Le souhait last_escape
帰り道。
部活をサボらない限りは、いつも一人で帰る。サボってもいいんだけど、それだとしのたが怒るからな。
そりゃ止むを得ない場合はサボりますよ。何かの発売日の時とか。ご容赦願いたいのであります。
帰り道には、神社に立ち寄る事がある。そこには俺と奇縁のある少女が住んでいる。
日が長いとは言え、今日ももう真っ暗である。これで神社に通って今まで通報されなかったのが不思議だ。
居る居る。
石段を登った先に見える、縁側に座ってこくりこくりと船を漕いでる金髪アホ毛巫女さん。こと、ウィッシュ。
外人さんか?と思われるような名前だが、彼女は外人でなければ、人間でもない。
――数百年前、当時霊山である事で有名だった、この神社の裏手にある山のふもとを開拓するに際し、
開拓にはどうしても多くの人が山(あるいは谷)を出入りする必要があったので、当時人間の少女だった
ウィッシュ(本名、萩)が選ばれたのであった。ウィッシュが人間であった頃、俺の先祖とウィッシュは
恋仲だったようで・・・って、それはまた(ry
現在、ここは無人の神社と化していて、ウィッシュは拾ってきた三毛猫(名前はポチ)と一緒に日々を
過ごしている。無人の筈なのに常に小奇麗なのが人が置かれない原因だろうか?ウィッシュは普通の
人間には姿を現さないし。
「おい」
「はうっ!?」
素っ頓狂な声を出して飛び起きた。
「お祈りはどうしたお祈りは。願いの精なんだろ」
「むーその言い草・・・」
目をこすりながら不平を漏らす。
「ところで、ウィッシュ」
「ほえ?」
「『ほえ?』じゃない。最近は何か特別な事はあった?」
「うーん・・・最近・・・」
首を傾げる。
「あっ!そう、変な・・・嫌な感じがしたんだった!」
「嫌な感じ?」
「うん、なんだかとっても嫌な、何かが来るの」
「・・・具体的には?」
ウィッシュの深刻な面持ちに、冗談で返してやる事もできなかった。
「あはは・・・よくわかんない」
ガク、とうな垂れさせていただく俺。
ウィッシュはぽん、と手のひらを叩いて、
「そうだそうだ、それで、どうしようかなって考えてるうちに寝ちゃったんだ。思い出した思い出した。
よかったよかった」
と、足をぶらぶらさせて喜ぶ。
「全然良くないぞ」
「なー」
猫の鳴き声がした。足元に目をやると、とてとてと三毛猫が歩いてきた。その口には、何かお守り
のようなものが咥えられている。
「あっ、そうそう、これ!」
ポチからお守りを受け取る。
「これ、お守り」
言われて受け取ったそれが、『安産祈願』など関係の無いものかどうか確認してから聞いた。
「ウィッシュが作ったのか?」
「うん。厄除けのお守り」
「へえ、しっかりしてるんだな」
俺はとりわけ信心深い人間ではないが、願いの精(自称)から直接手渡しされたお守りを否定するほど
背徳的な人間では決してない。つまり、内心は心強かった。
「えへへ・・・///」
「ポチは」
「なっ!」
「だって、ポチが持ってきてくれなかったら渡しそびれてただろ?」
「う。そんな事無いもん」
本気で膨れるウィッシュ。
「冗談だよ」
そっと、ウィッシュの頭を撫でる。
「ありがとう」
「・・・うん」
そんな俺たちを見て、席を外すポチ。あの猫は何気に真摯だ。見習わねば。
手を離した後、アホ毛は頑固にも再びぴょんと跳ね上がった。
「今日、暑いのかな。すごく汗かいてる」
「もう夜なんだけどな」
「・・・無理しなくていいから、帰っておフロ入ったほうがいいよ」
額から頬を伝う汗の感触が一筋。これで「無理してない」なんて言っても、ただのギャグでしかない。
汗を拭う。
「うん、じゃあ悪いけど帰るわ」
お守りは洗濯してしまわないよう、鞄に入れた。
「気をつけてね」
右手を軽く挙げて返事をした。
背中で応えたところで、暑さで目の前の石段もちょっと踏み外しそうなくらいだったから格好こそ
つかなかったけれど。
それにしても、嫌な予感か。気になるな。
翌日。
その日の朝の教室は、いつもより騒がしかった。
「何かしらね」
「さあ」
「おっおっおっおっ」
この笑い声は、蕪雲か!?と思って振り向く。
「よく生きてたな。驚かないけど」
「1うpしたから大丈夫だお」
「それで?今日は何のお祭りなわけ?」
ツンの問いに、蕪雲はまた不愉快な笑みを浮かべる。
「実は今日、転校生が来るお」
「へー」
大して驚きもしない。
「あのなぁ蕪雲。転校生が来るなんて事は早々何回もあることじゃないの。理緒が来ただけで十分じゃん。
いくら今回が特別編だからといってそんな事は許されないの」
「そういうことはお話の中のキャラが言うもんじゃないお(^ω^;)」
キーンコーンカーンコーン
「はいはい、皆席に着けい、席に!」
扇子をパチパチ鳴らしながら、てんてーが入室遊ばされる。皆大人しく席に着く。
「今日はみんなも知っておろうが、転校生の紹介をする」
ぅゎマジかよ。
「では、入るが良い」
つかつかと入って来た男は、左手をポケットに突っ込んだまま、適当な白チョークを取ると黒板にでかでかと
自分の名前を書いた。
熱血教師の初授業か。
「俺、紺野 日透(こんの ひずき)っていーます!よろしくお願いしまーす!」
えらくニコニコしたその男は、だらんと頭を下げ、挨拶した。
やや癖のある茶髪、高い背(横にてんてーが居るからそう見えるのか)。いかにも今日びの池面という風貌の
男だった。周りの女子が「ちょっとカッコ良くない?」「ねー!」とか囃し立てている中、ツンは、
「まあまあね・・・」
と呟いていた。
その後も、日透は好きな食べ物やらやってたスポーツやらを続けて話していた。
激しくどうでも良かったので殆ど聞き流した。はいはいわろすわろす。
「あっ、妹も一緒に転校して来てます。日水(ひなみ)っていいます。よろしくしてやってください」
最後にそう言って、日透は自己紹介を終えた。
「うむ。では自己紹介はそれくらいに。あの席がそなたの席じゃ」
ぴっ、とてんてーが扇子で指した先の席は一番窓際だった。
「早くも窓際族かー」
頭を掻きながら席に向かう日透。
クラスでは割と受けているようだったが、毒男は肘をついて見ていたし、蕪雲なんかはDSで魔女を捜していた。
こいつが何か厄介ごとを起こすのだろうか?
いや、人間何をしでかすかわからないものだし。決して人を殺したりするような人には見えないわ。ねえ。
だってあんなに真面目な子がねえ。怖いわー。なんて、閑静な住宅街が震撼。所○郎も駆けつけるわ。
でもツンに手を出したら許さんな。フルボッコにしてやんよ。
日透は人当たりも良いようで、すぐにクラスの人気者になった。
日透の周りの人だかりを見ていると、蕪雲と毒男の視線に気付いた。
そちらを向くと、二人はなぜかニヤリとしていたが羨望の眼差しで見ていたわけではないというのに。
そんな休み時間。
「あ」
「何よ?」
「ごめん、ちょっと用事思い出した」
「ふーん?行ってらっしゃい」
廊下を駆ける少年が一人。
もう怒ってないかもしれないけど、一応智途に謝っておこう。そう、それが誠意。
俺の下げた頭をその美脚で踏みつけるがいい。だが、それがいい。それが性意。
ピコーン
超反応で、角を曲がってきた誰かを回転しながら躱す。
「おわっ、たっ、と」
だが、結局はバランスを崩して盛大にコケた。
「だ、大丈夫ですか?」
女子らしい。ニーソ穿いてるから悪い人ではないと思うんだけど、誰だろう。
「何とか」
立ち上がって、尻をはたく。
「君、もしかして江口君?」
驚いてその顔を見る。
顔立ちは整っていて、可愛いほうだとは思うけど、何がおかしいんだという感じのそのニコニコ顔。
どこかで見たような。背は小さいけど。
「なぜ俺の名を」
「ふふ。由梨ちゃんから聞いたの」
「・・・すると、あんたがヒナミちんか」
「そうそう、ヒナミちんヒナミちん。よくわかったね」
手をぱちぱち叩いて喜ぶヒナミちん。
「それはそうと、俺、今急いでるから」
「あ、大丈夫。すぐ終わるから」
「え?」
ヒナミはじっと俺の眼を見た。
だがしばらく経つと、近視の人が遠くを睨むように目を凝らした。
俺の顔に何かついていたのだろうか?
「何?」
それが気になって聞くと、ヒナミははっと気がついて慌てたように、
「あ!なんでもない!なんでもないから!じゃ、引き止めてごめんね!」
と言って、そそくさと退散して行った。
まさかヒナミは霊能力者で、俺の背後に何か居たのでは。
だからウィッシュはお守りを?そんなバカな。お化けなんて無いさ。寝ぼけた人が見間違えたのさ。
「あ、急がないと」
「えと、昨日はごめん」
智途の居る教室。
なにやら数学の問題をバリバリといてるらしいその傍で、俺は両手を合わせて謝った。
智途はシャーペンを置き、合わせた両手を見、俺の顔を見、
「何が?」
と聞き返した。
「いや、昨日何も言わずに逃げちゃったから」
「何だそんなことか。それならもういいんだ」
再びシャーペンを取り、机に向かう。
まだ起こってるのか許してくれたのかよくわからない。
でも、何か他のことが気になって俺に意を介さないだけのような感じだった。
「何かあったの?」
シャーペンの動きが止まった。
「いや、姉さんがな」
家に帰ると、珍しく姉さんが先に帰っているようだった。
今を覗いてみても居ない。テレビも点いていない。
私は特に気にせずに、二階の部屋で制服から着替えようと、階段に一段、足を乗せた。
そこで考えた。
こういうときは大抵、部屋のドアを開けた途端「智途、お帰りー!」とか言って姉さんの奇襲(主にハグ)
を受ける。
季節が季節なのでやめて欲しい。
警戒しながら、再び階段を登り始めた。
が、部屋に入ったときは疎か、シャワーで汗を流し、着替え終わった後も、姉さんは現れなかった。
「姉さん?」
とうとう気になって、姉さんの部屋をノックした。
「智途、お帰りー!」
「うわっ!?」
その胸にガッチリと掻き抱かれる。
「んん?姉さんに内緒でシャンプー変えたな?ハロ君に抱いてもらうためか?ん?」
渾身の力をこめて押し返す。
「ぷはっ。いきなり生々しい話をするな!そんなつもりも無い!///」
「智途が怒鳴る・・・」
わざとらしい泣きまねをする姉さん。
「心配して見に来たのにこれか」
「姉さんだって智途のこと心配よ?だから寄り道しないで早く帰って来てね?」
「新妻か」
「いいから。真剣に聞いて。わかった?」
急に真顔になる姉さんに、圧倒されたように返事をした。
「・・・わかった」
すると、姉さんは元の笑顔に戻った。
「ほら、暑くなってくると変な人が増えるでしょ?だから智途みたいな妹もつと心配で・・・」
と、色々な後付を繰り返していた。
「・・・なるほどな」
智途、シャンプー変えたのか。
「だから、ハロも、気をつけろよ?」
智途は不安げに俺の顔を見上げた。
「俺も?」
こくん、と返事をする。
聞き返すほどのことでもない。でも、雪花さんに警戒されるなんて、あの二人は何者なんだ?
「わかったよ。気をつけ――」
キーンコーンカーンコーン
「って、やばい時間が!じゃな!」
猛ダッシュで教室を出る。何の準備もしてねえっての。
既に二人とは接触したが、妹のほうが霊能力者だっただけで(勝手に断定)危険な感じはしなかったな。
「はい、これ」
ツンがハンカチの包みを取り出す。一瞬それがなんだかわからなかったが、すぐに気付いた。
「これ弁当か!」
「そうよ」
「うわーありがとう助かった!恩に着る!」
「おっきな声出さないでよ、いいからお昼にしましょ、恥ずかしいじゃない、バカ・・・///」
久々のまともな昼食に喜びもひとしお。わくわくしながら結び目を解いていると。
「ここ、いいかな」
日透が現れた!
「嫌よ」
まず、ツンが答えた。
「俺も嫌。ダメ。かたつ無理。殿下陛下却下。さっさと引越し。今日は満喫したいのだ。空気嫁」
「うーん、冷たいなあ」
断りも無視し、日透は俺の右隣(ツンは左隣)の席に座った。そしてコンビニ弁当を置き、割り箸を割る。
「君の事気に入ってたみたいだよ。俺の妹」
ツンは、むっとして俺の顔を見た。
「あの変な妹が?」
「そうそう、変な妹が、変な妹が」
割り箸を向けて笑う日透。セリフの返しかたが一緒だ。
「とにかく、今はツンと俺との愛溢れる至福の時を邪魔しn」
ドス、とわき腹に一発やられた。
「いいねえ弁当。それ、彼女が作ったんでしょ?俺もそんな健気な彼女が欲しいよ、本当」
「日透ならすぐできるんじゃないか?」
(´・ω・`)ウザス
「このタコさんはどうやって作るんだ?」
先の割れた赤ウインナーを箸で持ち上げる。
「知ってるくせに聞かないでよ」
かあっ、と顔を赤くするツン。
「ヒナミが興味を持つわけだ・・・」
日透がボソッとそう呟いたように聞こえた。
「は?」
それが気になって聞くと、日透ははっと気がついて慌てたように、
「あ、なんでもない!なんでもないんだ!じゃ、邪魔してごめんね!」
と言って、コンビニ弁当を持ってそそくさと退散して行った。
「なんなのよ、あいつ」
「だな。でもあいつの妹もあんな感じだったぞ」
「いつ会ったの?」
「さっきの休み時間、偶然。なんだか意味不明なこと言って退散して行った」
「変な兄妹ね」
できればツンにも「気をつけろよ」、とは言いたいんだけども変なだけだからなぁ。
そもそも『気をつけろ』って言う時には気をつけても何ともならない事に望む時に言う言葉じゃないか?
だからここは別の言葉で補うべきだ。
「幸運を祈る」
「はぁ?」
端折りすぎたか。
「あー、うまかった。正直泣けた」
「大袈裟」
「あーっ!」
叫び声の先には理緒が居た。
「酷いですわ!理緒というものがありながら、二人で、しかも手作りのお弁当なんて・・・!」
「いつあんたのものになったのよ」
理緒はつかつかと歩み寄り、俺の机に乱暴に両手をついた。
「遥君!何かリクエストは!?」
「弁当は二個も要らないのよ!」
「じゃあマグロの手羽先・・・」
「マグロの手羽先ですわね!わかりましたわ!」
わかるなよ。
「絶対、あなたなんかに負けませんわよ!」
ビシ、とツンを指差し、理緒は嵐のように過ぎ去って行った。
翌日、理緒は『マグロの羽が用意できなかった』と断念した旨を伝えに来た。
大草原。
風は草木を優しく揺らし、舞い上がった木の葉は風に乗って、澄んだ青空の彼方へと、
あの青い山々へまでも、どこまでもどこまでも飛んで行けそうな、のどかで穏やかで、そして限りなく
広々とした空間が広がっていた。
水鳥たちが戯れる湖の近く、丘の上の、さわさわと葉を揺らす大きな広葉樹の木陰に、一人の
ウサ耳少女が寝息を立てているのが見える。
そんな少女の傍に、この場に似つかわしくない黒い影が四つ。二人は男性、もう二人は女性だ。
「たるとさーん」
黒髪の男性が話しかける。名をルシフという。
しかし、たるとと呼ばれたウサ耳少女は、その長い耳をぴくりと動かしたぐらいで、目を覚まさない。
「たーるーとーさーん!」
「だーっ!まどろっこしいな!叩き起こしてやろうぜ!」
癇癪を起こす茶髪の男は、ベルゼット。
「賛成。何がいいかしら」
痺れを切らす赤髪の女性、エルナ。
「かわいそうだよー」
一応止める水色の髪の巨乳、リュシル。
「ニンジンを下の口に突っ込んでみるってのはどうかしら?」
「寝耳に水を注いでみるのはどうかな」
「耳なんかこぶ結びにしてやりゃいいんだよ」
「よくなぁーい!」
たるとが飛び起きた。
「私をいじめにきたのね」
某人魚のセリフを呟きながら目をこする。
ベルゼットが始める。
「最近、外部からの意識の干渉があったろ」
「ふい」
「俺たちがヤツから開放されたいのもやまやまだが、今、意識がお前ひとりになったら、簡単に精神の
侵害を許してしまう事になる」
「ふえ」
「って聞ーてんのかこの野郎!鍋にして食っちまうぞ!」
「いたいいたいいたい!聞いてる!聞いてるよう!」
耳を引っ張られ、泣き叫ぶたると。
「やめなよ。耳がもげちゃうじゃないか。また生えてくるけど」
「こないよ!」
そのやり取りに、エルナはため息をつく。
「つまり私たちが言いたいのは、当分は協力して誰かさんからの意識の干渉を防ぎましょう、って事」
離してもらえた耳を半べそで撫でながら、
「はぁい・・・」
と、一応答えた。
「じゃあ、もう寝てい?」
「協力しろって言ってんだろうが!早く天使形態に戻れ!」
「いたいいたいいたい!」
遥の頭の中では、この五人がまとまりなく遥の精神を形成している。
黒い四人組は、遥にエロゲの主人公になれる能力を備わせているらしい。
だが同時に、自我が強いため、宿主からの解放を望んでいる。解放された後のことは知らないが。
たるとは、精神世界では遥と一番結びつきが強いため・・・って、それ(ry
それから、数日が経った。
紺野兄妹は相変わらずだし、特にこれといった事件も起きず、平穏な日々が続いていた。
お守りはちゃんと常備しているが、危機感は薄れ、忠告など忘れかけさえしていた。
ある朝の事だった。
ピンポンパンポーン
「今日は臨時の全校集会がありますので、生徒は体育館に集まるように」
いい声で評判の教頭先生の放送連絡だった。
「何かしら」
「誰か何かやらかしたか?」
一瞬紺野兄妹が浮かんだが、なんとなく違うだろうと思った。
「行こう」
手を差し出す。
「こういうときは別に手は繋がなくていいの!」
差し出された手のひらを叩き返す。はいはい、と歩き出す。
「すぐそうからかう!」
でもやはり満更でもないように俺の後をついてくる。
生徒も職員も全員集まったが、そこには校長の姿も、さっき放送連絡した筈の教頭の姿も無い。
なかなか始まらない集会に、辺りはざわつき始めた。
「レディース!エーン!ジェントルメーン!」
突然、どこから出したかわからないマイクを手に、日透がステージ上に躍り出た。
唖然とする全校生徒(+職員)。それはそうだ。
いきなりこんなことする人間が現れたら、かかりつけ医を呼んで病院に連れ戻してもらうしか手立てが無い。
シーンと静まり返る聴衆に、日透は続けた。
「俺、この学院に爆弾を仕掛けちゃいました。ほら、これ一番大きな爆弾の起爆スイッチ」
ポケットから赤いボタンのついた機械を取り出す。何ともベタなデザインだ。
少しすると、「何言ってんだー!」とか、「ふざけんなー!」とか非難の嵐が始まった。
俺も頭に縦線が何本か入るような呆れた顔をして日透を見ていた。
ドォン!!
耳を劈くような轟音が響き、体育館は大きく揺れる。外、中庭のほうからだった。
おぼつかない足元が、揺れが収まってようやくバランスを取り戻した時、皆は恐怖を自覚した。
パニックを起こした全校生徒が、叫びながら、慌てながら、一気に出口へと駆け寄る。
俺はとっさにツンの手を握った。
案の定、出口は閉まっているようだった。押さないで!、痛え!、やめろ!、開かねぇ!、助けて!、・・・!
日透はその光景を嘲弄し、続けた。
「はいはい下手に動かないほうがいいですよー!皆さんの殆どの人はラッキーな事に解放されます。
ね、俺っていい奴でしょう。今から名前呼ぶ人、体育倉庫で待ってて下さい。それ以外の人は、今から言う
経路を辿って外に出て下さい。じゃ、読み上げまーす!」
わざとらしくポケットから取り出した紙に書かれた名前を、順に読み上げる。
体育倉庫には、ツン、智途、由梨、しのた、理緒、あと蕪雲と毒男が集められた。
俺は禄に目を合わせることもできなかった。
ガラガラ、と倉庫の扉が開く。
「出て出て」
笑顔で手招きするヒナミちん。
由梨はその登場に酷く驚いていたようだが、大体グルだろうという予想はついていた。
「いやねえ、てんてーがなかなか出て行ってくれなくて、困ったよ。うん」
日透はステージの縁に腰掛けて、いつものようにニコニコしながら語りだした。
「めんどくさいから蹴っ飛ばして追い出してやったんだけど。やっぱり面白いね。こういうときになると、
普段は大人しい子なんかも大慌て・・・」
「一体、何が望みなんだ」
元ソルジャーのような剣幕で食って掛かる俺に、日透はやはり平然と答えた。
「せっかちですな。ヒナミ、皆さんを案内してあげて。兄さんは遥君とお話しがあるから」
「はーい。じゃ、ついて来てくださーい」
ヒナミについて行く七人を、俺は横目で見送る。最後に目が合ったツンには何も言ってやれなかった。
体育館の扉が閉まって、その音は静まり返った場に余韻を残した。
「俺とヒナミはねえ」
日透が始めた。
「人の心が読めるんだよ。それに、勉強もできる、スポーツもできる」
「性格は悪いがな」
「でも君の心はどうしても読めない。それが面白くてしょうがないんだよ。だからこういう、ちょっとした
ゲームの遊び相手としては最高。弱いやつと張り合ったって、つまんないでしょ?」
日透は起爆スイッチを床に放り捨てた。それはカラカラと音を立てながら回転し、止まった。
「それ、ニセモノ。笑えるっしょ」
ステージから飛び降りると同時にそれを踏み壊して、破片を足で寄せた。
「爆弾は君にとって大切な人たちに一つずつと、他にでっかい爆弾が一つ。制限時間内にすべてを
なんとかしてくれたまえ」
扉が開き、ヒナミが戻ってきた。
「丁度良かった。ヒナミ、教室で遥君の相手してやって」
「お兄様は?」
「ゲームに邪魔な人たちを何とかしてくる」
熾惺学院、正門。
警察、野次馬、生徒や職員、マスコミなどでごった返している。
そこから少し離れた塀の許に、変わった服装の三人組が立っていた。
夏なのに暑苦しいくたびれたロングコートを着た男、いつでもメイド服の女、そして、麦藁帽子をかぶり
白いワンピースという一番夏らしい(って言うかまともな)服を着た女。
コートの男、渋沢 銀二(しぶさわ ぎんじ)は、毒男の叔父である。
「厄介な能力を持っているものだ」
「ここはハロ君一人じゃ荷が重過ぎるでしょうね」
「どうするんですか?」
渋沢はタバコの煙を燻らし、しばし思索に耽る。
「お前はどうする、麦わら」
雪花は渋沢が嫌いであった。
「当然三人散るべきでしょうね。助けたい人も違うでしょうし。三人で紺野姉妹の片割れを叩かなければ
ならないわけでもないわ。電波の乱れ、反響音、床や壁の振動で隠された爆弾の位置も大体わかるわ」
「身体能力においても、普通の人間の域である彼らに劣るとは思いません」
「普通の、か。どちらが普通でないかの勝負と言ったところか・・・ふっ」
教室。俺のクラスだ。
よくわからないうちに俺は縄で両手を後ろ手で縛られ、足首も縛られ、斬首寸前かのように床に正座
させられていた。
で、ヒナミはというと、教卓に腰掛けて足をぶらぶらさせていた。
日透が何をしに行ったのか、皆はどうなってしまったのか、それも十分に気になるし気が気でないのだが、
ヒナミがわざとらしくパンツを直視できる位置に腰掛けているのも気になる。
それでいて常に俺から視線を外しているのもわざとらしい。たまに足を組んだり組み替えたりするのも。
兄妹は互いにそっくりだから、どうせ後から俺のことを変態だのなんだのと嘲弄しようなどと考えているの
かもわからないが、俺としては望むところなのでむしろ直視している。
黒ニーソ、太もも、奥には暗くてもよく見える白。
「暇ね」
「そうだな」
「しりとりしよっか。しりとり、の『り』から」
「輪姦」
「・・・」
「リンカーン」
「伸ばしてもダメ。はいはい、私とは話したくないって言うんでしょ?」
「誰にでもある凡ミスだ。気にするな」
ヒナミは教卓を降り、椅子を一つ拝借して、俺のすぐ前に座った。
「くっ、お前、何をする気だ!」
是非とも教えてくれ!っていうか僕縛られてのあれは初めてだから優しくして欲しいです。
靴のまま、ズボンの上からそれを踏みにじり始めるヒナミ。
「君がマゾだって事はすでにわかってるから」
「うう・・・」
何という事だ。不覚にもおっきした(´・ω・`)
ヒナミは足を離し、両足とも靴を脱いだ。
そして今度はベルトに手をかけた。手を使えない俺はもちろん抵抗できないが、ズボンを下ろされたまま
さらし者にされるのは流石に勘弁して欲しす。
あっけなくパンツからすでに屹立したものを取り出されてしまう俺。
「ふーん」
『ふーん』で片付けられてしまう俺の息子。
観察した後、今度は足先で色々弄り回し始める。
「ちょっ、無抵抗の相手に卑怯な。武士道に反するぞ」
「声、震えてるよ?」
右足を使って、押し付けるように本格的に扱き始める。
「ぁ、う、いや、マジで、やめ・・・」
「随分反応いいね。いじめたくなるわけだわ。ち○こ気持ちい?」
なん、てセリフを・・・!早く用済ませろよ日透!
汚れた制服着て助けに行くなんて助けられたほうもどんな顔していいかわからないっての。
そんな心境とは裏腹に、早くも粘着質な感じの音が立ち始める。
「ぁ、がっ、く・・・!」
体が痙攣するほど必死で我慢するが、ソックスのわずかなざらざら感に撫ぜられるのは堪らない。
「我慢しないで出しちゃえば?服きったなくしてやらしいにおいさせて皆を迎えに行けば?そうしたほうが
面白いでしょ?カッコつかなくて。観念してだらしなく射精してみなさいよ」
そう言って、ますます早く激しく足を動かし始める。
既に射精寸前だった俺がそれに耐えられるわけもなく、最後には我慢するのもやめていた。
「あー♪」
ヒナミの嘲るような声を聞きながら、俺はだらしなく射精してしまった。
足を離すと、ペニスは脈打ちながら、黒いソックスを欲望の証で白く染めていく。
「・・・うう」
俺は悔しいんだかなんなんだかよくわからない感情に、呻くしかなかった。
ヒナミが足を持ち上げると、丁度その指と指の間からどろりと落ちた精液が、制服のズボンの上に落ちた。
「ちょっ!やめろよそれは!」
「どうして?君が出したんじゃない。汚れたままにしておけって言うの?」
目の前に足を突き出す。
「そうされるのが嫌だったら、綺麗にしてよ」
「うっ・・・」
目の前にはテカる黒いソックス。先には、反笑いで見下すヒナミ。
何で、こんな事に・・・。理緒にはよくやらされゲフンゲフン。・・・今回は哀しくなってきた。
ためらう俺の口に、無理矢理足先を突っ込んで来た。
「んんっ!」
「ほら、こうされるのが好きなんでしょ?さっさと舐め――」
ヒナミはポケットから携帯を取り出した。
「にーさま?今いいとこなんだけど。え?うん」
「・・・!(足を口から抜いてから離せっつーの!)」
と思っていたら、本当に抜いた。口の中に残ったものをなぜか反射的に飲み下した。ちょっと嫌になった。
ヒナミがしゃべらなくなったと思ってその顔を見ると、なにやら真剣な顔になっていた。
「はーい」
最後にそう応えて、通話は終了した。
汚れたニーソを脱いで、言う。
「あげる」
「いらない」
言ってみただけなのだろうか。その場にそれを置くと、後ろに回って縄を解き始めた。
やっと手足が自由になった俺は、まずポケットティッシュで汚れを拭いた。
「無駄だって。君いっぱい出したもん。匂いは消えないよ」
「そこは知らないフリでカバーだ」
とりあえず拭き終える。
「今、十一時。十五時までに何とか助けないと、君の大切な人たちは学院とともに心中するわ」
制服を着直す。
「俺には爆弾解体の技術が無い。圧倒的に不利じゃないか」
「大丈夫よ」
ヒナミは、ポケットから鍵を取り出す。
差し出された鍵を受け取る。
「それで爆弾はガラクタになるわ」
「嘘じゃないだろうな?」
ヒナミは微笑した。
「当然よ。そういうゲームだもの。その代わり、見つけるのは難しいと思うよ?」
「他には?」
「私からは何もないわ。じゃ、頑張ってね、変態君♪」
ぽん、と肩を叩き、教室を出て行った。
なるほど、ノーヒントってわけか。
…何がゲームだ。何でみんなが。何で、こんな事に。
三人は、玄関に居た。
「ここで、散るか・・・」
渋沢が呟いた。
そこで――ザッ、と三人が向きを変えた。
「おっと、みつかっちゃったか」
「忍び寄るなら、足音、呼吸音、心拍をもう少し落とす事ですね。お嬢様はどこですか?」
「本当に面白い人たちだ。それに、正直だ。でもね、邪魔なんだよ。帰ってもらえるかな?」
三人は一斉にバラバラの方向に散った。
「・・・あら?本当に帰った」
私は助走をつけ、跳躍して二階から張り出した玄関の屋根の上に飛び乗り、そこにしゃがんだ。
電磁波を感じた。おそらく遠隔操作する何かを持っている。それを使わずしても、窓の多いこの学院、
片割れがどこかから見ていれば、ヤツの合図で――。流石の私も、遠く離れてしまえばどこからの
電磁波かの見分けはつかない。人の考えが読める、っていうのは本当に厄介だ。
日透はしばらく私たちの隠れている位置をきょろきょろ見回していた。
「しっ!」
太ももに隠していたハンドガンで、スボンの左ポケットを撃ち抜く。
と同時に、ヤツから一番近い、植木の陰に潜んでいた緋柳が飛び出し、右肩に左で肘打ちをする。
怯んでいてもヤツはそれを躱したが、緋柳はその右手を地面につき、体全体を使って回し蹴りをした。
その踵は右肩をしっかりと捉え、転げるように後方に倒れこむヤツの先の渋沢が顎に一発加え、
気絶させた。
ベルトで手足を束縛する渋沢の所に、私も緋柳も歩み寄る。
「口の中にはありませんか?」
「無い。殴るときに確認した」
てきぱきと作業を終える。
「で、どうして陣形がEH(エンプティハンド)キラーだったのだ?」
「私は、せっちゃんがそう動いたから」
「TAでもDAでも良かったと思うけど、まあ一番注意を引けるのは私かなあ、と。他は並列的だし・・・」
体で覚えている技術が読めるわけないし。銃を使うとも思わないだろうし。ね?
「まあ、いい。自信過剰が仇になったな」
そう言って視線を下げると、日透は激しく咳き込み、息を吹き返した。
「はっ、俺が最後まで見れないのが残念だけど、どのみち爆弾は遥にしか解除できない」
「どういうことだ?」
「唯一の解除方法である鍵は、普通の人には見えないんだよ」
THEサンクチュアリ百式-Ver2.01-部の部室を覗くと、蕪雲と毒男が捕まっていた。
「毒男は部員じゃないだろ」
と思わず突っ込みを入れる。
「救世主キタコレwwwwww」
「お前ら普段散々悪態ついておいて、現金なやつらだなあホント」
二人の縄を解き、首に下げられている黒球(爆弾のつもりか)についている鍵穴に鍵をさし、開ける。
「よし、これでいいだr」
「今から智途様助けに行くんだけど何か質問ある?」
「由梨ちゃん助けないと」
俺を差し置いて歩き出す二人。
「お前らいい加減にしろよ」
校舎の外、テニス部の部室。
何でよりによってこんな所に。智途はそう思っていた。
確かに私は、月岡とここでテニスの勝負をして、・・・負けたんだったな。
でも、それだけの場所だ。
校舎すべて捜したって、私は居ない。
「・・・」
暑い。禄に身動きも取れない。
人に気をつけろ、なんて言っておいて、自分がこのザマだ。可笑しいな。
正拳も裏拳も回し蹴りも頭突きもすべて動きが読まれていた。あんな女は見たことが無い。
目の前に腕時計を置いて行ったのは、ただの嫌がらせだろうな。
ハロは、助けに来てくれるだろうか?あの日を思い出して、ここだろうかと思って来てくれるかな。
もしハロが私と付き合っていたなら、私が好きなら、真っ先に助けに来てくれただろうか。
…。
まだ三時間ほどもある。きっと、大丈夫だ。
そう、思いたいものだな。
…。
私は泣かない。姉さんを助けられるくらい強くなりたいと思っていたけど、それは、無理だったのかな。
…。
…。
「!」
足音がする。
誰かはわからない。だが、私の心は期待でいっぱいになっていた。
ガラッ!
「智途様ゲトぉぉー!!」
身を躱す。蕪雲は部室の壁(コンクリート)にそのまま激突した。
「毒男、縄を解くの手伝ってくれ」
「よしきた」
あっという間の出来事に、私は縄と爆弾が解かれた後、すこし固まってしまった。
やがて、自然に涙が浮かび、
「ハロ!」
目の前に立つハロを、力いっぱい抱きしめた。
「な、泣くなよ。皆見てるじゃないか。っていうか折れ」
「もう会えないかと思った!本当に、良かった・・・!」
「蕪雲にとっては泣きっ面に蜂の光景だが('A`)」
「そうだ、智途。ここいるって引っ張って来たのは蕪雲なんだ。蕪雲のお陰」
「そーなのか」
涙目で見上げる智途。彼が(新しくしたシャンプーの)においを追ってきた事は伏せておく。
「蕪雲、ありがとう」
智途は珍しく素直に、倒れている蕪雲に伝えた。
「・・・や、何・・・まあ当然のことだお」
「ツレデレ('A`;)?」
よっぽど予想外だったらしい。
「制汗スプレー」を取りますか?
[YES]
NO
傍にあった制汗スプレーを使って、制服の匂い消しを図った。
蕪雲や毒男はさっさと行ってしまって傍に居なかったし、智途は必死さからか気付かなかったみたいだが。
フリかもしれないけど。
「何で、制服にスプレーしてるんだ?」
「いや、別に・・・使う?」
差し出す。
「使う」
何とかごまかせたようだ。
携帯の時計では、十二時十分。あと四人(ツン、由梨、しのた、理緒)。
「携帯は全員持ってないんだっけ?」
「ああ。全部あの女に回収された」
「でも、あの時は持ってなかったな」
「あの時?」
「十一時までは、日透の命令でヒナミと教室で待ってたんだよ」
蕪雲が何か言いたげにこちらを見ている。
「何だよ?」
「それでイカくさかっ」
「おま、ちょっ黙ってろ!おい!」
助けなきゃ良かっ・・・でも智途を助けたのは蕪雲だし。
「どうかしたのか?」
「いや別になんでもない。校舎の外にまで範囲が及ぶとはな。これは厳しいかも知れない」
「けど、由梨ちゃん助けないと」
「全員だろ」
半ギレで突っ込む智途。
最終更新:2007年08月17日 19:33