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第三回・u_skを萌やす会

2人で植えた向日葵はもう枯れてしまった。
あの頃の自分はまだ若く、自身が同性愛者だと肯定するのが怖くて、好きな筈の彼奴に思いを告げないまま時が流れ……とうとう抑えきれなくなった。
思いを告げたら彼奴は、親の都合で引越す事が決まったと言って、それから……
バスが来る音で現実に引き戻される。彼奴と出会ってから20回目の夏が来た。ドアが開く。そこには向日葵を1輪手に持った彼奴が笑顔で立っていた。
「よくもまぁ、毎年懲りずにご苦労やなぁ。」
「ええやん。ほら、向日葵って1番夏っぽいやん?」
「考え方がアバウトすぎて笑うわ。」
……此奴と付き合ってから10回目の夏が来た。

僕は一人が好きだった。その隣にいつの頃からか、夕暮れが眩しい帰り道で横に並んで歩く様になったお喋りで少し鬱陶しい君がいた。でも時にはほとんど話さずただ一緒に帰り、そんな日は君の押す自転車から聞こえるカラカラという音に耳を澄ませていた。
「ほら来た」
追い付こうと急ぐ君の息遣いと自転車の音が今日も聞こえてきた。僕の足は自然と歩幅を狭くし君を待つ。今日も一緒に帰ろうと言えなくてごめん。あと、ありがとう。

仕事を区切って私は一息、帰る前に淹れた珈琲の残りを飲んでいた。
「お、悪ぃ、ちょっと一口!」
憧れの上司が太い指で私からカップを取り上げると喉仏を鳴らして一口ぐびり。
「会議で喋り倒して喉渇いてたんだよな。ごっそぉさん!」
無邪気な笑顔を見せ、べろりと長い舌で口の端を舐め取ると凝り肩を回して去っていく。その背中を見送り、私は返されたカップを見下ろした。中身は残っていない。
「……ごめんなさい」
一口、カップに口付けてから私は帰り支度を始めた。お先に失礼します。

「~♪」
「……。」
えー。今僕はタクシーの中で酔った部長の膝枕になっています。
個人的には最高の御褒美ではあるが……あ、運転手とミラー越しに目が合った。これはまずい。
「ぶ、部長……そろそろ……。」
「んあ?うーん……。」
部長はゆっくりと頭を僕の太股から離す。正直もうちょっと続けたかった。
「いやぁ、ごめんねぇこんな介護までしてもらっちゃってぇ。」
「介護なんてそんな……」
「新人くんのまえでカッコ付けたかったんだけどなぁ。ダメだった。」
そういった後、お腹を擦りながら舌をだして僕を見つめる。笑顔が眩しい。あー……辛い。色々と。
「もう、終電も終わっちゃったねぇ。」
「あ、もうそんな時間か……。」
「そうだ!今日は私んち泊まってきなよぉ。これ部長命令だからねぇ拒否権はないよぉ。」
…………色々マズイことになった。
僕のそんな思いとは裏腹にタクシーはあまりにも無機質に進んで行くのでした。

夕焼け小焼けの鐘が鳴る

さようなら
そう告げるのは簡単だけど

まだ一緒に居たい
そう伝えるのは簡単ではない

胸に秘めた思いはいつも言葉を詰まらせる
もう何度目か分からない帰り道の葛藤

ほんの少し勇気を出して
彼に言葉を伝えられたなら

僕のこの思いも伝えられるだろうか

題:いつか越える冬の葛藤、いつか咲く春の思い

彼を待つ寒い夜、荒々しく戸を開く音に玄関へ急ぐと突然彼の太い腕がするりと肩から背中へ回された。
珍しく上気した顔が頬を掠める。酒と汗の匂い。首元に軽く犬歯を立てながら彼は熱い息を漏らした。
耳元を彼の鼻先がなぞる。
「悪い、今日は我慢きかねぇ…」

草野球の練習後、皆が着替える中‬
丸縁眼鏡の肥えた中年の柴犬が、若いコリーに汚れたユニフォームを投げ渡す
「ほい!頼んだぜ!」
『もー!勘弁して下さいよ部長ー!』
「うっはは!クリーニング屋の息子に生まれた事を呪うんだな!」
『帰りの車の中、毎回すげぇニオイなんですからね〜…』
「悪い悪い!今度一杯奢るからな!」
『はぁ…約束ですよ?』

部長の香りに包まれる車内
正直野球は苦手だが
俺はこの時間が、堪らなく好きだ

うん、それ、ども。
短い言葉で話す無愛想な俺だけど、お前は傍にいてくれた。
俺とは違い、多弁で表情豊かなお前だけど、そんなお前が言えないことを俺は気付いている。
お前は俺が好きらしい、俺はそれが嫌じゃない。
「嫌じゃない」が「好き」に変わるまで、もう少しだけ緩やかな幸福を。

夜7時。寒空の中、足早に向かう。
お目当の喫茶店に溢れるのはひきたての香り、やわらかな照明、そしてさわやかなコウセイくんの笑顔。
別にコーヒーは好きじゃない。でも彼に会いたくて、彼の笑顔が見たくて、彼の淹れる温かいコーヒーが飲みたくて足繁く通う。
カウンター越しにコーヒーを受け取る時、優しく微笑んで「いつもありがとうございます」と言ってくれる。
会釈しかできない僕。本当は言いたいことが山ほどあるのに、聞きたいことがたくさんあるのに…。
永遠に片思い。でも、この想いは大切にしたい。この関係を壊したくない。彼の淹れたコーヒーを、これからも飲みたい…。
それだけでいい。それだけで幸せ。だからなにも言わずに、コーヒーと彼の笑顔を大切に握りしめながら席に座る。
こうせいくんは、次のお客さんにも、同じように眩しい笑顔を見せながら、カップを手渡していた。

一口、コーヒーをすする。
うん…やっぱり苦いや…

怪我で自炊が困難な先輩に料理を振る舞う事になった。
買い出しから戻ると、先輩はベッドで爆睡していた。


寝顔を横目に、床に腰を下ろす。

   ほんとに無茶してばっかりだ。
   でも、その生き方に憧れて、隣に立っていたくて
   俺も頑張ってこれたんだよ。
   知ってたか?先輩。俺が惚れてること…。

なんつって


   聞こえてんぞ。バカ…

大学入学を機に離れたアイツと数年ぶりに再会することに。
駅前で待つ。あれから変わったのかな…。

 「お待たせ!待ったか?」
 「いいや。ってなんで同じ上着なんだよ」
 「たまたまだって。照れてんのかぁ?」
このおちょくり方、懐かしいなあ。

少し間が開いて、見たことのない顔で
 「一緒が良いって昔から言ってるだろ…」
 差し出された手をギュッと握った。

真っ暗な部活帰り、最終バスを待つ二人。
学ランに厚着。片や、両手をポケットに首をすくめる。

「寒げなな。こっちゃ来い」

「えっ」

肩を抱き寄せ、厚手のマフラーが一周する。

「これであったまるやろ?」

「うん。あんがと…」

冷気が肌を刺すのに、
心が、体が、とてもあったかい。

大きな一つの吐息が寒空に消えていく。
バスはまだこない。

上京して3年目の大晦日。初めて実家に帰り、近所に出来ていたコンビニで煙草を買った。
一服し、落日を背にした帰路の途中、元恋人と鉢合わせ。
言葉少なに影を並べて歩くと、通学路の途中にあった公園が、更地になっていることに気づく。
いつも彼と別れる場所だった。あの時も。堪らなくなり元恋人を抱き締めると、甘ったるい匂い。
まだその煙草吸ってんだねと彼が言った。
そう笑う彼からは、違う煙草の、匂いがした。

一人、美術部の活動を終え、僕は下駄箱に直行する。
夕立でひどい雨の匂い。濡れるのも構わず帰ろうとすると、部活動終わりの汗ばんだ彼に呼び止められる。
同じクラスの人気者は、傘のない僕を自分の傘に入るようにやたらと勧め、変なやつ…と思いながらも僕は了承した。
意気揚々と鞄を探った彼だったが、「あかん!妹に折畳み傘貸しっぱなしやったわ…」と言って彼はしゅんとする。
ふふっと笑い出した僕に釣られて、彼もがははっと笑う。
雨の中二人で、鞄を傘にしながら帰った。

のしのし。床が少し軋む。
「すみません、お砂糖お渡し忘れてましたよね?」
声をかけてくる彼。
「あ、ありがとうございます」
受け取る僕。

のしのし。

見かけによらずドジっ子なのかなぁ。

2包分の砂糖が入ったカフェオレは優しくほろ苦く、そして何より可笑しな事に、とても甘酸っぱく感じた。

「えーこの四字熟語はー。中国の故事成語でありー。薪の上に寝て苦い肝を舐めたということからーーー」
僕はホントは紅茶派だけど、ついつい彼と一緒の缶コーヒー。これも臥薪嘗胆、ってヤツなのかな。

卒業する先輩に、サイズ似てるんですからブレザーくださいよー!もう要らないでしょー!?と言ってもらったブレザー。
憧れていた、先輩のブレザー。
本当に欲しかったのは…先輩、好きでした…

僕は暗い水の底のような場所を進み続ける。
すいすいと豆粒のような光が、
ときには巨大な火の玉を通り過ぎながら、
ただきみとの約束を守り続ける。
僕は、どこまでも行こう。
きっと翼が折れても、からだが砕けても、誰の声が聞こえなくても。
飛び続けることを諦めたりしない。
僕は、パイオニア10。
人類の夢と希望と、そしてきみの願いを乗せた星。
きみの願いを叶えるために、僕は宇宙の彼方へ飛び続ける。
ぼくの創りぬし、ぼくの魂の中核、ぼくのすべて、カール=セーガン。
きみのもとへと帰るぼくの願いは、叶わないけれど。

学生時代、いつも一緒の電車で通ってた彼。満員電車で僕が潰れないようにドア角で守ってくれてたんだっけ。懐かしいな。
今朝の通勤電車で、あの頃の僕らみたいな小さな子達が寄り添ってるのを見かけたんだ。
上の目線から見た庇う子は、とても身体を張っていた。
彼もあの時、必死だったのかな…?
涼しい顔をしてたはずなのに、彼が強がってたのなら、気付けなかった僕の鈍さをちょっと悔しく思った。

「お前ってさ、何がきっかけでゲイになったの?」
その質問はあまりにも突然だった
「…急にどうした?」
「いやー、気になって。」
「言わなきゃいけない?」
「ダメぇ?」
甘え声で聞く。
「……今はダメ。」
「ケチぃ。」
ムスッとこっちを見つめる。
「ケチで結局。」
「じゃあさ……待ってる。お前が俺に言えるまで待ってる。」
急に優しげな声で顔でつぶやく。

「……そのうちな。」
「よっし!待ってるからな!」


ダメなんだよ……今は、お前には、理由だけは……言えないんだ。

遊びに出掛けた帰りの電車、
窓の外を流れていた街灯が動かなくなる。
早く動くといいねと声をかけようと隣を見ると、
はしゃいで疲れた君が僕の肩に持たれて隣で眠ってる。
神様、僕にもう少しだけこのままでいさせてください。
どうか、もう少しだけ止まったままでいて。

遠く離れた地にいる車の芳香剤の香り。
居心地の良さに自分も思わず同じ物を自分の車にも置いた。憧れの、あの人と同じ匂いをそばに感じる。

仕事時間が伸びてしまいがちな僕。
携帯電話で仕事場から彼に電話。
「ごめん!先食べてて!おかずは冷蔵庫に、洗濯物は…、明日の朝ごはんは……」
「わかった、わかった。気を付けて帰ってきなよ。」

深夜帰宅すると、リビングの電気がついていた。

「ただいま。まだ起きてたの?」
くたくたになりながら、向かいに座る。

「うん。それはそうと、俺のこと気にしすぎだから自分のこと、もっと大切にしなよ。」

「う、うん?わかった。」

「じゃあ、一緒にご飯食べよっか」

「あれ?まだ食べてなかったの」

「だってさ…。いや。早く頂こうか…!
 ……誕生日おめでとう。」

コンティニューを、もう一回。
蒲田の駅に続くこぎたないアーケードの、ひときわ薄汚れたゲーセンのガンシューティングゲーム。
その筐体に本日3枚目の100円玉をご馳走している冴えないコアラ人の男子高生だ、俺は。
「なんだよまーだ2面かよ?ヘッタクソだなー桐生(きりゅう)おめーはw」
と俺の笑いながら隣から覗き込むデカい物体。加納墨人(かのうぼくと)。俺と同じく半袖夏制服姿の象人のクラスメイト。
体格は俺より縦横奥行き三倍ぐらい大きく、特に話が合うわけでもなく、帰り道が一緒なのが縁でつるんでるやつだ。でもこいつは…
「るっせぇな、好きなんだよこのゲーム
「下手くそすぎて見てらんねぇ。俺も参戦!」
と横からサポート乱入してくる。…上手いんだなこれが。あっという間に敵を蹴散らし、さりげなく回復アイテムとか自機アップアイテムとか譲ってくれる。
「くらぇオラぁぁぁ!」
ボスとの対戦画面に没頭して叫びながら、肩とか肘とかぶつけてくる。そのたびに、肌が触れ合う。ざわりとした毛深い肌を感じる。首を寄せては息遣いを聞く。首っ玉を抱かれて太い筋肉と体温を知る。
なんかこいつといると、胸の奥がむず痒くなるんだよな…あー、イライラする!
「あー…やられちまった。ゲームオーバーだ」
ラスボスはやはり、強い。家族が多くて小遣いの少ないこいつは、もう負けたら潔く諦めて銃を筐体のホルスタに戻そうとする。
いつもなら、俺もここで終わりだ。
だけれど、今日は。なんだか、もっと…
チャリン!
「…おっ?」
チャリン、チャリン、チャリン!
「おおおっ!?」
「このまま終わらせるなんて中途半端だろ?」
俺は銃を構えてニヒルに決めた(つもりだ)。
追加コインで再開したゲーム。
にひひ、と笑う墨人は俺の尻をポンと叩く。
またも胸の奥に疼くもの。それが何かわからない。分からないけど、もっと…
「いくぜっ!」
画面の反射に俺とヤツの不敵な笑顔が並ぶ。
コンティニューを、もう一回。

「あー美味かった!腹一杯だー!」
君は少し出っ張ったお腹をさする。
『最近はインスタントも良く出来てるよね。
おれ片付けちゃうからさ、冷蔵庫からケーキ出しといてよ』
「おーう!
…この白い箱かー?」
『そうそう。
おまたせ、食べようか。
箱あけて〜』
君は不器用な手つきで可愛らしいリボンをほどき、ケーキの箱を開ける。
「おっ…!?」
中にはケーキは無い。
そこにはケーキと同じくらいの重さぶんの保冷剤、そして、小さな指輪が入っていた。
『結婚しよう。』

  せんぱーい!お酒もってきましたから鍵あけてくださいよー!
ーーー冷えきったドアノブが回り、少し暖かい部屋へ招かれる。飛びついてくる酒臭い後輩の口に缶ビールを押込み、押して居間へ向かう。
  相変わらず寒そうな恰好しとるな。炬燵くらい自分でもてば凍えることもなかろうに。

炬燵で丸まる先輩の半纏を奪って羽織り、冷えた手足を炬燵布団に滑り込ませた。
目的なく点けられたテレビを眺める先輩。後輩はその背中でくだを巻いている。
先輩は変わらぬ表情のまま、炬燵の中で冷えた足先を暖めてくれる。
あとしばらくは炬燵いらないな。
暖まった微睡みの中で、それだけが意識に残った。

「悪いね、迎えに来てもらって」
「大丈夫ですよ、わかる道ですし!」
駅のロータリーに車を停めて先輩を待つ。たまたま家の近所に用事があるらしくて、最寄駅から先輩のアシを買って出た日曜日。
LINEの会話が家族のやりとりみたいでなんだか嬉しい。
「着いた、赤いフィットだっけ? いたいた。今行く」
「あ、はーい」
僕のに既読がつくやいなや、助手席のドアが開いて先輩が入ってくきた。
「よ! お、さすがキレイにしてるねー。」

……うそだろう…助手席ってこんなに顔近いの…?
いつもの先輩の清潔な香りもちょっと濃く感じる。
目的地まで、ちょっと遠回りしたら…バレるかな…?

夜、10年来の親友から突然電話がかかってきた。その声は妙に震えていてこっちに来たいというので迎え入れた。
「今日はどうしたの?」
「……彼女に……フラれた。」
「あぁ、そうか、それでうちにきたのね。」
「……どうしたらっ、いいか、わかんなくって……!」
今にも泣き出しそうな君の頬に、僕はそっと手を添えて、
「分かった分かった。今日は思う存分泣いていきな。」
「う……ぐ……うわぁぁぁぁぁん!!」
泣き叫びながら僕の胸に額を押し当てる君に
「もー、よしよし、でかい図体で子供みたいに泣くんだから。」
とあやしながら、落ち着くまで待って……
「はぁ……やっぱお前には叶わないな……今なら好きになりそう。」
「はい!冗談でもそんな事言わないのー!」
「ごめんなさい……。」
そんな話もしつつ君を家に返した。

ごめん、少し、少しだけ……別れたこと、喜んじゃった。
僕は、君に好きになって貰える資格はない。
最終更新:2017年04月04日 00:29