投稿日:2007/02/03(土) 01:17:39.10 ID:BJo4Uw2V0
数日経って、準備期間が終わった俺は今日から学校へ行く。
正直、準備期間がなかったら俺の心は踏ん切りがつかずに
不登校になっていたかもしれない。
「んじゃ、母さん行ってくるよ!」
踏ん切りのついた俺は元気に挨拶をして家を出る。
「いってらっしゃーい」
少し間延びした母親の見送りの声が聞こえて、俺は自転車にまたがった。
朝練ほど早くはないにしろ、今日は職員室で挨拶を済ませてから
HRに参加することになっているから、普通に登校してくる奴らよりも
早い時間に家を出ている。正直、まだ誰とも会いたくないから良かった。
学校に着くと、自転車を駐輪場に置いて職員室へ向う。
職員室のドアを開けて、バスケ部の顧問と担任の教師に挨拶をする。
「おはようございます、先生。須藤悠華、本日より復学いたします!」
少々冗談交じりな挨拶の言葉にした。ちなみに悠介から悠華に改名する
ことになった。
「ははは、復学と言うほど休んでないがな。大変だったな、須藤」
あっけらかんと、心配してるようなそぶりなどなく担任が告げる。
「須藤、I.Hでお前を欠くのはとても辛いが、お前の方が何倍も
辛かったはずだからな・・・ゴメンな俺には励ましの言葉が浮かばない」
正直にそう告げる顧問。でも真摯に思いを伝えてくれた顧問が
すごく、優しく感じて・・・泣きそうになった。
くっそ、泣くもんか!そう思いながら明るく振舞った。
投稿日:2007/02/03(土) 01:18:31.71 ID:BJo4Uw2V0
その頃、天宮洸のクラスでも既に須藤悠介が女体化した話が広まっていた。
「えー、須藤君って童貞だったの?!てっきりもう・・・」
「ねー、信じられないよねー?」
などと好き勝手に噂されていた。
洸は不機嫌さを隠し切れずにいた。
「なんだってんだよ・・・あの馬鹿ッ・・・だからさっさと済ませろって・・・」
洸は何度も悠華に童貞をさっさと捨てるように言い続けていた。
だが、悠華はまるで自分は関係ないかのように、のらりくらりと
その話を回避してきた。
「あんなにI.Hに出たがってたのに・・・馬鹿がっ」
吐いて捨てるようなその言葉は浮かれているクラスメイト達の耳には
届いていなかった。
投稿日:2007/02/03(土) 01:19:37.51 ID:BJo4Uw2V0
HRで女体化したことをクラスメイトに伝え、無事(?)学校に復帰した悠華が
まず始めに思ったことは、男って本当に・・・という思いだった。
「よー須藤、お前可愛くなっちゃったなー(笑」とか
「胸それなりにあるよなwちょっと触らしてみ?」とか
「パンツどんなの穿いてんのよ?見せてみろよ(笑」とか
そんな下世話な言葉ばかり投げかけられた。
正直うっとうしいし、気持ち悪い。今までは俺もこんなのだったかな?
と思うと、少し複雑な気分になった。
女子からは何故か歓迎された。理系クラスだから女子が少なかったせいもあるが
以前の俺はタッパもかなりあったし、少し怖かったらしい。
今の俺は前の俺とは似ても似つかない程、ちっこくて華奢だった。
出るところは出てるが、バランスを崩すほどのものではない。
そんなわけで、比較的女子には簡単に溶け込めそうな気がしてきた。
投稿日:2007/02/03(土) 01:20:21.47 ID:BJo4Uw2V0
今日は朝練に出ていないせいか、授業中に全く眠くならない。
家に帰ってそれなりに勉強をさせられているために、授業が全く
わからないわけでもないため、今日は真面目に授業を受ける。
「あー、早く昼休みにならないかなぁ・・・」
などとぼんやりしながら板書を続ける。
やっと午前の授業がすべて終了し、弁当を持って
いつもの感覚で文系特進クラスのほうへ走っていった。
「洸!早く昼飯食おうぜ!」
廊下側の窓を開けて、元気いっぱいに叫ぶ俺。
洸は少し戸惑いながらも、俺の方を見て
「あー、わかったから少しは落ち着けな?」
と苦笑いをしていた。
変わらない親友の態度に、うれしくなってくる俺。
ただ、俺はこのとき気づいていなかっただけなんだ。
洸の態度は変わらないものではなく、純粋に困ったときの人間の対応だったことを。
いつも通りに体育館脇に陣取って弁当を広げる俺と、洸。
俺はいつも通りにI.H予選やNBAの話、新しいバッシュの話題をだす。
だけど、洸は・・・なんだか面白くなさそうな顔をしていた。
「洸?どーしたんだよ?今日元気なくね?」
俺は、この時点で、空回りしすぎておかしくなっている自分の感覚に
気づけていなかった。変わっていないわけが、ないのに。
投稿日:2007/02/03(土) 01:21:28.61 ID:BJo4Uw2V0
「お前、なんでそんなに明るいわけ?」
不意に親友の口を割って出る意外な言葉。
固まった、明らかに今までとは違うその言葉と口調に。
今までは、ぶっきらぼうで冷たく感じる言葉でも、中に洸の優しさと想いが
見て取れていたのに。今は見えない、ただただ冷たく、突き放すような・・・
氷の刃のような、そんな言葉。
「お前、本当にI.H出たかったのかよ?出れなくなったのに。」
音を立てて、何かが崩れた気がした。
投稿日:2007/02/03(土) 01:22:25.93 ID:BJo4Uw2V0
今まで通りだと思ってた、その考えが逆に助走になって・・・
加速的に崩れる何か。
「ど、どうしたんだよ・・・洸?」
自分の体と声が、震えているのが分かる。
精一杯振り絞った言葉は、かつての親友に届いていない。
かつての親友の目は、無表情で限りなく冷たくて・・・。
俺の心まで凍りつかせるように、凍て付いていた。
「女になったのがそんなに嬉しかったのか?お前、だから童貞を捨てることを
頑なに拒んでたのか?え?このホモ野郎!」
どこまでも冷たくて、鋭利な洸の言葉は・・・俺を・・・
俺の心を深く深く、切り刻む。
「ち、違う・・・俺は・・・ただ・・・」
俺だって本当は泣きたいぐらい悔しかった。叫んで、千切れてしまいそうなほど
打ちひしがれてた。まだ短いけれど、それでも今までの人生の目標にしてた
I.Hに出れなくなった。その事実は俺をこれでもかと言うくらいに打ちのめしていた。
・・・それでもっ!俺は親友に、ライバルに、弱ってるところなんて
見せたくなかった!それだけなのにっ!
悔しさと、切り刻まれた心の痛みと・・・湧き上がってくる怒りが交じり合って
とめどなくあふれる。こらえきれない感情に俺は・・・
頬を伝う自分の涙にさえ気づかなかった。
投稿日:2007/02/03(土) 01:23:13.85 ID:BJo4Uw2V0
「悠介・・・?泣いて・・・?」
不意に以外なほどに変わった洸の声色に意識が戻ってくる。
俺はあまりの感情の爆発で、半分意識が飛んでいるような状態だったらしい。
「お、俺だって・・・悔しくないわけないだろ!」
振り絞って、心の奥にしまっておこうと思った俺の・・・負の感情を
これでもかと、親友に向って吐き出した。
「俺だって、ずっと!I.H目指してて・・・それで・・・それで・・・
洸と大会目指して、頑張って、手が届くかもしれない。そう思えて・・・
何もかも余計なものは振り払って、それで・・・お前となら・・・
本当に届くと思ったんだ!なのに!なのに!!」
もう、自分でも何を言ってるのか分からなかった。
暴走した感情はコントロールできず、ただただ体の中を暴れまわって
挙句の果てに外へ向ってとめどなくあふれかえっている。
「だけど、お前には・・・洸には・・・弱いところを見せたくなかった。
お前は・・・俺の親友で、ライバルだったから。」
そこまで告げてようやく俺の気持ちは落ち着き始めて、でも、涙は
止まらなくて、それが恥ずかしくて、情けなかった。
「悠介・・・悪かった。俺もわかってたんだ・・・。」
さっきまでとは打って変わって、優しく包み込むような、なだめるような声で
「ただ、お前が女になったって聞いて、裏切られたような気持ちになったんだ・・・。」
いつも冷静で、でも激情家な洸の本当の声。痛いほど、自分にも分かってしまう
その感情を晒け出されて、俺は居た堪れなくなって、逃げ出したくて。
でも、逃げたら何も変わらない。それに逃げてしまったら初めて出来た何もかも
分かり合える親友の関係が切れてしまう。
「俺、だって・・・裏切りたくて裏切ったわけじゃ・・・ない・」
収まりつつも、いまだ体を駆け巡る様々な感情の渦に、声は未だ震えていた。
それでも、今の本当の自分を、想いを受け止めてくれるのは洸しかいない。
甘えだったのかもしれない、それでも俺は釈明を続けた。
投稿日:2007/02/03(土) 01:23:58.48 ID:BJo4Uw2V0
ひとしきり、互いの気持ちをぶつけ合ったところで張り詰めていたものが解けて
悠華と洸は黙々と弁当を食べていた。お互いの思うところを吐き出し尽くして
気持ちが治まってきたのもあるのだが、それ以上に昼休みが終わりそうだという
現実に気がついて、急いで腹の虫のご機嫌をとることにした。
弁当も食べ終わり、そろそろ午後の授業のために教室に戻ろうかと思っていると
以外なことに洸の方から話しかけてきた。
「その、今回のことは俺が一方的に悪かった。謝る、このとおりだ」
そういうと洸はDOGEZAスタイルになる。
「い、いいって俺が裏切ったのは本位じゃなくても事実なんだし・・・」
自分で言いながら自分の心にヒビが入るような感覚を受ける。
「いや、本当に悪かったな・・・」
そう言って洸は、ぽんっと俺の頭に手を置く。
少し小馬鹿にされたような感覚と、それに勝る優しい空気。
俺はこのとき本気で『生まれて初めて優しくされた』ような感覚に
陥った。瞬間、顔に真っ赤になりそうになって、ぱっと下を向く。
洸は少し不思議そうな顔をして、自分のクラスへ帰っていった。
投稿日:2007/02/03(土) 01:25:08.49 ID:BJo4Uw2V0
洸のそっけなくて、ぶっきらぼうな態度の奥にはとても暖かいものがある。
しかし、大半の人間は洸の表面だけを見て『すかした奴』だの『冷たい奴』
だのという感想を漏らす。しかし俺は初めて洸と出会ったときから
奥底に見え隠れする洸の本心に気づいて、こいつとは本当にいい友達として
やっていけそうな予感を感じていた。
でも、今日の洸は最初から何かおかしかった。いつも以上に猛り狂う激情を
抑えきれず、理性では分かっていた事実を踏み倒して爆発してしまっていた。
最後の洸もおかしかった。いつもなら氷で表面を覆ってしまうのに、
全く覆わず、素の洸の心が、想いが、ただそこにあった。
俺は驚きながらも包み隠さない優しさが心地よかった。
母親は女体化の後、ずっと俺に優しくしてくれた。
肉親だし、感情を押し込めている俺がとても心配だったんだろう。
俺は、『産まれて』初めての他人からの優しさがとても、とても心地よかった。
投稿日:2007/02/03(土) 15:07:23.55 ID:BJo4Uw2V0
放課後、俺は部活の顧問に呼び出され、女子部でI.Hを目指してみないか?
といわれた。決して女性を軽視するわけじゃないが、俺が目指していたのは
I.H男子の部だ。それに女子部でI.Hを目指すのは何か卑怯な気がした。
「先生、気持ちは嬉しいのですが・・・俺が目指していたのは男子部のI.Hで
女子部のI.Hではないです。」
こういった体育会系特有の意固地にも取れる感情を、同じ体育会系な先生は
すぐに察してくれた。
「なに無理にとは言わないさ、お前がやりたければいつでも歓迎するぞ」
そう言って咥えタバコのままニカっと笑う先生。
「ありがとうございます。先生」
そう告げた後、俺は思い立ったように意外な言葉を放っていた。
「俺、今日から男子部のマネージャーやります」
投稿日:2007/02/03(土) 15:08:05.70 ID:BJo4Uw2V0
ざわざわ、と体育館の中は少々煩い位にざわめいていた。
「おい、あの女子誰だ?メッチャ可愛くね?」
「俺もそう思ってた!誰かの彼女かな?なんか聞いた話によると
今日からウチのマネージャーやってくれるらしいぞ?」
「お、おいマジかよ!男バスって実際暑っ苦しいし、むさいから
女子には敬遠されてるかと思ってたよ」
「イヤ、されてるだろw」
「だよなw」
「じゃあ本格的に誰かの彼女なのかなぁ?」
などと、思春期にありがちなひそひそ話が聞こえてくる。
やっぱり、天宮先輩の彼女なのかなぁ?と勝手に結論付けられていく。
そういった浮ついた噂やひそひそ話しをされるのに慣れていない俺は
顔を赤くしながらも、悟られないように俯いている事しか出来なかった。
そこに顧問の先生がやってきて大声で叫ぶ。
「おーし、お前ら集合!」
この合図とともに、コートに散り散りになっていた部員達はダッシュで
集まってくる。遅かったものにはコートを走りまわされる罰ゲーム(?)が
待っているからだ。
「もう、分かっていると思うが、彼女は今日からウチのマネージャーを
やってくれることになった。」
おー!と歓声が上がる。さらに先生はまくし立てるように続ける。
「あとな、気づいてる奴は気づいてるかもしれないが、彼女は須藤だ」
しーん、という擬音まで聞こえてきそうなほど、一瞬で訪れた静寂。
投稿日:2007/02/03(土) 15:08:57.87 ID:BJo4Uw2V0
そして、堰を切ったようにあふれかえる驚きの声。
「え、マジで須藤先輩なんすか!?」
後輩にそう問われて、未だに現実を受け入れたくない感情と気恥ずかしさに
身を捩りそうになるが、そこは我慢して認める。
「あぁ、そうだよ。俺、まだ童貞だったんだよね!あはははw」
「あははは」「ははは(こいつら・・・あとで殴る)」
こうして俺は直接試合に出場するわけではないにしろ、I.Hに関わりを
持ち続けることが許された。本当はレギュラーとして試合に出場して
コートの中を走り回りたいのだが、それはもう出来ない。
それでも、気心の知れた部員達と同じ目標に向って活動を共に出来ることの
喜びを噛み締めずに入られなかった。
マネージャーと言っても経験のない俺は何をしていいか分からず
体育館の隅っこで手当て用のBOXを整理したり部員達が持ち寄ってる
ペットボトルに麦茶を入れて渡したりしていた。不意に後輩の一人が
女体化した俺に対する感想を漏らす。
「しっかし、先輩ちっこくなりましたねぇ」
こいつ・・・気にしてることをずけずけと・・・。
「前は俺が先輩の目位までしかなかったのに、今じゃ先輩が俺の
目位までしかないですもんね」
「悪かったなチビで・・・俺だって好きでちっこくなったんじゃ
ねーやい」顔を膨らませて批難の声を上げる。
「あ、すんません先輩!俺でかくってw」
おちゃらけて言われたそのセリフが妙に癇に障ったので
とりあえず一発殴っといた。
投稿日:2007/02/03(土) 15:10:06.12 ID:BJo4Uw2V0
部活の終わり頃に顧問の先生に呼ばれて教官室に入る。
「須藤、出来るだけお前の好きにさせてやりたいんだが、うちの校則は
覚えているよな?」
真面目な顔つきで言われ、少し思い出しながらハイと一言だけ応えた。
「覚えているなら分かってると思うが、原則女子の部活動時間は6時までだ」
地方の学校にはよくあることなのだが、男子と女子で部活動時間に違いが
あるのだ。特に女子の活動時間制限は厳しく、その時間を超えて
部活動に参加することは一切禁止されている。
「あー、じゃあ俺は放課後の活動に関して、先に帰れってことですか?」
ついつい不満げな声色でそう言ってしまう。
「俺もお前の好きなようにやらせてやりたいんだが、何せ校則だしな
それに、ここ最近変質者も多いから特例を認めるわけにもいかないんだ」
これもまた地方には多いことなのだが、発展途上な町ってのは
変に発展して整備された道と、全く整備されていない畑道みたいなものが
多く混在している。そういった『境目』にはよく変質者が現れる。
最近、頻繁に報告されている変質者のスタイルはトレンチコートの下に
何も着衣していないという変質者で、トレンチコートを開きながら
全速力で追いかけてくると言う、若干怪談話に近いものだ。
男のときは笑い話でしかなかったのだが、今考えるとゾッとする。
「そうですね、確かに俺だけ特例で認めるってのもおかしな話ですし」
「ってことで今日はもう時間だし帰れ。それと朝練も出なくていいぞ」
そう告げられて少し悲しくなった。男子と女子という隔たりを強く
感じてしまったから。
投稿日:2007/02/03(土) 15:11:06.81 ID:BJo4Uw2V0
それからと言うもの大会やら遠征やらで忙しく、女体化の悲しみを
深く感じることもなく予選は無事に終了した。
結果は決勝戦敗退。要するに県で2位ってことだ。
Cポジションは3年の先輩がレギュラーになったのだが即席では
上手く連携がとれず、格下相手ならば通用するものの拮抗している
相手にはそこをつかれてしまう。
洸と一緒に大会の会場から帰る途中で、今日の試合について話す。
「あー惜しかったなぁ、もうちょいだったのに」
「まぁ仕方ないさ、先輩も俺に合わせようとしてくれてたけど・・・
どうしてもな、お前との連携が頭から離れなくて」
それは俺も思った。もし俺が出場していたら、あのタイミングのパスは
通ったとか、このタイミングでスクリーンひっかければ決められたとか。
幾度となくそんな場面はあった。
「あー、俺の女体化が大会終わってからなら、こんな思いは
しなくて済んだのになぁ」
自分でも馬鹿なこといってるな、とは思ったが洸は諭すように
「過ぎたことを悔いてもしょうがないさ、来年のI.Hに向けて
明日からまた頑張らないとな」
優しく微笑みながら、そう俺に返してくれる。
投稿日:2007/02/03(土) 15:11:56.26 ID:BJo4Uw2V0
昼休みの一件以来、洸は優しくなった。今までのように自分の心の
表面に氷を張らず、話に付き合ってくれる。
今までのやり取りが好きだったから、少し物足りなくも思うんだが・・・。
これはこれで心が暖かくなるような気がして、嫌いじゃない。
「でも、ウィンターカップもあるしゆっくり頑張るってわけには
いかないよな~、これからは先輩が抜けて、後輩にも頑張って
貰わないといけないわけだし」
「そうだな、まぁウィンターカップは新人戦みたいなもんだけど
実際には引退していない先輩方もいるし・・・俺としてはあまり
興味がないのも事実だよ」
事実、ウィンターカップにはそれなりに引退せずに残っている先輩が
結構いるし、妙な体制で開催される公式戦だ。
「うちは進学校だし、3年生は夏の大会で引退が決定されてるからな
うちにしてみれば完全に新人戦なんだけど」
「相手もそうかと言われれば違うからな・・・どこ学校も引退を
決定事項にしてくれればそれなりに燃えるんだが」
洸は残念そうに言うが、それを言ったら2年なのに3年に混じって
公式試合に出ていた俺達もイレギュラーに見られてたってことに
なるんじゃないか?と言いたかった。
(実際、どこでも2年がレギュラーを取るなんて当たり前だし
おかしなことではないんだが・・・)
投稿日:2007/02/03(土) 15:12:41.29 ID:BJo4Uw2V0
バスケ話に花が咲いて、色んなことを話しているうちに駅に着く。
俺が女体化した時期を見れば分かるが、俺の誕生日は7月だ。
洸の誕生日は俺よりも2ヶ月ほど早い。そこで、ふと疑問が浮かび
考えもなく洸にプライベートな話を聞いていた。
「俺は童貞だったから、誕生日より少し前に女体化したけど・・・
お前の誕生日って俺よりも2ヶ月程早かったよな?」
「あ?あぁ、俺は5月生まれだからな」
いきなりなんだと言う表情で洸が返す。
「お前女体化の心配はないんだっけ?」
口を出た言葉に少し後悔を覚えないでもなかったが、俺は純粋に
洸が女体化してしまわないか心配だったんだ。
「あぁ、俺にその心配はない。去年童貞を捨てたからな」
どうでもいいことのように何気なく初体験の話をされる。
「あ、あぁそうなんだ・・・へー洸って彼女いたのか?」
俺は・・・何を口走ってるんだ?別に親友に彼女が居たって
いいじゃないか?
・・・そうだ、親友に彼女がいるなら紹介して欲しい、それだけだ。
「彼女?あー・・・うんいたよ?過去形だけどな」
気まずそうにそういった洸の言葉に俺の鼓動は早くなる。
過去形って事は今はいないのか?そう考えてしまう。
考えた後で後悔する。なんで俺は洸が初体験の人と関係が終わって
しまっていることを喜んでいるんだ?
投稿日:2007/02/03(土) 15:13:19.13 ID:BJo4Uw2V0
「しかし、何だよ急に?」
心底不思議だといったカンジに問いただしてくる洸の声に
驚いて飛び上がりそういなったが、平静を装って俺は洸の方へ
向き直る。
「い、いや女体化したことでかなえられなくなった俺の夢を
親友であるお前がかなえてくれるって信じてるからさ!
お前が女体化したら困るだろ?」
嘘ではない。だが本音ではないかもしれない。
親友に嘘をついているような気まずさで表情が引きつっている
のが自分でも分かる。
「何、心配すんなって・・・お前にI.Hへ出場する俺らのチームを
見せてやるからさ」
そう優しく言う洸の顔を、まじまじと見てしまい顔が赤くなる。
「あ、あぁ!頼むぜ洸!」
「任せとけって」
うぅ、だめだ・・・氷が解けてしまった洸の一挙手一投足に
俺は未だ慣れられない。
投稿日:2007/02/03(土) 15:14:05.86 ID:BJo4Uw2V0
氷の奥底に秘められた暖かな、まるで暖炉の火の様な洸の優しさを
確認できる俺が、唯一無二の親友だと思ってた。
でも今は、奥底の火が燃え盛って、表面の氷がとけ切っている。
それでも洸の炎は相手を焼き尽くすようなものではなく
優しく暖めてくれる。そんな炎だ。
暖かくて心地いい・・・でも、俺はその暖かさが少しむずがゆい。
嫌いじゃないけど、なんだろう・・・落ち着かない感じがして・・・。
「どした悠?」
急に黙りこくった俺を怪訝に思った洸が話しかけてくる。
少し脱線するが、いつまでも悠介じゃあれなので、洸は最近俺のことを
『悠』と呼んでる・・・話を戻そう。
慌てて俺は、なんでもないと一言告げて、また黙りこくる。
なんで優しいんだ?前まではそっけなくてぶっきらぼうだったじゃないか。
優しくされると、お前が俺の事好きなんじゃないかって勘違いしちゃうよ。
・・・って俺は何考えてるんだ?!
投稿日:2007/02/03(土) 15:14:32.16 ID:BJo4Uw2V0
『俺は元男だぞ?好きとか嫌いとか何を馬鹿げたことを・・・。
でも、ハードが女になったのならソフトもハードに順応するのが普通だし
俺だって漏れなく徐々にそうなっていくだろう。
でも、俺はこいつとずっと親友でいたい。そうだよ、俺は洸と変わらぬ
親友の間柄でいたい。いや、でも洸が好きだとそう言ってくれたら
それはそれで・・・』
などと、途中から俺のキャパシティを超えた状況に、俺の脳みそは処理が
追いつかずにオーバーフローを起こしていた。
帰りの電車の中、オーバーフローを起こした俺の脳みそは答えの出ない問題を
無限ループさせて必死に処理しようとしていた。ぼそぼそと独り言を
うわ言の様に繰り返しながら。
その間中、洸が俺のことを心底不思議そうな顔で見ていたのだけは
はっきりと覚えている。
最終更新:2008年08月02日 12:35