安価『悪魔』

それから数日後、兄貴は病院に行った。
私が股間をバットで強打したのが原因なのかわからないが、ここ数日はすごく顔色が悪かった。
食欲もなく、ずっと部屋に篭っていた。
私はベッドに寝転がりながら漫画を読む。
正直なところ、兄貴の愚息がどうなろうと私には関係なかった。
起こしても起きなかった兄貴が悪い。
下半身はしっかりと起きていたのだが。
まったくどうしようもない兄貴だ。やれやれ。

「風邪でも引いたのかな?」
「どうでしょうかねぇ?」

窓際に佇む不思議なモノに話しかける。
私の話を聞いてるのだか聞いていないのだが分からないが、外の景色をぼーっと眺めている。
そうそう、窓際にいるコイツは最近私に取り付くになった悪魔だ。
悪魔といっても外見だけ。中身は気の弱いおっさんと同じである。
例えるのならば、強面のオッサンが、すごく優しい人だったっていう感じ?
とにかく、一緒にいると悪魔という感じがしないのだ。
(ちなみに、こいつの姿は私だけにしか見えない。)

「どうでしょうかねぇ、じゃなくてさ?あの様子じゃ兄貴の○○○は駄目でしょ?」
「もう少し別の言い方しましょうよ・・・女の子なんですから・・・」

どうもストレートな表現が気に入らなかったみたいで、申し訳なさそうに訂正を求める。
だが私は遠回りにモノを言うのが嫌いな人。
ぐちぐちと遠まわしでモノを言ってくる人といるとイラついてくる。
コイツといるときも、例外ではない。

「私は別に訂正する気なんてないからね!」
「は、はぁ・・・」



「ま、話を戻すけど、あれじゃ無理でしょ?」
「経験から言いますと・・・多分・・・」

自信無さそうに言う。悪魔なんだからもう少しハキハキ言えよ、と心の中で思い続ける。
経験から言いますと、ってことはコイツも強打されたことがあるってことなのだろうか?
奥さんにか、それとも私みたいにやられたのか。
そもそも、悪魔にも性別、そして性器というものがついているのか。
私は悪魔に対して、少しばかり興味を抱いた。
でも今はそんなことどうだっていい。今は兄貴のことだ。
「ちょっと今晩、兄貴の部屋を見てきてくれない?」
「今晩ですか?今晩はちょっと・・・」

指先をイジイジしているその姿は非常に女々しく、とても悪魔には見えなかった。
何か約束でもあるのだろうか。ちょっとの後に文章が続きそうだった。

「何か約束でもあるの!?」

イライラしていた私が大声で言う。
それに驚いたのか、コイツは体をびくっとさせる。
分かりやすい性格だ。体、表情から今晩何かがあるということを伺わせている。
私は乾いた唇をペロリと舐めながら、畳み掛けて言う。

「今晩のスケジュールは白紙よ!白紙!私のために仕えてよ!」
「えええええ、そんなぁ・・・」
窓際からずり落ちる悪魔。滑稽なその姿に、私は笑いをこらえる事ができなかった。
断るのなら断ればいいのに、と心の中で思った。
でも仕えている人に命令されると、それは絶対服従でなければいけないとか、そういう決まりがあるのだろう。
ベッドにうなだれている悪魔の目から、涙がこぼれていた。



正直、泣くとは思っていなかった。
体育座りをし、顔を膝に埋めている。
そこに酒でもあれば、自棄酒食らってる親父と一緒だ。
私が想像していた悪魔の姿とは全く違う。なんだか不思議な気持ちになる。
泣くほどの大事な用なのだろうか?
私は気になって仕方なく、コイツに尋ねてみた。

「ねぇ、今晩どんな用事があるの?」
「うぇっぐ、ひっぐ・・・」

悪魔の顔を見ると、涙で顔がしわくちゃになっていた。
おもちゃを買ってもらえなかった子供のように、どこか拗ねているようにも見えた。
駄目だ、今の状態では何を聞いても無駄だ。
私は心中察し、悪魔に希望の光を与える。

「用事の場合によるけど・・・それなら今日は別に・・・構わないからね・・・」
「えっ、本当ですか!?」

先程までの涙が嘘のように、途端に元気になる。
「仕方ない、おもちゃ買ってあげるよ」と言われ、にぱーと笑う子供のようだ。
思いっきり満面の笑み、これは間違いなく嘘泣きであった。
詰が甘かった自分に後悔。私は顔が引き攣っていた。

「早く用件言ってよ。」
「ええっとですねぇ・・・今日は大事なAV発売日でして・・・」

恥ずかしそうに悪魔が話す。
かなり待ちに待った作品らしく、作品内容をぺちゃくちゃと話してくれた。
どうやら悪魔の世界でも性欲というものが存在するみたいだ。
ひとつ謎が解けた嬉しさと同時に、怒りがふつふつとわいてきた。



「AV、AVねぇ・・・」
「そう、AVなんですよ!」

目をキラキラと輝かせながら言う。まるで遠足前の小学生だ。
それにしても悪魔がAVを見ている姿って・・・
やっぱり近所に迷惑が掛からないように、ヘッドホン装着して、ティッシュを傍らに置き、下半身は露出状態・・・
駄目だ、想像すると笑いが止まらないw
私は込み上げる笑いを抑え、どんどん沸いて来る怒りに感情を切り替えた。

「AV買うために帰らせるわけないでしょ?」

一気に地獄へ突き落とす。
ちょっと希望の光を見せといてこの始末。最低な落とし方だ。
モチロン彼はえ?という表情になる。
地獄に突き落とすこの感じ、ぞくぞくっとしたものが私の体を走る。
(カ、カイカンだわぁ・・・)

「い、いや、今日は本当に勘弁してもらいたいんですよ・・・」

土下座をして必死に懇願する。
悪魔が土下座をするなんて想像もつかないだろうが、今ここでその現象が起きている。
そんなに楽しみにしていたものなのだろうか。
悪魔と私の立場が逆転してしまっている気がする。

「土下座しても無理。無理なものは無理。今日中に兄貴のオ○ニー見てきてよ!」
「そ、そんなぁ・・・」

ぺたりとベッドに体を倒す。今度は本当に泣いている。
その姿を眺めている私、ずっとぞくぞくとした快感が、体を包んでいた。
ドSの才能開花の瞬間であった。



時間は過ぎ、夜の10時近くになっていた。
悪魔は私の部屋の隅っこでいじけている。
後から聞いた話なのだが、やはり仕えている人の命令には逆らえないようだ。
何だか、悪魔契約法だとか難しい言葉を並べていたけど、ようは命令を無視すると罰が与えられるってこと。しかもとびっきりの。
日本の法律で言えば、死刑に値することが待ち受けているらしい。
AV買いに行って死刑じゃ、一生の笑いものだ。
悪魔が私の命令にしぶしぶ従ったのはそういう理由だ。

「この時間になると、兄貴オ○りだすから、ちょっと見てきて。」
「ワカリマシタ・・・」

悪魔は私に言われるがままに、隣の兄貴の部屋にすうっと飛び込んでいく。
その表情、全くと言っていいほど正気がなかった。
ちょっぴり悪い気がしてきたが、仕方ない。これも兄貴を想う妹ができる精一杯の行為だ・・・?

「ったく・・・私だって今日は家に帰ってゆっくりAV鑑賞したかったのに・・・ブツブツ・・・」
兄貴の机の上にどかっと座る。何で他人のオ○ニー鑑賞をしなくてはいけないのかと文句が出る。
特製の5.1chサラウンドのヘッドホンを買い、自慰行為に最適のうるおいティッシュを用意したというのに・・・
ふてくされた顔で兄貴の自慰行為を待つ。

・・・ベッドで横たわっていた兄貴に変化があったのは、それから10分後であった。
ズボンをせっせと脱ぎだし、ベッドの下に隠してあるピザッツを取り出した。
兄貴のお楽しみタイムの始まりだ。
悪魔の俺にとっては、地獄タイムの始まりなのだが・・・

「くそっ、くそっ!勃ってくれよ・・・」

数分間動いていた手が突然止まる。
兄貴の突然の咆哮、多分隣の妹の部屋に聞こえてるだろう。
俺は何が起きたのか、身を乗り出して確認してみる。



まあ、予想通りというか、それはもう使い物にならないと人目で見た分かった。
陰茎は真っ赤に腫れ上がり、すでに別の形と化している。
玉が入っていたであろう場所には、何も入っていないように見えた。
別の形をしたものを強く右手で握り締めながら、兄貴の目からは涙がぼろぼろと零れ落ちる。
男の勲章であるものが使い物にならなくなってしまうなんて、正直死に等しい。
俺は兄貴の心中察すると共に、妹に報告するべきかどうか悩んだ。
「見ろ」とは言われても「報告しろ」は言われていない。
この事実を妹に告げた時点で、どうにもならないだろう。
多分、妹には罪悪感が残るだけだ。そうは思えないような行動をしているが・・・
兎にも角にも、兄貴が女体化するのは時間の問題だ。
言葉にできない気持ちを胸に、妹の部屋に戻っていった。

「兄貴はどうだった?何か声が聞こえたみたいだけど・・・?」

心配気味に問いかける妹。
腐っても兄妹。本当に兄妹愛はうらやましいぜと思う。

「いや、壮大に果ててただけでした・・・多分久々だったんでしょうね・・・」
俺は嘘をつく。本当のことなんて妹に言える訳がない。
さっきも言ったが、その事実を述べた時点で何になる?
妹を悲しませるだけで、何にもならない。いや、こいつはその事実を聞いて悲しむのだろうか・・・?
とりあえず、焦点定まらぬ目線に気付かれぬよう、彼女の表情を気にかけながら話し続けた。

「そう・・・それじゃ今日は帰っていいわよ。」

呆気ないほどの一言。これだけですか?
彼女の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。
もう少し色々と聞かれるのかと思っていたが、それだけ。
ぽかーんと口を開けっ放しの悪魔、今までの時間を返せ!と叫びたかった。
俺は込み上げる涙をこらえ、足早に太陽書店魔界支店に向かった。



数日後、結局兄貴は女体化した。
あの愚息が使い物になるはずもなく、ただ茫然自失の毎日だったらしい。
妹は他人事のように、「姉貴ができた♪」と喜んでいた。
妹にとっては嬉しい出来事だっただろうが、兄貴にとっては最悪の結果だったろう。
ある程度女体化を覚悟していたと思われるのだが、心の切り替えがつく前に自分の息子が仕えなくなる。
こんなに悲しいことはなかっただろう。
兄貴は毎晩枕元を濡らしていたと聞いた。

流石に女体化した当日は、妹も反省していたようだ。
でも次の日からは相変わらずの様子。
終いには「兄貴がオ○ニーしてるか見てきて!気になって眠れないの!」という馬鹿馬鹿しいことを頼んできた。
悪魔である俺も流石に呆れ果て、命令に背いた。
妹は相変わらず反抗。でも俺も負けてはいられない。
悪魔である意地を見せる。今まで下手に出ていた態度とは一変、普段は見せない表情を見せた。
なんていうか、普段怒らない人が怒ると怖いことはなかっただろうか?そんな感じで俺は妹に対して激怒した。
モチロン妹は涙目。ぺたんと膝をつき、失禁までしてしまう。
今まで受けた恨みをお返しし、最悪なことが起きるように呪いをかけ、俺はその場から姿を消した。

魔界の自宅に帰った俺を待ち構えていたのは、司法局である。
これから法に反した俺を裁くのだろう。
覚悟はできていた。ただ従うままに、俺は真の闇の中へと消えていった。

その後、妹と悪魔にどのようなことが起きたのかは、皆さんのご想像にお任せする。
ただひとついえる事。

真の悪魔は、妹だったということであろう・・・




時系列的に、安価『悪魔』の後に続き、安価『狸寝入り』の前にくる作品です
if世界が安価『女神』★となります


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最終更新:2008年08月02日 16:19
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