ツルとカメ-49
「こうして出掛けるのもまた久し振りだな」
「二ヶ月ぶり……正確には二ヶ月と三日ぶりです」
随分と手厳しい。
「それにデートと言って下さい」
言いながら手指を絡めてくるチーちゃんの目は何とも機嫌が良さそうで、ツルのことを
思えば振り払うべきだと分かっているのに、どうにもそれが憚られてしまう。一言言って
おくならば、嬉しくないという訳じゃない。ツルは普段絶対に人前で手を繋ごうとしない、
それどころかイチャイチャするのも嫌っている。しかしそれを理由に尋ねられたら、僕は
絶対に違うと答える。人の恋愛観や倫理感などバラバラで当然だと思っているし、ツルの
普段のキツい態度に関しても節度を大切にしているだけだと理解しているからだ。普段の
ツルの行動には何の不満点もない。だとしたら何故嬉しいのか、という問いになるのだが、
純粋に快いと思えるからだ。何度実感しただろうか。チーちゃんと二人で会話をしている
ときや、今のように二人で出掛けている時間。もう何度も何度も繰り返し行われ、培われてきた時間は、ある意味でツル
と一緒に居る時間よりも馴染んでいるように思えるのだ。ツルとは同い年だから過ごして
きた年数ではツルの方が上とカウントされるが、実際一緒に居た時間で言うならば保育園
からの付き合いであるチーちゃんの方が上だ。だから、そう感じるのだろう。
以前、告白をするのが自分の方が先だったら、自分と付き合っていたかとチーちゃんに
問われたことがある。今もそうだが、そのときも勿論ツルが大切だったし、チーちゃんと
また別に積み重ねてきたものがあったから、僕は否と答えた。だが思い返して材料を検討
してみると、これは結構難しい問題になると思う。愛情が大切なのは言わずもがな、だが
チーちゃんを大切にしてやりたいという気持ちも多分に存在しているし、それを重視して
考えてみればチーちゃんと付き合うのも必然性は増すがツルへの裏切り行為にもなるし、
「駄目だ、やはりツル一択か」
複雑になりすぎた思考をシンプルにまとめた結果、出たのは今の答えだった。我ながら
随分と遠回りに結論を出したものだ、と思う。単純に言ってしまえば、
「過保護、なんだろうなぁ」
「どうしたんですか?」
「何でもない」
不思議そうに小首を傾げるチーちゃんの頭を撫でると気持ち良さそうに目を細め、僕の
目を見つめ返してくる。傍目から見ればツルの好物である激甘ドリンク並に甘い時間なの
だろうが、僕自身それを甘く感じないのは、どうしてもチーちゃんを恋人として見れない
からという理由があるからだろう。コイ達は友達だから、ツルには及ばなくて結果として
振ることになってしまった。チーちゃんの場合はツルに比較的近いポジションで存在して
いるものの、更に付加された幼馴染みや妹分のようなもののせいで、恋人として見ること
が出来なくなってしまっているのだ。処女を奪い、デートの真似事のようなことまでして
おいて、挙げ句の果てにはこんな思考をする僕は、滅多に居ないくらい酷い男だと思う。
こうして叶わない恋だと、叶えさせるつもりのない恋だと頭で理解しているのに、過保護
に接して、甘やかして、半端に希望を持たせるなんて碌でもない話だ。それはチーちゃん
に対してだけじゃないけれど、関係も深い分、より強く考えてしまう。
「どうして僕のこと、好きになったんだろうな」
答えて貰うつもりも無いくせに、言葉が漏れた。聞かれただろうか、と思って視線を下
に向けてみるが、そこにはつむじが見えるだけ。こちらに視線を向けてくることはせず、
変化といえば小さなバッグを持つ手だけがゆらゆらと揺れていただけだ。
「今日、何でデートに誘ったのか分かりますか?」
相変わらず目を向けてこないまま、いつもより少しだけ低い声が響く。こちらを向いて
いないので見えないだろうが首を横に振ると、手を握る力が強くなった。絶対に離したく
ないと、そんな言葉が聞こえたような気がして、僕も小さな掌を握り返す。
「着いてきて下さい」
突然の加速に足をもつれさせそうにしながらも、僕はチーちゃんの手を離さなかった。
◇ ◇ ◇
「変わって、いくんですよね」
チーちゃんが言いながら見上げたものは、ごくありふれた普通のビルだ。どうやら何か
建設系の会社の事務所が入っているらしいが今日は休日らしく、人の気配がまるで無い。
先程清掃会社の車と擦れ違ったが、もし先程までここに居たのだとしたら、当分このビル
に居るのは警備員くらいのものになる。一日一杯静かな状態が続くのだろう。二人で話を
するのに何の気兼も要らなくなるし、タイミングが良いと言えば良いが、もしかして今の
時間は狙ったのだろうか。
「どうでも良いか」
ここで大事なのは僕達が立っている場所と、この場所の意味だ。
「エロ本墓場、だな」
正しくは、だった、と言うべきか。十年前の記憶に残る風景を辿ってみれば、この辺り
も随分と変わったように思える。この辺りは雑木林だったが今では殆んどの木が伐採され、
その名残と言えば少し奥まったところに存在する草むらと敷地の小さな木の群れだけだ。
変わっていく、と今さっきチーちゃんが言ったが、言葉の意味が心に染み込んでくる。
「そうだな、変わったよな」
同じ街の中なのに全く気付かなかった、気付くことが出来なかった。僕達は僕達なりに
遊ぶ場所が変わり、次第に目を向けなくなっていった。同じ街の中でも公園や林などより
ゲーセンや本屋、学校の中などに遊び場所が移っていったし、行動力が付けば遠出をする
にしても林などよりも隣街の方まで行く。何もない場所に何かを求めるよりも何かがある
場所の方が輝いて見えるのは、それは当然なことだ。
だからこそ忘れた場所に来たんだろう。
ビルの壁面の灰色、コンクリートの色は、それを物語っているように感じる。この色が
過去になってしまった記憶の色であり、この場所の今を示しているものだと。決して綺麗
で新しいものではない、注意深く見てみればヒビ割れのようなものも見えるし、壁を指で
なぞってみると風化してザラザラになった表面であることが分かる。
周囲に目を向けてもそうだ。
「綺麗だな」
頑張ってゴミ拾いをしたのか、それとも何か規則でもあるのか。周囲に空き缶など全く
落ちていない、当然雑誌の類もだ。今の小学生がここを訪れたとしても、エロ本が落ちて
いるかもしれない、なんて期待を膨らませることなんて皆無だろう。
「何で」
それでも何か、昔との
繋がりを他に見い出そうと周囲に目を向けていると、チーちゃん
の声が耳に入ってきた。こちらに視線を真っ直ぐに向け、僕が歩いた分だけ開いた距離を
埋めるように、一歩ずつ近付いてくる。
「何で、こっちまで引っ張ってきたのか、分かりますか?」
「それは」
約束したから、ではないだろうか。いつだったか、明確な時期は思い出せないけれど、
一緒にここに来ようと約束した覚えがある。だから二人で、昔と同じように二人きりで手
を繋ぎ、ここまで来たのだと思っていた。昔を懐かしむ気持ちもあるし、それが思い付く
唯一の理由だ。と言うか正直、他の可能性が全く浮かんでこない。
「振られに来たんですよ」
「振られに?」
告白をしに、と言うならば、まだ意味は通じる。何回も告白をしているから今更という
気がしないまでも、普通に運べば「振られに」なんて言葉は出てこない。
「変わって、いくんですよ。だからケジメとして、カメさんに振られたいんです。それも
その辺の場所とかじゃ嫌なので、いえ、この場所で」
意味が分からないですね、と珍しくはにかんだ表情を見せ、チーちゃんは言う。
「あと一週間で卒業式になりますよね、そうしたらすぐにカメさん達は三年生になります。
そうなったら滅多に遊べなくなるでしょうし、生徒会長をしているカメさんなら尚更」
なんとなくだが、チーちゃんの言いたいことが分かってきた。グダグダにならない内に、
きちんと決着を付けたいのだろう。報われない想いだと自覚はしているのだろうし、その
相手である僕が甘やかすのも理解しているのだと思う。過去を振り返れば簡単に出てくる
結論で、きっと間違いない話だ。付き合いも深く、また気心の知れた相手だけに出てくる
ジレンマのようなもの。それが存在するからこそ余計に難しくなる、関係の線引き。
それは腹をくくってしまえば簡単なのだろうが、それが難しいのが僕とチーちゃんだ。
しかし、だからこそ、覚悟を決めた上でこの場所に来たのだろう。悲しさを悲しさとして
受け入れられるように、変わってゆくことの事実を受け入れられる場所で振られる為に。
情けない話だ、こうしたものは年上である僕がするべき事なのだろうに。
それに加え、
「振る、じゃないんだな」
「無理ですよ、カメさんを振るなんて」
だって、と言って息を吸い、
「カメさんのこと、大好きなんですから」
何度目かの告白に、近付きたくなる。しかし、ここまで世話になっておいても尚甘える
のはルール違反だろう。だから僕は気持ちを示す為に、わざと一歩下がった。
息を吸う。
目をつぶり、そして開き、息を吐いて呼吸を整える。
言え、と自分に言い聞かせ、視点を完全にチーちゃんの目へと固定。
「ごめん」
短い一言のみの言葉。
それに続け、
「僕は、ツル以外を選べない」
だから、ごめん、と言葉を重ねて、そこで漸く距離を詰めた。
「振られ、ましたね」
現れたのは泣き顔ではなく、は、という乾いた笑い声。
「泣かないんだな」
ツルだったら間違いなく泣いている場面だな、と思いかけたところで、その思考を頭の
中から排除する。今ここに立っているのはツルではなくチーちゃんだ、だったら最後まで
チーちゃんを相手にするのが最低限の礼儀というものだろう。
そのチーちゃんは軽く眉を寄せ、
「そんな、泣くなんて」
軽音。
「何でしょう?」
見上げると、頬に一粒の水滴が当たった。最初はまばらだったその音は次第に連続した
ものになり、数秒もかからずに全体に降り注いでくる。天気予報でも一日晴れだと言って
いたし、雲も白く、空も殆んどが青い。狐の嫁入りとは珍しい、と思いながら近くの屋内
駐車場へと避難する。恐らく通り雨なのだろうが濡れないに越したことはないし、下手に
チーちゃんの体を冷やして風邪でも引かせたら困る。
「良かったですね。この会社の駐車場、屋根があって」
「本当にな」
シャツの裾を絞りながらの発言、というのはポイントが高い。
「それよりチーちゃん、あんまり絞ると生地痛むぞ?」
「あ、良いんですよ。今日は近くの草むらとか歩こうと思って、汚れても良い奴を選んで
きましたから。結構可愛い奴を選んできたのは残念ですけど、これは意地ですから」
振られるにも格好が必要なんて、乙女の意地には恐れ入る。ここまでするなんて男には
到底出来ないことだ、女の子という生き物の強さには一生敵わないと思う。
そう感心しながら眺めていると、唐突に服を脱ぎだした。どうでも良い話だが、女の子
がよくやる腹の前で腕をバツにして脱ぐ方法、あれを最初に考えたのは誰だろうか。その
人には是非、爵位か何かを与えたいかと思う。あんなに可愛くて胸がキュンとなる脱ぎ方
を思い付くなんて、凡人では不可能だろう。
そう思考している間にチーちゃんはトップレスに変身完了。乳が小さいのが何とも哀れ
な感じだが、これはこれで悪くない。しかし出来ればシチュエーション的にポニーテール
ではなく髪を下ろした状態、乳も大きな方が良かった。寧ろトップレスより上も半脱……
「いや、けしからん。何で脱ぐ?」
「いえ、濡れた服がビタビタうっとおしくて。どうせだから、一回しませんか?」
「何というハレンチガールだ、慎みが足りなくて素晴らしい!!」
いや違う、けしからん。そんな簡単にしても良いもんじゃない。今まで様々エロいこと
をしておいて言えた義理ではないかもしれないけれど、新しい恋を見付けると約束をした
以上は関係なんて持ったらいけない。勿論、ツルのことを考えればチーちゃんに手を出す
なんて駄目人間極まりないことだが、やはり一番大切な理由としてはチーちゃんの尊厳を
守る為だ。こうしていたら、一歩も前に進むことが出来なく……
「本音と建前が逆ですよ?」
いかん、つい癖で。
「まぁ、逆という訳でもないけどな」
思ったことは、全て本当のことだ。
「でも、これを最後に一回だけ。餞別、ってことにしてお願いします」
言って、唇を重ねてくる。
一秒。
二秒、三秒と時間が過ぎ、五秒を数えたところで唇が離れた。デート前に噛んできたの
だろう、チーちゃんの好物であるミントガムの匂いが空気が入ると共に口の中に広がって
くる。味はしない筈なのに、繋がった銀色の橋を舌で舐め取るとミントの味がしたような
気がした。変な言い方だが、これもチーちゃんの味だ。
「後悔は、しませんよ?」
言葉を信じて、今度は僕から唇を重ねた。そのまま身を屈めて舌を鎖骨、その下にある
小さな胸へと伸ばし、先端の突起を胸に含む。例年よりも早めに冬が終わって暖かくなり
始めてきたとはいえ、春には遠い。雨で体も冷えているらしく乳首も固くなっていたが、
それを揉みほぐすよう周囲を丹念になぞる。チーちゃんの腕は僕の首に回されているので
ある程度は体を支える心配もない、右手を胸へ、左手を股間へ持ってゆくと温めるように
擦り、ぼぐすように揉んでゆく。雨で濡れ、張り付いた下着を剥がすようにして浮かせ、
侵入させて膝の辺りまでずらす。気を利かせてくれたのか動き辛かったのか、恐らく後者
だろう。チーちゃんは片脚を引き抜いて軽く広げてくれたので、それに応えるように僕も
股間に伸びた手で全体を愛撫してゆく。チーちゃんも僕のジーンズのジッパーを下ろし、
竿を扱き上げてくる。そう言えば誰が相手でもお互いに同時に責めたことは少ないな、と
冷静な部分で考えながら、手の動きを早くした。
そろそろ、良いだろうか。
表面を擦っていた動きを一度止め、指を少し離してみると、一瞬だけ糸を引く。雨とは
違う粘度を持った、体温を持った液だ。それを指に絡ませて割れ目へと侵入させ、何度か
抜き差しすると竿を扱いていた手の動きが止まった。だが指の運びはスムーズに出来たし、
表情を見る限りでは痛みは無く、声も感度を伴ったものだ。これなら大丈夫だと判断して
体の位置を入れ換える。体を動かすのだ、上半身裸状態でコンクリートの壁は辛いだろう。
鑢で削られているような気分になるのは男でも辛いのに、女の子の柔肌では尚更だ。
「大丈夫だとは思うけど、力抜いて」
声ではなく頷きが返ってくるのを確認すると片足を抱え上げ、背中に腕を回して姿勢を
固定させると割れ目に竿を埋め込んでゆく。冷えている体とは対照的に、そこはまるで火
が点いているように熱い。溶けそうになる錯覚を覚えながら奥まで入れると、ゆっくりと
腰を動かし始めた。こなしている回数は少く抵抗も割と強いものだが、意外とスムーズに
動かすことが出来た。場所が場所だから興奮して、愛液の量が多くなっているのだろうか。
そんなことを考えながら、少し動きを激しくすると、
「声、漏れてる」
「構い、ません。どうせ、誰も、居ませんし。それに、雨で、音が、消えます、から」
ならば、と思い腰の動きを激しくする。場所が場所なので興奮して、と先程考えたが、
それは本当に人に見られるかもしれないということでもあるし、誰も居ないともチーちゃん
は言っているが、それも絶対という訳でもあるまい。それに雨で消えるとは言っていたが、
聞かれたくないということでもあるだろう。最後なので大切にしたいという気持ちもある
のだが、そこで見られたり聞かれたりしたら元も子も無いだろう。もったいない気持ちも
あるが、精一杯味わうように腰のグラインドを早めてゆく。
「気持ち、良い、です」
チーちゃんの声が激しいものになり、雨音そのものより
喘ぎ声の方が遥かに耳に入ってきた。チーちゃんだからなのか、次から二度と聞くことが
ないものだからなのか。どんな理由なのか自分でもよく分からない、しかしそれがもっと
聞きたくなり、密着するくらいに抱き寄せる。
「あ、カメ、さん」
心臓の音や、息の音。
体温や呼吸の温度、どれもダイレクトに伝わってきて、抱く力が自然と強くなった。
「ごめん、そろそろ出る」
言うと、チーちゃんも僕を強く抱き締め、押し付けるように唇を重ねてきた。舌を絡め、
先程感じた呼吸をすることすら忘れたかのように強く僕の口を吸ってくる。
「カメ、さん。カメさん、腟内に」
頷き、もう片方の脚も抱え上げた。体重がより深くチーちゃんの体を押して、より奥に
先端が飲み込まれてゆく。鈴口に当たるコリコリとした感触は子宮口か、それが短く連続
した感覚で刺激してくるのが気持ち良い。
「出そう、ですね。腟内で、ビクビク、してます」
チーちゃんの言葉通りに我慢が出来ず、放出する。
脱力して地面に座り込み、チーちゃんも力が抜けたのか仰向けに倒れ込んだ。その拍子
に竿が抜けて割れ目から液が溢れてくるが、そんなことは気にならないらしくチーちゃん
は首を真っ直ぐに伸ばして外を見ていた。位置的には、丁度空が見えるだろう。
「晴れてます」
僕も釣られて空を見上げると、いつの間にか雨が上がっているのが確認出来た。
「あ、虹ですね」
指差した方向を向いてみれば、雲の切れ目に小さな虹が架っているのが見える。灰色の
コンクリートとは対照的なカラフルな色の帯、偶然にしては出来すぎているが悪くない。
「カメさんから抜け出したら、また色々あるんでしょうね。これから」
色々、確かに色々あるだろう。
なんとなく頭を撫でそうになった手を引っ込めると、僕は取り敢えずブラを拾った。
最終更新:2007年10月28日 22:04