(嘘だ・・・嘘だうそだウソダ!)
すべてのカードが場に出終わった瞬間、心の中で繰り返す。
俺が負けることなんてない。まして相手がこいつらときたら、そんなことなおさらである。
ただ漠然とカードを出しているあいつらに・・・負けるはずがないんだ・・・!
だが現実はどうだ。
俺は負けた。
言い逃れなんてできるわけがない。
体を小刻みに震わせながら、4人の顔を見る。
・・・っ!こいつら、笑ってやがる・・・!
「まったく、お前は本当にアホだな。」
正面にいる東海林が、不敵な笑みを浮かべながら言う。
先ほどとは一変、手のひらを返したような態度をとっている。
俺は少しばかりカチンときたが、ここで怒っても仕方ない。
立ち上がろうとする自分を抑え、彼の話を黙って聞く。
「少しいい気にさせりゃ、お前を負かせることなんて簡単なんだよ。」
「な・・・なんだと・・・」
「もうね、配られてたカードに何かが仕組まれていないかって考えなかったお前の負けだよ。」
「あの時点で・・・俺が負けてたとでも言うのか?」
「当たり前じゃん。お前が負けるようにカードを仕組んだんだからな。」
「くっ・・・!」
「それじゃあ、罰ゲームを受けてもらおうかな?」
俺を見下すように言う。これから罰ゲーム・・・いや、報復でもするかのような雰囲気だ。
周りの4人も、東海林と同じような表情で俺のことをみつめていた。
床に散らばっていたトランプを俺が片付け、お待ちかねの罰ゲームのお時間がやってきた。
俺は不貞腐れて、床にごろんと寝転がる。
他の4人は俺のことをみて、これから起こることを想像しながら笑っていた。
「よし、それじゃ俺が引くね。」
妙に上機嫌な河原辺が、一枚目の紙を引く。いつもはそんな表情見せないやつだ。
いつもはヘラヘラと低い腰で俺に接してきているのに、まったく真逆の態度になってやがる。
そんなに俺に罰ゲームを受けさせるのが楽しみなのだろうか。
「一枚目はっと・・・『一週間後』か。」
なんだか不満そうな表情。
一週間後で不満なら、いつがいいんだ。明日か?それとも来年か?
「よし、続けて二枚目!高野が引けよ!」
「オッケ、面白いの引いてやるぜ。」
高野、お前も嬉しそうな表情してやがるな。
俺のケツをホイホイとついてきてるだけのヤツなのに、よくもまぁそんな態度で。
高野は「どれにしようかな」と口ずさみながら二枚目の紙を引く。
「二枚目はっと・・・『コンビニで』か・・・つまらんな。」
嬉々とした表情から一転、口を尖がらせて「おもしろくねぇ」と一蹴。
引いたのはてめぇだろ、と突っ込みたくなったが、立場上何も言えない。
4人を睨みつけながらただただ待つばかりである。
「よし、三枚目は峠が引け!」
「あいよう。」
今までの三人に比べて、こいつ(峠)は少し雰囲気が違う。あまり乗り気でない感じだ。
さすが俺の右腕に立つくらいの力を持つ男。こいつだけ可愛がってた甲斐があったぜ。
※ちなみに、三枚目は本来であると「誰が」にあたるが、ここでの場合は大貧民が「誰が」にあたるので、自動的に「芋野」が「誰が」の部分になります
というわけで、三枚目は「何を」ということになります
「えっと・・・三枚目は・・・プププッ!」
大人しそうな顔をしていた峠が突然、口に手を当て笑い出す。
いつもポーカーフェイスのこいつがこんな風に笑うとは、俺にも想像がつかなかった。
彼は必死に笑いをこらえ、三枚目の紙をみんなに見せる。
「なになに・・・『エロ本を立ち読み』wwww」
プギャーと指を指して笑う。別にエロ本読むくらいで騒ぐことないだろう・・・常考。
馬鹿みたいに笑う4人を見て、俺はダンマリ。早く終わらせろよとイライラとする。
エロ本如きで騒ぐ奴らを今まで手下に連れていたと思うと、なんだか自分自身が嫌になってくる。
「よっしゃ、最後は東海林だな。」
「面白いの引いてやるぜ!」
指をパキパキとならしながら気合いを入れる。
なんかいつも以上に張り切っているのは気のせいとしておこう。
「何が出るかな?何が出るかな?それは右手に任せようっ!」
右手で素早く四枚目の紙をつかみとり、高らかに掲げる。
「おい・・・これは・・・芋野捕まるなwwwwww」
「さすがにやばいかもな。」
「これは捕まるかもわからんね。」
先ほどのハイテンションの三人はどこへやら、少し俺を心配してくれている。
心配してくれているのかどうかはわからないが、犯罪だ逮捕だ何やら気にかかることを言っている。
少しばかり気にかかった俺は上を向き、東海林の引いた四枚目の紙に目をやる。
そこには、実行するには危険すぎる内容が書かれていた。
「『オナニーする』って・・・オイ、できるわけねぇだろが!」
内容を見た俺は激怒する。どう考えてもできるわけがない。
安価は絶対だ、的な空気の中、俺は荒げた声で言う。
「いや、別にまだやるって決まったわけじゃねぇだろ。そうカッカするなよ、馬鹿。」
見下すように河原辺が言う。単調なしゃべり方が一層頭に来る。
「でもやってもらいたいな。俺達の恨みもあるし。」
高野がにやにやしながら言う。俺達って、お前個人の恨みが大きいんだろうが。
余程俺が捕まってほいいのだろうか。何のためらいもなくそういうことを平気で言う。
ま、俺もこいつらにはそういうようなことをやってきたんだからな。しっぺ返しがここで来たんだろう。
「でもよ高野。さすがにこれはまずいだろ。」
水を差すように峠が一言。その言葉に、高野がぴくんと反応する。
「あぁ?こいつ(芋野)にはどんだけやられてきたと思ってんだよ?今こんなことでもしなきゃ、いつやるんだ?あぁ?」
「お前はそう言ってるが、芋野のお陰で俺達はここまでいい思いもできたんだぜ?」
「う・・・まあ・・・そうだけど・・・」
峠のその言葉に、高野は一気にしゅんと萎えてしまった。つつかれた団子虫のように、顔をうずめて丸まってしまった。
(峠は俺のことを理解してくれているんだ・・・。少しばかり気が楽になるな。)
「それじゃあよ、どうすればいいんだ?」
少しお怒り気味の河原辺。ふてくされた顔で峠に問いかける。
「VIPで安価でも出すか。」
「VIP?なんだそれ?」
「同士の集まる場所だよ。」
「同市・・・?」
「お前にゃ分らん世界だ。」
「芋野、パソコ借りるぜ。」
「あ、あぁ・・・」
ぎしっと事務用椅子に腰掛け、パソコンを操作する峠。
キーボードの小気味よい音が俺の部屋に響く。
こいつのいつもの姿からは想像できないほど、タイピングが早い。
恐らくワープロ検定1級レベルは優に超えているだろう。
「それじゃ、安価で決めるけどいいよな?」
「お前に任せるけど・・・安価って何だ?」
「安価は安価だ。お前らに言った時点でわかりっこないだろ。」
――――――――――――――――――――――――
「変な安価こなけりゃいいんだけどな・・・」
ぼそっと一言。地獄耳の河原辺には聞こえていたようだ。
「峠、何か言った?」
「いや、別に。」
「お、安価番号に達したな。」
「なんて書いてある?」
「ええっと・・・『朗読』って書いてある。」
「優しい人でよかったね。」
峠が俺のほうを見て言う。残念そうな表情をしていたように思えたが、別段気に掛けるほどでもなかった。
確かに、先ほどよりは多少はマシになっているからよしとしよう。
「ついでに、読む本も決めとくか。」
「いや、読む本は俺が・・・」
「お前に決める権利はない。俺の同士が決めるんだ。」
峠に一喝。今この場で一番力があるとすれば、峠良太だろう。
地に落ちた俺の権力。
たかが大富豪でこうなるとは、夢にまで思ってもいなかった。
最終更新:2008年08月02日 15:57