の人だ
多少涙目になりながらも席へ戻っていく
そして見た目にも凄く気だるそうに先生が言った

「あー、新しい学年にあがったことだし、まず転校生を紹介する」

相変わらず前後の文に脈絡を感じられない
転校生、という言葉に周りがざわめき始めた
特にもったいぶる事も無く扉は開かれる

…………多少なり予感はあったことだが、今朝の轢き逃げ美少女が其処に居た

「…………えーっと、これなんてギャルゲ?」
「初対面で惹かれるならまだしも、轢かれるギャルゲはねーよ」





時間は飛んで、彼女………自己紹介で聞くところの、河原 桜(カワハラ サクラ)とやらが転校してきて1ヶ月になる
それは学校が始まって1ヶ月ということでもある
申し遅れたが、俺の名前は篠崎 聖(シノザキ セイ)
別に覚えなくても良い
それはそうと、この1ヶ月で俺が彼女に対して抱いた印象は一つ

 コイツは、『変な奴』だ

俺が言うな、と自分で自分にツッコミを禁じえない言葉だな
まず、コイツは体育という科目に絶対でない
バレーだろうがサッカーだろうがいつもセーラー服姿で片隅に立っている
虚弱体質………って訳じゃないよな
次に会話をしてることが珍しい
正に台詞が原稿用紙一行分を超えないとでも言おうか
他にも色々あるのだが割愛しよう。どうせ似たり寄ったりで変だしな
何よりも極めつけ

そんな変な奴なのに学級委員長を遣っている

授業の始まりの号令をするときの声が男子に見事なまでに好評だ
孤高の華、というか、妙に近寄りがたい雰囲気を持っている為でもあるのだろう
根暗とは別の、無口という表現が似合いすぎる
……………ま、男って基本Mだからね。仕方ないよね

と言う訳で同性と話してる事すら珍しい彼女が男子と仲良く接するかというと答えはNoな訳で
出来れば初対面の時の人身事故への謝罪が欲しいなーなんていう俺のささやかな望みが叶う筈も無い訳だ

「…………ふぅ」

彼女について、色々と箇条書きにしたメモ帳を閉じる


「よぅ、ストーカー」
「誰がだ」

鬼の首を取ったかのように、柳生が話しかけてきた
先日不注意でこのメモ帳を見られていらいストーカーと呼ばれている
…………あながち間違ってもいないかもしれんね

「お前が女の子に興味持つなんて初めての事だし、俺協力しちゃうよ?」

中学校の三年間と高校一年
この思春期真っ只中の男女が共に過ごし、女体化という現象の不安も後押しして最も空気が色めく4年間
それらを渦中に入ることなく眺めてきた経験から来る法則がある
男女間の出来事に第三者が介入すると、決まってややこしくなる
それは恋愛然り喧嘩然り
何故かと問われれば、その介入する奴等が何処か面白がってる節があるからだろう
今俺の目の前にいる柳生何とか君の様に

しかし、理由無く女の子に声をかけられるほど場馴れもしていない
轢かれた事も1ヶ月前の話で、今更言うのもちょっと
等と見事なヘタレっぷりを演じている始末だ
多分今後も同じだろう

そう思っていた

……………思っていた?
うん、過去形になるな
何故ならば、俺は今彼女に対しての関係が変化するかどうかの瀬戸際
かなり重大な局面に直面している。シャレじゃないぞ。韻を踏んだだけだ





「ふあっ………」

端を発せば俺が忘れ物をしたのがこの状況に遭遇する理由だといえる
下校の途中で引き返し、オレンジ色の校舎に少し心躍らせながら教室へと向かった
そして教室の扉が半開きになっているのを怪しんで覗き込んでみれば

「………んっ」

この有様、と言う訳だ
つまりは彼女―――この場合指すのは河原桜の事だ――が、俺の机で自慰行為に耽っていた
忘れていた体操服の匂いを顔に押し当て、女子として大切な部分を角に擦り付けていた
その表情は快感に溺れる危うい色気があり、声を出さないよう我慢している為か顔は赤かった
もしかしたら夕日に照らされてそう見えるだけかもしれないが。普段の彼女の表情とは違った
一心不乱に行為に耽り、周りへの集中が散漫になっている
俺、明日からあの机で集中できるかな………

「あっ…………!」

押し当てていた体操服を胸に当て、今までより少し大きい声が漏れた
背筋が伸び、少し身体が痙攣したようにも見える
かと思えば体中が弛緩した様に机へともたれかかる

「……………」

身体に力が戻り、今の行為の後始末を始める
膝の辺りまで落とされていた純白の下着をちゃんと穿き、乱れた衣服を直す
持参していたハンカチで少し湿り気を帯びた机の角や体操服を拭いていた
どちらかといえば春に近い気候なのに彼女の額には汗が浮かんでいた

…………んー、どうした物だろう





彼女が帰るまで見つからないように男子トイレに潜み、15分後にようやく帰る事が出来た
そして次の日

「ん~………」
「よ、どうした?」
「あ~……」
「無視は立派なイジメだと思う」

昨日も確認したが、何か自分が信じられない
彼女は何事も無かったかのように過ごしている
いっそ昨日のあれは幻想、夢、幻の類だったとか
………現実逃避してもな
ちゃんと体操服は持ち帰った訳だし、その際に少し………まぁ、顔に当てていた証として、涎の跡も見つけてしまったし

(…………別人、とか)

それも無いな。あんな人物を他に知らん
というか、別人が学校に来てまでやる理由が思いつかん
本人に直接確認できれば良いんだが………

(昨日、オナニーしてました? ………なんて、訊ける訳ねーよな)

…………因みにこの自問自答を朝から繰り返し、いつの間にか昼休み
授業、聞いてねぇなぁ

「河原、この器具返しといて貰えるか?」
「解りました」

今日も勤勉に学級委員長としての任を果たしている
……………あ、そだ


「手伝おうか?」

あ、何か露骨に驚いてる
教室から少し離れた所で彼女に声をかけた
先程の授業で使ったらしい………いや、何せ放心状態だったもので、覚えてないんだ
とにかく機械っぽいものを入れたダンボールを三段重ねにして運んでいる

「良いです」
「良い?じゃあOKな訳ね」

ムリヤリ解釈して、上の二つのダンボールを持つ
かなり重いな
彼女から不満の色が漏れていた

「手伝わなくても結構、という意味です」
「結構、ということは、こっちの意思で行動して良いんだよな?」

屁理屈ならお手の物だ
なんたって屁理屈だからな。筋の通ってない理屈だからな
彼女は頬を膨らませんばかりの勢いだ

「性格、悪いんですね」
「まぁ良く言われる」

居心地が悪いというのが伝わってくる
無感情な娘かと思ったが、中々どうして素直だな。マイナス方面に
その居心地の悪さが親しくない異性に対してなのか、昨日の行為が理由なのか………さて、どっちかね

とか考えてる間に目的の教室についた

「…………」
「…………」

会話が無い
まぁ考えてみれば入学して一ヶ月、会話という会話も無い訳だしな
回りくどく言う必要も無いか

「昨日、さ」

昨日という単語に、彼女の体が少し強張った
うーん、やっぱりこの娘本人だったのか?

「昨日の放課後、学校に居たんだよね、俺」

その言葉で全てを悟ったように彼女はこっちを見た
その表情は一見いつもと同じに見えた
が、動揺の極みに達した為に表情をどうすれば良いのか分からないといった感じだと理解した

「………み、見ました、ですか?」

分かりやすい動揺だな。それとも普段からこんな口調か?
とりあえず頷いておいた

「―――――っ!!」

羞恥の所為か少し顔が赤くなっている
…………可愛いな
などと思っていると腕をとられ、引っ張っていかれた
そして廊下を少し行った所の扉の鍵を片手で器用に開けた
連れ込まれる瞬間に、「用具室2」のプレートを確認できた


確か、文化祭や体育祭の時とかの特別な道具をしまっている教室だったな
勿論普段は鍵が掛かっているが

「…………で、何なんだ?これは」

薄暗いが一応窓もあるので、真っ暗という訳ではない
行き成り手を引かれ、バランスを崩した

「うわぁ?」

妙な疑問形になりながら、彼女に覆いかぶさる形で布団の様に敷かれたマットの上に
不思議と埃はたたない
体制で言えば、俺が彼女を襲っているような……体位で言えば正常位。何言ってんだ?俺

「何のつもりか聞いておこうか」
「こうするつもりだったんでしょう?どうせ」

珍しく感情の篭った声と目線
含まれる感情は侮蔑とか嘲笑とかそういった類
ただ俺個人に向けられたのではなく、“男”という生き物に対して向けられている

「まさか真面目な委員長様が、こんな人だったとはー」(限りなく棒読み)
「………」

彼女の両手が俺の頭を捕らえ、見た目に反して強い力が働く
俺と彼女の距離が縮まっていく
彼女は一際強い感情を込めた視線を送った跡、目を瞑った
涙が溜まっているように見えたのは気のせいではあるまい

今迄距離を保つ為に支えていた腕を崩し、距離が0になる


ガツーン、と擬音が聞こえそうなほどに強力な頭突きを喰らわせた

「ふぇっ!?」


乱れた衣服を整え、用具室2の鍵を閉めた
頭突きの反動でまだ頭痛い

「どうしてですか」

不満でもなんでもなく、純粋な疑問を伴って質問された
何が?なんて聞き返す程野暮でもない

「こっちにも選ぶ権利ってもんがある。この痴女」
「ち、ちじょ!?」
「それに君みたいな幼児体型に誘惑されてもねぇ?」
「幼児体型!?」

今迄のキャラが崩壊しそうな声を出している
いや、実際は危なかったんだけどさ。色々と

「これでも幼児体型と言えますか!?」

逆上したふうな彼女は俺の腕を取り……アレ、デジャヴ
手の平に柔らかな感触
端的に言えば、腕を胸に押し付けた
意地か自棄かは知らんが、何か色々と大丈夫かな

…………あ、大丈夫じゃないからこその暴走か


「さぁ、どうなんです?」

人の腕を胸に当てて勝ち誇るな
此処でうろたえるのも負けな気がしたので、掌に当たる物体を揉んでやる
想いの他柔らかで、クラスでも上位の大きさに値する膨らみが形を変える
ロリ巨乳とでも言おうか?マニアは歓喜だな

「?!」

彼女のほうは更にうろたえて、胸を揉みしだく俺の腕を引き離した
信じられない、といった面持ちの彼女と勝ち誇る俺
女の武器は万能ではない。シチュエーションが揃ってこその武器だと柳生が言ってた気がする

「うわぁ………」

噂をすれば影とでも言おうか
聖闘士っぽい名前こと柳生小宇宙が其処に居た
場所から見て、胸辺りののくだりは見られていたんだろう


「………知らなかったよ、君達が其処まで発展していたとは」

自分の中で何かが解決したようだ
特に意味も無く制服のネクタイを直し、180度ターン

「不純物共がぁーー!!」

涙声になりながら去って行った
…………誤解、解いとくか


鉄拳制裁における平和的指導によって、一応誤解だということを照明した

「で、君は何であんな事?」
「………」

大方エロ漫画でも読みすぎた?弱みを握られて陵辱されるタイプの
女子は男子より進んでるらしいからなぁ……そういうの

「それに、何だ。純潔は好きな人に捧げた方が……」

俺は真面目に何の話をしてるんだろうな……

「…………大丈夫ですよ」
「え?」

「私ならもう、汚れていますから………」

そういった彼女の瞳には………哀愁、憎悪、憤激、その他諸々の強い感情がごちゃ混ぜになっているように見えた
不思議と俺には、普段の無感情な彼女より、感情を表に出したそんな彼女の方が可愛く思えてしまった
そして彼女は身を翻し、この場から去って………行く途中で、俺は声をかけた

「あーそうそう。自慰行為は教室に誰も居なくなってから30分~65分までの間がベストだ」
「…………経験者ですか?」
「いや、縦笛舐めの常習犯から聞いた話だ」

彼女が少し笑った気がした

~続く~

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最終更新:2008年07月21日 04:03
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