『Diary』(1)

投稿日:2007/02/02(金) 02:25:50.01 ID:nFsy7wA50
梅雨もあけ、次第に気温も気分も上昇してくる6月下旬。
学期末考査も近づき、徐々に長期休暇が近づいてくる。
そんな季節。

帰宅部の連中は長期休暇の遊びスケジュールを考えるので頭がいっぱいなようだ。
しかし、何かしらの運動部に所属している奴らにしてみれば、学業もさることながら
大会に熱を入れる時期でもある。

俺、須藤悠介はバスケ部に所属している。
僭越ながら3年生を差し置いて、I.H予選のレギュラーとして大会に出場している。
当然ながら、生活の大半がバスケ漬けの生活である。

俺は小さいころから身長が高く、中学生のときからポジションはセンターだった。
当然、センターとしての練習だけをしてきたし、筋肉のつけかたもポジションを意識したものだった。
そのためか、俺はかなりガタイががっしりしている。

・・・とはいっても、さほどゴツイわけではないのだが・・・。
(I.H予選のスケジュールは物語の都合上適当です)




投稿日:2007/02/02(金) 02:27:06.36 ID:nFsy7wA50
今日も朝練に出るため、早起きをして母親から弁当を受け取って学校へ向う。

学校は遠いわけではないのだが、距離問わず自転車での通学が認められている。
家から学校までは1kmほどだが、俺は自転車にまたがって学校へ向う。

田舎とも都会とも呼べない中途半端な『発展途上町』にある俺の実家付近は坂道が多く、学校までは下り坂だけしかない。
毎朝毎朝、ペダルもこがずに学校へつくのがとても楽チンである。
(帰りは疲れてる上に上り坂ばかりでしんどいのだが・・・)

「よう、悠介」
後ろから声をかけられ、片手運転で後ろへ振り返る。
そこにいたのは同じバスケ部で2年レギュラーの天宮洸だった。

「よっ!洸」
こいつとは仮入部の時に知り合ったのだが、とても気が合う親友だ。

「しかし、今年のI.Hはどこまでいけっかね?」
「さぁな・・・今年も○工が本戦出場しそうなカンジだけどな」
と、そっけなくも適切な分析で本命高の名前を挙げる洸。
「そこでなんで俺たちが!って言えないかねー洸クンは(笑」
「洸クンゆーな、気持ちワリィ(笑」
毎朝こんなカンジで二人ともI.Hのことばかり考えている。




投稿日:2007/02/02(金) 02:28:25.50 ID:nFsy7wA50
朝練は軽いランニングとシューティング(シュート練習)を延々と繰り返す。

俺はCなので3ポイントラインの内側からのシュートを重点的に練習するのだが(特にゴール下)、結構しんどい。
延々と繰り返されるシュート練習の間、ほとんど上を向いて腕を上げている。

一方、洸のポジションはCFで、ポストプレーもすればライン外からのシュートもする。

俺も外からのシュートは得意なのだが、Cというポジションの性質上殆どポストプレーやゴール下の練習ばかりになる。

「なぁ洸、俺とポジション変わらねー?」
洸の身長も俺と変わらないぐらいに高いため、どちらがC、CFでもいいのだ。
「あ?俺はお前みたいに汗まみれの男にひっつかれて喜ぶ趣味はねーんだよ」
ちょっとまて、俺にもねーよそんな趣味は!
と、思いながらも手を休めずにシューティングを続ける。

めげずにもう一度
「でも、ちょっとぐらい変わってくれても良くねーか?お前も・・・」
「断る。俺はお前みたいに汗まm・・・」
同じ事を言われかけ・・・
「俺にもねーよそんな趣味は!(笑」
と、つい大声で洸を批難する。

毎朝行われるくだらないやり取りだが、コレを見た後輩たちは毎回決まって
「どっちがやってもいいじゃないっすか、二人とも上手いんだし」
お決まりの文句でやり取りがに終止符が打たれる。




投稿日:2007/02/02(金) 02:29:52.25 ID:nFsy7wA50
俺はこの空気が好きだった、気が合う親友と馬鹿なやり取りをし、それを笑ってくれる後輩達がいる。
気持ちよく汗を流してHRへ向う。こんな生活が大好きだった。
・・・つってもHR終わったら昼まで寝てるだけなんだが。
教師達も俺を既に見限っていて、寝ていても何も言われない。

昼休みを告げる鐘と同時に、俺は跳ね起きて校舎の反対側にある教室まで弁当を持って走っていく。俺は理数系の特進クラスで、洸は文系の特進クラスなために教室が全くの反対側に有るのだ。

俺は洸のいる教室の廊下側の窓を開けて、毎日同じフレーズを吐く。
「洸!さっさと弁当食って昼練いくぞ!」
クラスの連中は見慣れ過ぎた風景に、全く興味を示さない。
そんな中、洸は少々ため息混じりに毎回こう言うのだ。
「悠介、ちったぁ落ち着けよ。食事くらい静かに食おうぜ」
すました声色で。

俺と洸は性格的に正反対だ。俺は火、洸は水のイメージがある。
得意な科目も理系と文系で分かれている。
周りの連中はこんな俺達がとても仲がいいことが不思議でしょうがないらしい。

だけど、正反対だからこそ俺達は馬が合うのかもしれない。
少なくとも俺はそう思っている。




投稿日:2007/02/02(金) 02:31:42.81 ID:nFsy7wA50
余談だが、俺と洸は比較的女子にウケがいいらしい。
特にホモマンガを愛する女子に。
一度だけだが、クラスの女子からそういう妄想ネタがとある同好会で頻繁になされてるらしいという話をされたことがある。
正直、俺はホモの人ではないので心外だったが、言われてみれば俺と洸はしょっちゅう二人で行動をしてる。
そう思われても仕方がないかなと、思わないでもない。




投稿日:2007/02/02(金) 02:36:07.15 ID:nFsy7wA50
昼飯はいつも体育館の脇でさっさと食べて終わりである。
なんだかんだ言って、洸も食べるのが早い。

「うっし、洸!腹ごなしに1on1でもしようぜ」
「お前、いつもごり押しした挙句に力に物言わせてポストプレーじゃねーか正直、俺はお前みたいに腕力馬鹿じゃねーから、お前との1on1はあんまりためにならねーんだよ」
ザックリと誘いを断られて終わる。いつものことだ。

だめもとで毎回言ってみるが、一度も誘いを受けてもらったことはない。
渋々シューティングを始めるのだが、今日は何か体の調子がおかしかった。

不意にピシッ!と何かがひび割れるような音がして膝に激痛が走る。
「ッツ!!」
思わず声にならないうめき声のようなものが口から漏れる。
「おい、悠介!大丈夫か?!」
そう叫びながら洸や後輩、先輩達が駆け寄ってくる。

痛みでバランスを崩して転んだ俺は、駆け寄ってくる洸に向って大丈夫だと告げる。痛みは既に引いていたから。

「最近、膝とか肩に痛みを感じるんだろ?整形外科で診てもらった方がいいんじゃないか?」
洸は誰よりも一緒に練習をしている。
だからこそ、俺の体調が思わしくない事に敏感なんだろう。
「大丈夫だよ、ちょっと疲れがたまってるだけだって」
そう言うと、洸はとりあえず診てもらえよと言ってきた。




投稿日:2007/02/02(金) 02:37:26.43 ID:nFsy7wA50
確かに、ここ数日は体のいたるところに痛みが走ることが多い。
おそらく、骨に疲労が蓄積されているのだろう。最悪の場合、疲労骨折等も考えられる。

だが、俺は軽度の怪我でI.Hを諦めた後悔と無理矢理I.Hに出場して怪我が酷くった後悔を比べれば、前者の後悔の方が我慢できない。
だから医者には行かない。

「なーに、なんてことはねーよ。数年前には、練習中に膝を骨折しながらもI.Hに出場した先輩がいたじゃねーか」
骨折しながらもサポーターとテーピング、麻酔薬をふんだんに使って大会に出場した先輩が本当にいたらしい。
「馬鹿野郎!俺達には来年もあるんだぞ?もし取り返しのつかないことになったら、後悔するのはお前なんだぞ?!」
洸は普段クールなのに、こういうときに限って誰よりもアツくなる。
「分かったよ、今日の練習終わったらちゃんと行くって」
「ダメだ、今日の練習は休んで行け」
いつになく強い口調で言われ、渋々休むことにした。
キツイ言われ方だが、洸なりに心配してくれてるんだろう。
そう思うと、誰よりも親友の存在を有難く思うのだ。




投稿日:2007/02/02(金) 02:40:56.52 ID:nFsy7wA50
午後の授業と清掃時間が終わった後で顧問のいる部屋へ行った俺は
「先生、今日の練習休んで整形外科に行ってきます」
と、簡単に告げて自転車にまたがって家に帰ることにした。
「ま、今日は洸から帰れって言われてるし、無理して出ても身につかないだろうから・・・仕方ないか」
そう思いつつも気持ちは落胆する。よっぽど俺はバスケが好きなんだなそう、実感させられる。

上り坂onlyの帰り道を立ちこぎという名の最終奥義を発動して上りきる。住宅街に入ると俺の家は十字路の角っこにある。
自転車を車庫に置いて家に入ると、驚いた顔つきの母親がいる。
「あ、ただいまカーサン」
「おかえり、今日はいつになく早いじゃない?何かあったの?」
そう聞かれ、俺は病院に行くことを母親に告げる。
すると母親はすぐに車を出すから、ちょっと待ってるようにと告げて外出する準備をしに行った。

すると、ピシッ!「――ッ!」
まただ、何もしてなくても痛みが走る。
洸には黙っていたが、痛みの周期が早くなってきている。
いよいよ本当に骨折してるのかな?などとボンヤリ考えていると車庫から母親の呼ぶ声が聞こえた。
「悠介!早くいくわよー」
「おー、りょーかい」
そう答えてから、車庫へ回り母親の運転する車に乗り込む。




投稿日:2007/02/02(金) 02:42:02.86 ID:nFsy7wA50
病院に着いた俺は、レントゲンと触診をしてもらった。
特に骨には異常が見受けられず、医者からは問題がないと言われただけだった。帰りに痛み止めの薬と湿布を貰い家に帰ることにした。

帰りの車の中で母親がおもむろに俺に向って話しかけてきた。
「悠、特になにもなくてよかったわね」
そう、優しい顔で微笑んでいた。
「ん?あぁ、今回の大会も燃えてるからね」
母親は進学校に入っても部活ばかり熱を入れている俺を咎めることもなく応援してくれている。勉強もしろ、とは言うが・・・

医者から異常がないと言われて気が抜けたのと、普段から蓄積された疲れがあいまって、家に着くなり晩飯も食べずに熟睡してしまった。




投稿日:2007/02/02(金) 02:43:11.02 ID:nFsy7wA50
「――?あれ、俺寝ちゃったのか・・・」
独り言をつぶやいて、体を起こしてみる。
昨日までの体のだるさや痛みは全く感じられない。
「やっぱ疲れがたまってたのかな?」
寝ぼける頭でそんなことを考えていると、不思議な違和感に襲われる。
いやにベッドが広く、視線が低い。服もなんだかぶかぶかだ。
さらに大きな違和感は、髪だ。俺はワックスで髪をツンツンにする。
立てられるようにかなり短めだ。そのはずだ。
なのに、今朝は前髪が目にかかる。後ろにいたっては肩にかかってるそんなカンジがする。
「髪伸びたのかな?」まだぼやける頭でそんなことを考えながら階段を降りて、洗面所へ行く。

鏡を見た俺は、まだ夢でも見てるのかな?
などと的外れな感想を漏らしながら顔を洗った。
――冷たい。水の確かな冷たさに意識がはっきりと覚醒していく。

覚醒した頭でもう一度鏡を見たとき、俺は・・・なんとも発音しがたい言葉で絶叫していた。




投稿日:2007/02/02(金) 02:44:07.25 ID:nFsy7wA50
ふぅ、と小さくため息をついた母親がまっすぐと俺を見て言った。
「悠、あんたそれなりに告白されてるって聞いてたから・・・てっきりアンタはもう童貞じゃないのかと思ってたわ・・・。」
15、16歳までに童貞を捨てないと女体化してしまう。
その知識は俺にもあったし、現に俺の周りにも数人女体化した奴がいた。
でも、発症しない人もいるし、俺には関係ないと思っていた。
何の根拠もないのに、俺だけは絶対大丈夫だと。
「すいません、童貞です・・・」
しょんぼりと項垂れる俺。

俺は何人かに告白されたことがあるし、その気にさえなっていれば童貞を捨てられていたのかもしれない。
ただ、俺は愛してもいない女性と交際する事も、ましてや性交渉に至るなど考えられないことだった。
それに、俺は部活一筋だった。女の子と付き合うことよりも部員達と汗水流して練習してる方が好きだった。
ガキ、だったんだろうな・・・。イヤ、コレは言訳だな。

「ま、ともかく・・・学校と役所には連絡しといたわそしたら、学校から準備期間ってことで5日間お休みさせてくれるって連絡が来たから」
はや!?いつのまに連絡したんだよ?!
「今日は、女の子に必要なもの買いに行くから、さっさと準備してね」
そういうと母親は朝食の準備があるからとキッチンへ消えていった。「・・・準備って言われてもな・・・服・・・サイズあわねーし・・・」
頓珍漢な事をぼやきながら自分の部屋に戻った。




投稿日:2007/02/02(金) 02:45:47.76 ID:nFsy7wA50
俺の母親はまだ若い方だし、スタイルも良かった。
何より背格好が俺に近かったから、とりあえずラフな服を母親から借りて着替えてみた。
「若干、ババくせーな・・・(苦笑」
そう、素直に感想を漏らしたら、後頭部を思いっきりひっぱたかれた。
「悪かったわねー、ババくさくて!!イヤならいいのよ?着なくても」
引きつった笑みで俺にそう述べる母。
ごめんなさい、もういいませんから許してください・・・。

「まずは下着よねぇ・・・あんた胸もそれなりに大きいから」
うん、重いデス。言うほどデカイわけじゃないと思うんだが・・・。
なかったものが突然できると、重く感じるもんだな。
朝起きたときは寝ぼけてて、女体化に気づいたときは軽くパニックになっていたからあまり気にかからなかったが・・・。
改めて実感すると割りと重いのな、これ。
「下着・・・ですか・・・なんかすっげーヤなんだけどさ・・・」
「何いってんの、しない方が恥ずかしいわよそんなの」
それもそーだ。今はまだ家から出ていない。だからこそなんとも思わない。
一歩外へ出てみろ?それなりのモノを包み隠さずに突き出して歩いたら・・・想像しただけで恥ずかしくなってくる。

いくらイヤでも恥ずかしくても、行かないわけにはいかないのだ・・・。
初めてのランジェリーショップへ恥体験しに行ってきます・・・。




投稿日:2007/02/02(金) 02:46:54.20 ID:nFsy7wA50
「ここが・・・伝説の防具が売っているという・・・!!」
意味の分からない呟きで勝手なナレーションをつけていると
ッスパーン!!!どこまでも通るような乾いた音とチカチカする衝撃を頭部に受ける。
「馬鹿なこといってないで、さっさと買いに行くわよ?」
「ハイ、オカアサマ」
機械的に応える俺、情けない。

体の隅々まで散々採寸されて、もうどうにでもしてくれ的な、なんというかぐったりした俺がいた。
下着や私服、一通り困らない程度に買い込んだ俺は疲れ果ててさっさと帰って不貞寝したい気分になっていた。
だが、母親はいまだに俺を着せ替え人形にしている。
どうやら母親は、本当は娘が欲しかったらしい。
息子が生まれてきたときは、流石にショックを隠しきれなかったようだ。
だけど、活発で明るく育っていく息子を見て、息子も悪くない。
何かに熱心に頑張っている息子を応援したいという思いになっていたらしい。
「いやー悠ちゃんが女の子になっちゃったときはショックだったけど母さん本当は娘が欲しかったから、ある意味うれしいわー」
何を勝手な・・・人生が180度も変わった俺にそれはないんじゃないか?
「母さんヒドイ・・・俺、かなりショックなんだけど・・・?」
「落ち込んでもしょうがないでしょ?現実を受け止めなさい」
いつも思う。母、強し・・・と。




投稿日:2007/02/02(金) 02:48:48.08 ID:nFsy7wA50
ある程度準備を整え、2日もすると女生徒用の制服が届いた。
うちの女子の制服はブラウスにスカート、ブレザーそれとリボンタイだ。
シンプルであんまり可愛いとはいえないデザインだ。
「悠、早速だから着てごらん?」
母親は楽しそうだ。
「んじゃ、着てみるよ。あ、わかんなかったら教えてな?」
そう軽く応えて、俺は始めての制服に袖を通す。


着替え終わって、鏡に映った俺は・・・ちっこくて細い少女だった。
あれだけ走り込みと、マシントレーニングで鍛えた引き締まった体は全く面影を残していない。改めて突きつけられた現実に、俺は少し悲しくなった。
「悠?どうしたの?とっても可愛いわよ?」
俺の悲しみなど知らぬ顔で母親がそう告げる。
うるせー、俺は可愛くなりたくなんてなかったんだ。
俺はバスケ部のみんなと、I.H本戦を目指してたかったんだ。
そう思うと、涙がこみ上げてきそうだった。それでも・・・。
「そうかな?俺、可愛いかな?母さん。」
無理して笑顔を作って母親に向き直る。
「とっても似合ってるわよ、悠。」
心情を察したような声で投げかけられる慰めの言葉が、少し痛かった。




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最終更新:2008年08月02日 12:29
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