「15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化する」
いつからこんな現象が起きるようになってきたのだろうか。
親父や叔父とかに聞いてみるが、「俺らがお前くらいの時はそんなことなかったぞ」と一言。
「まさかお前童貞じゃないだろうな?」
親父にこの話をすると、必ずと言っていいほどこう言ってくるのだ。すごく睨みを効かせながら、俺のことを見てくる。 だからこの話はしたくないのだ。
俺は末っ子で、上は全部女しかいないから、せめて一人くらいはという親父の願いだろうか。
「大丈夫、心配ないから。」
俺はいつも同じ言葉で返す。 偽りだらけの返事ではあるが。
「お父さんねぇ、あんたが成人したら一緒に杯を交わすんだって、楽しみにしてるのよ。」
俺の誕生日の前日、母親がニコニコしながらこう言ってくる。
いつもは厳格な父親だが、こういった一面も持っていることに少しばかり驚く。
でもその楽しみも、恐らくは明日の朝にはぶち砕かれていることだろう。
女体化した俺のことを見て、両親はどんな反応をするのだろうか。 想像がつかない。
親父が落胆する場面を見てみたい気分もあったが、それは酷というもの。
今から童貞を捨てろと言われても、どうしろと言うのか。
部屋の時計は午後10時を示していた。
俺はいつもより早くベッドの中に潜り込み、無理矢理眠ろうとする。
だがこう気分が高まっている時は、どうあがいても眠れないもの。 俺は大きくため息をついた。
薄暗い部屋に、コチコチという秒針の乾いた音が響く。
どうやっても逃れようのないこの現実。 例外はあるといっても、それは奇跡に近い確率。
奇跡なんて起こる訳がないと今までそう考えてきた。
だが、今はそれに縋っていくしかない。 そうしなければ、発狂しそうな自分を抑えきれないから。
俺の目から涙が止まることはなかった。
最終更新:2008年08月09日 22:55